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双貌日記〜天才作家 言葉紡の記録係〜  作者: pippo
違和感

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48/58

前提

「普通こんなことだめなんだからな。」


曇利陰(くもりかげる)さんの住んでいたアパートの前で、休屋警部は先生に言う。


「それを言ったら、捜査内容を一般人に言うのもだめなんじゃないかい?」


 先生の言葉に苦い顔を浮かべる警部。今まで何度か推理への協力をしていたという貯金がここにきて大いに生きた。


 電話で警部は、


「なんで今更?あの名探偵の推理によって今回の事件は解決したじゃないか。」


 と渋っていたが、ホームズさんが自分の推理は間違っているかもしれないという言葉で少し聞く耳を持ってくれた。


 それでも、陰さんの部屋を見せてくれという先生の提案は、流石に無理だ。と言っていたが、先生のある一言ですぐに考えを変えてくれた。


「この事件が実は解決していなかったことが世間にバレたら、君の出世街道はそこで終了だよ?」


 この言葉を聞き、少し黙ったかと思ったら、


「いつだったら予定は空いているんだ?」


 と、快く承諾してくれたのである。



 部屋に着くと、警部は事前に呼んでいたアパートの管理さんに頼んで鍵を開けてもらう。そして、僕たちは部屋の中へと足を踏み入れる。


 部屋はワンルームで八畳ほどの広さだった。部屋の奥には昇降機付きのデスクとパソコン。そして、反対側にはクローゼット。僕の身長よりも大きな棚が壁際に何個か並んでいる。その棚には、本やアニメのDVD BOXがぎちぎちに詰まっているところとアニメのキャラクターだろうか、可愛らしい女の子のフィギュアがケースに入れられ飾られているところがある。一人暮らしの男性にしては大きなテレビが置かれたテレビラックもある。


「休屋君は、この部屋には来たことが無いのかい?」


 先生は休屋警部へ質問する。


「ああ。事件後、一応裏取り捜査をしようとしていたんだが、上からその必要はないと言われてな。なんならやるなとまで言われたからな。」


「やはり。」


 警部の言葉にホームズさんは頷く。


「それで一切の捜査はしなかったと。」


「警察ってのは組織だからな。組織である以上、上からの命令は絶対なんだよ。」


「ではこれもまずいのでは?」


「まあ、言ってしまえばそうなんだが。先生には世話になっているってのもあるし、もしかしたら間違っているなんて言われたら仕方がないだろう。警察官として冤罪は見逃せないからな。」


 僕を冤罪で捕まえようとした警部の台詞である。


 まあ、あれから心を入れ替えたということなんだろう。いや、そういうことにしておこう。


「さて」


 ホームズさんはポケットから虫眼鏡と懐中電灯を出し、部屋の物色を開始する。


「ある程度のものは触ったり移動したりしても大丈夫かい?」


「ああ、大丈夫だ。実は、陰には親類がいないらしくてな。遺体の引き取り手はもちろん、この部屋の処理にも困っているそうだ。どうせこの後、行政の手が入るんだから、その前にある程度何しても問題はないだろう。もちろん常識の範囲内でではあるが。」


「それはもちろんだとも。」


 先生とホームズさんは二人でクローゼットの中を開けたり、テレビラックの引き出しを開けたりして中身を確認している。


「おや?」


 テレビを調べていたホームズさんが何かを発見したようでつぶやく。


「どうしましたか?」


 カメラを持ちながら僕が近づき、ホームズさんに質問する。


「これを見てみてくれ。」


 ホームズさんはテレビの背面を指差している。僕の後ろから警部と先生もテレビの裏を覗き見る。


「なるほど。」


 先生も何かに気が付いたようだ。


「何がだ?」


 警部は僕と同じく何もわからないようだ。


「このテレビは通常のテレビを違うところがある。というより、このテレビは通常の使われ方をしていないというのが正しいだろうか。」


「通常の使われ方ってなんですか?」


「ワトソン君はテレビはどう使うかな?」


「え、テレビ?まあ、普通にテレビを観たり、レコーダーがあるならそれを使って録画したり、DVDを見たりですかね。」


「うむ。そうだね。テレビを観るという表現はいささか正確ではないが、その通りだろう。テレビを観る。つまり、地上デジタル放送、または衛星放送を観るということでいいかな?」


「そ、そうですね。」


「よく見てくれ。通常テレビで地上デジタルや衛星放送を見るためには、テレビ線を繋いで、B -CASカードを挿入しなければならない。しかし、このテレビにはテレビ線がつながっていない。HDMIの挿入口は二つあるが、一つはBlu-rayレコーダー、もう一つはHDMIに差し込んで使うタイプのストーリミングメディアプレーヤーだ。これでは地上デジタル放送は見ることができない。」


