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 追想行進華 —庭園の足跡—  作者: 玉袋 河利守
2章”貴方が選んだ形、拾い上げた物は
63/70

62”苦痛。貰った矢で家族を穿ち流れる痛み。


 

 パチパチ。その音は聞き飽きた、と。燃える物体があれば無くなるまで、消えぬ音。焦げても無くならないその音。


 村全体を覆う火は瞬く間に成長する。去ることながらここは地獄と言い換えても間違えではないだろう。


 「終わった。終わったのだ。危うく死にかけた。どれだけ生死を彷徨えば気が済むのか。‥‥全く、暇の無い人生だ。ふふ、そうは思わないか?カミラよ。」

 「‥‥‥‥。私は‥‥私は‥‥‥。」

 「なんだ?頭を抱えて?胸を張れ、チビと死闘を繰り広げたあの時も‥そして今回も、お前のお陰で私は此処に立てている。お前の手柄と言っても過言では無い。」


 赤く染まるシオン村の中心。二人の生き物が彫られた彫刻を前に、血を拭う者と頭を抱えて身体を震わせるカミラ。震え怯えるカミラに声を掛けながら触れようとする。


 「(パシィ!)‥‥‥。」

 「何故だ‥‥何故だぁぁ!!」


 触れようとする手を弾かれてしまう。仕舞いには胸ぐらを掴み、手には拳を作り、家族間では示しては行けぬ目付きを浴びせ、怒鳴る。


 「‥‥、なんだ?殴るのか?人と殴り合いもした事がないくせに。知っているか?意外と痛いんだぞ。」

 「‥‥、はぁ、はぁ、何故‥何故‥‥私を利用しようとした。」

 「‥??。」

 「‥、お兄様は‥‥いや、お姉さまは!!何がしたいのですか!!」

 「‥‥‥。」


 胸ぐらを掴み、力一杯に彼女を押し倒す。馬乗りになっては、彼女の頬を殴る。殴る。殴る。それは、弱い力で、彼女の顔には傷すら残らない様な貧弱な力で殴り続ける。化け物達と死闘を繰り広げた彼女にとって痛みも痒みもない。


 彼女にはその握り拳では何も通じない。


 「‥‥。反抗期か?」

 「黙れぇぇ!!はぁ、はぁ、返せよ。」

 「?。」

 「‥‥あの時間を‥‥シフォン様を‥‥シキミ様を‥‥村に住む優しき方々を‥」

 「、?」

 「‥‥お前に何をしたんだ!!何かされたのか!!‥翔様は貴方に何もしていない。‥何故殺した!!‥」

 

 弱々しい声、怒鳴る事すらも慣れていない。同然、森から一歩も出た事がなかったのだから。仰向けになる身体、自ずと上に目が行く。だが、空は見えない。


 「‥殺す?‥そもそも、奴らは生きるや死と言った人間が唱える概念ではないのだ。存在自体、はるか昔、花言葉の書に書かれていた。(パシィン!!」

 「‥‥本当に‥本当に‥‥言っているんですか‥」

 「ふん。なんだ?まぁ、分からんだろなぁ生き物であるお前にとっては‥‥」

 「違う!!」

 「??。」

 「‥‥お姉様は何を、学んだのですか‥‥何を‥貰ったのですか?‥‥」

 「何が言いたい?話が長いぞカミラ。」

 「‥‥‥、お母様から貰った全てよりも‥本に書かれた事実かも知らぬ、赤の他人が執筆した歴史を信じるのですか‥」

 「‥‥‥。‥チィ。」


 舌打ちと共に、馬乗りになっていたカミラが宙に浮く。寝転んだ状態で蹴りを入れられただけ、それなのにこのザマ。反撃しようと拳を作るが、間に合わず後頭部を掴まれ地面に叩きつけられる。


 「グハァ!!」

 「‥お前如きが説教か?カミラ。随分と偉くなったな。」

 「はぁ、はぁ。」

 「‥‥、お前も邪魔をするのか?‥ん?」


 遠く彼方、キラリと光何か、視線を向けた先、風を切る程の速さで包丁が飛んでくるが、指で挟み難なく受け止めてしまう。


 「‥はぁぁ。取り込み中ですよ。」

 「‥‥‥」

 「どれだけ私は人気者なのか‥‥それで、何故私の支配に背き、此処に来れている?」

 「風に煽られてねぇ。」


 カミラとアニスの会話を断ち切る者。それは一人ではなく、数人。このシオン村の住人。


 「また、大人数で、私の好意を汲んで欲しいものだ。で?」


 この村の住人達。恰幅の良いティアラを先頭にぞろぞろと二人の元へ歩いてくる。瀕死となるカミラを構わず、アニスは此方に向かってくる村人達の元へ詰め寄る。すると、あれだけあった足跡が二つになった。


