旅の終わり
次の日、旅館を出発する前に、最後にもう一度あの桜を見ておこうと先生が言ったので、僕たちは二人で庭へと出る。
すでに休屋警部やたくさんいた警察官は昨夜のうちに全員撤収しており、ホームズさんも帰宅。宿に残されたのは、桜花さんたち従業員と僕たちだけである。
あんなことがあったばかりではあるが、桜の下旅館は少しの休館を挟んで、通常通り営業をするらしい。今回の事件は、大々的に報道されることはないだろうからおそらく旅館に被害は少ないだろうという、先生と休屋警部の推測によるものである。
僕たちは丘を登り、桜の樹の根元あたりまで歩く。一昨日はそこに陰さんの遺体があった場所であるが、すでにその面影は消えており、あの光景を見た僕たちでなければ、そこに遺体があったなんてわからない。
強いていうなら、よく観察すればその辺りの地面が掘り返されたような跡があるということだけだろうが、それは知っているからこそ分かることなのだろう。
僕たちは二人して顔をあげ、桜の樹を見つめる。
たった三日ほどしか経っていないはずなのに桜の木は徐々にその花びらを散らせ、最初に見た時よりもサクラとしての密度がないように見える。そのおかげか、濃すぎるほどに赤かった色も少し落ち着いているように感じる。
「桜の樹の下には何が埋まっているのか。今回は本当に死体が埋まっていたというわけか。」
先生は桜を見ながら呟く。
「この散りゆく桜を見ていると、桜に対する悲壮感や無常感というのがわかる気がします。そして、だからこその美しさも。」
「ああ、そうだね。」
先生と共に桜の木を見る。なんともいえない焦燥感と無常感に包まれながら風に舞う花びらを見る。
「さて、行くとしようか。」
先生はそう言い、回れ右をすると庭の出入り口に向かって歩き始める。僕も置いていかれないようについていく。旅の終わりに欠かせない、たくさんの先生の荷物を両手いっぱいに抱えながら。




