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【弾幕×成り上がり】暗中飛躍の狙撃手~軍で落ちこぼれの俺は、射程の長さで英雄になる~  作者: 飛鷹 灯


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第八話 雑念と竜


「よっしゃあ!」


 鉄鎖谷三太夫(てっさやさんだゆう)は、鎌松砦の廊下の貼り紙を見てガッツポーズをした。


 鶴崎平野撤退戦にて多くの被害を出したことと、三ヶ月に及んだ新入隊生の教育期間が終了したことが重なり、部隊の再編が行われた。


 三太夫は金色の長髪を振り払い、高い上背から静馬を見下ろす。


「でも、なんで俺がお前と同じ部隊所属なんだよっ!

 死地行きの等々力大佐の部隊とかに配属されろよ、グズのくせに」


 三太夫が配属されたのは、静馬と同じ

〝第三大隊 第二中隊 錆丸小隊〟、後方支援寄りの配置である。三太夫が喜んだのはそのためだ。命の危険性は少なく過酷度合いも低い。


「んなもん知るか」


 静馬はそう言いながら真実を隠した。

 事前に久世原少佐から聞いていたのだ。


『夜鳥羽、お前は錆丸小隊配属だ。表向きは後方支援部隊、だが本当は、夜鳥羽の狙撃を最大限に生かすための狙撃専門独立小隊。クライネを狙撃した今、適応される前が好機だ、錆丸中尉に従い任務を果たせ』


 と。静馬は自分のための狙撃専門独立小隊、その響きに心を震わせていた。高揚と責任がのし掛かる。


 三太夫はブツブツと続ける。


「ちゃんとデキんだろうなぁ、錆丸って中尉はよ。俺は安全に戦功を打ち立ててぇんだ」


「ビビりなんだな、その身長は飾りか」


「なんだとこら、このチビが。

 死んだら元も子もねぇだろうが!」


 三太夫は静馬の頭を叩いた。が、静馬は動じない。

 ふと、静馬は掲示板の名簿の右下に目をやった。


《真桑雄介 〝第二大隊 第二中隊 松島小隊〟》


 静馬が所属する第三大隊は、篠田大佐が指揮する部隊、第二大隊は、所謂〝死地行き〟、無茶な攻め方で有名な等々力(とどろき)大佐の部隊である。


 真桑雄介の身を案じるとともに、三太夫の言葉が引っかかった。


『安全に戦功を打ち立てたい』


 それを静馬は卑怯だと感じた。

 あの夜、医務室に溢れ返っていた負傷者の姿は今でも目に焼き付いている。彼らの命を賭して戦った姿を見た今、そんな感情は恥ずべきだと感じたのだ。


 静馬が憧れた姿は正面から敵に打ち勝つ英雄、まさしくあの夜、ディードと相対した英雄のような。


 黙り込んで静馬は考える。


(英雄とは真反対じゃないか……俺の狙撃は)


「おい、夜鳥羽」


 考え込んでいた静馬に三太夫は話しかけた。


「──!?」


「次は、負けねぇからな」





◇◇◇

 天照国(あまてるのくに)煉斎(れんさい)歴19年8月。

 太陽が照り付け、蝉の声が響き渡る夏。鶴崎城の幽澱軍が挙兵、鎌松砦へと進軍したことが報告された。鶴崎平野撤退戦からわずか18日のことである。


 幽澱帝国軍の戦闘に立つは、鶴崎城を治める将軍・ベイル。そして───


 【六幽魔】が一人、【獅閃(しせん)】のグリフォイア。猛獣のような戦闘スタイルで白嶺地方を恐怖に陥れた一人である。彼が持ち場を離れ、ベイルに合流したことは、帝国が鎌松砦潰しに本格的にとりかかったことを意味した。


 鎌松砦は急造の建築物、砦に籠る戦いには向いていない。鎌松砦の軍を指揮する英雄・藤堂大佐は進軍を選択、地の利を活かすことを優先した。


 このままいけば両軍は奇しくもあの夜、ディートと藤堂大佐が撃ち合った林道前の平原で相対することとなる。





「何なんだ、この部隊は……? 一体どこに行くってんだ」


 三太夫は森の中を歩きながら不安も抱えていた。錆丸小隊100名は本陣を離れ、林の中を踏み入っていく。その行先は、戦場予測地点とは反対側である。


 三太夫の目線の先に映るのは、部隊の先頭で錆丸中尉と親しげに話す夜鳥羽静馬。


「あいつも何なんだ、マジで」



「錆丸中尉、次の狙いは誰ですか」


「お、板についてきたじゃねぇか、夜鳥羽。次の狙いは【獅閃(しせん)】のグリフォイア。奴が出てきたってことは、クライネの死で帝国が動揺している証拠だ。手強いが、確実に革命の風は吹いてきてる」