 「!?」

 「数がどれだけあっても質が貧相であればこうなるでしょう?」


 ティアラの後ろを歩いていたこの村の住人達は、突如として倒れてしまう。その状態にティアラが気づいた頃には、彼女の頸にアニスの手刀が一つ。


 加勢に来たはずの村人達は、最も簡単に退場。この村で残された物はカミラのみとなった。


 「‥殺すのは惜しい、貴方達も私の支配下に‥‥」


 「おい!!アスター”アニス!!貴様の好きにはさせんぞ!!」


 「‥‥‥。」


 この火中に、ただ1人立ち向かう者。身体を支える杖は震え、腰は曲がり、咳をするたった一人の老人。このシオン村の長、ナズオ。


 「このシオン村はワシ達の大切な大切な住処!!貴様如きが!!」

 「‥‥、耳元でやかましい。」

 「‥!?ぐふはぁぁ!!」


 杖をアニスに向けて怒鳴りつけるそんな束の間、ナズオの懐に侵入。ナズオの瞬き一つ半、冷え切った瞳のアニスは無惨にも朽ちかけた老人の腹を躊躇いもなく殴り上げた。


 萎れた身体、浮く空に、瀕死状態のカミラの視界には、絶望としてゆっくりとした時間が流れ、老人はこの硬い地面に落ちてきた。杖は飛び、立つ事は不可能。腹を抑えてもがき苦しむ。


 「‥‥、気色の悪い。二度とその杖を向けてくるな。汚物が。」

 「がはぁ、はぁ、はぁ。うぅ、待て、待つんじゃ。」

 「‥‥‥。」


 倒れ込むナズオに言葉を吐き捨てて、振り返り倒れ込むカミラの元に足を動かせる中、動く足首には皺が入った手が。


 「何処へ行く‥‥行かせんぞ。‥‥はぁ、はぁ、ワシの大切な村じゃ。‥」


 ふん、と笑止。血を吐きながらも行手を阻む為ナズオを、もう片方の足で蹴り飛ばす。その威力。


 「うがぁぁ!!何のこれしき‥‥ジジイを舐めるなぁ」

 「‥‥鬱陶しい。」


 何度も蹴り飛ばす。この火の手が上がる村から人の呻き声を止めどなく広がってゆく。しかし、手を離す事はない。どれだけ弱った身体であろうが、どれだけ顔を蹴られようが、その意思は山よりも硬い。


 「‥鬱陶しい。‥‥此処で死ぬか?お前は、そうだな。此処で殺しておこう。」

 「なぁ、!?。」

 「ふん、視えるか?それもそうだな。これが表現の力だ。」

 

 大気中に浮く魔胞子がアニスの手に集まり出す。それは、シフォンとの闘いの時、放とうとしたあの魔法。そしてその魔法を朽ちかける老人に向ける。だがまた、行手を阻み


 「駄目だァァ!!!」

 「‥‥チィ、どいつもこいつも。」


 全てが集まりきり、彼の手には小さな一つ分の宝玉。黒いのに、漆黒だと言うのに、あの月や星よりも輝かしさを放ち、辺りの色を塗り替えてゆく時、背後から抱きつかれた。瞬時にその宝玉は破裂し、散り散りとなる魔胞子達。


 「‥‥」

 「‥‥‥なんの真似だ‥‥カミラ。」


 「お姉様。もう辞めませんか。こんな事‥‥何故そこまでして‥‥」

 「止めるのか?」

 「‥‥殺しては駄目だ。お姉様なら一番よくわかっているではないですか。」

 「‥‥‥。」

 「‥何があったのですか。貴方は人が変わった様に‥‥。」


 ピヨピヨと鳥の鳴き声が聞こえた。枯れ果てた大地の筈がそこには緑が広がっていた。振り返らなくとも分かる、自分の背には煙突がついた我が家が此方を見つめている事に。樹海の中に、影が掛かった1人の人間を目に入れ、何処からか懐かしき声がカミラの耳に届く。


