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双貌日記〜天才作家 言葉紡の記録係〜  作者: pippo
7 日は沈み、月は夜を照らす

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26/59

特徴

 僕らはそばを食べ終わると、腹ごなしに再び出店通りを軽くぶらつき、


「そろそろ、宿に戻ろうかな。」


 ホームズさんの一言で、全員で戻ることにした。ホームズさんは宿に向かいながら虹日さんと何か話をしており、時折笑い声を上げている。その様子を後ろから月夜さんと並んで歩きながら見る。ふと、月夜さんの方を見ると、やはりどこか哀愁の眼差しで虹日さんを見ている気がする。


 二人での旅行の思い出として色々思うところがあるのだろうか。さっき聞いた綺羅星の家の事情を考えると、これから虹日さんは忙しくなるのだろうし、月夜さん自身も俳優業でより忙しくなるのだろう。二人でゆっくりできるのは当分先になってしまうのかもしれない。


「お二人での貴重なお時間をお邪魔してしまって、すみません。」


 僕の言葉に少し驚いたような表情を見せる月夜さん。


「いえ、お邪魔だなんて思っていませんよ。お二人と今日過ごした時間はとても楽しかったです。いきなりどうしたんですか?」


「先ほどから月夜さんが虹日さんを見る目がどこか物悲しそうだったので。やはり兄妹離れるのが悲しいのかなと。」


「そうですね。お兄様と離れてしまうことも悲しいですが、やはりお兄様に対して申し訳ないという思いでしょうか。」


 申し訳ない?心配をかけてしまっていることに対してだろうか。でも、ストーカーの被害は月夜さんのせいではない。彼女は完全なる被害者だ。


「申し訳ないというと?」


「お兄様に重責を背負わせてしまっているということ。生まれる順番だけで決まって、お兄様もやりたいことがあるはずなのに・・・。」


「重責というと、綺羅星家の・・・。」


 僕は聞き返そうとしたが、月夜さんの表情を見て、それ以上踏み込むのはやめておこうと思った。


 夕方になる前、時刻で言うと午後3時ごろに旅館に帰ってきた。僕としては部屋においてきた先生が少し気がかりだったのである。断っておくと、先生が心配であると言うよりも先生の世話を任せてしまった菖蒲さんたちが気がかりだったと言うことである。旅館に着くと、玄関には、桜花さんの姿があった。昨日と同じく僕たちが来るのがわかっていたかのようにそこに座り、僕たちを迎え入れる。


「おかえりなさいませ。出店通りはいかがでしたでしょうか?」


「ミス桜花。とても楽しかったですよ。それにおすすめのお蕎麦屋も実に美味でしたとも。」


軽く挨拶を済ませながらホームズさんたちと別れ、僕はすぐさま自分の部屋へと戻った。部屋の鍵を開けて中へ入ると数人の話し声が聞こえる。ん?と思って客室の扉を開けると、そこには二日酔いから回復した先生と、その先生と会話をする3人の女性の姿があった。


 その女性はもちろん菖蒲さん、杜若さん、そして昨日見ていないと言うことはおそらく三つ子の末っ子、料理担当の桔梗さんである。3人揃って入室してきた僕の方を見ている。確かにこう見ると菖蒲さんと杜若さんは顔が似ているが、桔梗さんは顔のタイプが二人とは違う。二人が美人系だとすると桔梗さんは可愛い系である。どちらかと言うと幼い雰囲気を感じる。


「やあ、おかえり。」


 先生が僕に声をかける。三つ子姉妹は僕に軽く会釈する。


「ただいま帰りました。先生、もう体調は大丈夫なんですか?」


「ああ、薬のおかげで体調は回復したとも。それと君、人に体調や状態を聞くときには大丈夫ですか?とは聞かないほうがいいよ。日本人の性格的に大丈夫ですかと聞かれたら大丈夫ですと返してしまうそうだ。遠慮深い性格が災いしているんだろうね。」


