事情聴取1
「では、お二人が最後に虹日さんを見たのは、午後三時ごろにこの宿に帰ってきた時なのですね?」
小さな手帳にメモをとりながら休屋警部が僕たちに質問する。
「正しくは二人ではなく、助手君が、だけどね。私ちゃんは今日は部屋にこもっていたから本人の姿は一回も見ていない。」
先生の言葉に僕は同意することで休屋警部に主張する。警部も、なるほどと言いながらペンを走らせている。
「その後、夕食を食べ終わって部屋にいたところ月夜さんが部屋に訪ねてきて、一緒に虹日さんを捜索しに行ったと。」
「そうだね。ホームズ君と私ちゃんたちの3人で部屋にいたところに月夜君がきたのさ。」
「夕食の時には虹日さんの姿はすでになかったんですよね?」
「ああ、でも食べている途中で虹日君からのメールが月夜君に届いたんだ。今から帰るとね。それに何か用事があって出掛けていったというような話を聞いたからね。少し気にはなったがそこまで深くは聞かなかったよ。」
「そして、九時半ごろに遺体を見つけたと。」
「私ちゃんたちが最初に発見したのは、虹日君ではなく陰君の方だがね。庭を捜索していて丘の上の桜の樹の根元に何か影が見えたから行ってみたらそこに遺体があったというわけさ。」
「お二人は陰さんの方とはお知り合いではないんですよね?」
「ああ、昨日からずっと部屋にこもっていたらしく、一回も会っていないね。」
「わかりました。今日の三時過ぎからはお二人はずっと一緒でしたか?」
僕と先生は顔を見合わせながら考える。
「そうですね。僕がお風呂に入っている間も先生は部屋から出ていないと思うので、一緒にいました。」
「それは夕食後も?」
「はい、夕食後も部屋にいましたし、捜索するときも一緒に行動していました。」
「まあ、お二人であればそうなのでしょうな。」
休屋警部は笑顔を見せながら頷いている。一応のアリバイ確認というやつなのだろう。そして、急に砕けた言葉になる。
「いやー、それにしても不可解な事件だ。生首というだけでも不思議なのに、それがあの綺羅星家の当主というんだから。全く、勘弁してほしいな。」
「いやいや、休屋君。この事件の真相を解明すれば大手柄でまた出世に一歩近づくんじゃないかい?」
「そうかな?はっはっは。では、なんとしてでも解決しなければ。」
休屋警部は自信満々な様子だ。この人、ときどき先生を頼っているんだよな?なんでこんなに自信があるんだ?僕には理解できない自信家の表情がそこにはあった。
「それで、二つの遺体の死亡推定時刻はわかったのかい?」
「虹日さんの方は首だけだから、何とも言えんな。だが先ほどの話を聞くと夕食時の午後六時から午後九時の間に死亡したのではないかと。陰さんの方も死後硬直の初期症状が始まってはいるが、なにぶん春先の外ということで範囲が広く、午後四時ごろから八時ごろに死んだんじゃないかと言っていた。」
「なるほどね。死因については?」
「虹日さんについては、まだなんとも言えないが。陰さんの方なら、おそらく死因は腹部の刺し傷からの出血死だろう。何せあの量の出血量だ。ありゃ死んじまうわな。」
「君は今回の事件についてどう思っているんだい?」
「難しいな。虹日さんの方は何者かの関与があることは確実だろうが・・・。この二つの遺体が同じ事件としてのつながりを持つのかどうかすらまだわからないな。」
「うむ、冷静な分析だね。みんなから話を聞きつつ、陰君が何者なのかがわからない限り結論を出すことはできないだろうね。」
3人の間にわずかな沈黙が流れる。
「まあ、二人は事件の関係者とはいえ、死亡推定時刻のアリバイがあるからな。犯人ではないだろう。」
「それはもちろんだ。」
「では、よろしい。次の人の話を聞くか。」
一旦手帳を閉じて立ちあがろうとする休屋警部に先生は続けて話す。
「私ちゃんたちも事情聴取に立ち会っていいかい?」
「ん?うーん。」
休屋警部は悩んでいるような表情を浮かべている。そりゃそうだ。顔馴染みとはいえ僕たちは一般人だし、事件の関係者だし。
「まあ、いいか。」
いいんかい!心の中で盛大に突っ込む。
「その代わり、」
邪魔しないでとでもいうのだろうか、それはまあ、当然であろう。
「君たちも捜査に協力してくれよ?」
そっちか。何か意見があったら休屋警部に言うようにということだろう。自信家のくせになかなかに抜け目のない男である。そう言いながら休屋警部は部屋を出て大広間にいる次に事情聴取する人物を呼びに行った。




