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双貌日記〜天才作家 言葉紡の記録係〜  作者: pippo
10 名探偵ホームズ

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違和感

 チュンチュン


 窓から聞こえる雀の鳴き声で朝が来たことを悟る。


 あまり寝られなかった。頑張って目を閉じてもどうしても生首の虹日さんを思い出してしまう。それは恐怖とは少し違う感情だろう。あの虹日さんの生首には恐怖はあまり感じなかった。と言うより、美しいとさえ思ってしまった。そんな自分が嫌だった。


 昼間は一緒に過ごしていた人が急に死に、悲しさや恐怖よりもそんな感情が出てきてしまったことが。それをどうにか月夜さんには悟られないように振る舞ったつもりだ。


「先生。」


 僕は隣で寝ている先生を起こす。先生はぐっすり寝ているようだ。この人は相変わらずだなと思いながら、今はそんな先生が羨ましいと思ってしまう。


「ん、もう朝か。」


 寝ぼけ(まなこ)で起き上がり目を擦っている。


「今は七時ですね。外はすっかり明るいですよ。ホームズさんもそろそろいらっしゃるかもしれませんし、起きましょう。」


 ああ、わかったと言いながら立ち上がり、トボトボと洗面台まで歩いていった。さて、虹日さんの体は見つかったのだろうか?そんなことを考えながら僕も洗面台に行き歯を磨く。


「寝られなかったようだね。」


 先生が僕の顔を見ながら言ってくる。鏡を見ても僕の顔にはクマなんて無い。それでも先生にはお見通しなのか。


「どうしても、いろいろなことを考えてしまって。」


「無理もない。若い君には少し刺激が強すぎるだろう。」


「先生は平気なんですか?」


「平気ということはないさ。だけど、まだ事件は解決していないからね。まずは真相を解明することだ。」


 先生は顔を洗いながら鏡越しに僕の顔を見る。いつになく真剣な表情をしている。やはり先生も思うところはあるんだろう。それでも、僕のようにウジウジしているわけではなく、事件を解決すること、それが虹日さんへの手向けになると信じているのだろう。


 客間に戻ると、タイミングを測っていたかのようにドアをノックする音が聞こえる。僕がドアを開けると、そこには朝からしっかりと正装をしているホームズさんの姿があった。


「おはよう、ワトソン君。」


 そしてその後ろには3人の刑事さんがいた。


「実はまだミスター虹日の体が見つかっていないそうでね。一応客室も全て確認しているということだ。私の部屋もその確認が終わって、一緒に来たのさ。」


 刑事さんはペコリと礼をする。そのまま僕たちの部屋に入って中を確認する。ホームズさんは客間にいた先生に軽く挨拶しながら座った。僕は一応刑事さんの後をついていきながら確認の立ち会いをする。


 数分してあらかた捜索し終わると「ご協力ありがとうございました」と言って刑事さんたちは部屋を立ち去っていった。僕は刑事さんを見送り、お茶でも用意するかとポッドから急須にお湯を入れて3人分のお茶を用意し、先生の隣に座った。


「まだ見つからないようだね。」


「そうですね。夜が明けたので探しやすくはなっているので時間の問題だとは思いますが。」


 お茶を啜りながら先生とホームズさんが会話をする。


「さて、昨日の休屋君の推理。改めてどう思う?」


「やはり、疑問点は多いように感じました。一見すると筋は通っているように思えますが、やはりミスター虹日の首を切断したことの理由が薄いなと。」


「やはりそこだね。それと自殺の方法か。動揺していたとする休屋君の主張は、首を切断するという行動と矛盾しているように感じる。」


「それに、わざわざ生きていると思わせるためにミス月夜にメールを返していますしね。」


「あのときすでに虹日君が死んでいたとするならば、確かにそれも不自然だね。」


「生きていたように偽装するのは不自然なんですか?」


 僕は思わず質問する。


「私ちゃんが犯人ならあの場面では返信しないだろう。なぜならそのメールが命取りになってしまう可能性があるからさ。」


「命取り?」


「文章というものには、どうしてもその人の(くせ)が反映される。例えば一人称や、接続詞、改行の仕方や文の長さ。これらは意識していなくてもある程度の特徴を帯びるものなんだ。小説家にしてもそうさ。この表現をよく使う人だとか、この技法をよく使う人っていうのは、その作者の作品を多く読んでいる人にはすぐにわかってしまうものだ。」


 確かに、身に覚えはある。僕もよく本は読むが、この作者のこの言い回しが好きだなとか、この表現の仕方が好きだなとなってその人の作品を多く読むということはザラにある。それに口癖やなんかは意識していないで出るから口癖なのである。


「そういったものは普段から多くの会話をしている人にはすぐに違和感としてわかってしまうものさ。特に双子の兄妹なんかにはね。」


 そうか。あのメールの送信先は妹であり、常日頃から共に過ごしていた月夜さんなのだ。虹日さんの癖やなんかは知り尽くしているに違いがない。そんな相手にわざわざリスクを冒してまで返信する必要はないということか。


 それに状況的に陰さんが虹日さんの癖を模倣してメールする冷静さを有していたとは考えにくいし、それができるなら自殺の方法も冷静に判断できたのではないかということを言いたいのだ。


「普段であればそこまで意識してメールの文面を見ることはないかもしれない。しかし、昨日あのメールを受け取った時の状況は普通ではなかった。返信がない行方がわからない虹日さんからのメール。月夜君は普段よりも注意深くメールを見たはずだ。その月夜君を騙そうとするのは、リスクが大きすぎる。」


 文章で表現する職業である先生ならではの考え方である。先生の言葉にホームズさんも頷くことで同意している。


「では、あの時点では虹日さんは生きていたと?」


「その可能性は高いと思う。」


「ですが、その時刻に生きていたからといって、休屋警部の推理がダメになることはないんじゃないですか?あのメールが来たのが、大体六時半ごろとすると、僕たちが遺体を発見した九時半までは三時間あります。それだけあれば、休屋警部の言っていた犯行は可能なのでは?」


「時間的には可能だろうね。」


 今度はホームズさんが答える。時間的には?ということは他の原因で不可能ということなのか?


「それ以外の要因で不可能なんですか?」


「いや、不可能というよりも不自然だと言わせてもらおうかな。」


「不自然?」


「ああ、ワトソン君考えてみたまえ。さっきのミス紡のはないを踏まえるとメールの時点、六時半ごろには虹日君は生きていた可能性が高い。つまりレストレイド警部の推理を元にすると、当然ミスター陰も生きていたことになる。だが、ミスター虹日は三時過ぎには姿を消していたんだよ?つまりその時刻から二人は顔を合わせていた可能性が高い。なのに、三時間もの間何も起きず、ましてやメールを返す余裕すらあり、その後に状況が一変し、ミスター虹日が殺された?あまりに不自然だ。それにメールの文言では、用事は済んだというような趣旨のものがあったね。では、二人の話し合いが無事に終了し、その後もう一回話し合いをすることになった時に事件が起きた?それもおかしいだろう。」


 なるほど。そう言われると、夕食が始まるまでの三時間に何も起きないのは不自然に感じる。


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