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双貌日記〜天才作家 言葉紡の記録係〜  作者: pippo
5 夕食と双星

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とある問題

 ここで僕はあることに気がつく。どうでもいいことが急にふっと頭の中に出てくるということはあるだろう。それがどんなきっかけからなのかは本人にすらわからない。会話の中の一言だったのかもしれないし、目に入った何かしらのものが影響したのかもしれない。誰かにとってはどうでもいいことが誰かにとっては重要なことであるということはよくある。二人で会話しながら価値観を共有しているとはいえ、それが共通の価値観になるというわけではない。あくまで意見の交換だ。人はそれぞれ違うことを考えながら生きているし、全く同じ状況でも同じことを考えているとは限らない。何なら価値観が違うからこそ多様性が生まれ、それが尊重されるのだ。


 長々とよくわからないことを並べたが、結局、僕が何を言いたいかというと、


 あれ?この状況、どっちから上がればいいんだ?


僕は先生がお風呂に入ってくるなんて考えなかったから、もちろんタオルなんてものは持ってきていない。先生もそんなものは持っていないし(頭には被っているが)、そもそも先生はどちらから上がるかなんてことを全く気にしていないんだろう。


 でも、僕もまだまだお年頃の大学生である。こんなことを言うのもあれだが、この際、先生が男性であろうと女性であろうと関係なく、恥ずかしいと言う気持ちが勝ってしまう。僕は必死にこの状況をどうするべきかを考える。


 湯船に入ってからそこそこの時間が経っているため、そろそろ僕も限界に近くなっている。頭がぼーっとなっていい考えが浮かばない。先生は無邪気にお風呂を楽しんでいる。この状況を作ったのは先生なのに。これがそれぞれの価値観というやつか。


 やばい、そろそろ限界だ。


「さて、そろそろ上がるか。君、ずいぶん長く入っているね。」


 先生がおもむろに湯船から立ち上がろうとする。僕は、必死にちょっと待ってと先生を止めるために立ちあがろうとする。僕がこんなに悩んでいたのに先生が急に立ち上がったことに待ったをかけたかったのだ。自分の裸が見られたくないのと同時に先生の裸も見たくはないのである。


 途端、目の前の視界が回り始める。メリーゴーラウンドに乗ったとき、いやコーヒーカップを回しすぎた時のように世界が大きく回転し始める。焦点が定まらず、どちらが床でどちらが空かもわからなくなる。


 あ、やばい。


僕は立ちあがろうとしたまま前に倒れ込む。遠のく意識と回る視界の中で僕が最後に見たのは、先生が珍しく本気で驚いている顔と体の際どい部分だけ湯気で隠れた先生の体だった。


 僕はなんのために・・・。



「目覚めたかい?」


 目を開くと先生の顔が僕を覗き込むようにしてあった。僕は部屋で寝かせられている状態で、おでこには濡らしたタオルが、そして後頭部には柔らかい感触があった。なるほど、どうやら僕は先生に膝枕されている状態らしい。


「僕は・・・。」


 状況をいまだに飲みこめない僕が言葉に詰まる。すると、客間の方からもう一人の声がする。


「お、目が覚めたようだね、ワトソン君。君が風呂場で倒れたと言うから慌ててきたんだが、のぼせるほど風呂に入るなんて。いや、原因はミス紡によるもののようだね。」


 そこにはホームズさんの姿があった。ホームズさんのセリフによって僕がどのような状況だったのかということをぼんやりと思い出してくる。


 先生と風呂に入ることになって、上がるに上がれなかった僕は、のぼせてそのまま湯船で倒れてしまったのか。その後、先生がホームズさんを呼びに行ってくれて助けてもらったのかな。先生は少し責任を感じているのか、膝枕をしたまま黙っている。髪もじんわり濡れている様子で、髪も乾かさずに僕のことを看ていてくれたんだろう。


「少しからかい過ぎてしまったようだね。すまない。大丈夫かい。」


 僕を覗き込んだ状態で先生が質問する。その表情は、申し訳なさそうに弱々しいものであった。


 先生がしおらしいなんて、とても珍しい!


 いつもは堂々たる態度(単に自信家なだけだと思う)で、僕に接している先生が僕を気遣っている様子に僕は少し恥ずかしさを覚えて、先生から目線を逸らそうと頭を動かす。ふと部屋の壁に掛けられた時計が目に入る。時計の針は5時50分を示していた。


 はっ!


 僕は現在の時刻に驚いて起きあがろうとする。桜花さんが言っていた夕食の時間が6時だったことを思い出したのだ。


「ワトソン君、急に起き上がってはいけない。君の考えていることはわかっているよ。夕食の時間は30分遅らせてもらった。ゆっくり準備して向かおう。」


 ホームズさんは笑顔を向けながら僕に話す。僕はゆっくりと立ち上がりながら、ホームズさんがコップに注いだ水を受け取りグビグビと飲む。先生は僕を見て安心したような顔を浮かべて立ちあがろうとする。しかし、頬をピクピクと動かしながら急に険しい表情を浮かべ始める。


「君、すまないんだが。」


 先生は僕を呼び、何か助けを求めるかのような表情を向ける。僕はその表情を見て不安な気持ちになり先生の方へと駆け寄る。


「どうしたんですか、先生!」


「足が痺れた。立てない・・・。」


「はっはっは。だから私は、枕に寝かせた方がいいと進言したんですよ。ミス紡。」


 ホームズさんは僕と先生の様子を見て後方で笑いながら、僕と共に先生に手を貸し、立ち上がらせる。ミス紡。どうやらホームズさんは先生の性別を女性だと認識したようだ。先生をして観察眼が優れているという評価を下されたホームズさんがそう言っているのならば、やはり・・・。


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