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 追想行進華 —庭園の足跡—  作者: 玉袋 河利守
2章”貴方が選んだ形、拾い上げた物は
65/70

64”この国に集う。八、一と4、と五


 

 許可を得て、上空と、地上にいる人物の意思が繋がる。


 ここではある言葉が消えた。あるもの達を総意として名付けた総称が消えた。


 此処は、敦紫が作り出す世界。敦紫本人が、概念と言う存在になる世界。


 この大陸の一部、ある物の【概念】の名が変わる時。


 彼とある人物に線を引く。その距離から円を作り出しこの世界が成り立つ。


 繋げた人物。それはこの国でアイスクリーム屋を営む、パゴス”アンティ。


 現状、変わっている所は、ある総称が消えただけ。理由、事実、価値、意味、それらは変わらない。


 この世の全ての物には、簡略的に相手へと伝える為、大まかな意味を一致させる総称が存在した。


 例えば、剣や弓、棍棒に槍。戦闘で使われる事が大半。殺傷能力に長けており、色や形、性質は様々だ。だがこれを大きく分類すれば『武器』と言う類の言葉になる。


 それが【概念】。共通する性質、客観的見解により簡略化し共有する。


 【概念】の考え方は無量大数。一概にこの理論が概念の全てではないが、それは君たちの世界での事だ。此処では関係のない事、定義は全てトロイアス大陸にある。異論は認めない。


 そして、敦紫が作り出すこの世界は、その概念と同じ存在になる事。


 結論【概念】=【天傘敦紫】となり、それら全てを使用可能。それが皇種(おうばい)の力。


 そんな力と魔法を組み合わせる。

 それが今から敦紫の行うこの状況を打破する作戦。


 どうするのか?何をするのか?


 天傘 敦紫と繋がったパゴスの『冷儚閉(スフラギス)』。此処ではこの『冷儚閉』の【概念】は、【天傘敦紫】となっている。その為に敦紫はこの世界の上ではパゴスの『冷儚閉』を、使用できる。


 此処まで話を聞けば、リゲイト自体を自由自在に真似できる優れた力だと認識する。言わばコピーと言われる能力。だがそんな簡単な話でも複製といった言葉でもない。


 此処に至るまでの条件が存在する。


 1.他人から感じ取った可能性の度合い。

 2.能力を所有する物と発言者との理解の一致。

 3.第三者の客観的視点と思想の大まかな一致。

 4.自身がその存在を否定しない事。

 5.この世界に存在する全ての生き物が疑わない事。


 結論、彼の中に、個体として存在するのが『冷儚閉』と言う事になった。


 さすれば、今から彼が起こす行動を予想はできるはずだ。


 「おいおい、冷たくなってきたぞ!?、」

 「うるさい、黙ってて。このまま力を込めて踏み込み君を折るよ。」

 「ヒェ。こぇぇ、人の心はないのか?冷てぇ人間だぜ。」


 

 「‥‥僕には、それぐらいが丁度良いさ。」


 

 上空、この空には冷気が漂い色を変えてゆく。その冷たさは空だけではなく、地上にいる物の息が白くなる程。


 そして、この国の温度は急激に下がり、降り注いだ雫、この地上に出来た水溜りに氷の粒子が出来てゆくと、その核は手を繋ぎ結晶へ、それがこの国の至る所で広がって行く。

 

 濡れている箇所は全て。自ずと先ほどの破裂で落ちてきた雫を浴び、びしょ濡れになる魔獣の身体にもその結晶が広がってゆく。


 「なんだなんだ!?一体これはなんなんだ!?‥‥凍っているぞ!!」

 「‥‥‥はは、無茶苦茶するねぇぇ。」

 「もう、ドクレス!寒い!!毛布!!」

 「‥‥‥‥。」

 「‥私も同じですぞ!!それに毛布など‥‥!!おぉーーい!!敦紫殿!!敦紫殿ォォ!!」

 

 濡れた箇所は凍って行く。急激な温度変化。何故こうなったのか。地上にいるドクレス達はその原因を最初から捉えている。この国が寒くなった原因が、時間帯によるものでも、自然的なものでもない。


 微かに聞こえる笑い声と共に、空を埋め尽くす冷気。その根本は、たった1人の人間だと。奇妙な笑みを浮かべて、今も尚、全ての物体が凍りつくこの地上を見下ろし満遍な笑みを浮かべる狂人。