 「ねぇ。カミラ。私は聞いているの。」

 「え、、。」


 「‥私の足を止めるの?‥それは、私が求める目的の邪魔をするのと同意なの。しっかりと応えなさい。どうなの?。」

 「私は‥‥私はお姉様の事を大切に思っております。」

 「うん。」

 「‥私は‥お姉様と生きて行きたい。そう思います。私のたった1人の家族です。」

 「うん。」

 「私は‥‥私は‥‥‥お姉様を‥‥」


 彼の言葉に頷く存在を探した。その声を聞き、見つけ出そうとした。


 「私は‥‥私は‥‥‥。


 声を頼りに探した。あの日、お姉様から貰った言葉を頼りに、この人生を費やし、証明しようと励んだ。だからここに居る。これ以上、貰った物を穢さぬ為に此処にいる。


 「‥‥私は‥‥、貴方のくれた人生の問いに証明をする為、お姉さまの応えを否定する為、ずっとこの先も隣に。だからこそ‥‥私は貴方の側で癒やし‥‥」

 「‥うん。」


 懐かしき空間に惑わされたこの眼、周りに広がる樹海の中でその声を発している筈の人影まで、疲れた身体を起こし一直線に走った。枝に拒まれようが、根に足を引っ掛けようが、立ち上がり、あの人影の元まで走る。


 「私は、私は、、私はぁ!!親愛たるお姉さまのぉぉ!!」


 はぁ、はぁ。と、呼吸を乱しながら、辿り着く。そして、最初から見えた人影に対して、声をかけてきた懐かしき者に対して、自分の応えが溢れる。


 ———-「おいおい、喋りすぎ、ったくお前ってやつは。


 「‥‥‥‥。私は‥‥」


 ———-「伝える事があるなら、単刀直入に、分かるか?単刀直入だ!カッカッカッカ!!


 「‥私は‥‥‥。」

 「‥‥‥?。」

 「‥‥‥‥」


 ‥‥‥‥カッカッ——-


 目の前の人影に触れる。触れてその形は散った。共に自分が見ていた景色すらも消えた。カミラの応え。あの森から晴れた景色には、自分の家族を目の前に、そしてその者に対して握り拳を向けていた。


 「‥それはどうゆう意味だ。カミラ。」

 「‥‥‥。これが‥私の答え合わせ。貴方を此処で‥」


 何かを握ったその手。掌には微かに見える大量の皺。何かを手にしたあの森で。何かを見つけたその眼で。


 これがカミラの応え。答え合わせ。ある日、ある時、声する者から授かった問い。それを証明する。言葉はいらない。持っている形を全て打つけるのみ。


 だが握り拳。何かを握った状態では何も伝えられない。


 だからこそ、何かを掴んだその手を開ける。


 「‥‥証明します。此処で貴方を、貴方の考えを‥‥」


 瞬時、その言葉と共にアニスの視界にある拳が消えた。あるのは蹲るたった1人の家族。


 「?、?。」


 蹲った訳ではなく無かった。身体を捻った。握った手を広げ後方へ持ってゆく。捻った身体は、これ以上手が後ろには行かぬほどに、だがそれでも身体全体が小刻みに揺れながら、その力を溜めてゆく。


