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デビル・スキャンダル  作者: たっくん


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episode9 韓国最大の夜

 《Korean Arts Awards》。


 韓国最大級の芸能授賞式。


 俳優。


 女優。


 アイドル。


 財閥。


 政治家。


 韓国の“上”にいる人間が、

 全員集まる夜。


 そして。


 悪魔が、

 完全復活する夜だった。


 会場はソウル中心部、

《ルミナス・グランドホール》。


 赤い絨毯。


 フラッシュ。


 黒塗りの高級車。


 テレビ局の生中継。


 数千万人が見ている。


 その喧騒を、

 路地裏から見上げる女がいた。


 ボロボロのフード。


 震える身体。


 皺だらけの手。


 ユン・セアだった。


 いや。


 もう半分以上、

 別人だった。


「……寒い」


 声まで老いている。


 鏡を見なくても分かる。


 侵食は進んでいる。


 頬も。


 首も。


 肌も。


 少しずつ老婆へ変わっていた。


「立てるか」


 ハン・ジフンが隣で煙草を踏み消す。


「……最悪」


「だろうな」


 男は淡々としていた。


 だがその目は鋭い。


「確認するぞ」


 ジフンが言う。


「悪魔は今、お前の身体を完全に動かしてる」


「……ええ」


「で、授賞式の“生中継”を利用して固定する気だ」


「固定……?」


「韓国中に“ユン・セア”として認識される」


 男が会場を見上げる。


「悪魔は人気と認識を利用してる」


 ユン・セアが眉を顰める。


「人間が“ユン・セア”だと思うほど、身体との結び付きが強くなる」


 つまり。


 今夜。


 全国民が、

 悪魔を“ユン・セア”として認めた瞬間。


 本物のユン・セアは消える。


 完全に。


「……最悪ね」


「だから阻止する」


「どうやって?」


 ジフンは懐から小型カメラを取り出した。


「暴く」


「……は?」


「生放送中に、悪魔の正体を晒す」


 ユン・セアは呆れたように笑う。


「誰が信じるのよ」


「信じなくてもいい」


 男が低く言う。


「“違和感”を植え付ければいい」


 沈黙。


「大衆ってのは単純だ」

「一度疑い始めたら止まらない」


 ジフンがニヤリと笑う。


「スキャンダルってのは、そういうもんだ」


 その時だった。


 会場前がざわつく。


「来たぞ!!」


 歓声。


 フラッシュ。


 巨大モニターへ映し出される。


 ユン・セア。


 完璧な姿。


 白いドレス。


 美しい笑顔。


 韓国中が見惚れていた。


 だが。


 ユン・セア本人だけは、

 気づいてしまった。


「あ……」


 “自分”が、

 自分より美しい。


 歩き方。


 笑顔。


 仕草。


 全部が完璧。


 悪魔は、

 ユン・セアを超えていた。


 周囲の歓声が響く。


『女王帰還!!』

『レベル違う……』

『やっぱ本物』


 ユン・セアの胸が痛む。


 悔しかった。


 怖かった。


 でも。


 何より。


 少しだけ、

 羨ましかった。


 あれは、

 自分が欲しかった“完成形”だった。


「……最低」


 自嘲する。


 こんな状況なのに、

 まだ自分は美に執着している。


 その時。


 テレビカメラが、

 悪魔を映した。


 すると。


 悪魔が不意に、

 こちらを見た。


 真っ直ぐ。


 そして。


 笑った。


『見てるかい?』


 頭の中へ声が響く。


 ユン・セアの呼吸が止まる。


『皆、お前より私を愛してる』


 会場の歓声が大きくなる。


『これが欲しかったんだろ?』


 涙が零れそうになる。


 違う。


 違わない。


 ユン・セアは、

 確かにこれが欲しかった。


 誰より愛される場所。


 世界の中心。


 スポットライト。


『だからお前は負けた』


 悪魔が微笑む。


『欲望に』


 その瞬間だった。


 ジフンが、

 ユン・セアの肩を掴む。


「行くぞ」


「……え」


「まだ終わってない」


 男の目は真っ直ぐだった。


「お前、自分を取り戻したいんだろ」


 沈黙。


 ユン・セアの瞳が揺れる。


 怖い。


 でも。


 まだ終わりたくない。


 彼女は震える脚で立ち上がった。


 その時だった。


 会場モニターに、

 授賞式開始の文字が映る。


 そして。


『今年の特別ゲストは——ユン・セアさんです!』


 歓声。


 拍手。


 光。


 悪魔が、

 壇上へ歩き出す。


 韓国最大の夜が、

 始まってしまった。

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