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七禍島、鳳恭介の帰還 ―七つの禍に選ばれた死者と、遺体なき兄の謎―  作者: 綾見 恋太郎


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第四章 火禍――顔を奪われた者

 旧祠の窓に、顔のない影が立っていた。

 火の色をした窓だった。

 七禍館の食堂から見下ろすその場所は、館の海側に突き出した小さな付属棟だった。古い祠を囲うように後年の壁が継ぎ足され、渡り廊下で本館とつながっている。夜の闇の中では、祠そのものというより、七禍館から伸びた黒い腕の先に灯った小さな火袋のように見えた。

 窓の内側で、炎が揺れている。

 その前に、人影がある。

 頭部だけが黒く潰れたように見えた。肩から下はかろうじて輪郭がわかる。上半身は男のようだった。だが顔がない。火に焼かれたのか、布で覆われているのか、それとも最初から人間ではないのか。

 誰も、すぐには言葉を出せなかった。

 言葉を出せば、それが現実になる。

 そういう沈黙だった。

 真壁彰は窓際に立ち、旧祠の窓を睨んだ。

 その背後で、黒羽宗一郎がかすれた声を出す。

「何だ、あれは」

 答えた者はいない。

 九条雅紀だけが、低く言った。

「まだ、人間とは限らない」

 その声で、真壁は息を戻した。

 そうだ。

 まだ置いてはいけない。

 人影。

 顔のないもの。

 火禍。

 黒羽宗一郎。

 その四つを、頭の中で勝手につなげてはいけない。

「佐伯さん」

 真壁は振り返らずに言った。

「全員を食堂から出さないでください。窓には近づけさせない。黒羽さんはここに」

「はい」

 県警の佐伯警部補がすぐに動く。

 だが黒羽は、一歩後ずさった。

「私は行かないぞ」

「行かせません」

「ならいい」

「違います。あなたをここから出さないという意味です」

 黒羽の顔が強張った。

「どういう意味だ」

「あなたに予告が出ています。単独行動はさせません」

「私を犯人扱いするのか、被害者扱いするのか、はっきりしろ」

 二階堂壮也が横から言った。

「どちらにもなり得るので、今は動かないでください」

「ふざけるな」

「ふざけてません。顔を奪われるっていうのは、死体の話だけじゃありません。あなたの名前が火禍に置かれようとしている。今あなたが勝手に動くと、犯人の文章に自分で句読点を打つことになります」