 「敦紫殿ォォ!!今すぐ辞めてくれぇぇ!!」

 「‥‥‥‥。」

 「ちょっと!どうするの!!なんとかしてよ!!ドク!!」

 「‥‥‥。」

 「‥駄目だァァ!!足に氷が纏わりつき身動きがぁ!!」

 「‥‥‥‥。」


 気温はまた下がり。マイナス温度は当に過ぎている。0℃を境にその温度は加速を付け増えてゆき、ドクレス、ヘレンの身体には氷が広がって行く。


 天上。冷気あふれる狂人は、まだ笑い続けている。


 「ハッハッハ!!すごい!!すごいねェ!!」

 「おいおい、ちょっとやばくないか?国丸ごと氷漬けにする気かよ。」

 「ハッハッハ!!どうかな、試してみる価値はあるねえ!!」

 「おいおいおい、嘘だろ?」

 「これなら、‥‥これなら‥‥‥彼はビックリするよね。魔法‥‥そして皇種。‥‥これがあれば彼にも通用するかなぁぁ!!ハッハッハ!!」

 「おい、ちょっと、一旦、落ち着けよ。ほら、魔獣はもう丸々氷漬けになってる!!だから、なぁ、落ち着けって。」


 「‥‥‥」


 「おい。聞いてるか?」



   なに、言ってるんだ。此処からだ。この程度じゃ、彼はまた手加減する。これからだ。これからなんだ。



 ——盲聾の世界(ステレオワールド)


 

 その時、彼の真下では何かが破裂した音。


 彼が笑う真下には当然、凍りつく噴水。水を噴出する箇所は凍りついてしまう。その為に内部で送り出す水が圧力を齎し、建てられた建国者の銅像をぶち壊し鯨の潮吹きの様に勢いをつけた水が噴出。


 だが、外に飛び出した水流も数秒も持たずして、その形のまま凍りついてしまうのだが、何故だが凍った筈の水流は止まろうともせず上に、更に上にと氷柱となり成長して行く。


 「ちょっと!ドク!!なんであの凍った水が伸びてるのよ!!」

 「‥‥‥‥。」

 「私が知るわけないでしょうが!!」


 氷柱は成長を止めず、空に向かう。冷気を纏う男の元まで向かう。そして、咲かす。

    


  【天笠 敦紫】


    【冷儚閉】—-氷天華氏(ぜったいれいど)—-



 爆裂した噴水、制御の効かなくなった溢れる水は忽ち凍り、氷柱へと成長。更に空へと登り、敦紫の足元まで到達すると、氷の花を咲かした。


 地上、登った氷柱が花咲かす時、根本は、氷の根っこの様な物がこの国に広がって行く。


 少しだけ濡れた街道も、地も、家も、草木も、城すらも凍りついてゆく。正に氷海。


 急激な速度を上げて、この国を喰らって行く。鋭く強固な氷がこの国を襲う。


 忽ち広がる氷の世界、魔獣の動きなど当に止まり、生きているのか死んでるのかすら分からない。


 「‥‥が、身体が‥‥不味い、‥‥」

 「‥‥‥‥」

 「‥‥どうなってるのよ!!‥‥コラァァ!!やめなさぁぁい!!」

 「‥‥‥‥。」


 地上にいる全ての物が凍りついて行く。それはドクレスもヘレンも同じく。纏わりつくその氷は足に腰に胸に肩に、迫ってくる。身動きなど取れない。


 「‥‥、君‥動けるのなら‥‥逃げるのだ‥‥」

 「‥何故だい?」

 「‥‥‥はぁ、はぁ、‥‥私達は大丈夫です。だから早く‥」

 「‥‥‥」


 凍りつくこの国で、白い吐息も吐かず、二人の先頭で不思議で美しく氷で出来た大きな花を眺めて笑みを溢す男。


 振り返り、凍てつくドクレスを無視してもう片方の人物をじっと見つめる。


 「‥正直に言うと、どうなっても構わんのだ。この国は彼の子にとって関係値がまるでない。歴史だっていつかは自分で辿り着く。だってそうだろ?そう言う存在なんだから。」

 「‥‥え?」

 「‥と、言いたい所だったのだけど‥君がいるしねェ。それに予言の救世主様もいると‥‥。」

 「‥さっきから貴方はなにを‥‥。」

 「ドクレス君だっけ?」

 「‥‥‥。」

 「あらら、もう凍りついてるじゃないか。良かったねぇ。感謝する事だ。」


 

 「ヘレン•クロリス君。」

 「‥‥‥はい。」

 「天傘 敦紫を見るその目。その疑いが少し残っているからこそ、君はまだ凍りついていない事。君は優しい子だ。彼の子に似たねぇ。師匠だもんね。そうか‥‥彼の子が‥‥師匠ねぇ‥‥。」

 「え?」

 「‥‥、頑固なんだ。食べ物に関して好き嫌いが多いんだ。寝てばっかり。自由勝手気まま。直ぐに自分を棚に上げる。面倒くさがりで、直ぐ笑って逃げちゃう。‥‥手を焼くと思うが‥‥