 「‥‥‥。」

 「‥?。」

 「私が見つけた証明。受け取ってもらいます。貴方に貰った物、それを此処で返し、


   否定します。」


 「!?。」


 力がこもった身体。捻った身体、元の位置に戻ろうする力を今、この場所で解き放つ、、。


 「うぅ!?」


 自分の眼で見つけた物、自分の手で掴んだ物、それを握ったままでは、何も見えず伝える事は出来ない。己の手を広げて、彼女の考えを否定する為に、此処で証明する。


 自分の想いを通し、擦り寄る家族を突き放す、発勁である。


 たかが発勁。それなのに、痛みと共にアニスの身体は吹き飛ばされる。その拍子、背にあった彫刻に打つかり爆散する。


 仰向けのまま胸が痛み抑える。彫像が建てられる土台に寝そべり、隣に立つ長い髪を持つ彫刻に声をかけてみる。


 「‥‥、。弟に振り回されるのは何処の家庭もか。」


 返答が返ってこないのは周知の事実。血が万遍なく広がった服についた小石を払い、破片を払い立ち上がる。


 「‥‥。なぁ、カミラよ。」

 「‥‥‥。」

 「‥私は‥あの森のせいで惑わされていたのかもしれんな。」

 「‥?。」

 「目的があった筈なのに、あの森で惑わされ危うく逸れる所であった。感謝するぞ、お前とゆう今の存在に。」


 アニスは指に絡めていた鎖を解く。繋がっていた先は、カミラの首。今此処で支配を解いたのだ。


 「‥お姉様‥‥‥。」

 「いま、この場所にお前がいたからこそだ。」


 邪気は消えた。透き通った瞳。迷い一つないその瞳に加えて、晴れた表情を見せる顔は何処か懐かしく、昔のあの頃を思い出す。そんな優しげな顔。


 「‥‥お姉様‥‥、

 「‥、お前の証明を受け止めた。私は、それを否定はしない。」


 火の手が広がるこの村を横目に眺めながら、掌底を向けるカミラの元に歩いてゆく。


 「‥‥‥。貴様の考えを邪魔はしない。選んだのだろう?‥‥。いや、ラーガが唱えた選択の様にか。既に、私の問いかけでも、お前の目には映っていたのだろう。」


 「‥‥‥‥。お姉様?」


 「今のお前のお陰で、私は理解できる。再確認できた。何処かで私はある筈のない幻想を抱いてしまったのだろう。」


 「‥‥‥‥‥‥‥。」


  ‥‥‥‥

 

  ‥‥‥‥


  ‥‥‥?。‥‥(バタン‥


 深く、深く、深く。左胸に刺さる漆黒の矢。きていた服には染みが広がり、声も出せぬまま、その矢に触れながら、斃れる。


 「‥‥、私が知る私の弟は既にあの時死んでいたのだ。」


 ‥‥‥‥‥。


 「信じ難い光景だった。‥‥目の前で死んだお前が、あの森で陽気に暮らしていた事に。‥‥、だが、癖も話し方も、趣味も、全てが一致しない。‥もう少しで‥他人である貴様の言葉に踊らされる所だった。」


 震える口元、そして手。それを押さえ付けながら膝を着き、倒れる弟を返し、相手しまっている瞼に触れ、地面を撫でると、口を開けこの大陸に向かい唱える。


 「‥‥変わらなかったのは、その身なりと、私の様な愚物を‥‥慕っていた所だ‥‥。」


 ‥‥‥‥(ペタ‥‥ペタ‥‥‥


 「‥‥、鎖は、一心同体。お前が受けた痛みは私にも流れて来る。‥‥‥、痛いのは嫌だからな。鎖を解き、お前を射たのだ。‥‥天で恨め。‥こんな家族を持った事を‥‥呪え‥‥。」


 ‥‥‥‥(ペタ‥‥ペタ‥‥‥


 「‥‥、‥さて、後はどうでもいい生き物ばかりになったな。‥‥、お母様‥、ラーガ‥‥に、結朱‥‥、カミラ‥、貴方達の考えは‥否定したくなかった。‥‥‥、だからこそ、あやふやだったのかもしれない。‥‥」


 ‥はぁぁぁ。‥‥(ペタ‥‥ペタ‥‥


 「‥‥‥、此処に‥私が支柱となり、私の思想の下‥‥この大陸に住む生き物全て‥いや、形ある物全てに‥‥私の思想を結びつける。‥‥全てを支配してやる‥‥私が‥この大陸の‥」


 

  —【支配】—‥‥‥征‥?‥‥ (ペタ‥‥ペタ‥‥


 

 床を触るその手には冷たい感触。血だらけになる手が少しずつ綺麗になってゆく事。その感触は身体全体が受け止め、空を見上げる。


 「‥‥雨?」


 夜空からは、雲すらないのに、雨が降って来る事。不思議な状況ではあるが、自然の摂理、とやかく言う権利など誰にもない。アニスは構わずこの大陸に向かい唱え始める。


 「‥‥【支配】‥‥‥征‥‥‥‥。‥‥


 

  「ったく。お前は一体何がしたいんだよ。」


 