 黒羽は二階堂を睨んだ。

 しかし動かなかった。

 真壁は九条と鳳恭介に目を向けた。

「旧祠へ行く」

「行く」

 九条は短く答えた。

 鳳も頷く。

「構造を確認します」

「二階堂」

「俺は食堂に残る。黒羽さんと全員の目を見ておく」

 真壁は頷いた。

 二階堂が残るなら、言葉の暴走はある程度抑えられる。

 火野朱里が窓の外を見ていた。

 赤いストールを外しているせいか、彼女はさっきよりずっと白く見えた。母を火禍で失った女が、火禍の予告を前にしている。動揺して当然だった。

 だが、朱里の顔に浮かんでいたのは恐怖だけではなかった。

 もっと別のもの。

 確認しているような目。

 真壁はそれを覚えた。

「朱里さん」

 二階堂が声をかけた。

「窓から離れてください」

 朱里はゆっくり二階堂を見た。

「火は、顔を奪う」

「歌はあとで聞きます」

「二十一年前も、母は顔を奪われました」

「だからこそ、今ここで次の名前を置かない」

 朱里は少しだけ目を伏せた。

「名前を置かなければ、誰にも届かないことがあります」

 二階堂の表情が、ほんのわずかに変わった。

「それでも、間違った場所に置いた名前は、あとで誰かが剥がさなきゃいけない」

 朱里は答えなかった。

 真壁は食堂を出た。

 九条と鳳が続く。佐伯の部下が二人、後ろについた。

 廊下に出ると、館の中の音が変わった。

 食堂にいる人々のざわめきが扉の向こうに閉じ込められ、代わりに、七禍館そのものの音が前に出てくる。

 木の軋み。

 遠い波音。

 風洞回廊を抜ける風。

 どこかで水の落ちる音。

 館内放送が切れたあとの静けさは、かえって不自然だった。さっきまで誰かの声が流れていたせいで、無音そのものが次の言葉を待っているように感じる。

 旧祠へ向かう渡り廊下は、食堂から階段を下り、本館一階の奥へ進んだ先にあった。

 途中、真壁は足元を見た。

 廊下には薄く水の跡があった。

 港で見た水滴に似ている。

 海水。

 あるいは、海水を含んだ何か。

「九条」

「見てる」

 九条はしゃがみ込まず、歩きながら床を見ていた。

「足跡ではない。滴下痕」

「濡れたものを運んだ?」

「そう見える」

 鳳が廊下の壁を見た。

「この壁の裏に、細い管理通路があるかもしれません」

「今、通れるか」

「わかりません。ただ、空気の流れがある」

「旧祠へ?」

「おそらく」

 真壁は前を見た。

 渡り廊下の入口には、小さな木の扉があった。上部に古い札が掛かっている。

 火禍祠。

 扉は閉まっている。

 鍵はかかっていない。

 真壁は手袋をして、扉に触れた。

 熱はない。

 焦げた匂いはするが、扉そのものが燃えているわけではない。

「開けるぞ」

 九条が頷く。

 鳳が一歩下がり、廊下の壁と天井を見た。

 真壁は扉を押した。

 軋む音がした。

 渡り廊下の中は暗かった。

 奥に、赤い光が揺れている。

 火だ。

 だが、大きな炎ではない。燭台か、ランプのような小さな火。廊下の両側には海側の窓があり、波の音が近い。窓の隙間から潮風が入り、赤い光を細かく震わせている。

 廊下の突き当たりに、旧祠の部屋がある。

 そこに、影が立っていた。

 正面から見ると、それは人ではなかった。

 黒い外套を着せられた、古い祭礼用の人形だった。

 頭部は焼け焦げた布で覆われ、顔は見えない。肩のあたりに黒羽宗一郎のスーツに似た布が掛けられている。腕らしきものは垂れ、胸元には焦げた名刺が一枚、針で留められていた。

