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双貌日記〜天才作家 言葉紡の記録係〜  作者: pippo
7 日は沈み、月は夜を照らす

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27/58

日は沈み

「君、昨日と同じく夕食の前にお風呂済ませてきたらどうだい?」


 先生は一通りの話を聞いた後、僕にそんなことを言った。


「それは済ませたいですが。先生、今日は、」


「ああ、私ちゃんは入らないとも。というのも昼過ぎに起きたとき寝汗を結構かいてしまったので、もう風呂は済ませたんだよ。私ちゃんは今日部屋から出ていないし問題はないだろう?今日は一人でゆっくり入ってくるといいよ。ただのぼせないように気をつけなよ。」


 いや、昨日のぼせたのはあなたのせいなんですけどね。


「それなら、行ってきます。」


「ごゆっくり。」



 お風呂から上がると、客間には昨日と同じようにホームズさんの姿があった。どうやら夕食の時間まで先生と雑談をするために部屋を訪れたらしい。


「ほう、綺羅星月夜がストーカーの被害ね。」


 どうやら綺羅星兄妹がここを訪れるきっかけの一つであるストーカーについて話しているようだ。


「ミスター虹日の言うには、写真やら手紙やらが送られてきているそうです。まあ、実害という実害が出ていないので、被害届は出していないそうですが。」


「なるほどね。有名人にはそういう悩み事はつきものだよね。」


 自分も経験があるからかどこか遠い目をしながらお茶を啜っている。


「話は変わりますが、夕食後、庭の東屋で花見酒でもしませんか?なんと今日は満月で、この後空も晴れるそうなので、月見と花見をいっぺんに楽しめますよ。」


「ホームズ君!それは実に素晴らしい。そういうことなら夕食時のお酒は控えるとしよう。楽しみは後にとっておくってね。」


「先生、今日は飲み過ぎないでくださいよ。明日そばを食べに行くんでしょう?」


「うむ、そうだね。ほどほどに楽しむとするよ。」



 しばらく話してから僕たちは揃って夕食を食べるために大広間へと行った。大広間には、昨日と同じように菖蒲さんと杜若さんが忙しなく出入りしながら料理を運んでいる。部屋の奥にはすでに月夜さんの姿があった。


「あれ、お一人ですか?」


「はい、お兄様は少し前に何か用事があると言って出掛けてしまいまして。先ほど夕食を食べててくれというメールが入っていたので一人で来たんです。」


「ほう、月夜君を一人にして出掛けたのかい?」


「みなさんと別れた後、部屋に戻ったらテーブルの上に何か手紙が置いてありまして、兄はそれを見たら出掛けて行ったんです。」


「その手紙の中身は?」


「私は見ていません。お兄様はそれを読んだらご自分のポケットに入れてすぐに出ていかれたので。」


「なるほどね。まあ、メールが来たということはすぐに来るだろうさ。月夜君も一緒に食べようじゃないか。」


 僕たちは昨日と同じように並んで座り、料理が運ばれてくるのを見ながら軽く談笑する。最後の料理が運ばれて、飲み物がそれぞれの前に運ばれると先生の言葉でみんな食べ始める。


「そういえば、虹日くんもいないが、もう一人の宿泊客というのも今日もいないね。」


「確かにそうですね。昨日から一回も姿を見ていない気がします。」


「何か具合が悪いということでしたが、私も一度しか姿を見ていませんね。男性客でしたが。」


 ホームズさんが答える。もう一人いるはずの宿泊客は、昨日から一度も姿を見ていない。せっかくここまで旅行に来たのに、体調を崩すなんて気の毒な人だなと顔も知らないその人のことを考える。


 今日の料理も非常に豪華で、昨日とは違う料理がたくさん用意されていた。本日のご飯ものは筍ご飯である。それに合わせてメインは魚の姿焼き。そして、昨日魚の刺身だったところは馬刺しになっていた。程よくサシの入った美しい桜色(あの桜の花のような赤色)の身がテリテリと輝いている。口に入れると、口の中の温度で油がじんわりと溶け出し、甘みと旨味が口の中に広がる。もちろん、どれも美味しかったが、先生は料理に合わせてお酒が飲めないということを非常に残念がっている様子だった。食事を始めて三十分ほど経っても、大広間に虹日さんの姿はなかった。


「虹日さん、遅いですね。」


「確かにそうだね。ミス月夜。ミスターから何か連絡はないのかい?」


「はい、先ほどメールしてみたのですが、まだ返信が、」


 ピロンっ


「あ、今来ました。」


 月夜さんがスマホの画面を僕たちの方へと向ける。


 遅くなってすまないね。思ったよりも用事に時間がかかってしまった。夕食は自分で済ませたから申し訳ないけど、菖蒲さんたちにそのことを伝えておいてもらえるかい?桔梗さんにも謝罪の意を伝えてくれ。すぐに帰るよ。鍵がないから部屋で待っていてほしいな。


 虹日さんからのメールにはそう書かれていた。


「何をしていたんでしょうかね。」


「さあ、私ちゃんたちにはわかりかねるね。まあ、連絡が来たのであればよかったじゃないか。」


「そうですね。」



「みなさん、お先に失礼します。すぐに帰ってくるのであればお部屋で待っていなければ。」


「そうだね。ああ、そうだ。今夜は満月らしい。この後庭の東屋で一杯やるんだけど君たちもどうだい?」


「まあ、それは楽しそうですね。ぜひ、兄と行かせていただきます。何時ごろですか?」


「うーん。ホームズ君、何時がいいかな?」


「確か今の天気は曇りですが、九時ごろになると雲が晴れるそうなのでその時間帯がいいのでは?」


「そうだね、では九時過ぎごろに庭の東屋で。いいかな?」


「はい、分かりました。」


 そう僕たちに言い、月夜さんは一足先にお部屋へと戻っていった。月夜さんが部屋に戻ってからも僕たちは食事を続ける。お酒がないからか食べるのに集中しているのか先生も口数は多くない。


 しかし、急に思い出したかのように口を開く。


「ストーカーの被害に遭っている最中の妹を一人にしてまであの妹思いの虹日君が出かける用事。なんなんだろうね。しかも手紙を読んですぐに出掛けたなんて・・・。」


 先生が意味深なことを言い始める。先生は腕を組みながら考えている。


「いやいや、先生。何を言っているんですか。」


「まあ、私ちゃんは作家だからね。もしも小説の世界なら虹日君が何かに巻き込まれているんじゃないかなって思ってしまったんだよ。」


 先生は冗談だよと言いながら笑っている。


「きっと、何か重大な用事でもできたんだろう。それこそお家の事情とかね。私ちゃんたちが知らないことはたくさんあるさ。でも、ネタとしては良いかもしれないね。」


 先生は軽く頷きながら、空中にメモをとるような仕草を見せる。


その後、三十分ほどたわいのない話をホームズさんとしながら食事をいただく。ふと時計を見ると、七時を過ぎたあたりだった。


「一旦部屋に戻らせてもらいましょうかね。実は私はまだお風呂に入っていないもので。」


 ホームズさんがそう言って立ち上がる。


「そうか、では私ちゃんたちも一旦部屋に戻るとするか。」


「はい。」


 僕たちも立ち上がり、大広間を出ようとする。その前に、入り口に控えていた杜若さんに、庭の東屋で晩酌をしたいから準備をしておいてほしいと頼む。


「では、風呂から上がったら、そちらのお部屋に行かせていただきますね。」


 ホームズさんと一旦別れて部屋に向かう。


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