   宜しく頼むよ。翔を。」


 「!?。」

 

 白く足首まで掛かるその服を靡かせて、空で嘲笑っているかの様な挙動を見せる天傘敦紫を眺める。すると、片手を向ける。


 「‥良い物を見せてもらったよ。」


 声など届かず、ひたすらに想いのままにこの国全体を凍らせて行く敦紫。


 「‥でも、そんな概念を書き換えて、君に置き換えて仕舞えば、君が誰だか分からなくなるだろ?‥私はそれでも良いと思っている。」

 

 一般市民だと言い張る男が喋る中、微かに空で笑う男の言葉が耳に入る。喋っている訳ではない。誰かの名を何度も何度も叫ぶ声。


 「そんな無茶な事していたら、彼の子は残念がるだろうね。‥‥これは私の主観ではない。彼の子の意見だ。‥‥この国が‥いや、この世界が君をそう呼ぼうと。彼の子は君を冷たい人間だと思うだろうか?‥‥多分、


   疑うだろうねぇ。


 語りかけた時、敦紫が創り出した世界は、亀裂が走り


 無くなった。


 上空。


 何物かの思惑により、弱点を突かれ、皇種の力は保てず【盲聾の世界】は消滅。天傘 敦紫は消え『リゲイト』と言う概念へと元通りになる。種の力、驚異的な範囲と高度な力は彼の身体に反動を与え、彼自身の体に制御を設ける。


 彼の真下、咲いた氷の花は、サラサラと砂が風に乗る様に散って行き無くなる。


 冷気は変わらずこの国に残る。凍りついた城に家に、草木に、人々。同じく魔獣もである。辛うじて動けるのは城の中に避難した人々。


 「敦紫ぃぃ!!!」


 白目を剥き、手を下ろし、体勢を崩しながら気絶する。ペンの刀身から足を踏み外し、頭を真下に向けて地へと落下する。


 ペンドラゴラムは急いで、身体をうごし、頭から落ちて行く敦紫を受け止めようと、速度を上げて急降下して行く。


 「ぬぁぁぁ!!死なせてたまるかぁ!!うらぁぁぁ!!」


 全身全霊、敦紫が落ち行く落下速度を上回り、彼を追いかける。


 すると、


 「‥‥‥‥ん?‥‥あれ?‥‥‥。」

 「え?」


 気を取り戻した敦紫。自分の置かれている状況を瞬時に理解し、これだけの高さから落下しているのに、済ました顔で音も鳴らさず着地に成功する。


 「‥‥、ふふ、解かれた。‥‥やっぱり君、生きてるでしょ。ふふふ。」

 「ぬぁぁぁぁ!!やべぇぇ!!止まれねぇ助けてくれ!!」

 「?。」


 ザァ!!と、自分の目の前に突き刺さるペンダラゴラム。


 「‥なにしてるのさ。早くシオン村に連れて行ってよ。」

 「なにって!お前を助けようとしたんだよ!!」

 「あぁ、でもどうやって??。剣でしょ?手もないし、僕の身体を受け止めれるほど大きくないし、それに君が下で僕を受け止めようとその剣を‥‥」

 「うるせぇー!!先ずは感謝だろうが!!感謝!!」

 「‥‥、そうだね、ありがとう。」

 「なんだよ!!仕方なくやってねぇか?」


 何はともあれ、この状況に歯止めを掛けることが出来た。当初の目的、魔法と皇種の力を組み合わせて、この世界にはない系統属性、氷魔法の様な物を作れた。


 去ることながら、威力も精度も桁違い。魔獣の動きは全て止まり、国全体も止まってしまった模様。敦紫の創り出した【盲聾の世界】が、消えても使われたリゲイトは消えない。


 敦紫が使った『冷儚閉』を持つ者の存在がこの世から途絶えるまで、それかこの能力を持つものが解除するまで、消えない。


 「‥困ったなぁ。どうしよう。」


 試しに、丸ごと氷漬けになった家を殴ってみると、亀裂が走り氷は粉々に。と言う事は、氷自体、力や熱を加えれば壊せない事もない。


 「‥ほんとどうしよう。急いでるのになぁ。」


 彼は急いでいる。一つ一つ壊して行く事も出来るが時間が掛かりすぎる。加えて、今は夜、太陽はなく熱で溶かすと言う事も出来ない。豪快に火の魔法を大きくさせて太陽の役割を担い溶かす事も出来るが、そんな猶予はない。


