第27話 犯人はそいつだ!
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第27話 犯人はそいつだ!
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モンスターから魔力を完全に抜くと、どうなるのか?
そんな素朴な疑問から始まった実験は、モンスターの大量虐殺に繋がった。いや、そこまで殺してないよ? 30体くらいのモンスターで実験しただけだし。
体の大きなモンスター、小さなモンスター、魔法を使うモンスター、使わないモンスター、色々なモンスターから魔力を抜いて確認したんだけど、全て死んでしまった。
結論、モンスターは体内の魔力が枯渇すると、死んでしまう。
「しまったなー、あの9人で人間の魔力を抜いたらどうなるか実験しておけばよかった……」
今となっては後の祭り。
今後もああいう人間が現れるかもしれないので、その時に実験しようかな。
俺がそんなことをやっていた時、あのボンボンは1人で父親のロイメス男爵が治める町の門に到着した。
疲弊した様子で、いつもいる取り巻きの冒険者がいないことで、門を守る兵士がボンボンに駆け寄った。
「アッパス様、どうしたのですか!?」
ボンボンは何度か大きく息を吸い、やっとのことで声を出す。
「俺をこんな目に遭わせたヤツを殺せ!」
「それは何者ですか!?」
アッパスの悪行は兵士たちなら誰もが知っている。だから、返り討ちに遭ったのだろうと、誰もが思った。
それでも放置はできない。こんなクズでも領主の息子だ。これを放置したら、自分がどんな目に遭わされるか分かったものではない。だから、真摯に対応してますよ、と形だけは整えておく。
「あいつだ! あの黒……アガガガガガァァァァァァァァッ」
黒髪と言おうとしたアッパスは、そこで自分の首に違和感を感じた。それは一瞬で自分を死に誘う首狩りの鎌になったのである。
アッパスは思いだした。あの黒髪黒目のガキが言ったことを。黒髪黒目のガキと約束したことを。
「俺のことは誰にも言わない、伝えない」
だが、思いだしたその言葉は一瞬で吹き飛んだ。首が締った苦しさにのたうち回ることしかできなかったのだ。
「アッパス様!?」
「どうしたのですか!?」
「おい、回復魔法を使えるヤツはいないか!?」
苦しみ足掻くアッパスを兵士たちが助けようとした時、それは起った。
ブシュンッ。アッパスの首が千切れ飛んだのだ。
噴き出す血を浴びた兵士たちは、呆然と千切れた首と胴体を見ていた。
アッパスの首が千切れたことは、入町待ちをしていた商人や旅人などにも目撃され、あれは呪いだと噂が広がることになる。
それはさておき、アッパスの父であるロイメス男爵は息子の死の報を聞き、飲んでいたワインのグラスを投げ捨てるほどの怒りようであった。
「誰が殺した!? どこのどいつだ!?」
「現在、調査中にございます」
「早く探し出せ!」
ガマガエルのような顔に怒りを貼りつけたロイメス男爵は、執事を追い立てるように部屋から追い出した。
「我が一族に手を出したことを、後悔させて殺してやる!」
ワインの瓶そのままラッパ飲みするのは、男爵位と領地を金で買った奴隷商人で、借金漬けにした前ロイメス男爵の養嗣子になり、養父をすぐに毒殺して家を乗っ取った冷酷な男だ。
その後、なんとか町に辿りついた取り巻き冒険者たちが尋問されたが、8人は尋問(拷問)中にアッパスのように首が千切れて全員死亡した。
そのため、アッパスの死の原因はまったく分からなくなった。何せアッパスやロイメス男爵を恨む者は星の数ほどいるのだ。呪いをかけられたとしても、誰がかけたかを調べるのは物理的に無理があった。
そもそも呪いではないのだが、ロイメス男爵側では、呪いをかけられたと誰もが思っていた。
また、町でもロイメス男爵家の悪行により、呪いがかけられたという噂が飛び交う。人の口に戸は立てられぬというが、兵士が取り締まっても噂は独り歩きをしていくのだった。
そんな中、唯一の情報が「黒」だった。これはアッパスや8人の冒険者が言おうとしたことを、総合的に判断して出された唯一の情報だった。
「黒い服の者か、黒髪や黒い目か、黒など数え上げたらキリがないのですが、とにかく「黒」という言葉がキーワードなのが分かりました」
「そんなことで、犯人を捜せるのか!?」
「残念ながら今はこれ以上は……」
ロイメス男爵は捜査を任せている執事に罵詈雑言を浴びせ、部屋から追い出した。まったく進まない捜査に、そうとう苛立っていたのだ。
その執事が、他の捜査首脳陣と会議をする。
「こうなったら、誰でもいい。黒いヤツを連れてきて、男爵の溜飲を下げる道具になってもらおう」
執事は自分にとばっちりが向きかけていることを敏感に感じ取り、保身のために早期の決着を図ることにした。
「ですが、下手な者では男爵様は納得されないのでは?」
「あの方にそんなこと分かるわけないだろ。適当に黒髪か黒目、あとは肌が黒いヤツを連れてきて罪を被ってもらえばいいのだ」
「「「それもそうか」」」
黒髪は比較的珍しいが、まったくいないわけではない。黒目も同じだ。領内だけでも黒髪か黒目の者は数十人はいるはずだから、その者をスケープゴートに仕立てようというのだ。
そんな時だった、捜索首脳陣の1人があることを思いだした。
「そういえば、数日前に黒髪黒目の冒険者が町に入ろうとしたことがあったな。入町税を要求したらどこかへいってしまったが」
「「「そいつだ!」」」
黒髪で黒目。犯人像に合致し、しかも冒険者だ。こいつを捕縛し、男爵に差し出すことで全て丸く収まる。そう捜査首脳陣は考えた。
奇しくも、それは正解を射抜いていたのだが、彼らはそれを知らない。
「ヘックションッ……。誰かが噂しているのか?」
鼻を人差し指で擦り、首を傾げる俺。
マントのおかげで寒くはないし、風も吹いていないことから、噂されている気がして仕方がないのだった。




