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双貌日記〜天才作家 言葉紡の記録係〜  作者: pippo
真実

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来客と真実

 先生の仕事部屋は10畳の書斎である。10畳というと仕事部屋にしては広いなと思うかもしれないが、三分の一くらいが移動式の本棚で埋まっているので実際は7畳ほどである。


 そして、デスクトップPCが置かれた黒天板の机と、まさに校長室にありそうなデザインのリクライニング可能な椅子が奥にあり、その手前には小型のテーブルと二組のソファが向かい合って配置されている。このテーブルは来客が来たときに案内する他、いつも僕が座る場所でもある。


 でも、今日はそのソファには先生が座っており、僕はその後ろ側に立っている。先生からそこに立っていろと言われたわけではないのだが、これから起きることを考えるとゆっくり座っている気分にはならないのである。


 では、なぜ先生がソファに座っているのか。先生がソファに座るのは来客が来る時だけであり、今回も例に漏れず来客のために座って待っているのである。壁にかけられた時計は、約束の時間の五分前を指している。おそらくそろそろやってくるはずだ。


 ピンポーン


 玄関のチャイムの音が鳴り、僕はその人を迎えるために玄関まで歩く。先生は部屋に待機しているままだ。


 やはり約束の時間の五分前には来る人だ。玄関を開けて、その人を書斎へと案内する。その人は自分がなぜ招かれたのかをまだわかっていないようだ。笑顔で僕に挨拶しながらついてくる。僕は書斎に案内して扉を開け中にその人を入れる。


 先生は僕が入れたお茶を飲みながらソファに足を組みながら座っている。その人を先生の反対側の椅子に案内し、僕はすぐに先ほどの位置に控える。


「やあ、よく来てくれたね。」


「お招きいただきありがとうございます。」


「忙しいだろうにすまないね。ドラマは順調だそうじゃないか。ねえ、月夜君、いや個人を呼称するときに名前を間違えるというのも失礼な話か。ねえ、虹日君?」


 相手の表情が少し歪む。そう、今日先生の家に招かれたお客さんは月夜さんである。来て早々の出来事に、少し困惑している様子である。


「あら、紡先生。何をおっしゃっているんですか?私は月夜ですよ?冗談にしてはあまり笑えないですね。お兄様の死を間近で見たあなたにそんなことを言われるとは。」


 月夜さんは少し冷ややかな目を向ける。


 そりゃそうだろう、先生の言葉は冗談にしてはひどく笑えない。だが、先生の瞳はその言葉が冗談ではないことを物語っている。少し笑みを浮かべながら話を続ける。


「いや、私ちゃんたちはまんまと君の手のひらで踊らされていたというわけだね。全く、見事なものだよ。」


 やれやれと言ったような手振りを見せる。依然として月夜さんの表情は厳しい。冷たく先生を見ている。笑った時はあどけない少女のような表情を見せるが、凛とした雰囲気は深窓の令嬢を思わせるような高貴なものである。


「何を言っているのかわかりませんが。」


 少し笑みを浮かべるが、その笑みはどちらかといえば冷笑だろう。


「まあ、一つ一つ説明するとしようか。今回の事件の真相、驚くべきその真実を。」


 先生は表情を一気に真剣なものにして語り始める。その先生の雰囲気に再び月夜さんの顔も引き締まる。


「まず、どこから説明した方がいいだろうか。あの日、事件が起きた日の時系列を整理するとしようか。君たち兄妹と助手君、そしてホームズ君は四人で出店通りに出掛けた。これが昼前からだ。そして帰ってきたのが午後三時ごろ。君の証言では虹日君は部屋に置いてあった手紙を読んで出掛けて行ったということだった。我々はその証言を信じきっていた。だって、君が嘘をつく必要はないと思っていたからね。だが、それ自体が嘘だった。手紙が発見されないのは既に処理したからだと思っていたが、そもそも手紙なんてものはなかった。君は月夜君を誘い、あの旅館の庭へと連れ出した。そして、君はその場で月夜君を殺害した。殺害方法はナイフによる刺殺だろうね。そして、その後陰君を呼び出し、陰君と二人で遺体を埋めるための穴を掘る作業をしていた。あそこの土は硬いからね。思ったよりも時間がかかったことだろう。夕食の時間が迫った君は陰君に穴を掘るのを頼みつつ、部屋に戻り月夜君の姿をしながら大広間へと向かった。そして、何食わぬ顔で私ちゃんたちと一緒に夕食を食べた。あのときのメールはどちらのスマホも持っていてタイミングを図りながら、虹日君からちょうど今送られてきたかのように偽装したんだろう。そして夕食後、庭へと戻り二人掛かりで月夜君を虹日君だと偽装し、首を切断。そして、体を埋めたんだ。その後、君は陰君を殺害しあの桜の樹へもたれかけさせた。そして、陰君の部屋に行き、遺書を用意し月夜君のストーカーであるように偽装したんだ。そして私ちゃんたちのところに来て一緒に遺体を発見した。おおまかに言えば、こういう流れだ。」


