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双貌日記〜天才作家 言葉紡の記録係〜  作者: pippo
違和感

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綺羅星家本家

「ついたね。」


「ここが。」


 僕と先生は大きな木造の門の前に二人で立っていた。


 その門は桜の下旅館の門よりもはるかに大きく立派で(桜の下旅館の門も相当立派なものだったのだが)、明らかに年季の入っている荘厳さがあった。


 僕なんかではその門に近づくのでさえ烏滸(おこ)がましいと思ってしまう。


「さて、チャイムかなんかはないのかな?


 さすが先生。この威圧的とさえ感じてしまう門のオーラに全く怯むことがない。そして、この見た目の門でチャイムがついているイメージなどは僕にはないのだが。


 もちろん僕のイメージ通り、門にはチャイムの類はなかった。しかし、先生は門の右上の方にこちらを監視しているカメラを発見する。


「おーい。」


 先生はそのカメラに向かって大きく手を振る。


「うーん。あのカメラは音声まで拾うタイプかな?とりあえず大声を出してみるべきか。」


 なんの反応もないため、今度は両手を口に当てながら大声を出す。


「おーい!」


 普通であれば近所迷惑になるのであろうが、この門から始まる塀は、周囲を大きく取り囲んでおり、ここら辺一体が全て綺羅星家の土地であることを主張している。そのため、周りに一般住宅らしい家は全くない。


 大声を出してもこれといった反応が得られなかったことで、先生は腕を組んで考えるポーズをとる。


「さて、どうしたものか。」


「何か算段があってここにきたのでは?」


「いや。とりあえず来てみただけだよ。なんとかなるかなと思ったんだが、いやはや流石に名家。どうしたものかね。」


 まあ、普通に考えれば、こんな名家にアポもなしに突撃して入れるわけがないのだが。何か算段があったわけではないのかと、僕は逆にあっけに取られる。


 ギギィ


 鈍い音がしたと思ったら、大きな門の扉の隣にあった人が一人通れるサイズ感の小さな扉が開き、中からスーツともタキシードとも言えない制服?を着た初老の男性が出てきた。


「何用でございますか?」


 男性は僕たちを見て(いぶか)しんだ様子を見せる。


 無理もない。僕は明らかに見ただけでわかる学生だし、先生は、見た目は高校生くらいにしか見えないのである。悪戯であると捉えられてもなんの不思議もないのである。なんならこの門から出てくるのが、この男性ではなく警備員もしくは警察である可能性だってあったのだ。


「私ちゃんたちは、綺羅星月夜君の知り合いでね。こういうものだ。」


 先生は自分の名刺を出し、その男性に渡す。そして、月夜さんの連絡先や写真を見せる。


 男性は、怪しんだ表情を向けながらも名刺と写真を見て少しだけ表情を緩める。


「月夜様のお知り合いの方でしたか。失礼いたしました。私、こちらで使用人をしております、鍋島(なべしま)と申します。」


 鍋島さんは胸に手を当てながらこちらに頭を下げて礼をする。


「ですが、申し訳ありません。なんのアポもなしで来られましても応対しかねます。」


 はっきりと言われてしまった。まあ、そりゃそうだ。逆に、ホイホイ他人を入れるような家は怖すぎる。


「まあ、それもそうだよね。」


「正式な手続きを踏んでいただければ、応対いたしますので。」


「正式な手続きというと?」


「月夜様のお知り合いなのでございましたら、月夜様に()()()を書いていただくのがよろしいかと存じます。関係者の紹介状がなければ、この門から中に入れてはいけないという決まりでございますので、ご了承くださいませ。」


