第31話 ご安全に
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第31話 ご安全に
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「アースウォールをこの結界のようにドーム型に展開してみてください。大きさはこの結界を包むくらいで、イメージはドラゴンの攻撃にも耐えられる硬さです」
「ドラゴンの攻撃ですか……」
「ものの例えですけど、そのほうが分かりやすいですよね」
「はい。やってみます!」
アリス君は素晴らしいね。また30分で土のドームを作ったよ。
「それじゃあ、俺の結界は解除しますね」
「だ、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫じゃないですか? 最悪は俺がなんとかしますよ」
「師匠、よろしくお願いします!」
「師匠?」
「クライドさんは、私の魔法の師匠です!」
なんかこそぐったいな……。
「それじゃあ、アリス君。つぎはこのドームに穴を開けてくれますか。ドームの強度は落とさないように、これくらいの穴を作ってください」
俺は手で直径10㎝ほどの丸を作った。
「やってみます……」
うんうん唸るアリス君をよそに、ツキオス君とレットン君は暇そうにしている。魔法が使えない2人には退屈な時間なんだろうね。
「できました!」
「はい、よくできました。それを1m間隔で開けていってください」
「は、はい!」
アリス君がうんうん唸っている間に、暇そうにしている2人を手招きする。
「この穴ですけど、なんのために開けていると思います?」
「え? ……さ、さぁー、分かりません」
「これは俺たちが呼吸するための空気を取り入れるためと、あと1つ意味があります」
「はぁ……それは?」
「覗いてみてください」
「……こうですかギャッ!?」
ツキオス君が穴を覗こうとしたら、グラスウルフが穴に鼻先を突っ込んできた。凶悪な牙を見せ、涎を垂らしている顎は、ツキオス君が腰を抜かすほどのものだった。
「あ、危ないじゃないですか!?」
「何を言っているのですか? 魔法使いのアリス君だけが働いては、パーティーとは言えませんよね?」
「うっ……」
「見てください。グラスウルフがわざわざ鼻先を突っ込んでいるのですよ? ツキオス君とレットン君はどうするべきですか?」
「「っ!?」」
「分かったら、すぐに動いてくださいね」
「「はい!」」
ツキオス君は剣を抜き、レットン君は短槍を構えた。
「思いっきりいっちゃってください」
「「はい!」」
ツキオス君とレットン君は頷き合うと、レットン君が踏み込んだ。槍が牙に当たると滑り、そのまま斜めに押し込まれた。
「ギャンッ」
なんと槍の先が目に刺さり、そのままそれは脳にまで達したようだ。
「お見事」
おそらく狙いとは違うと思うけど、あのグラスウルフは長くはないだろう。
「穴を開けました!」
アリス君が穴をいくつも開けてくれた。
「アリス君は、お疲れ様です。それじゃあ2人は、もう1体を同じようにやっちゃってください」
「「はい!」」
もう1体のグラスウルフも穴から鼻先を入れ、鋭い爪で穴を広げようとガリガリやっている。
その鼻先にツキオス君が剣を差し込もうとしたが、噛まれて阻まれた。
「レットン君。こっちの穴からどうぞ」
「あ、はい!」
横の穴からはいい感じにグラスウルフの胴体が見える。槍なら問題なく届く距離だ。
「やっ!」
「ギャンッ」
グラスウルフが悲鳴をあげた瞬間、噛んでいた剣がその喉奥へと突き刺さった。
「やった! やったぞ!」
「やったね、ツキオス!」
2人が抱き合って喜んでいる。初々しいねー。
「アリス君。ドームを解除してください」
「あ、はい」
解除すると、3体のグラスウルフの死体が転がっている。
「念のため、とどめをしっかり刺してください。それが終わるまでは警戒を怠らないように」
「「「はい!」」」
つい戦い方の1つの可能性を教えたけど、これでこの3人が長く冒険者を続けられるなら、この時間は無駄じゃなかったことになる。だから、ずっと冒険者を続けてほしいものだ。
3人はしっかりとグラスウルフのとどめを刺した。ただ、3体のグラスウルフを持ち帰ることが3人ではできないので、俺のマジックバッグに入れてアルガードの町に戻ることになった。
「倒し方を教えてもらっただけでなく、グラスウルフを運んでくれてありがとうございます」
急ぐ旅でもないので、全然OKですよ。
「気にしなくていいですよ。ああ、そうだ。アリス君が瞬時にドームを作れるようになるまでは、モンスターとの戦いは避けてください。死にますよ」
「は、はい」
あのドームが瞬時に作れたら、大概のことはなんとかなるはずだ。それまではモンスターと戦うのは避けるべきだ。
「ツキオス君とレットン君は、あのドームからどうやってモンスターを攻撃するか、それを考えてくださいね」
「「はい」」
安全第一。
ご安全に、ですよ。
アルガードの町の冒険者ギルド、その解体所にグラスウルフを持ち込んだ。
最初はまた大物かと職員が色めき立つが、グラスウルフ3体と知ると、あからさまに落胆した。
気持ちは分からないではないけど、グラスウルフはツキオス君たちには大物なので、少しは感情を抑えてくれないかなー。
「それじゃあ、俺はこれで」
「クライドさん、今日は本当にありがとうございました!」
「「ありがとうございました!」」
アリス君はしっかりしているね。年上の2人をしっかり引っ張っていってあげてね。