 真壁は近づきすぎずに止まった。

「人形だ」

 後ろの若い刑事が安堵の声を漏らしかける。

 九条が低く言った。

「安堵するのは早い」

 真壁も同じことを思っていた。

 人形を見せた。

 顔のない影を見せた。

 なら、その次に本物が来る。

 あるいは、すでに来ている。

 旧祠の部屋は小さかった。

 中央に石の祭壇。奥の壁に古い木札。左右に燭台。窓は食堂から見えていた海側の一つだけ。床は古い板張りだが、ところどころ新しい補修材が入っている。

 部屋に入った瞬間、鳳が低く言った。

「やっぱり浅い」

「何が」

「外から見えた窓の位置と、内側の奥行きが合いません。この部屋、見た目より狭い」

 真壁は周囲を見た。

「隠し部屋か」

「そこまで大きなものではないかもしれません。でも、壁の厚みが異常です」

 九条は人形を見ていた。

「焦げ方が浅い」

「火で焼いたんじゃない?」

「布の表面だけ。人形自体はほとんど焼けていない。黒く見せるために煤を塗ってる」

 真壁は人形の足元を見た。

 床に灰が落ちている。

 灰の中に、細い金属片があった。

「これ、写真を」

「はい」

「触るな」

 若い刑事が写真を撮る。

 鳳は祭壇の横へ回った。

「ここに通気口があります」

 真壁が近づく。

 壁の下部に、小さな格子がある。古く錆びているが、向こうから微かな風が入ってきていた。潮の匂いが濃い。

「海側に抜けてるのか」

「おそらく。あるいは管理通路へ」

「人は通れるか」

「無理です。ただ、声や煙なら通る」

 館内放送の声を思い出した。

 二つ、火は顔を奪う。

 あれは本当に管理室から流れたのか。

 それとも、壁の中の音響管を通じて、別の場所から入れられた声なのか。

 鳳は祭壇の背後を見ていた。

「真壁さん」

「何だ」

「この祭壇、動きます」

 真壁は眉を寄せた。

「動く?」

「床に擦過痕がある。祭壇は固定されているように見えますが、下に小さな車輪があるかもしれない」

 九条が言った。

「床の傷が新しい」

 真壁は祭壇の下をライトで照らした。

 確かに、石の祭壇の下に細い隙間がある。完全に床へ固定されてはいない。左右にわずかな傷が伸びている。古い傷に見せかけているが、表面の粉塵が新しい。

「動かすぞ」

「待って」

 九条が止めた。

「何か挟まってる」

 祭壇の下。

 暗い隙間に、白い紙の端が見えた。

 いや、紙ではない。

 布だった。

 真壁はピンセットで慎重に引き出した。

 焦げた布片。

 黒羽が着ていたスーツの袖口に似ている。

 だが、それだけではない。

 布片には、血のような赤黒い染みが付いていた。

「人形につけたものか」

 真壁が呟く。

 九条は首を振った。

「血液かどうかは調べないとわからない。でも、煤の上に染みが乗ってる。燃えた後についた可能性がある」

「この部屋で誰かが怪我をした?」

「または、血のついた布をここへ持ち込んだ」

 鳳が祭壇の横に手をかけた。

 真壁が頷くと、若い刑事と一緒に慎重に動かした。

 石の祭壇は、重い音を立てて数センチ横へずれた。

 その下に、四角い蓋があった。

 床板ではない。

 金属の取っ手がついた、古い点検口。

 真壁は息を止めた。

「開けられるか」

 鳳が取っ手に手をかける。

 動かない。

「錆びています。けれど、最近開けた跡があります」

「なぜわかる」

「取っ手の根元だけ錆が落ちている」

 九条が点検口の周囲を見た。

「水滴がある」

 真壁は膝をついた。

 点検口の縁に、小さな水滴。

 港の水。

 火禍の名刺の近くにあったものと似ている。

「ここが裏動線か」

 鳳は小さく頷いた。

「旧祠の下を通る点検用空間があるのかもしれません。海側回廊や港の水路とつながっている可能性もあります」

 真壁は、蓋を無理に開けなかった。

「今は写真。開けるのは準備してからだ」

 九条が人形の胸元の名刺を見ていた。

「名刺の焦げ方が、廊下で見つかったものと同じ」

「同じ場所で炙ったか」

「たぶん」

「人形はいつ置かれた」

「火が消えかけてる。燭台の蝋の減り方から見ると、点火は食堂に集まる前か、その直後。放送の前には準備されていた可能性が高い」

 真壁は頭の中で時系列を組む。

 港の船火災。

 玄関の木札。

 管理室の筆。

 焦げた黒羽の名刺。

 館内放送。

 旧祠の顔のない人形。

 この短時間で、全部を一人が直接やったのか。

 それとも、事前に仕込んでいたのか。

 犯人は館の構造を熟知している。

 そして、人をどこへ集め、どこから何を見せるかを計算している。

「戻るぞ」

 真壁は言った。

「黒羽さんから目を離すな」

 廊下に出ると、風が強くなっていた。

 渡り廊下の窓が微かに鳴る。海側から吹きつける風が、古いガラスを震わせている。赤い燭台の火は旧祠の中でまだ揺れていた。顔のない人形は、近くで見ればただの人形だ。だが食堂の窓から見れば、人の影に見える。

 見せる角度。

 それが、この館の基本構造だった。

 食堂へ戻ると、空気は重く固まっていた。

 全員が待っていた。

 二階堂は食堂の入口近くに立ち、長卓と窓の両方を見られる位置を取っている。黒羽は席に座っているが、手元のグラスには触れていない。朱里は窓から離れた壁際。古賀は目を閉じ、何かを呟いている。鷺宮は両手を膝の上で握りしめていた。久世はカメラバッグを抱えたまま、顔だけを上げた。

