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双貌日記〜天才作家 言葉紡の記録係〜  作者: pippo
5 夕食と双星

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菖蒲と杜若と桔梗

 僕たちはその後、軽く身なりを整え(先生は長い髪の毛を乾かし)部屋を出ると夕食を取るために大広間へと向かった。


 大広間に着くとそこにはセクセクと夕食の準備をしている従業員の姿があった。まだお客さんはいないようだ。この宿は敷地こそ大きいが部屋の数は少なく、今回泊まっているのは、僕たちとホームズさんを合わせて四組だそうだ(これはホームズさんから聞いた情報である)。


 てっきり僕たちの前に残りの二組が夕食をとっていると思っていたが、そうではないようである。広い部屋の中には一人一人に用意された平机とそれを全て埋め尽くすほどの料理が次々と並べられていく。広い部屋ではあるが平机同士の間隔はそこまで広くはなく、横に三つずつ並んだ机が向かい合わせで並んでいる。僕たちは、大広間に入ると奥の席へと向かい横に3人が並ぶように座った。並びはホームズさん、僕、先生の順番である。


「すでにすごい数の料理ですが、まだ運ばれてくるんでしょうか。」


 忙しそうに行ったり来たりしている従業員の女性を見ながら僕は先生に問う。


「そうだね、どれもとても美味しそうだ。」


「先ほどからあの女性しか配膳していないようですが、他の従業員の方は何をしているんでしょうか?」


「ああ、それだったら。この宿には従業員は女将の桜花さんを含めて四人しかいないんだよ。」


 僕の問いにはホームズさんがすかさず返答する。


「四人ですか?こんなに広い宿を四人なんて。」


 僕は思わず驚きの声をあげる。いくらお客さんの数が少ないからといっても、とても四人で回せるとは思えないほどの広さを持つ旅館である。その信じ難い事実に対して、ホームズさんはさらに付け加える。


「料理を作っている人も含めて四人だから、実際はもっと大変だろうね。だけど彼女たちの連携は本当にプロフェッショナルって感じだよ。」


「ホームズ君、詳しいね。」


「はい、私は昨日からこの宿に泊まっていますからね。ここの従業員の彼女たちとも挨拶は済ませましたよ。」


「彼女たちというと、みんな女性なのかい?」


「そうですよ。それに唯の女性たちと言うわけではありません。特殊な方々なのです。何かわかるかい?ワトソン君。」


「え、特殊ですか?なんですかね。」


 突然の質問に答えが出せずに詰まる。


「姉妹、かな。」


 先生が横から口を出す。なるほど、従業員が姉妹なのか。だから、さっきホームズさんは連携についても言及していたんだ。しかし、ホームズさんは右手の人差し指を振りながら、チッチッチと否定する。


「ただの姉妹ではありません。彼女らは三つ子の三姉妹なのです。」


「三つ子?」


 僕はホームズさんの言葉を繰り返す。人生で(まだ20年にも満たないけど)双子に会ったことはあるけれども三つ子にあった経験はない。


 双子の出生の確率が約1%であると言われる中、三つ子の出生の確立は0.01%ほどである。数にすると一万件に一件あるかどうかという確率である。余談であるが、なぜ僕がそんな確率まで知っているのかというと最近五つ子が出てくる漫画を読んだことで、それが実際にあり得るのかを調べた時に出てきたので覚えていた。三つ子でさえとてつもなく低い確率なので五つ子はさらにとてつもなく低い、奇跡のような確率だったことを記憶している。


 昔は、多胎児は大人になる前に亡くなってしまうことが多かったそうだが、1934年のディオンヌ姉妹という五つ子は世界で初めて全員が幼児期まで成長した姉妹として奇跡の赤ちゃんと呼ばれたそうだ。日本でも1976年に日本で初めての五つ子が鹿児島県で出生され、注目を集めたそうである。


 つまり何が言いたいかというと、三つ子を実際に見るのは初めてであるということだ。


「そうだよ、ワトソン君。先ほどから配膳をしている彼女たちをよく観察してみたまえ。」


 ホームズさんの言葉で、僕は忙しそうに大広間を出入りしている従業員を見る。先ほどから一人で行ったり来たりしていると思っていたが、よく見ると背の高さが違う。従業員なので着ている服装は同じだが、一人は長身の女性で、もう一人は一般的な女性の平均身長といった具合である。さすが、三つ子とだけあって顔までそっくりなので、よくよく身長を観察しなければ気がつかないところだった。


「確かに、よく見ると違う方達ですね。」


「そうだろう?あの二人は、ミス菖蒲(あやめ)とミス杜若(とじゃく)だよ。とじゃくは杜若(かきつばた)のことだね。今は交互に部屋に出入りしているから本当にそっくりに見えて違いが身長くらいしかないと感じるかもしれないが、実際に並んでもらうと意外と違いは見えるものだよ。いずれ菖蒲か杜若とは言ったものだが、どちらも美しいにせよそれぞれの違いというものは見えてくるものなんだろうね。身長の高い方が長女のミス菖蒲で、低い方がミス杜若だよ。」


「なるほどね。確かに一卵性の双子は顔が似るという特性があるだろうが、それはそれ。生きていくうちに特徴の違いは出るだろうし、何よりも人間というものは()()()()せずには生きられない生き物だからね。いくら見た目が似ていても他人との違いを創出しようとすることは本能なのかもしれないね。では、もう一人の姉妹はどうなんだい?」


「もう一人は、彼女たちとは顔もあまり似ていません。名前はミス桔梗(ききょう)と言うそうですよ。」


「ほう、名前からして二人とは異なるということか。察するに二卵性の三つ子かな。」


「さすがはミス紡。その通りです。」


「どういうことですか?それに名前からって。菖蒲、杜若、桔梗って何かあるんですか?」


「桔梗については名付けの理由を察することはできないけれども、菖蒲と杜若はよく似ている花として知られている。さっきホームズ君も言っていたけれども、いずれ菖蒲か杜若という言葉を聞いたことはないかい?あれはよく似ているもので区別するのが難しいときや優劣がつけられないほどどちらも優れている時などに使われる慣用句さ。そんな二人に対して、桔梗は科目すら違う花だ。菖蒲と杜若はアヤメ科の植物なのに対して、桔梗はキキョウ科の植物だ。美しい花であることには変わりはないけどね。アヤメ科の植物はまだあるからつけようと思ったら名前の候補には困らないはずだ。なのに、それを使わなかった。なら二卵性の三つ子だと思うだろう?実際に三つ子の中だったら二卵性が最も確率が高い。まあ、微々たる差だけどね。」


「なるほど。」


 先生のうんちくに僕は感心して頷いた。


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