第75話 ベルデナーグ伯爵家の異変
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第75話 ベルデナーグ伯爵家の異変
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ベルデナーグ伯爵家の屋敷の上空に移動。
魔力フィールドを広げ、伯爵とゴッガイルの居場所を確認する。2人とも自室にいて、伯爵は酒を飲み、ゴッガイルはメイドとイチャイチャしている。
俺に関わらず生きていたらよかったのに、ゴッガイルは闇ギルドを使って俺を拉致しようとした。当然、拉致した後は俺を殺すつもりだったのだろう。
ゴッガイルはクライド君を殺した過去がある。クライド君の残留思念のようなものが、伯爵やゴッガイルに対して申しわけない気持ちを持っていたからあの程度で済ませていたのだけど、俺は違う。
「クライド君は本当にお人好しだよ。そういうの嫌いじゃないけど、俺はそうじゃないんだよ」
魔力触手を伸ばし、窓の隙間から中へ入れる。スルスル伸びる魔力触手をゴッガイルの鼻から気道へと入れる。そこで魔法で水を作る。
「グゴッ」
気道が水で塞がれ、むせ返るゴッガイル。
魔力量が増えたことで、1回の魔法の消費量は5%くらいになっている。以前のように魔力残量をそこまで気にせず使えるようになったのは嬉しい。
いたしている最中にむせ返ったゴッガイルのおかげで、上に跨っていたメイドは驚いた顔をしている。
ゴッガイルはそんなメイドを乱暴に押しのけ、苦しんでいる。これで終わると思うなよ、これからが本番だぞ。
次は肺の中で火を点ける。肺の内側の一部が焼け爛れると、ゴッガイルは暴れるように苦しがった。
お前が好きな火の魔法だ。クライド君がそれをどれほど受けたことか。その苦しみを味わうがいい。
「グギャァァァッ」
「ゴッガイル様!?」
のたうち回るゴッガイルをずっと見ていたいが、次はベルデナーグ伯爵のほうだ。
こいつは育児放棄どころかロクな生活環境を与えない虐待をした。ボロを着て、空腹に痩せ細っていくクライド君の悲しみは深い。
魔力触手を伸ばし、伯爵の体内へ送る。そして胃の中でドリルを発動。魔力触手は胃を突き抜けた。
伯爵は胃の痛みに顔を歪めた。穴は1つじゃないぞ。2つ、3つと開けていく。
「うぎぁぁぁっ」
伯爵はのたうち回ってワインなどを机の上から落とした。異変に気づいた執事のコールギウスが駆けつける。
「旦那様!?」
「あががが」
コールギウスが伯爵の体をゆするが、伯爵はいい顔で苦しんでいる。ざまぁ。
さて、帰ろう。こんな辛気臭い屋敷に、いつまでもいたくはないからな。
俺は夜のうちにホルトンの家に帰った。
プリママは俺が何をしてきたのか分かっているようだが、ツキオス君ら3人は分かっていない。純粋な子らは、知らなくていいことだ。
俺がホルトンで遺跡調査準備の最終確認をしている頃、王城では宰相とその側近であるメッサーラ子爵が顔を突き合わせていた。
「宰相閣下。ベルデナーグ伯爵、およびその嫡子ゴッガイルが倒れたそうにございます」
メッサーラ子爵の言葉に、宰相は書類から顔を上げた。
「倒れた? 死んだのか?」
「いえ、共に一命はとりとめております」
「ちっ、運がいいヤツらだ」
宰相はとても残念そうに、言葉を吐き捨てた。
執事のコールギウスはベルデナーグ伯爵とゴッガイルの異変に際し、医師を呼んだ。すでに家内にはまともな回復魔法使いがいない状態で、外から医師を呼ばなければいけなかったのだ。
医師は伯爵が胃の病、ゴッガイルが肺の病と診断した。
治療を終えたベルデナーグ伯爵は、治療費さえ踏み倒した。さらにいうなら、過去の治療費も踏み倒していた。ゴッガイルがクライドによって潰された鼻の治療費ももらっていない。
そんなベルデナーグ伯爵に義理も何もない医師は、メッサーラ子爵の手の者にペラペラ喋ってくれた。
「そうか、残念だ」
宰相は本当に残念そうだ。
「それだけではございません」
「まだ何かあるのか?」
「こちらを」
メッサーラ子爵が差し出す紙を見ると、宰相の眉がピクリとする。
「こちらは昨夜我が屋敷に置いてあったものです」
「……置いてあった?」
いつもは分かりやすい言葉を使うメッサーラ子爵が随分と不思議な言葉を使ったことに、宰相は彼を訝し気に見つめた。
「私が棚から書物を取るために、ほんの少し席を立ったわずかな間に、私のデスクの上にこれが置いてありました」
「……どういうことか?」