 聞き覚えがある声、地を叩く雨音を押し除けて、足音が聞こえて来る。彼が歩いたその道に出来た血の足跡は、雨により流されてゆく。


 「最後の最後まで貴様か?クソガキが。」

 「‥‥‥‥。はぁぁ、」

 「‥‥、何故、生きている?‥」

 「‥‥弟殺して‥‥何がしたいんだよ。」


 血を流し目を瞑るカミラにそっと触れる。この時、天より降り注ぐ雨は、彼とカミラの周りだけを避けて降り続けた。


 「‥‥、なんでお前が適用出来てるのかしらねぇけど‥良かったなぁ‥俺がいて‥‥」


 血が流れるその胸に手を当てて、彼は口を動かす。すると、この世界の自然とゆう代物全ての動きが止まった。それは、彼の手の内にある蒼き鱗粉が光った時の頃。

 

 「よし‥‥もういいか。ありがとう。」


 「訳のわからない言葉を‥誰にお礼を‥‥‥」


 お礼と共に、空からの雫は止む。アニスは困惑した表情を浮かべ、空を見上げていた。


 「雨が‥‥止んだ?‥‥」


 雨により、今は夜だと、静かな夜だと、思い出す事が出来た。燃え続ける火は鎮火、上がる煙は風が吹きなくなり、星を見物できる。


 アニスの前方、カミラを今一度寝かしつけ、足を動かす何か。


 「‥‥あの日もこれが見えていたら‥‥ヒュドールそしてスイレ王国の人たちも救えたのかな‥‥」

 「ふん、なんだ?魔胞子でも見える様ななったのか?」

 「‥‥何言ってんだ。それはお前さんのだろ?‥」

 「‥‥‥‥。」

 「俺はまた別の色だ‥‥どうせ知ってんだから‥無駄な口を動かすな。鬱陶しい。」


 何かを理解したアニス。考え言葉を交わすより先に、手が動く。

  


      ——【魔胞】——



 「‥‥なぁ‥‥」

 「‥‥なん‥‥だと‥」


 辺りの景色が見えなくなる程の輝きを放つ黒い一粒の雫を問答無用で、撃った。速度も、魔胞子の濃さも、別格。今宵、アニスは全身全霊の魔法を放った。生まれて初めて、会話もせず、全力で魔法を叩き込んだ。

 

 それが今、受け止められ、消滅した。

 

 「もういいって、それも。」


 「ハハ、ハハハ、最後の邪魔と言った所か‥‥。」


 「‥‥‥‥。はぁぁぁぁー」


 「さぁ、やるのだろ?‥なら全力で来い。最後だ。‥お前が最後だ。‥‥私を止める最後の邪魔だ。」


 風が吹くと、身体に当たりて、風の存在に気づく。肩、触られ、力は消え膝を着き、頭上には蒼い髪を揺らす存在。

 

 「‥‥‥。」

 「ふん。やるならやれ、所詮、得手勝手だ。自分の都合によって色を変え他人に押し付ける。気色の悪い人間はそうやって色を広げてゆくのだ。角が?魔族と結ばれた?何が悪い?何処が悪い?それに恨みを買って何が悪い?」

 「‥。」

 「悪い?悪いのか?私が?‥ふん、悪者だと決め付けたから貴様は、今私に何かをしようとしているのだ。やるなら!やれ!悪いのだろう?私が!!なら貴様の基準で善悪を区別し、その正義とやらを振り下ろせ!!」


 

   あぁ、言われなくても‥やるよ。



 足に力が入らなくなったアニスの視界には、目の前の男がその片手を振りかぶる光景。いわゆるビンタである。


 「‥?。(所詮‥ただの‥‥‥え??」


 側から見ればただ青年が崩れ落ちるアニスに只々ビンタをする絵が見えてくる。だが、アニスだけは違った。彼から放たれるその手は、自身の体を遥かに超えた大きさをした生き物の手がゆっくりと近づいてくる。


 途轍もなく力を感じる。当たれば木っ端微塵は必至。シフォンとの戦いでは芽生えなかった感情。だが、生きてきて一度だけ味わった感情。‥あの森で、あの白一択に包まれた人間が向けてきたあの力と同じ類。或いは‥それ以外‥‥


 その強大な手がもう直ぐまで近づくとアニスは腕を交わし力を入れて防御し‥‥‥


 アニスは消えた。


 へたり込んでいたアニスの姿を消えてしまう。彼の平手打ちにより彼方へと飛ばされていってしまった。そして飛ばされた方角へと彼はまた足を動かす。


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