 また、やり過ぎてしまった。と、悩んでいる中、遠い距離、冷気の中で人影が二つ此方に近づいてくる。


 「コラァァァ!!敦紫殿!!!」

 「ああ、ドクレス。君達は無事だったんだね。」


 ご立腹なドクレスの横では、無言のまま頭を傾げるヘレン。


 「‥‥呑気な事を!!私達も貴殿の魔法で凍っていたのだぞ!!」

 「あ‥‥、ごめん。」

 「ごめんで済むか!!国中が滅茶苦茶だ。ね?ヘレン様。

 「‥‥‥‥。あ、うん。」

 「そもそも!!凍らせる?そんな魔法聞いた事ないぞ!!」

 「‥‥、悪かったよ。それとこの魔法は後で説明するから。ね?それよりも、凍っていたのによく動けたね。」

 「はぁぁ、ヘレン様が!!助けてくれたのだ!!」


 つま先から頭まで、敦紫の作り出した氷に飲まれ身動きが取れない状態。そもそも、凍っていた時の記憶などなかった。そんなドクレスを助け、氷を砕いたのはヘレンであった。


 「‥?。ヘレン様は無事だったんだね。」

 「‥‥‥‥。何故彼の方の名前を‥‥」

 「‥おーい。ヘレン様?」

 「え。あぁ。ごめんなさい。それで?」


 外、屋内に逃げ込んだ人々以外、外気に触れる全てのものが凍りついてしまったこのリズルゴールド王国。と言う事は、ドクレスやヘレンも同じく凍っている筈。現に先程、彼らは自身の力では振り解く事ができない分厚く強固な氷が身体全体を襲った。


 それなのに彼らは今動けていること。ドクレスに話を聞いてみるが、意識を取り戻した時、既にヘレンが凍らずに立っていた事により、助けられたのだと敦紫に説明する。


 ただ、ドクレスを助けた筈のヘレンの発言に、話が混乱してしまう。


 「‥‥え?どう言う事?」

 「いや、私も凍っていましたよ。正確には凍りかけていた‥所でしょうか。」

 「‥‥ん?、じゃあ無理やり纏わりつく氷を解いたの?」

 「‥‥そんな力はございません。」


 双方、頭を傾げるドクレスと敦紫。彼女自身も助けられたのだと言う。顔も見知らぬ、名前も知らぬ男性に。


 「‥お嬢?‥‥この状況混乱するのは分かりますが‥‥敦紫殿が空へと舞い上がり、国が凍てつく姿を見届けるまで私達は二人だったでしょう?」

 「‥え?」

 「最近は、鍛錬ばかり‥‥少し疲れているのではないですか?また、爺屋に怒られますぞ。それにですね‥‥」

 「え?、え?。だって‥‥ドクも彼の人と会話していたじゃない。」


 焦る彼女、振り返り自分がきた方角に指を刺すも、凍っている物体のみ。彼女が伝えたい何かはその指先には無かった。考え込む彼女の表情を見て、敦紫自身も真剣な表情を見せる。


 「敦紫殿も何か言ってくれ。ヘレンお嬢は、最近しっかりとした睡眠も取っていないのだ。」

 「‥‥しぃ、ちょっと黙って。」

 「‥え、あ。はい。」


 彼女が見つめる先には何もない。それは見ればわかる。だが敦紫は、彼女の言葉を疑う事は出来なかった。


 凍った身体。これらを解除するのには、現時点ではパゴスのみ。力を崩された敦紫では破壊は出来ても、簡易な解除は出来ない。空へと飛び上がった時、この国を見下ろし周りの状況は把握していた。研ぎ澄まされた視力でドクレスとヘレンを除き人はいなかった事を確認している。


 この時点で、敦紫含め、人間は三人。


 第一、他の人間が助けに来ていたとして、何故その人間は助ける側に立てているのか。何故、『冷儚閉』の影響を受けなかったのか。


 「‥‥、僕が使ったのは皇種の力だ。」

 「なぁ!?あんな事まで出来るのか!?」

 「でも、使うまでの条件が厳しいんだ。」

 「条件?」

 「うん。色々あるんだけど。とりあえず、僕の事を知らない人間が僕の力の範囲に入っていれば、力すら使えない。」

 「??。」


 難しい話になる。要約すると基本、この力は敦紫の事を捉えて、どんな人物か予想を立てる。簡単に言えば偏見。その敦紫に対する偏見の数だけこの力の範囲が決まる。


 今回はこの国全域に範囲を拡大できた。そして、他者の偏見の目、第三者の声によりリゲイトを書き換える事が出来たのだ。


 皆がそうである事を定義し信じた。よってこの結果を招いた。


 「‥??。分からん。難しい話をされても、何も分からんぞ。何が言いたいのだ!敦紫殿!!」

 「‥‥、だから、人が、一人増えているんだって。」

 「あぁ???。」

 