「人でしたか」

 久世が訊いた。

「人形です」

 真壁は答えた。

 食堂の空気がわずかに緩んだ。

 その緩みを、真壁はすぐに切った。

「ただし、人形だけではありません。黒羽さんの名刺、黒羽さんの衣服に似た布片、血液の可能性がある染みが見つかりました」

 黒羽が椅子から立ち上がった。

「私の衣服だと?」

「似ているだけです。断定していません」

「私はここにいた」

 二階堂が言った。

「今ここにいることと、布片がそこにあることは両立します」

「どういう意味だ」

「黒羽さんの持ち物を誰かが事前に入手していた可能性があります」

「馬鹿な」

 黒羽は自分の袖口を見た。

 スーツの袖は揃っている。

 破れてはいない。

 だが、顔色がさらに悪くなった。

 真壁はそれを見た。

 黒羽は、単に命を狙われていることに怯えているのではない。

 自分のものが、勝手に使われていることに怯えている。

 犯人が自分の近くまで来ている。

 あるいは、自分の過去に触れている。

 その恐怖だった。

「黒羽さん」

 真壁は言った。

「あなたの名刺を今日受け取った人間を、全員挙げてください」

「だから、何人もいる」

「順番に」

「鷺宮、古賀、火野、久世、佐伯さん、そこの若い刑事、灯村……」

「灯村さんにも?」

「ああ。港で渡した。開発会社の連絡先を」

 二階堂が低く言った。

「また灯村さんが絡む」

「何だ、その言い方は」

「犯人は、灯村さんを死者にも容疑者にもできるようにしてる」

 黒羽は黙った。

 真壁は佐伯に目を向けた。

「灯村さんの所在確認は」

「港周辺の捜索を続けています。ただ、夜間で海沿いは危険です。無理はできません」

「水路は」

「外から確認するには潮位が高く、今は難しいです」

 鳳が言った。

「明け方、潮が引く時間があります。その時なら格子の内側を確認できるかもしれません」

「何時だ」

「午前四時前後」

「それまで待つ」

 鳳は頷いた。

 しかし不満そうではあった。

 真壁はそれを見て、低く言った。

「鳳さん」

「はい」

「行くなよ」

「まだ何も言っていません」

「顔が言ってる」

 二階堂が少し笑った。

「ほら、九条だけじゃない。顔は言う」

 九条が無表情に返す。

「顔は言わない」

「はいはい」

 短い会話が、重い空気に小さな穴を開けた。

 だが、その穴はすぐに塞がった。

 食堂の扉が、風もないのに小さく鳴った。

 全員がそちらを見る。

 誰もいない。

 廊下の奥から、古い木が軋む音だけが聞こえた。

 鷺宮が立ち上がった。

「皆さま、お飲み物を……」

「座ってください」

 真壁が言った。

「今は職員も含め、全員が席に」

 鷺宮は従った。

 その様子を、朱里が見ていた。

「警察が来ても、島は閉じるんですね」

 朱里が呟いた。

 真壁は彼女を見た。

「どういう意味ですか」

「昔も、警察は来ました。でも、島の中のことは島の中で決まった。死者の名前も、禍の名前も」

「今回はそうさせません」

「できますか」

 朱里の声は責めているようで、どこか試しているようでもあった。

「死んだ人の顔がなくなって、名前だけが残って、その名前をみんなが信じたら」

 真壁は答えた。

「信じる前に確認します」

「確認できなかったら?」

「確認できないと記録します。誰かの都合のいい名前は置かない」

 朱里は黙った。

 その目に、かすかに涙のようなものが浮かんだ。

 しかし、落ちなかった。

 火野朱里は泣かなかった。

 泣くことを、とうにやめた人間のようだった。

 夜は深くなった。

 外部連絡は回復しない。

 船の火は消えたが、身元不明の遺体はまだ動かせない。

 灯村要は行方不明のまま。

 玄関には木札。

 廊下には焦げた名刺。

 旧祠には顔のない人形。

 そして、黒羽宗一郎には火禍の予告。

 真壁たちは、食堂で全員の事情聴取を始めた。

 最初は黒羽だった。

 黒羽は苛立ちながらも、さすがに協力した。開発会社の責任者として七禍島へ来たこと。観光開発に伴う安全調査と、保存会や遺族への説明会を予定していたこと。二十一年前の資料は会社を通じて一部確認しているが、個別の死者に詳しいわけではないこと。

「火野千景さんの資料は?」

 真壁が訊く。

「読んだ」

「顔が焼けていたことも」

「資料にはそうあった」

「身元確認は?」

「私は知らん」

「あなたは先ほど、禍は観光資源だと言った」

「言葉のあやだ」

 二階堂が微笑む。

「便利ですね、言葉のあや」

 黒羽は二階堂を睨んだ。

「私は殺人者ではない」

「まだ誰もそう言っていません」

「言わせたいんだろう」

「むしろ、言われないようにしてるんです」

 二階堂の声は穏やかだった。

「火禍という言葉と黒羽さんの名前が接続され始めています。このまま感情的に動くと、本当に“火禍の黒羽”になります」

 黒羽は黙った。

 次に古賀。

 老人は頑なだった。

 二十一年前のことは知らない。

 保存会として七禍館の保存に関わっているだけ。

 火野千景とも鳳悠一とも直接の接点はない。

 しかし真壁が「七つを揃えなければ終わらない」と言った理由を尋ねると、古賀は答えを濁した。

「昔から、そういうものだ」

「誰が言い始めた」

「知らん」

「古賀さん。島の言い伝えと、二十一年前の事件は別です」

「別ではない」

「なぜ」

「二十一年前、別にしようとしたから死んだ」

 真壁はメモを止めた。

「誰が?」

 古賀は口を閉ざした。

 その後は何を訊いても答えなかった。

 久世玲央は、映像作家として七禍島を取材する予定だったと語った。開発会社からプロモーション映像の相談があり、同時に自身のドキュメンタリー作品としても撮影許可を得ようとしていたという。

