episode13 悪魔の核
『……見つけた?』
悪魔の声が低く響いた。
会場全体が震える。
黒い霧。
無数の腕。
巨大スクリーンがノイズを走らせ、
悪魔の笑顔を映し出していた。
だが。
巫女だけは静かだった。
「ええ」
銀髪が揺れる。
「あなたの“核”」
その瞬間。
悪魔の笑みが消えた。
『……言ってごらん』
巫女はユン・セアを見た。
「あなたが契約した時」
「……え」
「悪魔は何を望みました?」
ユン・セアが震える。
思い出す。
山。
雨。
老婆。
『良い身体だねぇ』
その言葉。
「……身体」
「違います」
巫女が静かに否定する。
「悪魔は“器”が欲しかったわけじゃない」
沈黙。
「“愛される存在”になりたかった」
その瞬間。
悪魔の空気が変わった。
会場中の照明が砕ける。
『黙れ』
低い声。
怒り。
初めてだった。
悪魔が感情を露わにしたのは。
巫女は続ける。
「あなたは人間が嫌い」
「でも同時に、人間へ執着している」
「だから契約者を使って、何度も“人気者”を演じた」
ユン・セアの瞳が揺れる。
確かに。
悪魔はずっと、
“愛される側”にいた。
女優。
モデル。
財閥。
成功者。
必ず人の上。
『……だから何だい』
悪魔が笑う。
だが、
その笑みは歪んでいた。
「あなた、孤独なんですね」
その瞬間だった。
会場全体へ、
殺気が爆発した。
黒い感情が津波みたいに押し寄せる。
『理解したような口を利くなァァァァァッ!!』
轟音。
巨大な黒い腕が、
巫女へ叩きつけられる。
だが。
ガンッ!!
チェ・ガンウが割り込んだ。
「おらぁっ!!」
拳。
衝突。
衝撃波でステージが崩壊する。
ガンウが吹き飛ぶ。
だが着地。
床を砕きながら笑う。
「効くじゃねぇか怪物!!」
「ガンウ!」
ソヨンが叫ぶ。
次の瞬間。
バァンッ!!
狙撃。
ソヨンの特殊弾が、
悪魔の肩を撃ち抜いた。
白い光。
悪魔が顔を歪める。
『っ……!!』
「やっぱり効く!」
ソヨンが即座に次弾装填。
「浄化処理弾、有効確認!」
ジフンが目を見開く。
「警察がそんなもん持ってんのかよ……」
「表には出ないだけ」
ソヨンの目は冷静だった。
「この国、昔から怪異は存在してる」
その時だった。
悪魔の身体から、
大量の黒い顔が浮かび上がる。
歴代契約者。
女達の顔。
『返して』
『私の身体』
『死にたくない』
怨念。
悲鳴。
会場が地獄になる。
ユン・セアが頭を押さえた。
「あぁぁ……っ!」
聞こえる。
全部。
絶望が。
巫女が彼女を見る。
「ユン・セア」
「……っ」
「あなたは、まだ戦えますか」
震える。
怖い。
逃げたい。
でも。
テレビモニターへ映る“自分”を見た瞬間。
胸の奥で、
何かが燃えた。
あれは違う。
自分じゃない。
「……返して」
ユン・セアが立ち上がる。
「私の人生……返してよ」
黒い力が溢れる。
瞳が闇色へ染まる。
その瞬間。
悪魔が笑った。
『そうだ』
嬉しそうに。
『それでいい』
ユン・セアの身体から、
黒いオーラが噴き出す。
会場が揺れる。
ソヨンが舌打ちした。
「おい、暴走する!」
「違う」
巫女が静かに言った。
「彼女、自分で選ぼうとしてる」
ユン・セアの脳裏へ、
大量の感情が流れ込む。
羨望。
嫉妬。
愛。
憎悪。
芸能界の全て。
だが。
その中心で。
ユン・セアは初めて、
本当の自分の感情を見つけた。
「……私は」
涙が落ちる。
「愛されたかっただけ……」
その瞬間。
悪魔の表情が止まった。
巫女が静かに目を閉じる。
「核が揺らいだ」
「……え?」
「悪魔は、人間の欲望へ寄生する存在」
銀色の瞳が悪魔を見る。
「でも、“本心”を認められると弱くなる」
悪魔の顔が歪む。
『やめろ』
初めて。
悪魔が怯えていた。
「あなたは人間を利用した」
巫女が言う。
「でも本当は——」
静かな声。
「愛されたかっただけなんですね」
沈黙。
その瞬間。
悪魔の身体へ、
巨大な亀裂が走った。