 自分をそうであると信じた。

 この世界に入り込み、そうである為に、皆が凍った。

 偏見の目、もしくは敦紫の事を知らない人間がいれば、力は使えない。でも、今回は国全域にも及ぶ力を使えた。

 そして、力は継続した状態。

 全てが凍った。現に今も。夢ではない。

 だが、凍った者を助ける何者かが存在していた。  

 

 「??。」

 「だ、か、ら。力を使ってるんだ。条件的に、適さなかった場合。発動は出来ない。でも!発動した状態で、君たちの元までやってきた人間がいるんだろ?ね?ヘレンさん。」

 「‥はい‥‥。」

 「僕をそう信じたんだ。だから皇種の力に案内された!わかる?信じたんだ。なら、凍るんだ。それが【概念(ぼく)】なんだ。でも、信じて、偏見の目があって、案内されて、でも、自由に動いていたんだ。」

 「はぁぁ?」

 「‥もう、いいよ。‥‥それで、ヘレン様を助けた人ってどんな人だったんだい?」

 「‥‥えぇーと。‥あ!貴方と似ている様な—-


 二人の会話を遮る、また一つの声。


  「おぉーーい!!一体どう言う事なんだ!!これは!!」


 目を見開き、辺りが凍ったさまを唖然として、敦紫達の元まで走ってくる。


 「オーラン!!何故また帰ってきた!!」

 「仕方がないだろ!!私の国が氷河期の様に全て凍っているのだぞ!!」

 「その事は後で説明する!!早く城に戻れぇ!!」

 「大丈夫さぁ!!護衛にマルクワ君を連れてきたから!!」


 離れた距離。四人が集まる噴水広場まで全力で走ってくるのは、この国の王、リズル=サホト・オーラン。隣には嫌々走るマルクワの姿。


 「マルクワ殿!!何故止めなかった!」

 「‥‥‥‥。」

 「僕もいやでしたよ!!でも!ウチの大馬鹿校長が飛び出して行くものなので!!」

 


   パリィン!!



 割れる音がした。ガラスが割れ鼓動が早くなる嫌な音。酷い音。その音が何処かで‥ではなく。この国全体で鳴った。


 凍った筈のリズルゴールド王国。全てが止まり、時計台で走る秒針すらも氷柱に押され止まっている状態。音すらしないこの国。それなのに、再び聞こえてくる。


 「‥‥敦紫殿‥‥‥あれを‥‥。」


 逸早く気づいたドクレス。その目を疑い、敦紫にその視線の先を誘導させる。


 「‥‥嘘‥‥だろ。」


 再び、その体を動かせる魔獣。それは凍っていた事が嘘かの様に、彼らはまた盛大な足音を鳴らし動き出した。


 「‥‥いや、凍っただけなら、動き出すのも無理はないか。」

 「‥‥‥」

 「‥仕方がない。こうなれば、戦鋼番‥‥」

 「そんな筈ないだろ‥‥」


 この国全てではない。魔獣の動きを止める氷だけが全て散った。


 「‥‥パゴスさんが解除したのか‥‥」

 「‥‥‥どうだろ?」

 「‥‥何故?‥‥‥、ありえない。」

 「‥それは、どうしてかな?」


 『冷儚閉』。パゴス”アンティのリゲイト。液体であれば、自由自在に凍らせる事が出来る。そんな特別な力。外気の温度によりけりその凍らした物が溶ける場合もある。


 しかし、今は夜。そう簡単には溶けない。


 なら、リゲイトの所有者が解除したのか?。因みに解除は出来る。しかし、それは対象に触れてではないと実行できない。


 敦紫と言う人間ならまだしも、パゴスと言う人物が光の速度で移動し、凍った全ての魔獣に触れて解除するなどありえない。そもそも彼は城の中に避難している状態。


 「‥‥、魔獣が力づくで脱出出来たとして‥こんな一秒もズレがなく、一斉に動き出すのか?‥」

 「‥そうだねぇ。中々、実に中々、ありえない話だ。」

 「‥まさか‥アニス‥‥なのか‥‥」

 「‥んー。残念。不正解。確かに此処に存在する魔獣は皆が知る魔獣と存在が異なる。でも、リゲイトを解除なんて出来ないよ。」

 「なら‥‥‥どうして‥‥。」

 「はは、君でも行き詰ってしまうか。‥、そうだねぇ。良いよ。少しだけ、教えてあげる。新入りくん。」



  あれが‥‥ヒントだ。



 隣の声、聞いた事がある声、それらに会話をし続けた敦紫。隣には当然、顔馴染みのある顔。背は敦紫と大差が無く、長い髪の毛からは良い匂いがする。大きな杖を背負った女性。


 「‥‥リリーさん。何で此処に‥」

 「‥‥‥。」

 「‥、‥君は‥城の中に‥‥‥」


 確かに、隣に立っているのは自分が知るリリーの姿。声も特徴も全てが同じ。但し何かが違う。何が違うのかは言葉には言い表せない。

 