「火禍の名刺を撮影しましたか」

 二階堂が訊く。

「していません」

「旧祠の影は?」

「食堂から、少しだけ」

「見せてください」

 久世はカメラを差し出した。

 映像には、食堂の窓越しに旧祠の赤い光が映っていた。顔のない影。食堂のざわめき。黒羽の声。朱里の横顔。

 真壁は映像を巻き戻した。

 旧祠の光が点る前。

 窓は暗い。

 だが、食堂のガラスに室内が反射している。

 そこに、誰かの姿が映っていた。

 食堂を出ていく人影。

 背は高い。

 黒い服。

 一瞬だけ、鳳に見えた。

 久世が言った。

「鳳さん、ですか?」

 鳳が顔を上げる。

 真壁は映像を止めた。

 画像は粗い。

 背格好だけなら鳳に似ている。

 だが、鳳はその時、真壁たちと管理室にいたはずだ。

 二階堂が映像を覗き込む。

「また置きにきたね」

「何を」

「鳳さんの疑い」

 鳳は表情を変えなかった。

 だが、指先が小さく動いた。

 真壁は言った。

「鳳さんはその時、俺たちと管理室にいた」

 久世は慌てたように言った。

「すみません、似ていたので」

「似ている、で名前を置かないでください」

 二階堂が柔らかく言った。

 その柔らかさが、逆に冷たかった。

 久世は口を閉ざした。

 鳳は映像を見ていた。

「これは、僕ではありません」

「わかってる」

 真壁が言う。

「いえ、そうではなく」

 鳳は画面を指差した。

「この人影は、食堂の扉から出ていません」

「どういうことだ」

「ガラスへの反射角度が合わない。これは食堂内の人影ではなく、廊下側のガラスに映った別の反射です」

 二階堂が眉を上げる。

「また見え方の罠?」

「はい。たぶん、誰かが食堂から出たように見せるために、廊下の照明とガラスを使った」

「鳳さんに似せて?」

「あるいは、誰にでも似るように」

 真壁は映像をもう一度見た。

 確かに顔は映っていない。

 背格好だけ。

 人は、そこに知っている名前を当てはめる。

 鳳恭介。

 黒羽宗一郎。

 灯村要。

 誰でもいい。

 犯人は、読者に名前を選ばせるように、登場人物にも名前を選ばせている。

 事情聴取は続いた。

 鷺宮は、七禍館の管理を数年前から任されていると語った。二十一年前は子どもで、直接の記憶は曖昧だという。だが、島では七禍の話を避けて通れなかった。どの家にも、誰かの死がつながっている。

「血禍の間については」

 鳳が訊いた。

「封鎖されています」

「理由は床の傷み」

「はい」

「いつから」

「少なくとも私が管理を引き継いだ時には」

「中を見たことは」

 鷺宮は少し迷った。

「一度だけ」

「何がありましたか」

「何も」

「何も?」

「部屋というより、空間でした。壁が厚く、窓もなく、古い木札だけがあった」

「木札には?」

「血禍」

 鷺宮はそこで声を落とした。

「そして、鳳悠一さんの名前が」

 鳳は目を伏せなかった。

 真壁は、鳳の横顔を見た。

 兄の名前を、また置かれた。

 本人がいないところで。

 本人の弟の前で。

「その木札は今も?」

 鳳が訊く。

「あるはずです」

「確認したい」

「今は」

「今でなくても構いません」

 鳳はそう言った。

 だが、真壁にはわかった。

 構っている。

 今すぐ確認したいのを、理性で押さえ込んでいるだけだ。

 最後に朱里が呼ばれた。

 火野朱里は、長卓の端に静かに座った。

 手は膝の上。

 背筋は伸びている。

「お母さんの火野千景さんについて、教えてください」

 真壁が言うと、朱里は少しだけ頷いた。

「母は二十一年前、七禍館で亡くなりました。火禍の死者として」

「当時、あなたは?」

「五歳でした」

「記憶は」

「母の顔は覚えています。死んだ時の顔は、見ていません」

 その言い方が、真壁の胸に残った。

 死んだ時の顔は、見ていない。

 火は顔を奪う。

 顔を奪われた死者は、残された者からも最後の顔を奪う。

「火野さんは、なぜ今回ここへ?」

「母の名前を戻すためです」

「誰から?」

「火禍から」

 朱里は淡々と言った。

「母は火禍ではありません。火野千景です」

 鳳が静かに彼女を見た。

 同じ言葉だった。

 兄は血禍ではない。

 母は火禍ではない。

 死者を禍から取り戻したい人間が、ここに二人いる。

 真壁は訊いた。

「今日、黒羽さんの名刺を受け取りましたか」

「はい」

「今持っていますか」

 朱里はバッグから名刺入れを出し、一枚を取り出した。

 黒羽宗一郎。

 焦げていない、白い名刺。

「これです」

 真壁は受け取らず、写真を撮らせた。

「火禍の名刺とは別物ですね」

「はい」

「今日、黒羽さんの衣服に触れましたか」

「いいえ」

「旧祠へは」

「行っていません」

「火野さん」

「はい」

「さっき、騒ぎにならないと何も見てもらえないこともある、と言いましたね」

 朱里は、真壁を見た。

「言いました」

「どういう意味ですか」

「そのままです」

「人を殺してでも騒ぎにすべきだと思いますか」

 佐伯がわずかに身じろぎした。

 問いは直截だった。

 だが、真壁は必要だと思った。

 朱里は表情を変えない。

「いいえ」

「では、どこまでなら」

「どこまでなら、見てもらえますか」

 朱里は逆に訊いた。

 食堂の空気が張る。

「静かに訴えれば、聞いてくれますか。資料を集めれば、読んでくれますか。遺族が何年も声を上げれば、誰かが母の名前を戻してくれますか」

 誰も答えなかった。

 朱里は、かすかに笑った。

「私は、何が正しいかわかりません。でも、何も起きなかったことにされるのが、一番怖い」

「起こす必要はありません」

 真壁は言った。

「起きたことを確認します」

「確認できなかったから、二十一年経ったんです」

 朱里の声は、初めて揺れた。

 泣き声ではない。

 怒鳴り声でもない。

 長く押し殺してきたものが、ほんの少し表に出ただけだった。

「母の顔は焼けました。資料には火禍と書かれました。島の人は、仕方なかったと言いました。開発会社は、悲劇を観光資源にすると言いました。保存会は、七禍は島の記憶だと言いました。警察は、古い事件だから難しいと言いました」

