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双貌日記〜天才作家 言葉紡の記録係〜  作者: pippo
10 名探偵ホームズ

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解決?

 月夜さんはそこまで話すと再び口を閉ざす。頬には涙が流れている。それは止まることなく一筋の流れをつくり月夜さんの頬を伝っている。


 昨日から、我慢し続けていたんだろう。よく思い出すと、月夜さんは、昨日は驚くばかりで涙を流していなかった。自分でやったことだから昨日の発見時は涙を流さなかった。隠さなければならない事実があったから。


 だが、それが明るみに出て隠す必要がなくなると、感情が抑えられなくなり、とうとう涙を流してしまったのだろう。虹日さんとの今までの記憶を思い出しながら。なんて勝手に理由付けしてみても仕方がないが、その涙には色々な感情が含まれているのではないかと思った。


「ミス月夜のストーカーであったミスター陰は、二人の留守の間に手紙を部屋に置いた。内容は今となってはわからないが、ミス虹日は君に危険が及ぶことを危惧(きぐ)して、一人で会いに行った。そこで口論の末、ミスター陰を刺してしまった。きっとミス虹日も最初は色々考えたのだろうが、隠すのは無理だと判断した。流石の綺羅星家とはいえども、一般の施設で発生した殺人までは隠蔽(いんぺい)できないだろう。私たちのような一般人もいるしね。おそらくだが、最初は素直に自首をしようと思っていたんじゃないかな?しかし、そこで一つ問題が出てくる。」


「なるほどね。警察に捕まると、自分が女性であるということが明るみに出てしまうということか。」


「ミス紡。その通り。かといって逃げるのも無理。追い詰められたミス虹日が考えついたのが、自分が殺害されたように見せかけることと、それに伴って自分の体を隠すことだった。」


「お兄様は、自分が女性であるということが分家の人にバレると、自分だけではなく私にも色々な影響が出ることを危惧していました。父の提案だったとはいえ、家の決まりを犯すようなことをした私たちの家系は、次の当主にどのように扱われるかわかりません。それはこれから俳優業に挑戦する私にも大きな影響があると考えたのです。夕食の時のメール、実はあの後には続きがありました。部屋にいるように言われた私は、指示に従い部屋にいました。すると、お兄様から電話がきたのです。誰にも見られないようにして庭の丘まで来てくれないかと。私は何が何だかわかりませんでしたが、お兄様の口調はいつものようなものではなかったので、何かあったのかと急いで向かいました。そして着くと、陰さんの死体があったのです。そしてその隣には土を掘った穴が。私は最初、その穴に陰さんを埋めるのだと思いました。しかし、お兄様の考えは違いました。私のために自ら命を絶ち、その後の処理を私に頼んだのです。私は反対しました。最愛の兄の首を切るなんて私にはできないと言いました。ですが、これは君のためなんだから頼むと。兄の最後のお願いを聞いてほしいと懇願され、私は了承しました。首を発見しやすいように置いておいたのは、お兄様が死んだと言う事実をみなさんが知るためです。お兄様がただの行方不明の状態では、きっとおじいさまは私を虹日として扱い、入れ替わりさえ辞さないだろうとお兄様は言っていました。それに、綺羅星家の当主が死んだとなれば、それを知ったおじいさまが必ず動いてくださる。そしたら、おじいさまの息のかかった方が来るというお兄様の予想のためです。昨日の時点では、休屋警部がお兄様の計画通りに推理してくださいましたが。ホームズさんたちには難しかったようですね。所詮はその場の思いつきということでしょうか。」


「そうして君は、ミス虹日の体を処理した後に、ミス紡の部屋にきたというわけだね。ミス虹日がまだ見つかっていないということにして。」


「そうです。結局私は自分が()()()()()だけなんです。お兄様は私の未来ために自分の命を絶つ判断をしました。私は止められたはずでした。ですが、その後のことが怖かった。それからの人生が綺羅星家によって左右されるのが怖かったんです。その結果、最愛のお兄様を捨ててまで自分を優先してしまった。」


 後悔はあるだろう。だが虹日さんの最後の願いとそれを覆せないほどの綺羅星家に対する恐れが月夜さんの判断を鈍らせたのだろう。月夜さんは涙を流しながらその場に座り込む。



