表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/16

探索者協会にて

探索者協会・本部。

駅前の巨大なビル一棟が、そのまま「人類の最前線」だ。

ロビーには、現役探索者の殺気と、富を求める若者たちの熱気が混ざり合っていた。


「……広いですね。源之助様の時代にも、似たような詰所がありました」

「もっと殺伐としてたのか?」

「ええ。常に誰かが血を流し、誰かが怒鳴っていました。……現代は、皆の表情が柔らかい」


平和。

そう呟いた桜花の横顔には、どこか遠い目をする寂しさがあった。

二百年の断絶。それを埋めるのは、まだ先になりそうだった。


受付のカウンターに向かう。

「探索者登録をお願いしたいんですが」

「はい、ではこちらに――」

事務的に対応していた女性職員の目が、桜花に止まった。

正確には、彼女の「存在感」と「腰の刀」に。


「……ドールの型式を教えていただけますか?」

「旧世代・戦闘特化型。記録上の名称は不明です」

職員の指が、キーボードの上で凍りついた。


「……もう一度、よろしいですか?」

「旧世代、戦闘特化型。石浜源之助の契約個体です」


一瞬の静寂。

次の瞬間、職員が弾かれたように立ち上がり、奥の扉へと消えた。


「おい石浜、なんか大事おおごとになってないか?」

上野が冷や汗を流しながら呟く。

「だろうな。……隠すつもりもないしな」



戻ってきた職員の後ろには、二人の人物がいた。

一人は、眉間に深い皺を刻んだ管理部長。

そしてもう一人は――杖をついた、白髪の老人。


老人は桜花を見た瞬間、その場に縫い付けられたように動かなくなった。

「……本当に、現存していたのか」

声が、震えている。

その老人は、かつてSランク探索者として一世を風靡した伝説の鑑定官だった。


「お主……二百年、どこにいた」

「石浜家の地下。約定に基づき、休眠しておりました」

「一人で……ずっとか」


老人がゆっくりと息を吐き出す。

その眼差しには、哀れみと、言葉にできないほどの敬意が混ざっていた。

「石浜の血筋か。……偶然ではない。運命が、人類を救いに来たのかもしれんな」


ロビーの空気が、じりじりと熱を帯びていく。

「旧世代型って……あの、教科書の?」

「おい見ろ、あの立ち姿。隙がねえぞ」

「魔力ゼロの石浜が、なんであんなのと一緒にいるんだよ」


遠巻きに見守る探索者たちの視線。

桜花がふと、その群衆を一瞥した。


それだけで、騒がしかったロビーが水を打ったように静まり返る。

本能的な「死」の予感。

捕食者に見つかった小動物のように、猛者たちが一斉に目を逸らした。


「……秀馬、睨まないように努力します」

「……ああ、頼む。いつもの顔でも十分怖いからな」


「――出力測定を開始します」

地下、特設測定室。

分厚い防壁に囲まれた空間で、三人の技術者が計器を睨んでいた。

「ターゲットに向けて、最大出力の一撃をお願いします。では――」


桜花が、ふわりと片足を引いた。

刀の柄に手をかける。

ただそれだけ。魔力反応はゼロ。

だが、空気が鳴いた。


一瞬。

抜刀の音すら聞こえなかった。

ただ「カチン」と、納刀の硬質な音が空間に響く。


「……え?」

技術者が計器を見て、固まった。


「あの……何かエラーが」

「終わりましたが。もう一度やりますか?」

「いえ、待ってください……数値が、振り切れて……」


三人がかりで再確認し、彼らは顔を見合わせた。

その顔は、驚愕を通り越して「恐怖」に近い。


「……契約者の方」

「なんですか」

「現行の測定限界を超えました。……暫定ですが、出力は現行Sランクドールのそれを、遥かに凌駕しています」


扉の隙間から覗いていた探索者たちに、戦慄が走った。


発行された登録証。

ランク欄には『F』の文字。

だがその備考欄には、真っ赤な印字でこう刻まれていた。


【特例管理対象:出力測定不能・Sランク相当】

「FランクなのにSランク……。めちゃくちゃだな、これ」

「ランクは実績。……私は、これから結果で示すのみです」


登録証をじっと見つめる桜花。

「源之助様の時代、私の存在は『秘匿事項』でした。……記録に残るというのは、不思議な気分ですね」

「悪いか?」

「……いいえ」

彼女の唇が、わずかに、誇らしげに弧を描いた。


帰り道。

「疲れたな。お前のせいで有名人だよ」

「……申し訳ありません」

桜花がふと立ち止まり、俺を見た。

「秀馬。……一つ、聞いても良いですか」

「なんだ」

「あの場で、私を協会に売ることもできたはずです。旧世代型は、国が数千億を積んででも欲しがる遺産。……なぜ、そうしなかったのですか」


一瞬、何を言われたのか分からなかった。

大真面目にそんなことを聞く桜花に、少しだけ腹が立った。


「バカかお前」

「……バカ、ですか?」

「売るわけないだろ。お前は俺の『相棒』だ。……物じゃない」


桜花が、大きく目を見開いた。

金色の瞳が、夕焼けを反射して激しく揺れる。

二百年の孤独。

「兵器」としてしか扱われなかった彼女の中に、初めて違う風が吹いた瞬間だった。


「……相棒」

「なんだよ、文句あるか」

「……いえ。少し、聞き慣れない言葉だっただけです」


桜花が前を向き、少しだけ早歩きになった。

「秀馬」

「なんだよ」

「ダンジョンへ行きましょう。……一刻も早く、Fの文字を消さねばなりません」

「そんなに気になるか?」

「ええ。……『相棒』の格好がつかないので」


彼女の歩幅が、昨日よりもずっと強く、軽やかになっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