 加えて、この場所にはいなかった筈のリリーの姿。それなのに、周りのドクレスやヘレンは至って普通の表情。誰も疑問にすら思わない状況。


 ずっと、ずっと、敦紫の隣に居たとして、今自分は、誰と会話をしていたのか。理解できぬ情報の数々に、敦紫が見える視界全ての物は暗くなり、彼女の姿だけを捉える。


 「‥‥‥‥。」

 「‥‥‥」

 「‥‥‥‥。」

 「‥‥私を見ていても、何も分からないよ。‥ほら。」


 彼女の言葉、彼女の視線、彼女の上げる指先を辿り、前を向く。すると、辺りの声と現実が広がる。


 「だからあれ程言っただろ!!」

 

 彼女と隣合わせに立つこの位置、その背後から言葉と共に、両際から口煩い巨漢が一つ、我儘な美女が一つ、物凄い速度で過ぎった。


 二人が急いで向かう先、そこには


 「た、た、助けてぇぇぇぇ!!」


 今にも魔獣に、その身体を八つ裂きにされそうなオーランの元へ。


 だが、この距離、二人の足の速度では間に合う事はまず無い。敦紫に関しては、彼女に気を取られこの段階では身体は動かせず、今から助けに行くのは極めて困難。


 では、誰が助けるのか。この国の王が死んで仕舞えば一大事。ドクレスやヘレンは間に合わず、敦紫に関してはまだ動いていない。この状況、残るのは‥‥たった1人。


 「助けてぇぇぇぇ‥‥ぇぇ、‥‥え、‥マルクワ君?。」


 子供と大差ない小柄な身長。豆だらけの手を握り、震える足を固定させて、この国に存在する魔獣の中で、最も巨大な魔獣の前に立ち塞がるマルクワの姿。


 「‥はぁ、はぁ、‥ふぅ‥‥ふぅ‥‥」

 「‥‥‥。」

 「‥大丈夫‥‥大丈夫‥必ず‥‥護ります‥‥」


 過去に一度、本物の魔獣を目の前にし、諦める選択を取ったマルクワ。戦った経験は0に等しく、あの時と変わらず文法に書かれてある魔獣の生態に付いてしか、知恵は無い。


 聞いていた話とはまるで違う形の魔獣、あの時、あのヒヨドリの森で出会した魔獣なんかよりも、遥かに不気味で異様な圧力、正直に言えば今のマルクワの強さでは到底敵わない。

 

 あの日から日は立っていない。研鑽を積める程の時間など有りはしなかった。


 「はぁ、はぁ、はぁ、」

 「‥大丈夫なのか‥マルクワ君‥‥」


 よって、勝てない。これが現実で事実である。


 オーランの前に立ったとして、彼は此処で何も出来ず、朽ち


 「うるさい。」


 ‥‥‥。‥‥(‥ペラ



 「‥‥?。」

 「‥はぁ、はぁ、護る‥‥必ず‥‥生徒達を‥生きたこの国を‥‥、リリーを!!!」


 威勢が良いだけ、自信は無いのに。

 それでも、身体は勝手に動いた。

 彼の力で奇跡など起きぬと言うのに、己の小さな命を賭けた。


 マルクワの声、強い意志、目の前で唸る魔獣の動きは一度静止。すると、魔獣の大きな背中から、粘膜を纏いながら無数の狂気染みた腕が生え、一斉に爪を立てマルクワを喰らいに行く。


 一秒間がゆっくりと流れる世界線、天傘 敦紫は冷静になっていると言うのに、動こうとはしなかった。


 離れた距離、敦紫の脚力なら、先に助けに行ったドクとヘレンを追い越し助けに行けると言うのに、動かなかった。


 離れた距離、今までに見た事がない魔獣の形をした何かと、立ち向かうマルクワの風景をただ眺める選択をした。


 敦紫の腰元、ペンドラゴラムは動かない敦紫に声を掛ける。


 「おい、おい!、何してんだ!マルが殺られるぞ!」

 「‥‥‥‥。」

 「おい!聞いてんのか!?」

 「‥‥‥、逢えるのかい?」

 「‥?。」

 「それとも、逢わせてくれのかい?」


  何か勘違いしている。

  僕は、そんな誰もが想像する様なヒーローでもない。

  まぁ、悪役でもない。悪意など更々ない。

  だって、興味がないから。

  何故?助けないといけない。

  何故?赤の他人に時間を割かなければいけない。


 「おい!敦紫!!おい!!!」

 「‥‥‥‥‥。はぁぁ。」

 

  乗り越えるのなら乗り越える。

  死んでしまうのなら、それも仕方がないだろ?