「なるほどね。」


 先生は顎に手を当てうんうんと頷いている。


「ところで、つかぬことを聞くけれども。当主さんはご在宅かな?」


「申し訳ありません。お答えしかねます。」


「そうか。では、また機会を伺うとしよう。」


 先生は案外すんなり引き下がった。


 まあ、ここで粘ったところで家に入れる可能性はゼロだろうし、月夜さんの知り合いを名乗っておきながら、悪印象を与えるのは得策ではないと判断したのだろう。


「では、君。帰るとしようか。またくるよ。」


 そう鍋島さんに軽く挨拶し、先生は歩き始める。僕も鍋島さんに軽く頭を下げて先生についていく。


「いいんですか?」


 僕は小声で先生に尋ねる。


「ああ、ここを訪れたのは何も家に入りたかったからというわけではないんだよ。まあ、ついでに入れたら、棚ぼたではあったんだが、そうは問屋が卸さないようだ。」


 先生はふふっと微笑を浮かべて僕の顔を見る。


 入ることが目的じゃないのなら、なんのために来たんだ?僕は理解できずに首を傾げることしかできない。


 門から十数メートル歩くと、向かいから黒いセダン車がこちらに向かってくる。


 僕は車には詳しくないので、どこの車種かはわからないが、確か海外製の高級車のロゴだった気がする。反射で見えにくいが、運転席には黒いスーツを着たサングラスの男性がいるようだ。


 この道を走っているということは、十中八九綺羅星家の関係者が乗っているのだろう。


 先生もその車が向かってくるのをじっと見ながら歩いている。


 すれ違うのが早すぎて、僕には後部座席に誰が乗っているのか見えなかったが、先生はその姿を視認したようで、


「なるほど、おそらくあれが……」


 と呟き、立ち止まってニヤリと笑う。


「誰が乗っていたんですかね?」


「私ちゃんはその人の姿を知らないから、はっきりと断言はできないが、おそらく綺羅星家の前当主、綺羅星玄空だろう。パッと見てわかるほど、張り詰めたような雰囲気を(まと)っている爺さんだった。」


「あの一瞬でよく見えましたね。」


「私ちゃんは目には自信があるからね。」


 自慢げに言いながら再び足を動かし始める。


 駅の近くまで歩くと、先生は僕に次の指示を出す。


「君はホームズ君と合流してくれ。」


「ホームズさん?ということは、綺羅星姉妹の過去について一緒に調べるということですか?」


「いや、君とホームズ君に行ってほしいところがあるんだ。」


「ん?どこですか?」



 僕が先生に聞くと、タイミングよく先生のスマホに着信が入る。


「もしもし、私ちゃんだよ。例の件はどうなった?」


 電話の向こうが誰かはわからないが、先生は会話をしながら相槌を打っている。


「そうか、流石だよ。うん、では夕方5時ごろでいかな?私ちゃんは行けないんだけど、優秀な探偵と助手が行くから話を通しておいてくれるかい?」


 優秀な探偵と助手?


 おそらく、というよりも、ほぼ確実に僕とホームズさんのことを指している。つまり電話の相手はわからないが、先生がさっき言っていた、行ってほしい場所についての打ち合わせをしているということだろう。


「ああ。ありがとう。よろしく頼む。」


 そう言って先生は電話を切る。スマホをポケットにしまい、僕の方に向き直ると、


「君たちには空色プロダクションに向かってほしい。」


「空色プロダクションですか?」


 どこかで聞いたことがあるような名前だが、どこで聞いたのかは思い出せない。


 プロダクションということは芸能関係?芸能?


「月夜君の所属している事務所さ。」


 なるほど。この前テレビでその名前を聞いたから記憶に残っていたのか。


「月夜さんに会いに行くんですか?」


「いや、今回は事務所に取材に行くんだよ。まあ、月夜君の関係者には会ってもらうけどね。」


 先生はフッと軽い笑みを浮かべている。僕は正直、先生がなんのためにそこに行ってほしいのかわからないが、事件の解決の手がかりのためには必要なことなのだろう。


「僕たちにってことは、先生は行かないんですか?」


「ああ、私ちゃんは私ちゃんで調べたいことがあるからね。取材が済んだら連絡をくれよ。」


「取材って言っても何を聞けば?」


「それはホームズ君に指示してあるから、君はしっかりと記録を取ってくるようにね。」


 それじゃと言い残し、僕に向かうべき場所を話した先生は一人で歩いてどこかへ行ってしまった。


 僕はとりあえず先生に言われた駅へ向かい、ホームズさんと合流することにした。


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