「先生は大丈夫じゃなければはっきりと大丈夫じゃないって言うじゃないですか。」


「まあ、それもそうだね。」


 先生はくだらない返しをしながら笑っている。どうやら体調は完全に回復したようだ。


「御三方を部屋に呼んでいたんですか?」


 僕は3人に目を向けながら、頭を下げる。


「初めまして。そちらが桔梗さんですか?」


「はい、私が桔梗です。昨日はご挨拶できずに申し訳ありませんでした。昨日のお料理は楽しんでいただけたでしょうか?」


「はい、どれもとても美味しかったです。」


「それはよかったです。」


「菖蒲さん杜若さんも、先生がご迷惑をおかけしませんでしたか?」


 二人は顔を見合わせながら微笑みを浮かべる。


「いえ、先生さんには色々なお話を伺えて楽しかったです。」


「私ちゃんの方こそ色々な話が聞けていい時間だったとも。三つ子に会える機会というのはそう滅多にあるものじゃないからね。」


 先生は満足そうな様子である。おそらく三つ子との会話を通じて色々な話を聞くことができていい気分なのだろう。


「それでは、私たちは夕食の準備がございますので。これで失礼いたします。本日も夕食は午後6時からでよろしいですか?」


 菖蒲さんの声に合わせて3人とも立ち上がり僕たちに軽く礼をするとそのまま部屋を出ていってしまった。


 うーん。せっかくなら僕も話を聞いてみたかったな。


 そう思いながらも、僕は先生の向かい側の座椅子に腰を下ろす。先生は三つ子と話しながら書いていたのだろうメモを見ながらうんうんと頷いている。


「どんなお話が聞けたんですか?」


「やはり、三つ子と言っても好みや思考は全然違うということかな。育った環境が同じだから、ある程度の共通性は見られるが、それでも成長するにつれそれぞれの特徴が出てきたようだ。」


「やっぱり先生の言うように自己主張ということでしょうか?」


「まあ、それもあるんだろうね。最初のきっかけがどんなことだったにせよ、三つ子の彼女たちの中でそれぞれ違うものを出したいという気持ちがあったんじゃないかと私ちゃんは推測したよ。」


「なるほど。」


「だからこそ、今一番気になるのはあの綺羅星兄妹だ。三つ子の彼女たちでさえも成長するにつれ変化が出てきているというのに彼らはそうではない。やはり特殊な例だ。実に興味深い。」


 先生はすごいスピードでメモ用紙に加筆している。殴り書きのような文字で反対側の僕からでは何を書いているのかを判別することはできない。


「君の方はどうだった?何かいい情報でも仕入れることができたかい?」


「う〜ん。そうですね。綺羅星家の名家の秘密などは聞きました。」


「ほう、それは私ちゃんも気になるね。」


 先生はメモを書く手を止めて僕の方を見る。ニヤリと笑って僕の話を聞く準備ができていると言わんばかりの表情である。僕は月夜さんたちに聞いた綺羅星家の内情などを先生にそのまま話した。



「なるほどね。名家であるための決まり事か。面白いね。今後何かしらの設定に使うことができそうだ。」


「実際にある家をモデルにすると色々面倒じゃないですか?」


「そこはうまく誤魔化すとも。あくまで参考にするだけだよ。こういう設定は実際にある話を参考にしたほうがリアリティがあるんだよ。」


 そういうものなのだろうか。まあ、大作家先生がそういうのであればそうなのだろう。


 先生は僕が綺羅星兄妹から聞いてきた情報にも満足しているようだった。メモを書き終えると書いた内容をざっと確認し、そのメモを閉じて一息ついた。


「そういえば先生。昼食は召し上がったんですか?」


「いや、完全に回復したのは昼を過ぎた頃でね。取材をしながら軽く茶菓子は頂いたが、ちゃんとしたご飯は食べていないよ。だからもうお腹ぺこぺこさ。君は何を食べたんだい?」


 純粋な疑問から先生にこの質問をしてしまったが、この質問をしたら絶対僕にも同じ質問が返ってくるであろうことを失念していた。さっきも述べたが、先生はそばが大好きなのである。先生が昼食を取っていないのに僕はそばを食べたと言ったらきっといじけるに違いがない。


 やってしまったな。さてどう返したものか。


 先生の質問に対して言葉を詰まらせながら、適切な回答をするために頭をフル回転させて悩んでいると、その様子だけで何かを察したのか先生は一言付け加える。


「何を食べてきていたって怒ることはないさ。私ちゃんも大人だからね。それに散策に行けなかった原因は私ちゃん自身にあるんだから。気にせず正直に話してごらん?」


「・・・、そばを食べました。桜花さんがおすすめしてくれたお店で・・・。」



 先生はいじけた。


 見事にいじけた。さっきの言葉はなんだったのか、そっぽを向き体育座りしながら何やらボソボソ言っている。こうなることがわかっていたから言いたくなかったのに。いや、昼食の話題を振ってしまった僕に責任があるな。


「先生、今日僕は美味しい蕎麦屋さんの下調べをしてきたに過ぎません。明日もあるんです。明日一緒に行きましょう!」


 先生は僕の方を振り返り、じと目で見ながらぼそっと話す。


「約束だ。絶対行くからな。」


「はい、行きますとも。」


 先生はその言葉でやっと気分を戻したのか再び座椅子に座り、くつろいだ姿勢をとる。


「夕食まではまだ時間があるし、ゆっくりお茶でも飲むとするか。」


「わかりました。」


 先生の言葉に答えて客室に用意されている急須とポッドで熱い緑茶を入れて先生の前に出す。二人でゆっくりとくつろぎながら外の風景を眺める。その後、出店通りの様子や蕎麦の詳細などを事細かに先生に聞かれ、それらを一つ一つ丁寧に説明する時間が続いた。


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