先生と家族
借金取りも去ったので、玄関を開けて家に戻った。
「大丈夫でしたか」
「ごめんなさい。うちの家族のせいで」
岡田君や夜空君が、心配してくれた。
「大丈夫、なんともないよ」
話しているとお母さんと妹さんも出てきたので、大丈夫と言い夜空君の部屋に行った。
「今、借金取りと話してきた。一応プロに入るまで待つと言っているので、もう来ないと思う。ただ何かあったら直ぐに、私に連絡して欲しい」
「何かあったら連絡します。ありがとうございます」
夜空君は、大きな声で泣いてしまった。
色々、抱えていたのだろう。
夜空君が落ち着いた後、お母さんと妹さんにお礼を言って、夜空君と岡田君と3人で家の外に出た。
アパートの外に少し、広場がありそこに塀がある。
その塀には四角形(ストライクゾーンの形)に、黒く塗りつぶされている場所がある。
「野球をみんなとやりたかったんですが、あいつの悪評から全然、野球の仲間に入れてもらえませんでした。グローブでも持って行ったら仲間に入れてもらえると思って、おもちゃのグローブならどうにか買えたので、それを持っていったんですが、やっぱり仲間に入れてもらえませんでした」
夜空君の目から、少し涙が滲んだ。
「貧乏人、クズの息子、そんなおもちゃじゃなくて、買えるもんなら本物買って来いよ。など色々言われました。特に仲間に入れたらお金を盗むと、言われたのは辛かった」
子供でも、人間は残酷だ。
「1人で野球をやるために塀を四角形に黒く塗りつぶして、野球の的当てのようにして毎日毎日投げ続けました。1人でギリギリのアウトコースやインコースに投げて、ストライークやボールと言いながら1人で試合をしてました」
子供の頃から、なかなかハードな人生だ。横で岡田君が号泣している。でもその経験が高校生で破格の制球力Aという、抜群のコントロールが身についた。
「毎日1人野球をしていると、大宮監督が声をかけてくれて、大宮監督の知り合いのクラブチームに入れてもらいました。道具を買うお金がなかったので、大宮監督の息子さんが使っていた、形見のグローブや道具を貰いました。遠征費などお金がかかる物は、すべて大宮監督が出してくれました」
大宮監督は夜空君に、息子を重ねていたのかも知れない。
「今、野球を出来ているのは、大宮監督のおかげです。高校に入れてるのも、金もなく馬鹿で普通では高校に入れなかったのに、大宮監督に野球推薦で入れてもらいました。大宮監督には、返しきれない恩がある。大宮監督の息子さんとの約束の甲子園に、絶対に連れて行ってあげたいです」
夜空君は、大宮監督へ凄く恩義を感じている。
「そしてプロに入って妹を守りお母さんの手術代と、あいつの借金を返さなければならない」
お母さんは体がかなり悪く、手術しないと危ないらしい。あまり時間も無い。
「お母さんの残された時間の事を考えると、年俸は月給制なのですぐに入らない。手術代を直ぐに稼ぐには契約金が1000万以上もらえる、支配下選手で入るしかない。うちの上司に支配下選手で取ると、納得できるくらい活躍してもらうしかない」
育成選手なら年俸以外なら300万円の支度金しかもらえないので、プロ野球に入る時にかかる初期費用や、手術代や借金の返済など考えると全然足りない。
「頑張ります。必ず僕は支配下選手で、プロに入ります」
夜空君の目には、強い意志があった。
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