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双貌日記〜天才作家 言葉紡の記録係〜  作者: pippo
違和感

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警視庁捜査資料保管室(僕の語りではない)

(ここからは僕の語りではない)


 少しだけ時は遡り


「おいおい、これは。」


 警視庁捜査資料管理室


 ある事故の報告書を手に取り、中身を見ていた休屋は思わずつぶやく。


 その事故とはもちろん8年前に起きた、綺羅星姉妹の両親が亡くなった事故である。紡に頼まれて過去の事故の資料を漁って、ようやくその事故の資料をみつけることができた。


 その資料には、事故の現場記録や捜査内容、供述調書までしっかり記録されている。しかし、見れば見るほど不思議な点が次々に見つかる。


「早く先生報告しないとな。」


 事故の資料をあらかた見終えた休屋は、事故が起きた日付とこの事故を担当した当時の警察官の名前を確認する。


「8年前の事故ってだけ言われても、探すのは大変だったぞ……」


 陰の部屋から帰る途中、休屋は自分が調べる担当を紡に言われた時に、その事故がいつ起きたのかを聞いた。しかし、つむぎから返ってきたのは、


「え、知らないよ。8年前と聞いただけで詳しい時期はわからない。まあ、頑張って調べてくれたまえ。」


「いや、月夜さんに聞けばいいんじゃないのか?」


「それはやめておこう。さっきも言ったが、今回我々は独自に調べる必要がある。だだから、なるべく他の人の手を借りることは避けたい。特に月夜君や休屋君以外の警察官の力なんかはね。」


「そうなると、調べるのに結構な時間がかかるぞ?」


「そこは頑張ってくれ。なるべく早く調べて欲しいな。そうだね、期限は()()()と言ったところか?」


「あのだな。一年で交通事故が何件起きているのか知っているか?」


「確か、一年で約30万件だったかな?毎日換算すると一日1600件。約1分に一件の事故が発生している計算になるね。」


「事故が起きた場所もわからない。時期もわからない。それでいて誰の手も借りずに一週間?俺を殺す気か。」


「いやいや。私ちゃんは君ならできると()()しているんだよ。休屋君ならきっと期待通りの成果を上げてくれるとね。」


 休屋は苦い顔を見せながらも、渋々承諾した。人間()()されているという状況には弱い生き物である。特に休屋のような承認欲求が高い人物を動かすには、期待というのが最も効果的である。


 そんなこんなで、通常業務をこなしながら資料管理室へと足繁く通い、ひたすらに資料を探し続けた結果、休屋は例の事故の資料を探し出したのである。


 普段、資料室になんて滅多に行かない休屋が、ここ数日はことあるごとに通っていたので、部下からはどうしたんだと心配されるほどであった。


 休屋は資料を見ながら、さまざまなメモをとる。流石にこの資料を外部に持ち出すことはできないし、変にその事故について調べていたという跡を残すのは避けるべきだという、これも紡からの指示である。


 なんとかメモを取り終え、スマホで紡にメールを送る。すぐに返事が来て、少しの褒め言葉と共に会う日についての算段を立てる。


 資料の入ったファイルを閉じ、棚へしまおうとした時、不意に声をかけられる。


「君がここにいるなんて珍しいな。」


 休屋は一瞬体をビクッとさせ、声のした方を振り返る。


松本(まつもと)警視正(けいしせい)。あなたこそ、こんなところになぜ?」


 休屋に声をかけたのは、松本警視正。休屋の上司である。休屋も警部にしてはまだ年齢が若い、スピード出世組と言われる方であるが、この松本も異例の出征スピードで警視正まで上り詰めた男である。


「いやね。君が最近やけに資料室へと通っているという噂を耳にしてね。気になって様子を見に来たんだよ。」


 薄ら笑みを浮かべながら話しているが、目はあまり笑っていないように見える。休屋は思わず息を呑む。


「何を調べていたんだい?」


 松本はファイルが所狭しと置かれている棚を見ながら、休屋へと問いかける。


「いや、大したことじゃないんですがね。ちょっと気になることがありまして。家、私の勘違いでした。」


 後頭部に手を当てながら笑って誤魔化す休屋。自分でも誤魔化し方が下手であるということは理解しているだろう。


「そういえば、休屋君。先月の事件の解決は見事だったそうだね。」


「先月と言いますと?」


「いや、綺羅星家のご当主が絡んだあの事件のことだ。君がいち早く解決したおかげで、世間に情報が漏れることがなかったと、綺羅星家の方も喜んでおられたよ。」


「そうですか。それは光栄ですね。」


「さすがは期待の出世頭だね。()()()()()調()()出世コースを邁進することを願っているよ。」


 少し冷たい視線を棚へと向けながら、ぶっきらぼうにそんな言葉を投げかけ、松本は資料管理室を後にした。


 残された休屋の首筋には冷や汗が一筋。深いため息を吐きながら思わずつぶやく。


「これは圧をかけられたってことだろうな……」


 紡ぎからのメールの返信を確認し、電話をかけるために休屋も部屋を出る。


「休屋。警視正と何を話していたんだ?」


 部屋を出たところでまたもや話しかけられる。だが、先ほどとは違い、休屋はその人物の顔を見ても緊張することはない。


「灰呂か。別になんでもないよ。俺が資料室でちょっとした調べ物をしているってのが珍しかったから、ちょっかいかけに来たんだそうだ。」


「警視正にも気に入られてるのか。ライバルとしては誇らしいね。」


「お前はもっと現場力を磨いたほうがいいかもな。やはり警察は現場で輝いてこそだろう。」


「階級が上がっていけば現場に出ることも少なくなるからな。今のうちにいろいろな力を養っているんだよ。現場一本のお前と違ってな。」


 休屋と会話を続ける男。名前を灰呂涙(はいろるい)。休屋と同期であり階級も同じな男。お互いにライバル視しているが、現場で経験値を上げる休屋に対し、灰呂は内勤でさまざまな貢献をしているという毛色の違う二人である。


 ライバルではありながらお互いが一番信頼している警察官同士であり、仲は良好である。お互いに皮肉を言いながらも、灰呂がここにいるのは、休屋が苦手とするジャンルの仕事をしていると聞いて、手伝えることがあるかどうかを伺いに来たからである。


「何を調べていたんだ?」


「ちょっとな。」


 休屋ははぐらかす。いくら信頼できる灰呂相手ではあると言っても、紡にああ言われた手前話すわけにはいかなかった。内心では、灰呂の手を借りられていたら今回の調査ももっと早く終わっていただろうなとは思いながら。


「なんだよそれ?」


 灰呂は少し残念そうに首を傾げる。


「いずれ手を借りることにはなるかもしれない。その時に頼む。」


 休屋の真剣そうな表情を見て何かを察したのか、灰呂は「おう。」と軽く返答し、引き返していった。


 灰呂の後ろ姿を少しばかり見つめながら、何かを思う休屋。


 ちょうどそのタイミングで、おそらく休屋からの電話がなかなかかかってこないことに痺れを切らした紡から着信が入り、慌てて出る。


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