「【竜閃】のディートはどこに行ったんでしょうか……」


「今のところ目撃情報はない、多分、藤堂大佐と撃ち合ったときに負傷でもしたんだろ。だがディートの完治を待たずして、わざわざグリフォイアを呼び寄せたってことは、こちらを危険視しているってことだ、気を抜けねぇ」


「グリフォイアが元々居たところが手薄になりますね」


「あぁ、奴が元々居たのはここからもっと北西、天照海(あまてるかい)沿岸の地域だってよ。我々の伝令が走り、天照海に陣を敷く第三師団が挙兵する算段だ。我々第四師団の活躍で帝国を動かした。夜鳥羽、お前の手柄だな」


 そう言って錆丸は静馬の背中を叩いた。


(手柄……!? 静馬の手柄って言ったのか錆丸中尉は!?)


 太い幹や根が蔓延る森、どうしても隊列は崩れてしまう軍の中、錆丸中尉と静馬の会話の内容が気になりこっそりと二人の後ろまで詰めていた三太夫は、会話の最後の部分だけを盗み聞いていた。


(夜鳥羽が何したって言うんだよ……一発しか撃てねぇ雑魚だぞ? いや……それとも、まさか……)


 三太夫が考えている間に、錆丸小隊は目的地に到着する。そこは山の中腹にある廃村・天狗(てんぐ)村であった。


 かつて幕府により異宗教を禁じられた時代、熱心な教徒が隠れ住んでいた集落である。小隊の目を引くのは不釣り合いなほど背の高い教会だ。白かったはずの壁は灰色にくすみ、漆喰はところどころ剥がれ落ち、骨のような木材が露出している。


 部隊の一部を外に残し、中を探索する。尖塔は空を突き刺すように立ち、頂の十字架だけが、まだかろうじて形を保っている。風が吹くたび、どこかで軋む音が鳴り、まるで誰かが中で祈り続けているかのように響く。


 尖塔の上部には展望台があり、そこまで梯子で上ることが出来た。そこからの景色は、静馬の望遠単眼鏡(モノクル)を通して、両軍がぶつかるであろう戦場が良く見えた。錆丸中尉は静馬とアイコンタクトをしてから、展望台に静馬を残して梯子を下りる。そして外に残していた小隊と合流した。


 外には教会を囲むように、低い家々が寄り添っている。どれも戸は外れ、障子は破れ、生活の痕跡だけが取り残されている。囲炉裏の跡、倒れた桶、朽ちた数珠。だが奇妙なことに、どの家も外から中を覗き込めるほど荒れているのに、踏み荒らされた形跡はない。


 夜鳥羽を除いた錆丸小隊は、広場に集まる。誰も夜鳥羽が居なくなったことに気づいていなかった、三太夫を除いて。


 錆丸中尉は小隊の兵に向かって話し出した。


「我々の目的はここ、天狗(てんぐ)村の防衛だ」


 およそ100名の兵士達はざわついた。無理もない、国の命運を左右する戦争が始まろうとする中、ほぼ価値のない小さな廃村を守ろうとしているのだから。彼らの真の任務は夜鳥羽静馬の護衛、だが、一般兵にそれが知らされることはないのだ。



 静馬は教会の展望台から、平原を見ていた。


 その時、オオオオオという唸るような叫び声が遠くから聞こえた。次の瞬間、空気を裂くような光が一閃し、遅れて乾いた破裂音が届く。一つ、また一つと、閃光が地を舐めるたび、兵の列が崩れ、土煙が立った。


 開戦である。


 望遠単眼鏡(モノクル)を覗き、静馬は戦場を見渡す。その中、一際輝く閃光を放つ男を幽澱帝国陣営で見つけた。


 獅子の鬣のような豪快なベージュの髪、鷲の翼のような黒いマントを羽織る巨漢。事前に聞いていた通りの風貌。静馬は静かに狙いを右手を突き出し、展望台の欄干に固定した。


(狙撃は卑怯なのか……?)


 そんな考えが一瞬よぎる。だがすぐに振り払った。集中する、しなければならない、錆丸小隊は自分のために動いてくれている。彼らに報いなければならないのだ。


 蝉の声はもう聞こえない。心臓はもう跳ね上がらない。

 息を止め、力を指先に籠める──────


 その時。


 爆発音がした。悲鳴と瓦礫が吹き飛ぶ音も続く。


(近い……!)


 静馬は狙撃を止め、振り向き、展望台から村の方を見下ろす。そこには───


「くくく、ホントに居やがったぜ。アマテルの猿共が。

 クライネの言った通りだ、うじゃうじゃしてんな」


「【竜閃】のディート……! なぜここが」


 錆丸はディートと対峙して、そう呟いた。突如として目の前に現れたのは、ディート率いる幽澱帝国の別動隊。数にして300は下らないだろう。


 ディートは一際背の高い教会を見てニヤリと笑い、話し出す。


「あの教会が怪しいなぁ。さぁ、狙撃手狩りだぜ」






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