「名家の呪いか。運命を決められていたはずの虹日君が最後は自由に選択し、自由に生きられたはずの月夜君が最後は選ぶことができずにこうなってしまったのか。皮肉なものだ。」


 先生は隣で呟く。


「月夜さん。よろしいですか。さらに詳しい話は署で聞かせていただきます。」


 休屋警部は部下の刑事さんに指示して月夜さんを連れていく。そして、僕たちはホームズさんの方へと歩みよる。


「いや、見事な推理だったね。まさか虹日君が女だとは。」


「最初に疑問を持ったのは、やはりミスター陰が自殺でないかもしれないと思った時です。きっかけはワトソン君でしたが。」


「僕ですか?」


「君が書いていたノートを見た時に、ミスター陰の遺書のことを思い出した。ミスター陰が自殺ではないとすると、犯人は自ずとミス虹日ということになるからね。それで、ミス虹日の筆跡との鑑定を頼んだんだ。そして、ミス虹日が殺したとなると今度は誰がミス虹日をということになる。その時に鍵となったのはやはり体が埋められていたこと。ワトソン君が体を隠したかったのではなく、体を隠すことで何かを隠したかったんじゃないかと言っただろう。体から得られる情報は多いが、その中の一つの可能性としてもしかしたら性別が違うんじゃないかと思い至ったというわけさ。そう考えると色々な辻褄が合った。そして体を発見した時に真っ先に性別を確認し、確信に至ったのさ。」


「なるほどね、君。やるじゃないか。」


 先生は僕の脇腹に肘を当てながら言ってくる。僕は思わず変な声を出す。脇腹はやめてほしい、弱いのだ。


「失礼。」


 僕たちに話しかけてきたのは、休屋警部だった。


「いや、見事な推理でした。まさかあのような真相が隠されていたとは。」


 休屋警部はホームズさんに敬意を払いお辞儀している。


「月夜君はどうなるんだい?」


「そうですね。彼女を逮捕するとなっても、彼女のやったことは死体遺棄と死体損壊ですからね。それに事情を鑑みて、送検は見送られるかもしれません。まあ、その前に()()()()()がかかって釈放される可能性はありますが。正直個人的な見解としては、彼女は被害者の一人だと思いますね。元々の原因はどうしようもなく陰のストーカー行為です。それがこのような悲劇を生んでしまったのは間違いがない。それを加味するべきでしょうな。」


 休屋警部は先生の質問に答える。そして、僕たちに軽くお礼を言いながら大広間を去っていった。桜花さんもいつの間にか部屋からいなくなっていた。おそらく警察の人たちの後始末や諸々を手伝っているのだろう。


「さて、どうするかね。」


 先生は時計を見ながら話す。時計は午後二時ごろを示している。意外と時間は経っていたらしい。とはいえ、まだ昼である。


「でも流石に蕎麦を食べに行く気分じゃないですよね。」


「うーん。そうだね。蕎麦は残念だが、明日帰る前に行くとしようか。」


 行くことは行くのかと心の中で突っ込みながらも了承する。ホームズさんもその様子を見て笑っている。ホームズさんの自身初めての殺人事件はこうして幕を閉じたようだ。


「ホームズ君はいつ帰るんだい?」


「じつは、私はこの宿は今日までだったんですよ。チェックアウトの時間を最大まで伸ばしてもらっていたんです。なので、この後支度を整えて帰ります。」


「そうだったのかい。それは残念だ。」


「お二人と過ごせた時間はとても有意義でした。色々なことがありましたが、探偵として一つステップを歩めたような気がします。またお会いしましょう。」


「ああ、私ちゃんの家はいつでもきてくれて構わない。また会おうじゃないか。」


 先生とホームズさんは出会った時と同じように握手を交わす。そして僕もホームズさんと握手をしようと右手を出す。しかし、ホームズさんは僕には握手はしてくれなかった。代わりに熱く抱擁された。男同士で、しかもいい大人が抱擁というのに少し戸惑いつつも笑っている先生を見て僕も笑ってしまう。


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