 この場所で、この状況下で、敦紫は傍観者としての立ち位置を選んだ。冷め切った心、他人になれば優しさなどは微塵も出さない。これが天傘 敦紫。これがこの人間の本性である。


 「‥‥僕は、僕の為に時間を使う。‥」

 「‥‥そうか‥‥なら、何も言わねよ。」

 「じゃあ‥‥行こうかシオン村に‥」


 ‥‥‥‥はぁ、困るんだ。


 「え?‥」


 ‥、君と言う人間自体を否定はしない。でも、困るのだ。


 「‥え?」

 「どうしたんだよ、敦紫。」


 ‥‥、君は‥いや、僕達は直ぐに見えなくなる。


 「‥‥‥。誰だ‥‥」

 「‥??。」


 ‥、仕方がない事だ。だって種に目をつけられたのだから。


 「誰だぁ!!」

 「‥おいおい、どうしたんだよ」


 だが‥、此方側に来てみると、満遍なく見渡す事が出来る。他の種を覗き込むと、全てが見えてくる。己の視界は真っ暗なのに‥ね。


 「はぁ、はぁ、誰だァァ!!!」

 「ぬぁぁ!!目がまわるぅぅって!!」


 私、いや私達が他の身分に対して、言葉をかけるのはお門違い。‥なのだが‥‥、私は、この大陸が好きでねぇ。だから一つだけ声を。


 「何処にいる!!!誰なんだぁぁ!!」

 「ぎゃあァァァア!!」


 君は、何故生きている?。


 「‥‥‥はぁ、はぁ、はぁ。」

 「‥へぇ、へぇ、へぇ。」


 死にかけたのに。何故、生きている?。


 「‥‥‥。」

 「へぇ、へぇ、」


 君は、‥天傘 敦紫は、何を目的に生きようとした。


 「‥‥。」

 「‥大丈夫か?」


 この大陸に迷い込み、何を望んだ。誰に望んだ。


 「‥‥‥‥。」

 「‥‥??。」


 その全て、命を用いて、今、歩む事が出来るのは


      誰のお陰か。


 「‥。」

 「‥どうしたんだよ。‥リリーちゃんも敦紫に何とか言ってくれ‥?、」


 「喋り過ぎだよ、‥‥。‥‥ん?‥‥‥うぅ!?」


 ‥‥‥‥‥


 ‥‥‥。



 彼方、離れた距離。そこには命を掻き消す殺意を帯びた無数の手が、マルクワを襲う。


 「はぁ、はぁ、はぁ、‥‥足りるか‥‥足りぬか‥‥」


 刹那、護る意味を持つ半端な魔法を中止。発動から魔法の防御壁が出現するまでの時間は無いと判断。


 だから、この命を、想いを、その拳に凝視させる。


 「はぁ、はぁ、はぁ、‥‥



  リゲイ—-



 「マルゥゥゥゥ!!!!!!ダメェェェ!!!」


 傍観者である敦紫の隣に立つリリーが突如として、その瞳に輝きを取り戻し、叫ぶ。

 そして、その彼女の声に、マルクワの行動はすべて止まってしまう。

 

 彼女の声に、その拳を止めて、足を止めて、棒立ちのまま声の聞こえた方へ振り向いてしまう。


 そんな彼の身体は、真っ黒で不気味な手に呑まれ見えなくなってしまう。マルクワの切ない表情を残して、無数の手がマルクワとオーランを呑み込む。


 「‥‥‥‥クソ‥なんて事だ‥‥」

 「‥そんな‥‥」


 大きなその大剣を手から滑り落とし、膝をつくドクレスと、口元を抑えて固まるヘレン。魔獣の手に覆われる姿をただ見つめてしまった。


 更に後ろ、リリーの顔色や瞳は戻り、隣に立つ男の顔を窺う。


 「‥‥。はは、驚いた。たかが一つの想いで私を追い越し出てくるとわ。この国もまた、不思議な出来事があるものだ。ねぇ、敦紫君。」

 「‥‥‥。」


 残念ながら、マルクワが呑み込まれるまで、彼の身体は動かなかった。声を聞き、思い出し、動くと思ったのだが‥彼の方との思い出に深けて、思考を停止させてしまった。


 私の行為は帰って逆効果だった。先の景色を全て見えていると言うのに、水を刺してしまった。


 水を欲する物が、与える側に周るなど無理な話だった。


 偶然ではやはり、護る事ができなかった。


 大きな誤算だった。奴が好んだ生き物だからこそ、書けたのだ。これから先‥‥?


 ?。


 「‥‥。‥」

 「おい。魔獣の胸、光ってねえか。」


 

 敦紫の背後で突き刺さるペンドラゴムはそう語る。


 魔獣の胸が光っている?。何故に?どう言う原理で?


