休屋の報告(僕の語りではない)
(ここからは僕の語りではない)
「どう思う?」
休屋は、調べていた事故についてのメモを紡に見せながら聞く。
「うん、やはり不自然だね。」
「そうだろう。やはり今回のように、当時の捜査では早期に事故として処理されているようだが、あまりにも不自然な点が多い。」
「事故車両の検査や、聞き込みも途中でやめているようだね。」
「ああ。普通は、事故だとしても車両の不備や実況見分は行われるはずなんだが、それすら行われていない。最初の方の報告書には、目撃者ありという記録があるのに、後のものからはこれが消されている。」
「うむ。この件を事故としていち早く処理したいという何者かの意思が働いている、と思っているんだね。」
紡の問いに休屋は無言で頷く。
「まあ、何者かと言われれば、ほとんど間違いなく綺羅星家の人間。より詳しく特定するのであれば、その当主ということになるだろうね。」
「そうだな。それに、今の推測を補助する材料は他にもある。」
「なんだい?」
「この事故の当時の担当者を見ていたんだが、その人がこれだ。」
休屋はメモのとある部分を指差し、ある人物の名前を示す。
「松本。」
「ああ。この人は、今は警視正で俺の直属の上司なんだが、いわゆるスピード出世の人でな。聞いたところによると、松本警視正の出世のスピードが急激に早まったのが、8年ほど前だそうだ。どう思う?」
「繋がりがないと考える方が不自然だね。綺羅星家は、今回の事件が発生した際にも、管轄外の地域にすぐに君を派遣することができるほど、警察上層部との繋がりを持っている。その綺羅星家の力があれば、特定の誰かを故意に昇進させるということも可能なんだろう。」
「ちょうどこの資料を探していた時、松本警視正に声をかけられたんだ。少し圧力をかけるような言い方でな。もしかしたら、松本警視正は俺が何を調べようとしていたかわかっているのかもしれない。」
「そうなると、これ以上踏み込むのは困難というわけか。」
先生は困ったとばかりの表情を浮かべている。
「まだ、8年前の事故の概要がわかったに過ぎないんだがね。これからが本題だというのに。」
「俺は、調べ物のような内職をするのが不得意だからな。だが。」
休屋は言葉を途中で区切り、紡に不敵な笑顔を見せる。
「俺一人では難しいというだけだ。」
「なるほど、応援の必要があるということか。だけどね、その人選は慎重にやらなければいけないよ?心当たりはあるのかい?」
「ああ、先生の意見は聞こうと思って、まだ協力を依頼したわけじゃないが、信頼できるライバルがいる。あいつは今回のような調べ物なんかの内職が得意なやつだ。そういえば、一回だけあったことがあるんじゃなかったか?」
「もしかして、灰呂くんかい?」
「そうだ。灰呂涙だ。あいつは俺が信頼している実力のある人間だ。どうだ?」
「う〜ん。確かに、灰呂君はそういうのは得意そうだね。でも、灰呂君を巻き込むということは、灰呂君にも圧力がかかるかもしれないということだよ?」
「ああ、だから表向きには協力しているという感じは出さない。松本警視正には悟られないように振る舞うさ。松本警視正は、本庁を出ることはないからな。あっちでできることは、ノーマークの灰呂に任せて、俺は足で捜査する。」
「なるほどね。それならいいかもだ。灰呂君にはどこまで伝える気だい?私ちゃんは、灰呂君の性格まではあまりわかっていないが、伝えすぎるのもまずいんじゃないか?」
「そうだな。でも、協力してもらう以上ある程度は伝えなくてはいけないと思っている。それが、手伝ってもらう上での最低限のマナーってもんだろ?」
「それもそうだね。」
「今回の事件について、疑問点があることを伝えて、その操作を秘密裏に行いたいからと言って、まずは協力を要請してみる。それで了承したら、詳細を話すというのはどうだろう?」
「おお、休屋君にしては素晴らしい提案だ。それで行こうか。」
「だけどな。調べるって言ったって、何から手をつけていいかわからんぞ。」
「そうだね。事故車両はとっくの昔に処理されていて今から調べることはほとんど不可能だろうからね。調べるとしたらこれじゃないかい?」
紡がメモの中を指差す。
「消えた目撃者か。」
「そうだ。それにこの事故の責任者が松本という男だったとしても、一人で担当していたわけじゃないだろう?それなら他に事件を担当していた者を探すというのも、一つの手だ。」
「でも、当時の担当警官は、綺羅星家の手が加えられている警察官だろ?流石に話は聞けないんじゃないか?」
「現役の警察官ならそうだろうね。だが、やめた警察官なら可能性はある。まあ、そんな人がいればだがね。」
「なるほどな。それも調べてみよう。」
休屋は紡に言われたことをメモに取りつつ頷いている。
「また進展があったら、報告を待っているよ。私ちゃんにはすでに今回の事件の真相についての推理があるが、根拠のない推理はただの妄想と同じだからね。みんなで確実な根拠という名の証拠を集めようじゃないか。」
紡は右の口角を上げ、ニヤリと笑う。自分が立てた推理に向かって、着実に前進しているという自信があるのだろう。
休屋と紡が別れたあと、代理取材の報告メールが入る。
優秀な記録係は、簡易的にまとめられた取材内容をメールで送りつつ、この後紡の部屋まで詳細を報告しに来てくれるようだ。
「今のところは順調かな。あとは……」
スマホをポケットにしまいながら、沈むゆく夕日を眺め、紡は今後の方針を立てる。




