いちご飴
そんなこんなでゆっくりと歩いていると、いつの間にか出店通りについていた。出店通りは、両側をさまざまな露店が並ぶ商店街のような通りで、食べ物の店や射的なんかの遊びの店も並んでいる、どちらかというと祭りの屋台のような雰囲気が漂う通りだった。
「まあ、何はともあれまずはこの通りを散策して楽しむとしようか。」
ホームズさんは先ほどまでの顔つきとは異なり、優しい笑顔を見せている。僕たちはそれに呼応して通りを歩きながらそれぞれお店を見ていくことにした。まず目についたのは、いちご飴のお店だった。
「お、いちご飴か。」
「いいですね。お二人もどうですか?」
僕は綺羅星の双子にも声をかける。
「私もいただきます!」
月夜さんの方が目を輝かせながら手を上げる。どうやらいちご飴が好きなようだ。虹日さんは僕は大丈夫だよと断った。なので、僕と月夜さんが二人で店の中に入っていちご飴を買いに行く。ホームズさんの分は僕が買うと申し出た。
中に入るといちご飴が店中に並んでいた。いちご飴は、祭りの屋台で売っているような一つのいちごに分厚く飴をコーティングしたような昔ながらのいちご飴だ。
これは完全に僕の好みの話で余談だが、僕はこの形のいちご飴が好きだ。最近人気のいちご飴は縦に数個のイチゴが並んで、薄くコーティングした飴と何かしらの粉をかけたような見た目のものが多い。見た目にこだわっているようなものが多いのだ。若者を意識した何とか映えだかなんだかよくわからないが(僕も若者ではあるのだが)、僕がイチゴ飴に求めるのはそんなものではない。
僕の中のいちご飴は、酸っぱいイチゴに甘すぎるほどに甘い飴をコーティングしたもので、その味のギャップを楽しむものなのだ。見た目のオシャレさなど僕は求めていないし、高級イチゴを使って甘いイチゴに甘い飴というのもなんか違うのだ。
まあ、これはあくまで個人的な意見であり、現在風のおしゃれなイチゴ飴を否定しているわけではない。あくまで好みの問題である。そんな僕の謎のいちご飴論について脳内議論を交わしていると、
「あ、これ。私の好きなタイプのやつです。」
月夜がぼそっとつぶやく。僕は意外な月夜の反応に、「え」と言葉を漏らす。
「あ、すみません。あまり可愛らしくないかもしれないですけど、私、コレみたいな昔ながらのいちご飴が大好きで。」
少し恥ずかしそうな表情を見せながら月夜さんが頬を赤くする。
「そうなんですか!僕もです。やっぱりこの形のものじゃないとですよね。」
「昔、お兄様と食べたんです。」
なるほど。思い出の味というやつだ。危ない、危ない。いちご飴について熱く語ってしまうところだった。
僕は先生のようなこだわりが強いタイプではないと自認しているが、それなりの好みとちょっとしたこだわりはある。好きなものにはこだわりたくなってしまうのだ。こんな言い方をするのはあれだが、月夜さんのような今どき女子は(僕の方が年下なのだが)流行モノが好きという固定観念を抱いていた。特に月夜さんのようなモデルでタレントとなるとどうしてもそういうイメージがある。
「そういえば、月夜さんがモデルになったきっかけってなんだったんですか?」
綺羅星家と言う名家に生まれながらどのようにしてモデルという道に進んだのかが気になったのだ。
「きっかけは今の事務所からのスカウトでした。もう7年ほど前でしょうか。突然電話がかかってきて、あれよあれよと。まあ、お兄様がその時からサポートしてくれたので。」
「その時からマネージャーを?」
「マネージャーというような肩書きになったのは近年ですが、サポートはずっとしてくれていました。というのも、モデルになったのもお兄様の勧めがあったからなんです。」
「そうなんですか?」
「はい、私ならそこで輝けると。それに今回、俳優にチャレンジするきっかけになったのもお兄様の助言でした。」
「虹日さんには先見の明があったんですね。」
「そんな大仰なものではないかも知れませんけどね。お兄様の小さい頃の夢が俳優だったんです。」
月夜さんは微笑みながら答える。虹日さんとのやりとりや思い出を振り返っているのかも知れない。その後、二人で三本のいちご飴を買い、僕は一本をホームズさんに手渡す(お金はちゃんともらっている)。一口食べると、僕は自分が求めていた味に安堵する。やっぱりこれだよなと深く頷く。
「へー、昔ながらのいちご飴なんだね。」
「ホームズさんは、どっちのいちご飴が好きですか?現代風と昔風と。」
「うーん。どちらにもどちらの良さがあるからね。一概にどちらかと言われると、どちらでもいいね。私は食べ物に対してはこだわりがないからね。」
僕はがっかりしたような表情を浮かべ、それを見てホームズさんが笑っている。綺羅星兄妹も僕たちのやりとりを見て笑っているようだ。
ホームズさんはすぐに食べ終わり、周囲を見渡している。