「あら、よくできた物語ですね。次の小説のストーリーですか?全部妄想でしょう。」


「まあ、これだけだったらそうだね。実際このストーリーは私ちゃんが今回の事件にインパクトを加えるならどうするかなと思案していた時に浮かんだ案の一つだ。最初は妄想でしかなく、虹日君が月夜君を殺す動機が全く浮かばなかったからお蔵入りにしようと思っていたんだけどね。」


「そうですね。お兄様が私を殺す?動機がないですよね。それに、陰さんについてだって、どうして犯行を手伝っているのかもわかりませんしね。」


 月夜さんは微笑んでいる。余裕そうな表情である。


「動機か、動機の前に陰君について説明しようか。」



「それについては私が。」


 そう言いながら部屋に入ってきたのは、ホームズさんだった。いつもの正装をしてパイプを咥えている。ホームズさんの登場に月夜さんは少しだけ驚いたのか眉をピクリと動かす。


「お久しぶりですね。ミス月夜いや、ミス虹日。私はあの事件から帰ってきた後、ミスター陰について調査をしていたんですよ。」


 ホームズさんは歩きながら喋り、先生のソファの背もたれに手をかける。


「いや、驚きましたよ。彼はストーカーでもなんでもなかったんですから。彼は普通のフリーターでした。大学卒業後は職を転々としつつ今はアルバイトをしながら生計を立てている普通の男性だったんです。彼の周りからは綺羅星月夜に関連するものは一切出てこなかった。彼の周囲の人間にも聞き込みをしましたが、誰も彼が月夜さんのファンだということは認識していませんでした。この時に私は妙だなと思いました。ミスター虹日の話では今回のストーカーは、少々過激だという話でしたからね。盗撮の写真や脅迫まがいのものまであると。だが、ミスター陰にはそんな片鱗すらなかった。そして次に私は、ミス紡に言われて彼がどうしてあの場所を訪れるに至ったのかを調査したんです。私は最初ミスター陰のことをストーカーだと思っていたのであまり疑問に思わなかった、どころか何処かから情報が流出してしまったのだろうな、くらいにしか思っていませんでしたが、ストーカーでないのであればその疑問は必至のものになる。それに彼は事件の関係者だ。どうして巻き込まれるに至ったのかは謎を解く上で必ず知らなければならない。色々聞き込みや調査をしてわかったのは、彼がネットの掲示板からバイトとして応募していたということです。いわゆる闇バイトですね。彼の友人の話では、旅行費も滞在費も出るのに内容が軽度の肉体労働のみで時間拘束が少ない高給料のバイトがあったと自慢げに言っていたそうです。その掲示板については探してみましたが今はもう消えてしまっているようで、私の力では見つけられませんでした。ですが、これでミスター陰は事件に巻き込まれた一般人という説が濃厚になりました。」


「ですが、それも証拠は見つかっていないんですよね?」


 月夜さんはそれでもホームズさんにそう言い放つ。ホームズさんは、ふっと笑いながら両手を上げる。


「あくまで私立探偵の私の調査力ではここまでが限界でしたね。だから、強力な助っ人に依頼しました。ミスター陰の部屋に残されていたパソコンを調べてもらったところ、例の闇バイトへのアクセス履歴を見つけることができたそうです。そして、依頼主とのメールのやり取りも。いやあ、ミスター陰が孤独な身であったが故に、遺品の整理などの手続きが遅れていたことが功を奏しました。でなければ、証拠となり得るものは全て闇に葬られているところでしたから。」


「このホームズ君の調査は実に役に立った。つまるところ、陰君がストーカーでなかったんだからね。そして、君の犯行の動機だったかな?」


 先生がホームズさんに続いて話し始める。


「動機は単純さ。月夜君と君が入れ替わるため。これのみだ。」


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