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双貌日記〜天才作家 言葉紡の記録係〜  作者: pippo
7 日は沈み、月は夜を照らす

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29/58

月が照らすは

「では一旦、東屋(あずまや)の方へと向かおうか。」


 僕たちの中で余計な言葉を発するものなどいなかった。皆の心の中に僕が感じているような不安な、不吉な予感というものが確かにあったのだろう。それを言葉に出してしまえば、そのことが現実で起きてしまうのではないかという恐怖があるのだ。


 日本には昔から言霊(ことだま)という概念がある。言葉には魂が宿っているという思想だ。そう、言葉には目には見えない不思議な力がある。だからこそ、詩や歌や物語が人々の心を動かし、また、言葉によって人々はさまざまな感情になるのだ。人々の生活の根幹には言葉というものがあるのである。不吉な言葉には不吉な力が宿る。


 みんながそんな事を考えていたのかはわからないが、誰一人として、楽観的なことも不吉なことも声に出すことはなかった。少しばかりの沈黙の行軍である。


 東屋が近づく。東屋には夜になると人の動きを感知して光を照らす感応式のライトが光る。LEDの光はとても明るく、やや雰囲気に合っていないようにさえ感じられる。しかし、東家が近づいても、東屋には影が落ちているだけである。


「どうやら東屋にはいないようだ。」


 近づきながら、先生が言葉を発する。確かに東屋のライトがついていないということは、そこに動くもの、センサーが反応する存在がいないということである。虹日さんはそこにはいないようだ。


 僕たちが東屋に着くとライトが光る。やはりそこには誰の姿もない。これで虹日さんのいるかもしれない候補地は無くなってしまった。


「さて、ここにいないということは。」


 先生が腕を組みながら言葉を濁す。先生も探す候補がなくなってしまい、今後の動きについて思案しているのだろう。


「まずは、ミス桜花のところへ行き、虹日君が帰ってきているのかを聞くのがいいんじゃないだろうか。そもそもこの宿に帰ってきていないのであれば、いくら探したって見つけることはできないと思いますよ。」


「確かにそうだね。探すべき場所が内なのか外なのか。それをはっきりさせるのは、大事なことだ。では、事務室に向かうか。」


 先生は腕組みを解き、回れ右して東屋を後にしようとする。その時、一番後ろにいた月夜さんが声を上げる。


「あの。まずはせっかく庭まで出て行きたんですし、一旦庭を探すのもいいんじゃないでしょうか?事務室までは遠いですし、仮にお兄様が帰ってきていたのだとしたら、再びここに戻ることになって、効率が悪いんじゃないでしょうか。」


「確かに、それも一理ありますね。」


「効率というのであれば、庭を探した後に結局見つからず、事務室に行ったらまだ帰ってきていないとなったら、その方が時間的損失はでかいが・・・。まあ、どちらにせよ結果論であることには変わりないか。では月夜君のいう通り、先に庭を探すとしようか。」


 僕は先生の言葉に頷く。とはいえ、庭も広い。そして、街灯という街灯はないので、暗い。幸いなことに天気予報の通り雲が晴れてきて満月が顔を出してきたので、ある程度の視覚は確保できているとはいえ、暗い中を足元に気をつけながらゆっくり探していたのでは、とても時間がかかってしまう。先生としてもそれはわかっていたのだろう。


「ここは二手に分かれて捜索するとしようか。」


 そんな提案をする。ホームズさんもそれに同意し、僕と先生、ホームズさんと月夜さんの二組に分かれて庭を探すことにした。僕たちは東家から時計回りに例の桜のある丘の方向へ、ホームズさんたちは反時計回りに出入り口から丘の方向へと歩き始める。



 僕たちはあたりを注意深く見ながらゆっくりと進む。何も見つからずに。例の桜がある丘の下に着くと、満月がより明るくなったような感覚になる。その明るさのおかげか下から桜の樹までの視界がとても良くなる。下からでもはっきりと赤い桜の樹が確認できる。


「ん?」


 先生は僕よりも視力がいいので、何かを見つけたのか声を出す。


「桜の木の根元に何か影が見えないかい?」


 先生の言葉で、僕も桜の樹の根元を見る。何か黒い影、人が座っているようにも見える影があるように見える。


「先生!」


 僕は先生を振り返りながら急いで、丘を登る。


 まさか、いやそんな!きっと違う。声に出してはいけない。


 徐々に影がクリアになりその姿をはっきりと認識できるようになる。


「!?」


 僕と先生は驚きのあまり言葉を発することもできない。


 そこにあったのは人の姿だった。俯きながらその場に座り込んでいる。そして、その腹にはナイフが刺さっており、それを自分の両の手でしっかりと握っている。地面には大量の血が流れており、周囲を赤く染めている。


 だが僕たちが驚いたのは、そこに死体があったからではない。それも驚くべきことではあるのだが、それ以上に、その死体は探している()()()()()()()ではなかった。


「この人は・・・。」


 僕がかろうじて発することができた言葉に先生が答える。


「私ちゃんたちが見たことがなくて、この庭にいるということは、もう一人の宿泊客。」


 まさか初対面がこんな形になるとは。僕は動揺しながらも先生に問う。


「死んでいますか。」


 人間まさかの状態に陥った時は言葉が出ないのだ。よくフィクションの作品では第一発見者が叫ぶことで死体を発見するということがあるが、僕らはどちらも叫び声を上げなかった。


 そして人の死体を初めて見るはずなのにどこか冷静でいられているのは、知り合いではなかったからなのだろうか。驚いてはいるものの虹日さんではなくてよかったとどこか安堵している自分がいる。


「この出血量では、もう死んでいるだろう。なぜ虹日君を探していたはずが、」



「きゃー!!」


 先生の声を遮るようにして甲高い声が庭に響き渡る。声のした方を見ると、逆回りで庭を探していたホームズさんと月夜さんが庭にある蔵の前にいるのが見える。


 僕たちはすぐに丘を走って下り、その蔵へと向かう。そこには目を見開き、驚き立ち尽くすホームズさんと何かを見て膝から崩れ落ちる月夜さんの姿がある。僕たちはあまりにも嫌な予感がしながら、蔵の中を見る。

 

蔵の扉の上にある窓から月明かりが差し込み、部屋の奥にある台の上に乗っている、あるものを照らしていた。それは月のように美しく照らされた生首。


虹日の()()であった。


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