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双貌日記〜天才作家 言葉紡の記録係〜  作者: pippo
9 事情聴取

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事情聴取4

「失礼します。」


 話をしていると、部屋に菖蒲さんたちが入ってきた。菖蒲さんを先頭にして杜若さんと桔梗さんである。休屋警部はすぐに振り返って3人の方を向くと、座ってくださいと促す。


そのまま3人の聴取が始まった。菖蒲さんは夕方は客室の洗濯物などを片付けたりしていたようで、杜若さんと桔梗さんは調理場で夕食の準備をしていたようである。


「では、菖蒲さんも客室の仕事が終わってからは、夕食の準備をしていたと?」


「はい、料理は下二人の方が得意ですので、私は参加しませんが大広間の準備は私がしております。」


「それは何時ごろですか?」


「いつも五時ごろから準備しております。すぐに杜若も大広間に来るので。」


 そう言って菖蒲さんは杜若さんの方を見る。杜若さんは頷いている。


「毎日同じ時間に同じ仕事をしているんです。それが一番効率的に仕事をすることができるので。」


 杜若さんが休屋警部に話す。


「なるほど。桔梗さんはその間もずっと調理場に?」


「私にとっては、調理場が住処のようなものですので。一日中、ほとんどの時間は調理場におります。調理場にはカメラもあるので後で確認していただければわかります。」


 桔梗さんは淡々と答えている。


「夕食後は、大広間の片付けをされていたんですよね?」


「はい、私と杜若が大広間の片付けを。その後は私が調理場に行って、洗い物を手伝っていました。」


「大広間にもカメラはあるので、確認ください。」


「ありがとうございます。では次に、3人の中で、夕方以降に虹日さんの姿を確認した方はいらっしゃいますか?」


 菖蒲さんは両脇の二人の顔を見るが二人とも顔を振っている。


「いいえ、私どもは誰も見ていません。最後に見たのは、昼前の廊下でしょうか?どこかへお出かけすると言って月夜さんとおりましたが。」


 それは僕たちと出店通りに行った時だろう。あれ以降は虹日さんの姿を確認していないというわけか。


「ではもう一人、陰さんについて。3人は彼とお話しされましたか?」


「大した話はしておりません。私は一昨日の夕食の時に軽い接客などはしましたが、それ以外は特に。」


 今度は杜若さんが答える。桔梗さんはそもそもあっていないそうで、客室担当であるはずの菖蒲さんも事務的な会話のみで特に何かを話したと言うことはないそうだ。


「杜若君は、庭も担当しているんだよね?」


 先生が杜若さんに質問を投げかける。


「はい、そうでございます。」


「庭はいつもどの時間帯に整備しているんだい?」


「庭の整備は朝早くからの時間帯にしております。日中から夜にかけてはお客様の時間帯ということで、特別何かがない限りは庭の整備は致しません。」


「なるほどね。その話は誰かにしたかい?」


「え、えーと。そういえば、今日朝早くに虹日さんが庭に来たんです。私は掃除や点検をしていたのですが、その時に少しお話をしました。」


「ほう、虹日君がね。」


 先生は何かを考えているようだ。神妙な顔つきになる。すると今度はホームズさんが質問する。


「庭にある蔵。あれは普段から鍵のようなものはかかっていないのかな?」


「はい、古いタイプの蔵でして。鍵はかけておりません。中には庭を掃除するための道具などしか入っておりませんし。」


「中に電気もないもんね。」


「それも早朝に整備している理由の一つです。夜になると暗くて中が見えませんし、日中は熱がこもってしまうので。」


 それは蔵として欠陥なのではないだろうか。


 日中熱がこもってしまうなら中のものの状態が大きく影響されてしまう。蔵なんてのは昔は重要なものの保管であったりだとか、食糧、酒などの保管に使っていたそうだが、あれは違うのか?それとも古くなってその機能を失ったのか?


「なるほどね。ありがとう、ミス杜若。」


 ホームズさんは満足したようで、自分の手帳にサラサラとメモをしてそれをしまった。


「後はよろしいですか?」


 休屋警部は僕たちに聞いてくるが、先生もホームズさんも質問はないようだ。休屋警部は3人にお礼を言いながら立ち上がり、大広間へと3人を誘導しながら、最後の証人である桜花さんを呼びに行ったのだろう。僕は隣で悩んでいるような表情を浮かべる先生に質問してみる。


「どうしたんですか?」


「いやね、陰君の状態を見ると、彼があそこで死んだのは間違いがなさそうなんだが、それがどうも気になってね。」


「どういうことですか?」


「その庭はこの宿のものだから宿泊客と従業員しか普段は出入りしない。とはいえ、来る可能性もあるんだ。なのに、あそこが現場になっていて誰もあそこに行っていない。まあ、人数が少ないから偶然ということもあるだろうが。」


「確かに、誰かに見られるというリスクはあるということですね。」


「客の行動は読めないだろうしね。読めるとしたら従業員くらいだ。だから私ちゃんは、さっき杜若君にあの質問をしたんだ。予想通り杜若君は毎日決まった時間に行動していた。あの情報を知っていれば、庭で何かをするというのも可能になる。でもね。その情報を知っていたのが虹日君だったというのは予想外だ。うーん。」


「あまり関係ないのでは?たまたま、偶然だったという可能性もありますし。」


「うーん。」


 先生は納得ができないようで首を傾げている。



「さあ、ここにお座りください。」


 休屋警部が桜花さんを連れて部屋に入ってくる。そしてすぐに桜花さんへの質問を始める。桜花さんは普段から事務室にいるそうで、今日も事務仕事のためにずっといたそうだ。


「虹日さんがどこに出かけるかとかは聞きませんでしたか?」


「どこに出かける?みなさんとで店通りに行かれたんじゃないんですか?」


「いえ、それから帰ってきた後です。みなさんと共に帰ってきた後、一人でどこかに出かけられたのでしょう?」


「いいえ?あの後は誰もこの宿を出て行っておりませんよ?」


 桜花さんのその言葉に大きく驚く。


 なんだって?誰もこの宿を出ていない?


「それは確かですか?」


「はい、事務室は玄関の隣ですので出ていく方はすぐにわかります。それに門のところにはセンサーがありますからここに来る方もすぐにわかるんですよ。」


 なるほど、昨日も今日も僕たちが玄関に着いた瞬間に桜花さんがお出迎えしてくれたのは、そのセンサーで来ることがわかっていたからか。


「まあ、予想はしていたが。これではっきりしたことがある。」


 先生が僕たちに話す。


「というと?」


 休屋警部が先生に聞き返す。


「虹日君がこの宿を出ていないのに用事があると言って部屋を出たんだ。つまりその時の用事であっていた人物は一人に絞られるだろう?」


 今まで話を聞いた人は一人として虹日さんにあっていない。つまり、残された選択肢は一つ・・・。


「陰さんですか。」


「ああ、何の用事だったのかまだわからないが、あの二人が会っていたのは、ほぼ確実だろう。そしてその二人が二人とも死んでいる。」


 先生の言葉でその場に沈黙が流れる。ホームズさんの表情は何かに気がついていそうな雰囲気ではあるが、まだ何も口にはしない。仮説の段階では何も言わないのだろうか、本物のホームズのように。すると、一人の警察官が部屋をノックして入ってくる。


「失礼します。」


 その警官は休屋警部のところに歩み寄り何か耳打ちしている。その警官の言葉を聞いた休屋警部は、そうかと呟き僕たちの方を見る。


「今回の事件、もう解決するかもしれません。」


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