「この棚にあるたくさんのDVDを見るためのテレビなんだろうね。近年若者テレビ離れは拡大していると言われているが、陰君もその一人なんだろうね。」


 なるほど。確かに言われてみればテレビ線がついていない。


 僕の部屋にも一応テレビを置いているが、何より大変だったのはこの配線を整理することだった。初めての一人暮らしにおける最初の試練とも言えるかもしれない。そうやって苦労して配線を整えた割には、僕もあまりテレビは見ていない。


 と言っている先生だって、テレビはほとんど見ないから綺羅星兄妹のことを知らなかったのに。


「つまり、陰はテレビ番組をほとんど見ることのない生活をしていたということだな。」


 休屋警部が腕を組みながら状況をまとめる。


「そういうことだね。それに私ちゃんがざっとクローゼットを見たところ、やはりというか、綺羅星月夜関連のものは何もなく、アニメやゲームの空き箱やグッズが詰められているだけだった。」


「ということは。」


 僕は先生に続きを促す。


「そうだね。ホームズ君の推測通り、曇利陰は月夜君のストーカーではなかったと結論づけてもいいだろう。」


 先生の言葉によって、場には沈黙が広がる。



「じゃあ、どういうわけなんだ?陰がストーカーでなかったのなら、なんで彼はあの宿にいたんだ?なんで事件に巻き込まれたんだ?そもそも今回の事件の犯人は?」


 沈黙を破ったのは休屋警部だった。頭は混乱しているようでさまざまな疑問を次々に並べ立てる。


「それを今から再捜査するんだよ。」


 先生は休屋警部の言葉に対してニヤリと笑みを浮かべ、頷く。


「再捜査か。ここまで推理の前提が崩れることがあったんだ。上も了承するだろう。」


「いや、とりあえずは、それはやめておいた方がいい。」


 先生の言葉に休屋警部は首を傾げる。


「止められる可能性が高いということですね。」


「ああ、その通りだ。そもそも、警察の上層部はこの事実を隠すために事後捜査を禁じた可能性すらある。この部屋に訪れて捜査したことがバレれば、休屋君に何かしらの圧がかけられる可能性もある。報告するなら覆せないほどの真相が判明した後だ。」


「そこまでか……」


 休屋警部は少し驚いたような表情を見せる。


「綺羅星家の力はそこまでということだよ。何かしらの理由があって、今回の真相を知られるわけにはいかないんだろう。私ちゃんたちが知らない何かしらの理由が。」


 僕は先生の言葉を聞き、思わずごくりと喉を鳴らす。


「では、どうするんだ?」


「そうだね、ホームズ君は何か思うところはあるかい?」


「そうですね。一度推理を間違えたこのへっぽこ探偵にもう一度チャンスがいただけるのであれば今度は完璧な推理を、真相を解き明かしますとも。私は、まずは綺羅星姉妹の生い立ちやミス月夜がモデル活動を始めたきっかけなどを詳しく知る必要があると思います。」


「確かに、私ちゃんもそう思う。そして、その過程でおそらく避けては通れないものがある。」


 先生とホームズさんは顔を見合わせて頷く。


「8年前に起きたとされる、綺羅星姉妹のご両親の事故ですね。」


「ああ、その通りだとも。私ちゃんの勝手な推測ではあるが、この8年前の事故の詳細を知ることが今回の事件の解決の手がかりになると踏んでいる。」


「8年前の事故か。」


 休屋警部は腕組みしながら難しい顔をしている。


「では、今回もチーム戦でことにあたろうか。」


 先生はパンと手を鳴らしながら、僕たちに提案する。


「まずは、ホームズ君。綺羅星姉妹のことについて調べてほしい。できれば幼少期から、月夜君の芸能活動のことまで可能な限り詳しく。大丈夫、私ちゃんも協力できることがある。」


 先生の言葉にホームズさんは笑みを浮かべながら頷く。


「そして休屋君。君は8年前の事故の調査をお願いしたい。これは警察官である君にしか頼めない。だが、気をつけてくれ。決して君の上司たちには悟られてはいけない。」


「わかった。」


 休屋警部は真剣な表情で先生の言葉に頷く。


「そして、私ちゃんたちは突撃取材だ。」


 僕は先生の言葉に首を傾げる。他の二人のように力強く頷くことができなかった。ここはみんな揃ってカッコよく決めたかったのに。


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