表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/16

国からの接触

朝。

協会から連絡が来た。


「面談の場を設けたい」

それだけだった。

差出人は「特別管理部」。


登録の時に見た部署じゃない。

初めて聞く名前だった。



放課後、協会に向かった。

いつものロビーを通り抜けて、エレベーターで五階へ。

五階は来たことがなかった。

廊下が静かだ。人が少ないし、壁が白い。

どこか病院に似た雰囲気がある。


案内された部屋に入った。

テーブルを挟んで、三人が座っていた。

協会の制服を着た中年の男。

スーツ姿の女。

そして――軍服だった。

軍服の男が俺を見た。


年齢は四十代くらい。目が鋭い。

胸に階級章がついている。

「石浜秀馬くんかな?」


「はい」

「座ってください」

俺と桜花が座った。

軍服の男が桜花を見た。

じっと、見た。

品定めではなく、もっと複雑な目で見られていると感じた。


「……本当に現存していたのか」


桜花が答えた。

「私は桜花です。石浜秀馬の契約ドールです」

「名前は知っている」

男が資料を開いた。

「防衛省特別対策室、室長の黒沢だ」

防衛省。

俺は少し背筋が伸びた。


「単刀直入に聞く」

黒沢が俺を見た。

「桜花を、国に貸してほしい」


静寂。

桜花は表情を変えなかった。

俺も変えなかった。


「……理由を聞かせてください」

「現在、第12区のダンジョンで異常が確認されている。深層から未確認の魔物が複数、浮上しつつある。現行のSランクドールである程度、渡り合えるがSランクドールは貴重、数に限りがあるから対処が難しい」


「その相手に桜花なら対処できると?」

「出力測定の結果を見た。Sランク以上の力だ。可能性がある」

俺は黒沢を見た。


「桜花は俺の契約ドールです。国の所有物じゃない」

「それは理解している」

「なので貸せません」

黒沢が少し間を置いた。


「理由を聞かせてくれるか」

「桜花は俺の隣で戦うために目覚めた、それを国の都合で動かすものじゃない」

スーツの女が口を開いた。


「石浜くん、少し落ち着いて聞いてください。第12区には住民が三万人います。ダンジョンブレイクが起きれば——」

「それは分かっています」

俺は女を見た。

「でも、答えは変わりません」



桜花が口を開いた。

「黒沢様」

黒沢が桜花を見た。

「一つ、確認させてください」

「どうぞ」

「貸す、ということは——私が単独で出向くということですか?」

「そうなる」

「では秀馬は?」


「同行は想定していない。危険すぎる」

桜花が頷いた。

それから、静かに言った。

「お断りします」


黒沢の目が細くなった。

「理由を」

「私は石浜秀馬の契約ドールです」

桜花が真っ直ぐ黒沢を見た。

「契約者なしで動くことは、約定に反します」

「約定というのは?」


「源之助様との、200年前の約束です。石浜家の子息に従い、共に戦う。単独行動は、その約定の外にあります」

「しかし石浜くんでは深層に——」

「それを判断するのは私です」

静寂。

黒沢がしばらく桜花を見た。

やがて、息を吐いた。

「……強情だな」

「はい」


秀馬が桜花に聞く。

「200年前からそうなのか?」

「源之助様にもよく言われました」



会議が止まった。

黒沢が資料を閉じた。

「分かった。今日のところは引き下がる」

「ありがとうございます」

「ただ——」

黒沢が俺を見た。


「状況は刻一刻と変わる。第12区の異常が拡大すれば、また話を持ってくる」

「その時は——」


「その時も同じ答えかもしれない。でも、聞いてほしい」

俺は少し間を置いた。

「……分かりました」

黒沢が立ち上がった。

部屋を出る前に、振り返った。


「石浜くん」

「はい」

「君には魔力がないと聞いた」

「そうです」

「それでも、桜花が選んだのか」

俺は少し考えた。


「選んだというより——目が覚めたら俺がいた、という感じだと思います」

黒沢が少し目を細めた。

笑ったのかもしれなかった。


「……そうか」

扉が閉まった。



廊下に出た。

桜花が歩きながら言った。

「……すみません」

「何が?」

「秀馬に余計な面倒をかけました」

「面倒だとは思ってない」

「でも、国が相手です」

「分かってる」

俺は少し考えた。


「桜花」

「はい」

「第12区の話、本当だとしたら」

「本当だと思います。黒沢様の目に、嘘はありませんでした」

「深層から魔物が浮上してる」


「はい」

「放っておけないな」

桜花が足を止めた。

俺も止まった。

「……桜花、ひとつ条件がある」

「条件?」

「俺も連れていくこと。それが条件なら、協力できる」

桜花がしばらく俺を見た。

長い沈黙だった。


「……危険です」

「分かってる」

「深層は、第二層とは比較にならない」

「分かってる、それでも」


桜花がまた俺を見た。

金色の目が、夕方の廊下の光を映していた。

「……鍛錬を、続けなければなりませんね」

「そうなるな」

「五時起きです」


「一時間ずらせない?」

「四時に変更ですね、分かりました」

「いや、ちがーう!」


桜花が歩き出した。

一歩、二歩と。


「秀馬」

「なに」

「……ありがとうございます」

俺は何も言わなかった。


でも、隣を歩く速度を合わせた。

それで十分な気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