綺羅星
食事と会話を楽しみ、そろそろ佳境に入るかという時、大広間に入る3人の姿があった。先頭にいるのは女将の桜花さん、そして後ろには、
「あれ?あの人。」
僕は入ってきた人の顔を見て、思わず声を上げる。その顔は見たことがある顔だった。と言っても、知人がきたというわけではない。ただ一方的に僕が、いや世間の人々が知っている顔ということだった。
「お、あれは綺羅星兄妹だね。」
ホームズさんも桜花さんの後ろから部屋に入ってきた二人を見て反応する。
綺羅星兄妹、名家綺羅星家に生まれた奇跡の兄妹として世間から注目され妹の月夜はモデル・タレント業を、兄の虹日は次代の綺羅星家の当主ながら月夜のマネージャーをしているという異色の兄妹である。
何が奇跡かというと、その二人が双子であるということだ。これだけ聞くと、三つ子の姉妹が出てきたばかりで奇跡でもなんでもないじゃないかと思うだろうが、綺羅星の双子は男女の双子ながら顔までそっくり、身長まで同じという普通では考えられない双子だった。
普通男女の双子であれば、二卵性双生児でなければあり得ない。双子で似ている子供が生まれるのは、さっき先生が言っていたように一卵性双生児のみだ。なのに、その兄妹はとてもよく似ていた。そんなことがあり得るのかと思うだろうが、これに関しては神の気まぐれだとしか言いようがないそうだ。
その特異性と話題性、そして名門綺羅星家という肩書きで世間の注目を集める存在となっていた。当初は月夜がモデルとして人気を博していたが、テレビ出演をきっかけとしてその人柄とタレントとしてのスキルにも人気が出て、広く世間に知られるようになった。噂では、妹の月夜は近々俳優業へも挑戦すると言われている。
「初めて生で見ましたが、やはり似ていますね。」
髪を結んでいる方が兄の虹日であろうが、髪を結んでいることと服装が男性服か女性服かという違いがなければ、判断するのは難しそうだ。月夜は凛とした表情をしており、まとっているオーラからして高貴な人という印象を強く受ける。虹日は、月夜の後ろを優しい顔を浮かべながらついており、優しいお兄さんといった雰囲気である。
「ああ見ると実にどちらも美しい顔をしているね。ただ似ているというだけではなく、どちらも絶世の美人というんだから神様の気まぐれにも困ったもんだよ。」
ホームズさんがやれやれと言わんばかりのジェスチャーを見せながら笑っている。
「ふうん。そんなに有名な兄妹なのかい?」
酔った様子の先生が僕たちに尋ねる。先生は普段、テレビも雑誌も見ないから綺羅星兄妹を知らないのだろう。初めて見る二人を見て興味津々な様子を見せている。
「神の気まぐれか、あるいは。あそこまで似ているというのは、何か作為的なものを感じずにはいられないね。」
「先生、どういうことですか?」
「いやさ、さっきの私ちゃんの話を覚えているかい?人間とは自我を出さずにはいられない生き物だということだよ。」
先生の言葉の意味があまりわからず、首をかしげるが先生はその後の補足はしてくれず、綺羅星兄妹を観察している。
「私もテレビなんかでは見るけど、ミス月夜はモデル業とタレント業の時ではまるで違った表情をするんだよな。」
「どういうことですか?」
「モデルの時は今みたいに凛とした、それこそ月のような美しさで人気を博して、テレビに出ている時はあどけない少女のような、太陽のような明るさと笑顔で人気を博しているんだよ。あれも天性の才能なんだろうね。」
ホームズさんの言葉を聞いて、再び二人の方を見る。二人は、桜花さんの説明を聞きながら、何やら話しているようだ。おそらく飲み物などを聞いているのだろう。
桜花さんが去るとすぐに飲み物が運ばれてきて二人は食事を始めた。あまりまじまじと見るものではないと思いながらも、初めて生で見る有名人に視線を外すことができずに見てしまう(有名人というのであれば、先生も十分すぎるほどに有名人ではあるのだが)。二人は食べる所作すら美しかった。
これはおそらく名門綺羅星家として幼少より作法を叩き込まれているからなのであろう。大広間とはいえお客さんが僕たちと彼女らしかいないので、見ていると自然と視線が合ってしまう。目があった月夜は僕に微笑みかけながら語りかける。
「私の顔に何かついておりますか?」
僕は目線があったことと話しかけられたことに動揺して自分の顔が熱くなるのを感じる。僕に向けられた笑顔は普通の人なら2秒と目を合わせられないほどの輝きを持っている。僕は何か返さないと、と思い必死に頭を回転させるが、何も浮かんでこない。このままだと僕は食事をじっと見続けていたただの変質者だ(残念ながら間違ってはいないのだが)。すると、横から先生が口を出す。
「君たちは随分似ているけれども、あえてそうしているのかい?」
月夜は思わぬ質問が飛んできて、少しばかり目を丸くしている(それすらもかわいい)。隣にいる虹日の顔を見て返答に困っているようだ。
「別にあえてそうしているというわけではありませんよ。ただあえて同じにする必要がないのと同じように、あえて違うようにする必要もないというだけです。僕たちは生まれながらにして運命で決められていたかのように同じ顔に生まれ、同じように育っていった。それだけですよ。」
虹日が笑顔で先生の質問に返答する。その声を聞き、またもや違う衝撃が僕たちに訪れる。それについて言及したのはもちろん先生だ。




