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対抗戦

学園対抗戦の会場は、第3区の屋内競技場だった。


広く、天井が高い、それに観客席がある。


五校が参加する。各校から三チーム。

総当たりの勝ち点制だ。

俺たちは第一試合から出る。


「……人が多いですね」

桜花が観客席を見上げた。

「対抗戦は毎年人気があるらしい」

「見物ですか」

「強いドールを見たい人間は多い」

「……そうですか」

桜花が視線を戻した。


アリーナの中央。他校の参加者が準備をしている。

ドールの型式が、うちとは違う。

オーダーメイド型が多い。高価なやつだ。

上野が小声で言った。

「あの赤いの、S学園のエースだ。昨年の優勝校」

「どんな型式だ」

「攻撃特化のオーダーメイド。名前は『紅』。かなり速いらしい」

俺は紅を見た。


赤い外装。細身の体躯。契約者は女子生徒だった。

目が合った。

だが向こうが先に視線を切った。



第一試合。

相手はC学園だった。

バランス型の汎用ドール二体。手堅い構成だ。

審判の笛が鳴った。

相手のドールが散開する。

左右から挟む作戦だ。


しかし桜花は動かなかった。

待っている。

左のドールが踏み込んだ。速い。

スッと桜花が動いた――左ではなく、右へ。


右のドールの間合いに、自分から入った。

「……っ」

相手の契約者が息を呑む声が聞こえた。

想定外の動きだった。

挟む作戦が、逆に密集を生んだ。


桜花が右のドールに柄打ち。

弾かれた右のドールが、左のドールに接触した。

一瞬、両方の体勢が崩れた。

その瞬間、二連の柄打ち。

右左間髪入れずに。


乾いた音が二度、続いた。

相手の両ドールが膝をついた。

笛が鳴った。

「両ドール戦闘不能。石浜・桜花の勝利」

第二試合。

第四試合。

第六試合。

桜花は全て、刃を使わなかった。

それでも、全勝だった。


観客席がざわめき始めた。

「あの旧式、何者だ」

「型式が分からない。どこの学園だ」

「刀を抜かないのに勝ってる」

「契約者が魔力ゼロって本当か」

声が聞こえた。


俺には聞こえていた。

桜花にも聞こえているはずだった。

「……気になるか、ああいう声」

「いいえ」

「本当に?」

「私が気にするのは秀馬だけです」

さらっと言うやつだった。



決勝。

相手はS学園だった。

紅が出てきた。

細身の赤い外装と契約者の女子生徒が、俺を見た。

「石浜くん、だよね」

「そうですが」

「噂は聞いてる。魔力ゼロで旧式のドールを動かしてるって」

「動かしてるというより、動いてくれてる感じですが」

女子生徒が少し笑った。

「正直だね」

「嘘をつく理由がないので」

「私は倉木如月(くらきさつき)。S学園二年、本気で行くよ」

「石浜秀馬。一年、こちらも本気で行く」


如月が桜花を見た。

桜花が紅を見ている。

静かに、真っ直ぐに。

紅も桜花を見ていた。

二体のドールが、互いを測っていた。


そして、審判の笛が鳴った。

先に紅が動いた。

速い。今日見た中で、一番速い。

開幕の一歩目から最高速だ。

桜花が動いた。

正面から――掻き消えた。

紅の刃が虚空を切る。


「……っ」

観客席から声が上がった。

視界の端。桜花は紅の横にいた。

柄打ち。

紅が弾いた。


硬い。防御反応が速い。

桜花がすでに離れていた。

「速い」

桜花が小さく言った。


「今日一番です」

「楽しそうだな」

「少し」

また踏み込んだ。今度は角度を変えて。

紅が対応した。完璧な反応だ。


弾かれた。

桜花が後退した。

初めてだった。

桜花が後退したのは、今日初めてだった。



如月が叫んだ。

「紅、行って」

紅が追った。

速い。追撃の速度が上がった。

桜花は下がり続けた。

俺は見ていた。

下がりながら、桜花の目が動いていた。

何かを、測っていた。


「……桜花」

届かないかもしれない。でも、言った。

「見えてるか」

桜花が一瞬、俺を見た。

頷いた。

「見えています」

紅が踏み込んだ。今日一番の速度だった。


桜花が動いた。

下がらず。前に出た。

真正面から、ぶつかるように。

紅の刃が来る――その軌道の内側へ、潜り込んだ。

重心を落とす、限界まで低く‥あの形だ。


懐に入って。刀を抜いた。


音が違った。

今日一番鋭い音。空気が断たれる乾いた響き。

紅の外装に、一筋の光が走った。

遅れて。


硬質な装甲が、小さく割れる音が響いた。

紅がよろめいた。

桜花はすでに離れていた。

静寂。

笛が鳴った。

「紅、損傷判定。継続不能。石浜・桜花の勝利——」


観客席が、沸いた。

俺には聞こえていなかった。

桜花を見ていた。

桜花が刀を納めていた。


今日、初めて刃を使った試合だった。

如月が紅に駆け寄った。

「大丈夫?」

「問題ありません」


紅はよろめかず、立ち上がった。

如月が桜花を見た。

「……すごいね」

「紅も強かったです」


「刀、抜かせたのはうちだけだよね、今日」

「はい」

「それって、褒め言葉として受け取っていい?」

桜花が少し間を置いた。


「そうですね」

如月が俺を見た。

「石浜くん」

「なんですか」

「魔力ゼロでも、ちゃんと戦ってたよ」

「桜花が戦ってただけです」

「違う」

如月が首を振った。


「さっき声をかけたでしょ。桜花に」

「聞こえてましたか」

「聞こえてた。あれで桜花の目が変わった」

俺は少し黙った。


「……そうですか」

「魔力がなくても、できることはある」

如月が笑った。

「また戦いたいな」

「こっちも」



表彰式が終わった。

優勝旗を持って、会場を出た。

川沿いの風が気持ちよかった。

桜花が空を見上げていた。


「……秀馬」

「なに」

「今日、刀を抜きました」

「見てた」

「加減が難しかったです」

「壊れなかったからいい」


「紅は良いドールでした」

「褒めるのか相手を」

「強い相手は素直に認めます」


俺は優勝旗を肩に担いだ。

「桜花」

「はい」

「楽しかったか」


桜花が少し間を置いた。

「……はい」

「良かった」

「秀馬は」

「楽しかった」

「魔力がなくても?」


「関係ない」

桜花が俺を見た。

金色の目が、夕日を映していた。

「……そうですね」


並んで歩いた。

優勝旗が、風に揺れた。


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