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双貌日記〜天才作家 言葉紡の記録係〜  作者: pippo
7 日は沈み、月は夜を照らす

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28/59

帰らず

「ホームズ君が風呂に入ってこの部屋に来るまでは少し時間がある。しばし休憩するか。今日も食べ過ぎてしまったね。」


 先生は布団に横になりながら大きく息を吐いている。とはいう僕も美味しさのあまり食べ過ぎてしまったので、座椅子に座りながらお腹を休ませる(僕は食べてすぐ横になるなんてことはしない)。


「先生、食べてすぐ横になると牛になりますよ。」


「ふっ、君。人間が牛になるわけがないだろう。某アニメじゃないんだから人間が豚になったり牛になるなんてことはない。」


「例えですよ。実際食べてすぐ横になると消化のために分泌された胃液が逆流して食道炎になる危険があるそうですよ。」


「もしそうなったら君が看病してくれたまえ。」


 先生はなおも体勢を変えることなく自分がちょうどいい姿勢を探しながら布団の上をゴロゴロしている。食べ過ぎて眠る子供のようだった。いや、赤ちゃんか。



 時計が八時を示す頃、風呂から上がったホームズさんが浴衣姿で僕たちの部屋を訪れた。さすがに風呂上がりは、探偵のコスプレ(コスプレと言ったら失礼か?)はしていないらしい。


 ホームズさんは僕の向かいの座椅子に座り、またもたわいもない話をする。この後のお酒が楽しみなのか、僕に「ワトソン君も早くお酒が飲みたいだろう」とか、「ワトソン君は酒に強いと思うかい?」とか、大人が未成年にする質問の定型文のような事を聞いてきた。


 ちなみに僕の両親は、母親が酒豪で父親が下戸である。確率としては二分の一、いや確か男の子は母親からの遺伝が強く出るというのをどこかで見たことがある気がするので、酒に強い可能性の方が高いのか?兄弟はいないので、どうなるかはわからない。僕としては、飲める方であってほしいなとは思っている。先生があんなに美味しそうに飲んでいるのを見ていると、味が気になるのだ。


 九時が近づき、そろそろ準備しますよと寝っ転がっている先生を無理やり起こし、準備させる。なんとか立ち上がり準備し(と言っても、僕たちが準備するのは上に着る羽織くらいなのだが)、部屋を出ようとした時、


コンコンコン


 僕たちの部屋がノックされる音がする。ノック音は3回、つまり入室確認のノックか。なんてどうでもいい事を考えながら、僕はドアに向かう。


「杜若さんでしょうか?月見のものを持ってきてくれたんですかね?」


 はーい。と言いながらドアを開ける。だが、そこにいたのは杜若さんではなかった。


「あれ、月夜さん?」


「すみません。こちらにお兄様は来ていませんか?」


「どうしたんだい?」


 僕の後ろから先生が顔を覗かせる。


「おや、月夜君?」


「虹日さんですか?虹日さんは来ていませんね。」


「そうですか。実はまだ部屋に帰ってこないんです。」


「あれ?でも、さっきメールですぐに帰るとか言っていませんでしたか?」


「そうなんですけども、全然帰ってこず、電話にも出なくて。」


 月夜さんは心配そうな表情を浮かべて俯いている。僕はヒーローでもなんでもないが、綺麗な女性にこんな困った顔を目の前でされるとなんとか手伝ってあげたいという気持ちになってくる。


 まあ、ヒーローは人を選ばずに困っている人を助けるのだろうが。いや、人を選ばずと言っても流石に悪を助けるということはしないか。悪がなんであるかはわからないけれども。いやいや、そんなことはどうでもよくて、


「先生。」


「ああ、そうだね。」


 どうやら先生も同じ気持ちだったようだ。さらに後ろではホームズさんも頷いている。


「僕たちも一緒に探しますよ。」


 月夜さんは申し訳なさそうな顔をしながらも、僕たちに感謝の言葉を返す。


「虹日君はあれから一切返信がないのかい?」


「あの後、九時からみなさんと月見をするということはメールで伝えました。庭の東屋でやるそうだから、早く帰ってきてと。」


「それに返信はきたのかい?」


「いいえ、返信はありませんでした。」


「そうか。」


「返信がなくても、そのメールを見て直接庭に向かったということじゃないんでしょうか?」


「その可能性もあるね。まずは東屋の方に行ってみようか。」


 先生の言葉に頷き、みんなで庭の方へと向かう。庭への出入り口の隣には大広間があるので途中部屋の中を覗く。中には食器類の片付けを済ませ、部屋の中を掃除している杜若さんの姿があった。杜若さんも僕たちに気がついたようでこちらに向かってくる。


「皆様、お揃いで。お酒とアテはこちらに準備させていただきましたよ。桔梗がお酒に合うものを作りましたので、是非お召し上がりください。」


 杜若さんは、先生に言われて準備していたお酒に加えて桔梗さんが作ったおつまみも用意していてくれたようだ。


「ありがとう。杜若君。しかし、もう少しお酒は冷やしておいてくれないだろうか。」


「ええ、もちろん構いませんが。あれ、そういえば。虹日様のお姿がまだないようですね。」


「そうなんだ。私ちゃんたちも探していてね。夕食後、彼はここに姿は見せていないかな?」


「ええ、見せておりませんね。夕食後、私と菖蒲で片付けをしておりましたが、ここには誰も。」


「菖蒲君は今どこに?」


「食器を下げ終わって、調理場で桔梗と共に片付けをしております。」


「調理場には流石に。虹日君はいないだろうね。」


「そうですね。桔梗から虹日様を見たという話は聞いておりませんね。」


「ありがとう。桜花君は?」


「女将でしたら、玄関の隣の事務室に常におりますよ。来客などの対応は全て女将がしておりますので。」


「そうか、ありがとう。また後で受け取りに来るよ。桔梗君にも感謝の意を伝えておいてくれたまえ。」


 三姉妹の皆さんも誰も虹日さんの姿は見ていないようだ。ここまでくると不安な思いというのが大きくなってくる。さっき先生が変な事を言っていたのが、不吉な予感として存在感を大きくしているのだ。


 僕たちは大広間を後にして、そのまま庭へと出る。


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