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双貌日記〜天才作家 言葉紡の記録係〜  作者: pippo
真実

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動機

 月夜さんはまっすぐ先生の顔を見ている。表情の変化はない。先生はそれでも語り続ける。


「君は月夜君として生きていくために月夜君を殺し、虹日君が死んだという偽装をしたんだよ。」


「なんのために?どうして、そんなことをしなければならないんですか?」


 月夜さんの表情は少し冷ややかなものに変わる。


「君、小さい頃の将来の夢は俳優だったんだろう?」


 しかし、その先生の言葉で月夜さんは小さな動揺を見せる。眉が少しぴくついている。そしてそのまま先生は畳み掛ける。


「だが、その夢は叶うことがなかった。ほんの少し先に生まれてきてしまっただけで、君は男として、綺羅星家の次期当主候補として育てられたのだから。それでも、君が綺羅星家の当主になるのは当分先のはずだった。小さい時の君は、その間に俳優としてデビューしてしまえば当主になんてならなくても良くなるんじゃないか、などと思っていたんじゃないかい?だが、そんな淡い期待も8年前に完全に絶たれた。次の当主であった君の父親を含めたご両親が()()で亡くなったからだ。その結果、君が当主になる時期が繰り上げされた。まだ未成年の君に選択肢はなかったんだろう。そんな時に、妹の月夜君に成り代わるという計画を思いついた・・・。」


 少し動揺を見せたと思ったが、すぐに冷静さを取り戻したのか、再びすまし顔を見せている。


「君の事務所で、私ちゃんの優秀な助手くんが聞いたが、月夜君のスカウトは少々特殊だったようだね。ある日、書類が事務所に送られてきてそれを見た社員さんが電話をかけてスカウトしたと。では、その書類を送ったのは誰なのか。そして、月夜君はデビューから今までずっとモデルとして活動していたが、ある人の助言により活動の幅を広げ、タレントや俳優業にまで手を伸ばし始めた・・・。もちろん、どちらも君の仕業さ。月夜君の書類を事務所に送り、月夜君をモデルとしてデビューさせることに成功、自分がサポートするという条件もつけた上でね。そして君の目標だった俳優業へと徐々に活動を広げていった。事務所の中では俳優業はまだ早いんじゃないかという意見があったが、虹日君は半ば無理やり話を進めた。それは自分が当主になってしまう時期が押し迫っていたからさ。そして、自分が成り変わる先の未来を保障したんだ。」


 先生の言葉にも表情は全く変えない。これも卓越した演技力というやつなのだろうか。


「君と月夜君はホームズ君が見分けられないほど似ている。奇跡の兄妹などと思ったが、真相は簡単。虹日君が意図的に月夜君に()()()()()()()()()。つまり模倣していたから似ていたというわけさ。普通ならそれでも完璧に似るということはない。だが君は、それを成し遂げた。虹日として綺羅星家の長男としての演技をしながらも完璧に近い形で月夜君のことをトレースしていたんだろう。私ちゃんたちの誰一人として、虹日君が男だと気が付かなかったように、事件の日の夕食の時。あの月夜君が既に入れ替わった後の虹日君だということにも誰も気が付かなかった。そして、月夜君がいる状態で、同じ顔の死体があればみんなはどう思うか。当たり前のように虹日君が死んでいると思うだろう。だが実際に死んでいたのは虹日君ではなく月夜君だった。虹日君の性別すら公的に変えられた綺羅星家だ。虹日君に関する医療データは色々と改竄(かいざん)しているだろうからアテにはならない。死体から虹日君の痕跡(こんせき)が出ている以上、君が月夜君の完璧ななりすましをしていれば、これで入れ替わりが完了する。誰も疑うものは現れない、という寸法さ。」


「私がそんなことをすると?」


 冷たい視線を先生に向けながら、問いかける。


「普通は考えられないさ。だが、君はどうしても綺羅星家の当主という決められた線路の上を走るのが嫌だったということかな。まあ、君の本心まではわからないから、あくまで推測だがね。」 


 僕はあらかじめ先生の推理を聞いていたが、この事件を起こした動機のところが理解できなかった。だが、先生は「人間には皆絶対に譲ることのできないポイントや信念、願いというものがある。それが虹日君の場合は夢だったということじゃないかな。」と言っていた。自分の中でここだけは譲りたくないもの。僕にはまだそんなものはないが、それは自分の妹を殺してまでのものなのだろうか。


「仮に私が月夜ではなく虹日だとして、私が虹日だという証拠はあるんですか?先ほどご自分でも言われていたと思いますが、綺羅星家によって出産の時のデータは改竄されていますし、その後に関しても虹日のものはデータとしての信頼度はありませんよ。」


「そう、それが一番の問題だった。君が月夜くんではない、という証明。まさに()()()()()だ。ではない、証明というのは、非常に難しい。理論的に証明するのはほとんど不可能であると思っていた。だから、月夜くんではない証明、ではなくて、君が虹日くんである、という証明をしようと思った。しかし、虹日君と君が同一人物であるという証拠をどのように集めるか。あらゆる可能性を模索したが、やはり厳しいだろうと思った。じゃあ、あの時の虹日君の死体はとも思ったが、流石綺羅星家といったところかな?すでに火葬されて骨だけになってしまっていた。だから君と虹日君が同一であると示す証拠はなかった。」


 月夜さんは微笑を浮かべる。


「そうでしょうね。だって、私は月夜なんですから。もういい加減この茶番はやめにしませんか?いくらあなた方とはいえ、流石にお兄様を侮辱されているようで気分が悪いですよ。」


「まあ、焦らないでくれたまえ。私ちゃんは君と虹日君が同一であるという証拠はないと言ったに過ぎないんだ。」


 月夜さんの眉間に皺がよる。先生を少し睨んでいるような表情になっている。


「君と月夜君が同一でないという()()()()()。そちらの証拠ならあるのさ。」


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