「誰かが置いていったのでしょう」
「君は子爵であり、私の側近だ。屋敷の警備は厳重だと思うのだが?」
「はい。屋敷の警護は厳重です。それをすり抜けて誰かが侵入し、これを置いていったのです」
「そんなことができる者がいると思いたくはないが、屋敷の警備をさらに厳重にすることだ」
「すでに指示をしております。それはさておき、その中を確認していただきたく」
宰相が紙に記されている内容を確認すると、唸った。紙をめくり次の内容に目を通すと、今度は口角を上げるが、すぐに取り繕う。そのまま数枚の紙の内容を確認した。
「これは本当のことかね?」
「はい。先ほど手の者が間違いないと確認しましてございます。ベルデナーグ伯爵とゴッガイルの不正及び、闇ギルドと繋がっていた証拠にございます」
蛇の道は蛇。メッサーラ子爵が使う暗部の中には、そういった方面に顔が利く者も多い。
そこからの情報で、クライドを拉致するようにゴッガイルが依頼しているのが分かった。その他の不正に関しても、ピンポイントで調べ上げられていた。
これらの情報は全て闇ギルドが調べたもので、彼らは顧客が闇ギルドを売らないために、その弱みを調べ上げる。
闇ギルドのギルマスはとても協力的に、これらの情報を提示してくれた。
「すでに裏が取れているのであれば、是非もない。あれでも名門だったから、見て見ぬふりをしていたが、闇ギルドと繋がった以上は仕方がないな」
「はい」
「ベルデナーグ伯爵家を潰すよう、陛下に上申する。伯爵に知られず準備を進めよ」
「承知いたしました。それともう1つ」
「ん?」
「ロイメス男爵も闇ギルドを使った形跡があります」
「ロイメス……ああ、あの奴隷商人か」
「はい。そのロイメス男爵もクライドの拉致だそうです」
「人気者だな、クライドは」
「ゴッガイルのほうは執着のようですが、ロイメス男爵のほうは息子を殺された恨みからのようです」
「ゴッカイルは追放した兄に執着か。自分の立場を危ぶんでのことか?」
「そこまでは分かっていません。ただ、どちらかと言いますとクライドのほうが酷い目に遭っていたようですから、恨むのであればクライドがゴッガイルを、という構図のはずです」
「ふむ……。で、ロイメス男爵の息子を殺したのは、クライドなのか?」
「いえ、違います」
「なぜ言い切れる?」
「プレサンス伯爵家がその件でクライドを取り調べております。その際にロイメス男爵家の者も立ち合い、嘘を見分けるマジックアイテムが使われており、潔白が証明されております」
「それでなぜクライドを恨むのだ?」
「最近、ロイメス男爵家のポロン・ゴルガスというものが謀反の罪で処刑されております。その者がプレサンス伯爵家の取り調べに立ち会った者ですが、どうもロイメス男爵に取り調べの結果を伝えておらず、クライドに罪を着せようとしていたようにございます」
こちらは、ロイメス男爵に入れていたメッサーラ子爵の手の者が調べた内容だ。
「プレサンス伯爵家の調べで無実が証明されているのですから、それに否を言うのは慣例に背く行為です。下手をすれば、プレサンス伯爵家との戦争になりかねません」
「それでそのゴルガスという者は処刑された。まあ、分からんではないが、ロイメスはどうやってその事実を知ったのだ?」
「どうもそこにクライドがかかわっているようなのですが、詳しくは分かっておりません」
「……そもそもクライドは闇ギルドに狙われているのであろう? 無事なのか?」
「今のところ問題なく。現在はホルトンで遺跡調査隊に参加している頃でしょう」
「遺跡調査か。そういえば、その遺跡を発見したのがクライドであったな」
「はい。ジュブレール大森林のかなり奥だそうです。そんなところに1人でいけるような冒険者が、闇ギルドの者にどうこうできるとは思いません。私が闇ギルドの者なら、依頼を受けることはしないでしょう」
「たしかにな。ロイメスのほうは闇ギルドとの繋がりの証拠はあるのか?」
「そちらはゴルガスの名しか出ていません。それを理由に潰すことは可能でしょうが、いささか無理があります。罰を与えるにしても男爵位の剥奪か、領地を削り罰金を科すくらいでしょう。いかが致しますか?」
「ふむ……ならば、当主は隠居、こちらが指定した本来のロイメス家の血縁者を当主に就けるか。それが飲めなければ、男爵位の剥奪だ。こちらも陛下に上申しておく。もちろん、他の不正の証拠もあるのであろう?」
「はい。ぬかりなく」
宰相は頷き、国王の執務室へと向かうのだった。