 朱里は、真壁を見た。

「では、誰が母を火野千景に戻してくれるんですか」

 真壁は、すぐには答えなかった。

 答えられることと、答えるべきことは違う。

 安易に約束すれば、それもまた言葉の暴力になる。

「少なくとも」

 真壁は言った。

「火禍という名前で終わらせない」

 朱里は目を伏せた。

「そうですか」

 その時、食堂の外で、何かが落ちる音がした。

 重い音。

 金属か、木箱か。

 全員が振り返る。

 真壁は立ち上がった。

「佐伯さん、全員ここに」

「はい」

「黒羽さんも」

 真壁が言う前に、黒羽が椅子から立っていた。

「何だ、今の音は」

「座ってください」

「確認する」

「座れ」

 真壁の声が低くなった。

 黒羽は一瞬、真壁を睨んだ。

 だが座った。

 今度は、彼も理解していた。

 自分が動けば、犯人の思う通りになる。

 真壁、九条、鳳、若い刑事一人が食堂を出た。

 音は廊下の奥。

 旧祠へ続く渡り廊下ではない。

 反対側。

 海側回廊の方角だった。

 廊下には、人影はない。

 ただ、床に黒いものが落ちていた。

 手袋だった。

 黒い革手袋。

 片方だけ。

 その手袋には、赤黒い染みが付いている。

 九条が近づいて膝をついた。

「血液の可能性」

「誰の手袋だ」

 真壁が訊く。

 若い刑事が言った。

「黒羽さん、さっき黒い手袋をしていませんでしたか」

 真壁は、記憶を辿った。

 港。

 火災。

 黒羽宗一郎は黒い革手袋をしていた。

 食堂では外していたか。

 手元を思い出す。

 黒羽はグラスに触れていない。

 手袋はしていなかった。

「片方だけか」

「はい」

 九条が手袋の周囲を見る。

「引きずった跡はない。落としただけに見える」

 鳳が廊下の壁を見た。

「ここにも、壁の中に通路がある」

「またか」

「はい。海側回廊と旧祠をつなぐ管理通路かもしれません」

 真壁は手袋を見た。

 黒羽の名刺。

 黒羽の布片。

 黒羽の手袋。

 犯人は、黒羽の周囲に火禍の部品を置いている。

 だが、それは黒羽を殺すためか。

 黒羽を犯人にするためか。

 それとも、黒羽がすでに何かに関わっていることを示すためか。

 食堂から悲鳴が上がった。

 今度は、はっきりと黒羽の声だった。

 真壁は走った。

 食堂へ戻ると、黒羽宗一郎が自分の胸元を押さえて立っていた。

 スーツの内ポケットを探っている。

 顔色が真っ白だった。

「ない」

「何が」

 真壁が訊く。

「鍵だ」

「鍵?」

「旧祠の鍵と、海側回廊の予備鍵。さっきまであった」

 鳳が食堂の入口で止まった。

「黒羽さん」

「何だ」

「旧祠は鍵がかかっていませんでした」

「だから何だ」

「鍵を盗む必要があったのは、旧祠ではない。別の場所です」

 二階堂が口を開いた。

「海側回廊」

 その瞬間、館全体の照明が落ちた。

 一秒。

 二秒。

 暗闇が食堂を呑む。

 誰かが叫ぶ。

 椅子が倒れる。

 グラスが割れる。

 真壁は反射的に声を張った。

「動くな!」

 非常灯が赤く点いた。

 薄い赤の光が、食堂を沈める。

 その赤の中で、黒羽宗一郎の席だけが空だった。

「黒羽さん!」

 真壁は叫んだ。

 窓の外で、海側回廊の灯が一つ、点いた。

 赤い灯。

 ゆらゆら揺れる火のような灯。

 そして館内放送が、再びノイズを吐いた。

 今度の声は、さっきより近かった。

「二つ」

 誰も息をしなかった。

「火は、顔を奪う」

 真壁は食堂を飛び出した。

 背後で二階堂が叫ぶ。

「全員座ってろ! 今動いたら、誰かの名前にされる!」

 真壁は海側回廊へ走った。

 九条と鳳が続く。

 回廊の入口には、鍵がかかっているはずだった。

 だが扉は開いていた。

 黒羽の予備鍵が使われたのか。

 あるいは、最初から開いていたのか。

 海側回廊は、赤い非常灯に沈んでいた。

 ガラスの向こうに黒い海が広がる。床はわずかに傾き、波音が下から響く。回廊の奥、旧祠へつながる角の手前に、何かが倒れていた。

 人だった。

 黒羽宗一郎。

 うつ伏せに倒れている。

 スーツの背中は黒く濡れ、片腕が不自然に折れている。頭部の周囲に、焦げた臭いが立ち込めていた。

