第32話 近寄る魔の手
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第32話 近寄る魔の手
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「男爵様。黒髪の冒険者の行方が分かりました」
「どこだ、どこにいる!?」
「アルガードの町の冒険者ギルドにて確認されております」
「直ちに捕縛隊を差し向けよ!」
「はっ!」
アルガードの町に戻った頃、俺の知らないところでこんなやり取りがあったらしい。
それはともかく、俺はアルガードの町にしばらく滞在することにした。アリス君の成長を見守るのは、師匠としての務めだと思うんだ。
クリスの宿に泊まった俺は、3人と合流するために門へと向かう。お金を出すから一緒の宿に泊まろうと言ったのだけど、3人は定宿があるからとそちらに泊まった。
門に到着すると、すでに3人はいた。
「おはようございます。待たせましたかね?」
「おはよう、僕たちも今きたところだよ」
「師匠、おはようございます」
「おはようございます」
さっそく草原へと向かう。
昨日の彼らは草原で薬草採取をしていたそうだ。そこでゴブリンの襲撃を受け、さらにはグラスウルフを討伐した。3人にとっては激動の一日だったらしい。
草原に到着する。
「それじゃあ、アリス君は瞬時にドームを作れるように練習、ツキオス君とレットン君は薬草採取をしてください。索敵は俺がするので、安心していいですよ」
「「「はい」」」
魔力フィールドを最大に広げる。現在の範囲は300mほどで、他のことをしていても250mは展開できる。
アリス君の訓練を見つつ、索敵をし、さらに魔力をグルグル高速循環させている。
昨夜分かったことだが、魔力循環を行うと、体内の異物を運搬し、魔力放出と一緒に体外に放出できるようになった。
この異物のことを考えたのだけど、おそらくは疲労物質や老廃物、あとはウィルスや細菌などと思われる。
おかげで体調はすこぶるよく、昨日走った疲れもまったく残っていない。
とはいえ、体力がないのは冒険者として致命的かもしれないので、今朝からランニングを始めた。体が資本の職業だから、鍛えておいて損はないだろう。
それにランニングしながら異物を排出していると、身体強化をしてなくても疲労を感じないから結構走れるのだ。
あと、身体強化せずに、回復力だけ上昇させて走ってもいいかもしれない。
とにかく、体を鍛える案は複数あるということだ。
ああ、そうだ。異物排出はアンチエイジングに効果がありそうなので、毎日続けようと思う。
アリス君は徐々にドームの作成が速くなっていった。夕方には、数秒で作成できるまでになった。さすがは俺の弟子一号である。
「ツキオス君とレットン君で、時間を稼げるだけの腕になるのも大事だよ」
「はい。精進します!」
「がんばります」
アリス君もそうだけど、この2人も素直でいい子たちだ。
「それじゃあ、明日は実際に狩りをしてみようか。俺もつきそうので、怪我はさせませんから」
「「「はい」」」
この日も宿は別々だし、彼らは冒険者ギルドに薬草を納品にいった。
翌日の朝もランニングをし、門のところへと向かう。まだ予定の待ち合わせには早いが、3人はすでに待っていた。昨日もそうだが、いつからきているのか?
「おはようございます。3人とも早いですね」
「「「おはようございます!」」」
3人と揃って草原へ。
「そういえば、ツキオス君とレットン君に剣と槍を教えてくれそうな人はいないのですか?」
「剣と槍なら冒険者ギルドで、講習があります」
「そうなんですか? それを受けてみたらどうですか?」
2人が微妙な表情をした。何、どういうこと?
「その講習の講師がとても嫌なヤツなんです。僕たちは孤児なんですけど、いつもバカにしてくるのでその講習はさすがに受けたくないかな、と」
「なるほどー、そうなんですね。嫌な人はどこにでもいますから、そういうこともありますね。それなら少しですが、俺も剣と槍を齧りましたので、俺が教えましょうか」
「え、いいのですか!?」
「お願いします」
予定の場所に到着すると、アリス君はドームの練習をしてもらう。
その間に俺は2人に剣と槍を教えることにしたのだけど、それ以前に2人に魔力循環と身体強化と回復力上昇を教えたほうがいいだろう。
「そんなわけで、2人には身体強化を覚えてもらいます」
「身体強化? それは魔法ですよね? 僕たちは魔法は使えませんけど……」
「魔法じゃなく、技術ですよ」
「「技術……?」」
「ちょっと苦しいかもしれませんけど、我慢してくださいね」
「く、苦しい……ですか?」
2人が青ざめているけど、これは既定路線ですよ。
「アリス君はそのままドームの即時発動を訓練していてくださいね」
数秒じゃなく、瞬時に発動ね。
「はい」
「あと、ドームを何回作れるか、数も把握しておいてくださいね」
「分かりました」
「さて、2人とも。覚悟はいいですか」
「「ゴクリッ」」
覚悟がなくてもやるけどね。
魔力触手を伸ばし、2人の鼻から体内に侵入。100分の1㎜にも満たない魔力触手だから、鼻に入ったのも気づかないようだ。
心臓の横にある魔力にアクセスする。2人の魔力を掌握するのは、難しくなかった。
あとは魔力を動かす。
「「っ!? ……うぐっ!?」」
2人は胸を押えてのたうち回った。無理矢理に魔力を動かし、体内に循環させているのだ。それなりに苦しいみたいだ。
「お、お兄ちゃん!?」
「大丈夫だよ。アリス君はドームに集中していてください」
「は、はい」
のたうち回る2人を見たら心配するのは当然だ。これで平然としていたら、逆に神経を疑うよ。




