第85話 こういうのも悪くない
+・+・+・+・+・+
第85話 こういうのも悪くない
+・+・+・+・+・+
半年近い遺跡調査を終えた俺たちは、ホルトンに帰ってきた。
予定では往復プラス探索で3カ月くらいの予定だったが、あまりにも大きな収穫があったことで延長に延長した結果だ。
とにかく地下都市が広く、さらに多くの遺物があったことで期間が長くなってしまったのだよ。
帰りはエアバイクに乗って移動したから2日しかかかってないのがいいね。
そのエアバイクは、空を飛べるというよりは浮いた状態で走るというものだ。
地面から1mほど浮き上がることができ、走るわけだな。
あと、自動車はタイヤがついたものと、ついてないものがあった。
タイヤつきは地上を走るもので、そうでないものは空中を走るものだ。タイヤありのほうはこの世界でも走っているので、中身はともかく特別珍しくはない。
その逆にタイヤなしは1mほど浮き上がり走るものだ。エアカーというべきものだね。
飛空船は起動しなかった。どうやら特別な起動方法が必要らしいので、そこはヤパスさんやパックさんのような学者の研究に期待だ。
自動車の起動方法はどちらもエアバイクと同じなので、苦労はしなかった。帰りにエアバイクを使ったのは、自動車だと森の中を走るのが大変だからだ。巨木が多いジュブレール大森林では、タイヤなしでも1mしか浮かないので、車体幅がある分走るのが難しいのだ。
「無事だったか。帰ってくるのが遅いから心配していたぞ」
「エルさん、久しぶりですね」
「本当だぞ、まったく」
エルさんが出てきて迎えてくれた。プリママの代理でギルマスをしていたせいか、目の下にクマができている。そんなに苦労するものなのかな? 俺はギルマスになんてならない、そう思える先達の疲弊具合だ。
「そういえば、クライドがいないおかげで今回のコルディーノ侯爵の晩餐会は寂しいものだったぞ」
「ん?」
「前回は大型リフィナンテスを大量に納品したが、今回は20㎏が1匹だけだ。おかげでコルディーノ侯爵家からクレームがあったらしいぞ」
「あー、あれですか! そういえば、俺たちが遺跡調査をしいている間に、あの時期になっていたんですね。今思い出しましたよ」
「バドランドが嘆いていたぞ、今年は儲けられんかったってな」
バドランドさんは解体主任だね。元気にしているかなー?
「バドランドさんは元気ですか?」
「せっかくの買取強化なのに、暇だったらしいぞ」
「あらー」
積もる話はあるが、今日は家でゆっくりすることになった。
「ツキオス君、レットン君、アリス君。3人もよくがんばってくれましたね。ありがとう」
「僕たちはなんの役にも立ってないですよ」
「そうですよ、師匠」
「もう少し役に立ちたかったです」
「そんなことないよ。ツキオス君とレットン君は地図作成に多大な貢献をしてくれたし、アリス君はベースキャンプをしっかり維持してくれたし、穴に階段を設置してくれたじゃないですか」
「僕たちは地図くらいしか作ってませんけどね」
「少しでも役に立てたら嬉しいです」
「土魔法が役立ってよかったです」
「十分に役に立ちましたよ。ちゃんと報酬は出しますから、期待していてくださいね」
「「「はい!」」」
今回の査定額は、まさに天文学的な金額になるんじゃないかな。
この国の王家がそれだけの資金を出せるとは思えないから、他国にも話を持っていくのかもしれないね。
「ママ。今回の成果は一国で買い取れるようなものじゃないと思うんですけど、どうなるとおもいます?」
「冒険者ギルドに任せればいい。冒険者ギルドは他の国にも本部や支部があるからな。クライドは売るものを選別するだけでいい」
「それをするのが大変ですけどね」
「違いない」
この日、ゆっくり風呂に浸かって半年に渡る遺跡調査の疲れを落とした。
風呂の後は宴会なんだが、なんで皆がいる?
「グランベルさん、暇なんですか?」
「俺はクライドの料理なしでは、生きていけなくなった」
「……キモ」
「うるせーよ!」
拳骨を華麗に躱す。
「ちっ、避けるなよ」
「殴られたら痛いですから、避けますよ」
そんなわけで【雷神の鉄槌】【破壊の巨人】【炎姫】となぜかトルテンさんまでついてきている。
俺が料理していると、風呂で女性陣がキャッキャウフフと騒いでいる声が聞こえてくる。
手伝ってくれるのは、ツキオス君とレットン君のみ。他の男たちは酒を飲んでとぐろを巻いている。
今日のメニューはファイアドラゴンのテールスープとグリフォンのステーキだ。
ジュブレール大森林の中にいると肉は向こうからやってくるが、野菜はそういうわけにはいかない。野菜はそろそろ補給しないといけないくらい在庫が減っている。なんで俺の野菜を皆が食うのかな? まあいい、今日は使い切るくらいの気持ちで色々作ってやろう。
ジュブレール大森林のなかでは酒が飲めなかった。地下都市ならボックスに近づかない限り安全だったけど、それでも酒は禁止だった。
だから、今日は酒の消費が「バカじゃないか!」と叫びそうになるくらい激しい。だから、なんで俺の酒を飲むんだ!?
「クライド、飲め!」
「ママも飲んでくださいね」
早く飲み潰れてしまえ。
「師匠、お注ぎします」
「ありがとう、ツキオス君」
「師匠、お疲れ様でした」
「レットン君もお疲れ様でした」
「師匠。飲んでください~♪」
「アリス君は飲み過ぎかな」
「クライドさん、今回はとても楽しかったです!」
「調整役のトルテンさんがいたので、スムーズに調査などできました。感謝しています」
「おい、クライドも飲めよ!」
「飲んでますよ、グランベルさん」
「クライド君、飲んでますか~♪」
「はい。美味しく飲んでますよ、ミルキーさん」
「おい、クライド。飲め!」
「いただきます、ミリアさん」
「ガハハハ! 飲め!」
「ドゴゴンさんも飲んでください」
「美味しい」
「はい。美味しいですね、リンリーリンさん」
男も女も関係なく皆が浴びるように飲み、ブラックホールのように食べた。
その片づけは誰がするのかなー……。(遠い目)
カオス的な宴会が終わり、皆が飲み潰れた光景を見ながら月を見上げる。
今日の3つの月は、一番大きな赤い月が半月、青い中ぐらいの月が三日月、黄色の小さい月が有明の月か。
この世界で目を覚ました時は、クライド君のあり得ない状態に腹も立ったが、今は楽しい人たちに囲まれて幸せかもしれないな。
前世では独身貴族だった俺が、この世界では楽しく騒げる人たちと一緒に過ごしている。こういうのも悪くないと思うよ。
翌日、昼になってやっとミルキーさんが起きてきた。二日酔いの酷い顔だけど、緊張から解放された爽快感は感じる。
「おはよう、クライド君」
「おはようございます、ミルキーさん」
俺は朝早くから後片づけをしている。ツキオス君ら3人はまだ寝ている。今日は戦力外だな。
「クライド君は元気ね……結構飲んでいたと思ったのに」
俺は魔力循環で体内にある不純物を排出しているからね。
「なんとか動いてます」
「そう……悪いけど、手伝えそうにないわ」
「いいですよ。水飲みます?」
「大丈夫よ、自分で用意するから」
コップに水を出して飲んだミルキーさんは、そのままテーブルに顔をつけて寝だした。
美人の寝顔だからずーっと見ていたいけど、それをすると片づけがいつまでも終わらない。