 あれだけこの国を生き生きと暴れ回っていた無数の魔獣の姿が何処にもいない。


 残るはたった一匹の魔獣。


 その大きな巨体に背中からは無数に生えた強靭な腕。


 彼もまた胸から輝く一つの光によって、その身体をピタリと止めている。


 「‥どれだけあの子達はお人好しなのか。‥陰を好むのか。」


 敦紫の隣に立つ彼女‥いや、人の身体を借りて偉そうに物を喋る愚物が、動きを止めて輝きを放つ魔獣の元へ歩み出す。


 「はは、君は何を企んでいるんだい?‥まぁ良いだよ?好きにしてくれれば。でもねぇ。残念。君の思惑は、到底叶わぬよ。あの二人には。お見通しだ。」


 誰かに何かを話している。それは、私なのか、それとも天傘 敦紫や膝をつく王国騎士団に向けてなのか。それとも動きを止める魔獣に向けてなのか。


 「‥‥、もう、この大陸には追い求める物が無くなったから‥お仕事頑張ってるんだ。分かるかい?私にはバレているんだよ?真実を求める私にはハナから通用しないよ。」


 何かに向けて話し込む貴様は、動かぬ魔獣の身体にソッと触れる。‥‥‥。‥‥


 「君は君で、もう少し自分を信じなよ。」


 ‥‥ふん。‥‥。‥‥。‥(パタン‥


  

 リリーが触れた魔獣は、ゆっくりと形を保てず崩れてゆく。先ずは背中に生えた無数の腕が、チリとなり大気に溶け込み消えてゆく。すると、呼吸をするマルクワと、口を開けっぱなし、大の大人が下部を濡らしながら座り込むオーランが見えてくる。


 魔獣の真っ赤な目は輝きを失い、元々生えてある両腕は力を失い垂れ下がる。そして‥見えてくる。


 「‥‥‥あれは‥‥」

 「‥‥矢?」


 膝をつく王国騎士二人はその光景に言葉を漏らす。


 「‥‥‥。」


 遠く離れた距離からでも確認できた。固まった敦紫のその黒い瞳には、不思議な光景が飛び込んでくる。


 大きな大きな身体を持った魔獣。腕力も体力も治癒力も別次元。今まで見てきた魔獣の中でもトップクラス。半端な斬撃ではその強靭な肉体に傷一つすら付ける事はできない。魔法も帰って逆効果。


 物理など、その時点で負けを意味する。


 それだけ、厄介な生き物。

 それだけ、危険な生き物。

 それなのに、


  そんな生き物の胸には、今にもへし折れそうな


    一本の矢。


 魔獣の身体は、バラバラになり空へと舞い上がる。胸に刺さっていた矢は落ち、立ち尽くすマルクワの手の中に。


 「‥、ふぅ、‥これでひと段落だ。‥‥」


 リリーは振り返り、敦紫が立つその場所へと戻ってゆく。この異様な光景に、ドクレスとヘレンは彼女の事が気づいていないかの様な素ぶりを見せ、横切る彼女に目を向けない。


 「‥はは、敦紫君には綺麗な氷の花を見せてもらったからねぇ。少しだけ答えを教えてあげた。‥だから後は‥自分で辿り着いて‥そちらの方が楽しいから。」


 ようやく、彼の口が動く。


 「‥リリーさん‥‥いや、君は一体誰だい?」

 「‥?何を‥私はリリーですよ!敦紫様!!」

 「‥‥。」

 「‥ふぅ。‥‥そうだよね。‥少しやり過ぎたか‥‥。」


 彼女はポケットに手を入れて何かを探そうとする。


 「‥あぁ、そうだった。この世界には無いんだっけ?‥はぁぁ、君には、君だけには、並走してもらった。だから僕の声が届く。当然、君も私達と同じ席に座るのだから。」

 「‥‥‥‥。」

 「‥君とは、もう会う事はないのかもしれない。それに良い偶然を見せてくれた。だからこそ、君には教えておいた。後は、探すだけだ。頑張って見て‥」

 「‥一体‥‥貴方は‥何者なんだ‥」

 


    ん?


    僕かい?


    そうだねぇ。


    ある物にとって、欠かせない存在‥だったり。



 「?。」

 「あ、あと、耳塞いどきなよ。‥‥さて、君との並走は終わり‥‥じゃあねぇ。偶然の賜物よ。」



  その日、この大陸には、歴史に語り継がれる現象が起きた。



  雲ひとつない、真っ暗な空が、瞬く間に光り、星や月を呑み込んだ。



  一瞬の時、大陸全土の生き物が気絶する程の


 

      (いかずち)が落ちた。


 


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