 真壁は駆け寄った。

「九条!」

「触るな」

 九条は即座に横へ膝をついた。

 真壁はライトを向ける。

 黒羽の顔は、見えなかった。

 顔面に黒い布のようなものが貼りつき、焼け焦げている。皮膚が焼けた臭いかと思ったが、九条はすぐに言った。

「顔そのものが大きく焼けているわけじゃない」

「生きてるか」

 九条が頸動脈に触れ、呼吸を確認する。

 数秒が長かった。

「心停止」

「蘇生は」

「この状態では難しい。でも確認する」

 九条は処置に入った。

 真壁は周囲を見た。

 回廊には焦げた名刺が散っている。

 黒羽宗一郎の名刺。

 何枚も。

 そのうち一枚が、血で床に貼りついていた。

 鳳は回廊の奥を見ている。

「扉が閉まっています」

「どの扉だ」

「旧祠側の管理扉。さっきは見えなかった場所です」

「犯人はそこから?」

「可能性があります。ただ……」

「ただ?」

 鳳は床を指した。

「足跡がありません」

 海側回廊の床は湿っている。

 潮風と結露で、薄く濡れていた。

 そこに、黒羽の靴跡だけがあった。

 食堂側からここまで、乱れた足跡。

 だが、黒羽以外の明確な足跡はない。

 まるで黒羽は、一人でここまで来て、顔を奪われたようだった。

 九条が低く言った。

「死亡確認」

 その言葉は、回廊の赤い光の中で、重く落ちた。

 真壁は目を閉じなかった。

「黒羽宗一郎、死亡。だが火禍とは呼ばない」

 九条が顔を上げた。

「顔を焼いたのは、死後の可能性がある」

「死因は」

「まだ言えない」

「顔は」

「焼かれたというより、焼けた布を貼りつけられたように見える」

 真壁は息を吸った。

 火は顔を奪う。

 だが実際には、火が奪ったのではない。

 誰かが、火に奪わせたように見せた。

 黒羽は死んだ。

 火禍の予告通りに。

 しかし、この死に方はまだ、犯人の文章の表面にすぎない。

 真壁は床の名刺を見た。

 散らばった名刺。

 黒羽の顔を隠す焦げた布。

 消えた鍵。

 開いていた回廊。

 足跡のない湿った床。

 赤い非常灯。

 そして、館内放送の声。

 二階堂が遅れて駆けつけた。

 食堂を佐伯に任せてきたのだろう。額に汗が浮いている。

「黒羽さん?」

「死亡確認」

 二階堂は一瞬だけ目を閉じた。

 すぐに開ける。

「火禍とは呼ばないんだよね」

「ああ」

「でも犯人は呼ばせたい」

「そうだ」

 二階堂は、回廊の床に散った名刺を見た。

「今度は見出しどころじゃない。本文まで書いてきた」

 鳳が低く言った。

「いいえ」

 二階堂が振り返る。

「何?」

「これは、本文ではありません」

 鳳は海側回廊のガラスを見た。

 黒い海に、回廊の赤い灯が映っている。

 その反射の中で、黒羽の倒れた姿は二重に見えた。

 本物と、海の中の影。

「これは、読ませるためのものではありません」

 鳳は言った。

「見せるためのものです」

 真壁は、黒羽の遺体を見た。

 火禍。

 顔を奪われた者。

 しかし、顔を奪われたのは、黒羽だけではない。

 この瞬間、黒羽宗一郎という人間は、開発会社の責任者でも、一人の男でもなくなりかけていた。

 火禍の死者。

 その呼び名が、回廊の赤い光の中で待っている。

 真壁は低く言った。

「名前を置くな」

 それは、犯人に向けた言葉だった。

 そして、自分たちに向けた言葉でもあった。

 九条が黒羽の首筋を見て、わずかに眉を寄せた。

「真壁」

「何だ」

「黒羽さんは、ここで死んでいないかもしれない」

 二階堂が息を呑む。

「じゃあ、運ばれた?」

「でも足跡がない」

 鳳が言う。

 九条は、黒羽の衣服の皺と血の流れを見ていた。

「運ばれたんじゃない」

「なら」

 九条は赤い回廊の奥を見た。

「黒羽は、死んだ後にここへ来た」

 その言葉の意味を、すぐに理解できた者はいなかった。

 死んだ後に、ここへ来た。

 人間は死んだ後に歩けない。

 ならば、運ばれたのか。

 だが足跡はない。

 回廊の床には、黒羽の靴跡しか残っていない。

 真壁は、黒羽の靴跡を見た。

 食堂側から伸びる足跡。

 乱れている。

