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双貌日記〜天才作家 言葉紡の記録係〜  作者: pippo
6 出店通り

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二日酔い

 次の日、予想通り先生は二日酔いになった。


「う〜。」


布団に潜りながら項垂れている先生に、菖蒲さんに頼んで用意してもらった二日酔いの薬を渡す。


「全く、調子に乗って飲みすぎるからそうなるんですよ。って、これも何度言っているかわかりませんね。」


 薬と水を一気に飲み干した先生は、再び布団に倒れ込む。何度も言うが、先生はお酒が好きだが強いというわけではない。だが、自分で量を調節することができずに毎回限界を超えて飲む。だから次の日は毎回こうだ。


 よく聞く話では、二日酔いの時は「もうお酒なんか一生飲まない」という気持ちになるそうだが、先生はそんなことはないのだろうか。毎回同じようにお酒を飲み、毎回学習せず二日酔いになって倒れている。僕はまだお酒が飲めないので酔った感覚も二日酔いの感覚も経験したことがないが、この先生の様子を見ていると自分は頑張って自重しようという気持ちになる。


「大丈夫そうですか?今日はお休みになりますか?」


「もう、もうこんなには飲みすぎない。絶対に。」


 今日は一段ときついようだ。前に先生は「いいお酒っていうのはね、いくら飲んでも次の日に残らないんだよ。」と言っていたが、やはり物事には限度というものがあったようだ。


 酒は百薬の長なれど、徒然草でも言及されるこれは、酒は百薬の長とはいえ、万病の原因もまた酒であるという意味だそうだ。また、医学の父パラケルススも、薬にもなれば毒にもなると言ったように、どんなに良い薬でも用法を誤れば毒となり得るのだ。何事も用法・用量が大切なのだろう。


 昨日大広間を出る前に桜花さんに先生が飲んだ酒の量を聞くと、その多さに驚いた。一人で一升以上飲んでいた。一升は約1.8リットルだから、それ以上というと二リットルの日本酒を飲んでいることになる。流石にそれは飲み過ぎだ。普通の飲み物でも二リットル飲もうとするのは難しいのに。お酒は飲めてしまうんだな。とお酒の恐ろしさを理解した。


 まあ、適度な量を楽しむのが本来のお酒のあり方だと若輩者ながら思うのだが。そして、先生はお酒を飲んでも吐けない体質らしい。あまり気持ちの良い表現ではないが、お酒を飲みすぎた人が吐いている描写がよくある。そんな人たちは吐くことによってスッキリしているように見える。余分なアルコールを吸収する前に吐いてしまっているのだろうか?僕には医学知識はないのでそこら辺は詳しくはわからないが、吐くことによって緩和されることはあるのだろう。でも先生は吐けない。吐くという行為自体が苦手で上手に吐くことができないそうだ。そのため二日酔いの時なんかは、吐き気はあるのに吐けないので、ずっと気持ち悪そうな顔をしている。こういう時は薬を飲んで水分を取って寝ているしかない。


「僕はホームズさんと街に出て取材してきますけど、一人にして大丈夫ですよね?」


「ああ、取材は任せた・・・。」


 消え入りそうな小声で僕にそう言い残し、先生は頭から布団をかぶってしまった。


 僕は朝食を取り(その時に菖蒲さんたちに先生は二日酔いで朝食を食べられないことと、部屋で寝ているので何かあったらよろしくお願いしますとお願いした)、カメラと財布を準備して(お金は朝食に行っている間に先生が用意していてくれたらしく平机の上に何枚かのお札が置かれていた)、早速玄関へと向かった。



「おはようございます。」


「ああ、おはようワトソン君。やはり、ミス紡はダウンしてしまったようだね。」


 玄関にはすでにホームズさんの姿があった。しかし、ホームズさんの姿だけではなかった。


「おはよう、助手君。」


「おはようございます。ワトソンさん。」


 そこには、綺羅星兄妹の姿もあったのだ。二人とも出かける準備をしているようで僕が来るまでホームズさんとお話をしていたようだ。


 虹日さんは、黒いパンツと七分丈のシャツを着て、薄い青色のサングラスを、月夜さんは黒いワンピースと薄茶色のレンズのサングラス、そしていわゆる女優帽をかぶっている。二人とも目立つし有名なので軽い変装をしているのだろう。


 それにしても、二人とも僕をワトソンとして受け入れてしまっているのか。まあ、大した問題はないのであるが。


「お二人ともおはようございます。」


 僕は深々と頭を下げる。やはり有名人でここまで美人な人たちに面と向かって挨拶するのは平凡な僕なんかは恐れ多いと思ってしまう。その空気を察したのか、


「助手君、僕たちはそんなに歳が離れているわけじゃない。そんなにかしこまらないでくれ。何も僕たちは特別な人間というわけではないんだ。」


 虹日さんがそんなことを言ってくる。綺羅星家という名家に生まれ、片やそこの当主、片や有名タレントとして活躍している人たちが特別じゃないなんて言っても、じゃあ僕はなんなんだという気持ちになってくるが、その言葉が皮肉で言っているわけではないというのは虹日さんの表情で伝わるので、僕は「はい」と笑顔で返事をする。


「それで、お二人もどこかへお出かけですか?」


「ああ、僕たちも出店通りに行ってみようと思っていたところ、ホームズさんに一緒に行かないかと誘われてね。助手君さえ良ければ一緒に行ってもいいだろうか?」


 なんと。あの綺羅星兄弟と一緒に行くなんて。普段の僕なんかでは恐れ多くてとてもじゃないが、今は先生の取材という大義名分がある。一緒に行動ができるなんて、こんな機会を逃してしまったら逆に先生に怒られてしまう。


「はい!よろしくお願いします。」


 僕はそう返事をして、自分の靴を出してそれを履く。「では行こうか」とのホームズさんの言葉で、みんなで出店通りに向かって歩き出す。


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