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デビル・スキャンダル  作者: たっくん


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episode6 怪物を追う男

 深夜二時。


 ソウル、麻浦区。


 漢江沿いの古びた24時間営業カフェ。


 店内にはほとんど客がいなかった。


 窓際。


 一番奥の席。


 ハン・ジフンはコーヒーを飲みながら、

 静かにスマホを見ていた。


 画面には、

 ユン・セアの記者会見。


『やっぱり綺麗』

『オーラが異常』

『女王帰還』

『芸能人ってやっぱ別格』


 コメント欄が流れていく。


 ジフンは眉を顰めた。


「……気持ち悪いな」


 会見映像を止める。


 拡大。


 ユン・セアの瞳。


 黒い。


 異常なほど。


 人間の目じゃない。


「本当にいるのか……?」


 呟いた瞬間。


 カラン。


 店のベルが鳴った。


 ジフンが顔を上げる。


 黒いフード。


 マスク。


 だが分かった。


 ユン・セアだった。


 彼女は周囲を確認しながら席へ座る。


「……尾行されてない?」


「多分」


「多分?」


「芸能記者ってゴキブリみたいなもんなんで」


 ジフンは淡々と言った。


「一匹いたら百匹います」


 ユン・セアは少しだけ笑った。


 だがその顔色は悪い。


 目の下には隈。


 肌も妙に青白かった。


「……あなた、本当に何か知ってるの?」


「逆です」


 ジフンは彼女を見る。


「知りたいんです」


「……」


「会見で見た」


 男の目が細まる。


「あなた、人間じゃない動きしてた」


 沈黙。


 ユン・セアは黙っていた。


「俺、芸能記者長いんです」


 ジフンが続ける。


「薬やってる俳優も」

「枕営業も」

「財閥の揉み消しも」


「腐るほど見てきた」


 苦笑。


「でも、あなたは違う」


 男の声が低くなる。


「“何か”がいる」


 ユン・セアの指が震える。


 怖かった。


 でも。


 少し安心している自分もいた。


 ようやく、

 自分の異常を見抜いた人間が現れた。


「……信じないわよ」


「普通はね」


 ジフンは鞄から資料を出した。


 古い新聞。


 写真。


 切り抜き。


「これ、全部“消えた女優”です」


 ユン・セアが目を見開く。


「……え」


「韓国芸能界には昔から噂がある」


 男が低く呟く。


「突然返り咲く女優がいる」

「異常なカリスマを持つ女がいる」


「でも数年後、必ず消える」


 古い写真。


 そこには。


 今のユン・セアと、

 同じ目をした女達が映っていた。


「……何これ」


「全員、最後は行方不明」


 ジフンの指が止まる。


 一枚の写真。


 白黒。


 古い時代。


 そこに映っていたのは——。


 黒い韓服の老婆。


 ユン・セアの全身が凍った。


「っ……」


「知ってる顔ですか?」


「……なんで」


 呼吸が乱れる。


「なんで、この写真が……」


「十年前、山で撮られた」


 ジフンが続ける。


「でももっと奇妙なのは——」


 男の指が、

 写真の老婆を叩く。


「この写真、五十年前にもある」


 沈黙。


 ユン・セアの血の気が引く。


「老けてないんです」


「……」


「同じ顔」

「同じ姿」

「ずっと存在してる」


 店内の空気が冷える。


 その時だった。


 カタッ。


 ユン・セアの手から、

 コーヒーカップが落ちた。


 床へ黒い液体が広がる。


 違う。


 コーヒーじゃない。


 血だった。


「……え」


 ユン・セアの鼻から、

 黒い血が流れていた。


 ジフンが立ち上がる。


「おい!」


 だがその瞬間。


 ユン・セアの視界が歪む。


 カフェの窓。


 そこに、

 老婆が立っていた。


 雨の中。


 笑っている。


『時間切れだよ』


「……っ!!」


 ユン・セアが立ち上がる。


 周囲の客達がざわつく。


「大丈夫ですか!?」

「血……!」


 だが。


 ユン・セアの耳には、

 別の声が聞こえていた。


『返せ』

『その身体』

『私達の身体』


 女達の声。


 頭の中で響く。


 歴代契約者。


 その瞬間だった。


 ブチッ。


 ユン・セアの右手の爪が、

 根元から剥がれ落ちた。


「ぁ……っ」


 痛み。


 血。


 だが。


 その下から現れた指は。


 老婆のものだった。


 皺だらけで、

 黒く腐っている。


 ジフンの顔色が変わる。


「……なんだよ、それ」


 ユン・セアは震えながら、

 自分の手を見つめていた。


 終わりが近い。


 本能で分かった。


 悪魔が、

 自分を喰い始めている。

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