 途中で深く擦れている。

 まるで酔った人間がよろめきながら歩いたように。

 あるいは。

 死体の足を床につけたまま、誰かが引いていったように。

 だが、引いた者の足跡はない。

 鳳が、ガラスの外を見た。

「床線」

「何だ」

「この回廊、海側へ二センチから四センチ下がっています」

 前に、鳳が船上から見抜いた違和感。

 ここへ来て、真壁の中でつながった。

「傾斜か」

「はい。床はわずかに海側へ傾いている。そして、結露で濡れている」

 二階堂が顔を上げる。

「まさか、滑った?」

「死体が?」

 真壁が訊く。

 鳳は黒羽の靴跡を見た。

「人間が歩いた足跡に見えますが、重心が変です。つま先側の圧が浅い。踵側が擦れている。もし黒羽さんが意識を失った状態で、何かに引かれるか、傾斜を滑るように移動したなら」

 九条が続けた。

「死んだ後にここへ来た、という説明になる」

 真壁は回廊の奥を見た。

 犯人の足跡がない理由。

 死体が歩いたように見える理由。

 火禍の見立て。

 そして黒羽が食堂から消えた一瞬の停電。

「黒羽は食堂から自分で出たのか?」

「そこも怪しい」

 二階堂が言った。

「停電の直前、黒羽さんは立っていた。でも照明が落ちたのは数秒。普通に走っても、ここまで来るには時間が足りない」

「では、食堂にいた黒羽は?」

 二階堂の顔が、ゆっくりと変わった。

「まさか」

 真壁も同じ可能性に辿り着いた。

 食堂にいた黒羽。

 あれは本当に黒羽だったのか。

 いや、黒羽は食堂にいた。

 話もした。

 声も出した。

 だが、停電の直前、全員の視線は放送と窓に奪われていた。

 黒羽の席。

 黒羽の声。

 黒羽の姿。

 それらは本当に、最後まで一致していたのか。

 九条が静かに言った。

「顔を奪う、の意味が変わる」

 二階堂が頷く。

「顔を焼くんじゃない。顔があると思わせる」

 鳳が海側回廊の赤い反射を見ていた。

「この館は、見せる方向を決める建物です」

 真壁は黒羽の遺体を見た。

 火禍の死者。

 そう呼ばせるために置かれた遺体。

 だが、おそらく真相はその下にある。

 顔を奪われたのは、黒羽の死体ではない。

 食堂にいた全員の目だ。

 誰が黒羽を見ていたのか。

 誰が黒羽の声を聞いたのか。

 誰が黒羽の最後を確認したのか。

 真壁は低く言った。

「全員の証言を取り直す」

 二階堂が頷いた。

「今度は、“黒羽を見た”じゃなくて、“何を黒羽だと思ったか”だね」

「そうだ」

 九条は黒羽の遺体に視線を落としたまま言った。

「解剖が必要」

「ここでは無理か」

「無理。だが最低限、死亡時刻の手がかりは見る」

「頼む」

 鳳は海側回廊の奥へ目を向けた。

「真壁さん」

「何だ」

「この回廊の下に、旧祠の点検口とつながる空間があります。黒羽さんがここへ“来た”経路は、廊下ではないかもしれません」

「床下か」

「はい」

 真壁は、赤い灯の下で静かに息を吐いた。

 海禍は、船と海を使った。

 火禍は、顔と見え方を使った。

 次に来るなら。

 三つ、土は声を塞ぐ。

 床下。

 土。

 隠された空間。

 黒羽の死体の下で、次の禍がもう口を開けている気がした。

 その時、回廊のガラスに映った自分たちの背後で、何かが揺れた。

 真壁は反射的に振り返る。

 誰もいない。

 だが、ガラスの向こう――海に映った七禍館の灯の数が、ひとつ増えていた。

 七つではない。

 八つ。

 鳳が、その光を見て、表情を変えた。

「あり得ない」

「何が」

「今の位置に、灯はありません」

 二階堂が低く言った。

「じゃあ、あれは何?」

 鳳は答えなかった。

 海の黒に映る八つ目の灯。

 それは、七禍館の下から、まるで床下の闇が目を開けたように光っていた。

 火禍は終わっていない。

 あるいは、もう次が始まっている。

 真壁は黒羽宗一郎の遺体を見下ろした。

 顔を奪われた者。

 しかし、奪われた顔の下には、まだ解かれるべき謎が残っている。

 その謎を解く前に、犯人はもう次の名前を置こうとしていた。


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