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【暗中飛躍の狙撃手】~軍で落ちこぼれだった少年は誰にも届かない射程で弾幕戦争の英雄になる~  作者: 飛鷹 灯
第六章 紅羽大戦編

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第三十一話 未来の英雄


「夜鳥羽さん!? 夜鳥羽さん!」


 不安から固まった静馬に、鳴波矢 夕(なるはや ゆう)は叫び続ける。


「あなたが撃たなきゃ! 誰がこの戦場を救うんだ!」


 その時。戦場で動きがあった。


「……!」


 静馬には、そ(・)れ(・)が光に見えた。



◾️戦場東側



「待て!!!」


 幽澱の援軍兵に担がれて下がっていくルカに、藤堂朝人は叫んだ。


 ルカは、援軍の肩の上で、目を覚ます。状況を理解し、笑う。


「……勝負はお預けだな、未来の英雄!」


 朝人は想像していた。奴の異常なポテンシャル、異端の閃弾特性、ルカを生かして返してはこの先脅威になる。それこそ、【六幽魔】級の───


「させねぇよ……」


 朝人は呟いた。そして近くにいる指示を出す。


「今村部隊! 坂口部隊! 一斉掃射!」


 それは朝人の指揮権外の部隊。だが、朝人の勢いに応えるように、彼らは幽澱援軍に閃弾を放つ。


 幽澱の大盾兵は地面に盾をつき、耐える姿勢を見せた。その隙に、ルカを担いだ士官と、その近衛兵を逃がす腹づもりだ。


 そんなこと、朝人はわかっていた。


「うおおおああ!」


 朝人は駆け出す。落ちていた味方の盾を拾い上げ、幽澱の盾兵のバリケードへと突っ込んでいく。


「【焔苑狐(エンエンコ)・四翠(シスイ)】!」


 超高密度の火炎を幽澱軍の盾に当て、その衝撃で盾を揺らす。朝人は自らの盾を捨て、その斜めになった敵の盾に飛び乗り、空へ舞う。


「【焔苑狐(エンエンコ)・八雲(ヤクモ)】」


 折り重なる雲のような、広範囲の八発の火炎を上から叩き込む。盾兵たちは這いつくばるしかない。


 地面に着地し、すぐにルカが担がれていく方を見た。20名ほどの別働隊、その中央に敵の士官。奴に担がれているのがルカ!


「【焔苑狐(エンエンコ)・一閃(イッセン)】」


 狙い澄ます鋭い火炎。だがそれは士官の側近の盾に阻まれる。


「お、やるじゃーん!

 でも、お前じゃ届かないよ? ざんねーん」


 幽澱の士官が振り返り、朝人を煽る。


「……そうかもな。

 でも、俺(・)た(・)ち(・)なら……!

 【焔苑狐(エンエンコ)・九尾(キュウビ)】!」


 朝人の捨て身の猛攻。青白い火炎が敵の防御を撃ち崩し、隊列に乱れが生まれた───────





────それを遠くから、静馬は見ていた。


 そして、朝人の言葉を思い出す。


『気負いすぎるなよ。戦場には俺がいる。狙撃手(静馬)のことを知ってる俺がな』


「朝人…………!」


 静馬は見えた。朝人が切り拓いた、狙撃の道筋が。そして迷わず腕を構える。不安はとっくに晴れていた。


 



 捨て身の特攻で勢い余り、地に伏していた朝人は叫ぶ。


「いるんだろ? 静馬ァ!」


「朝人、ありがとう……

 【夜天穿(ヤテンセン)】!」


 静馬の渾身の一撃。それは今まで放ったどの狙撃弾よりも、速く、鋭く研ぎ澄まされていた。


 夜天穿は、空気を裂き、戦場を駆け、盾兵の隙間を抜ける。

 そして、ルカの胴体を撃ち抜いた。


「……がぁっ……!!」


「ルカ!」


 担いでいた士官は、ルカを貫通した夜天穿を肩に喰らいながら、彼を慮る。が、やがて彼の力が無くなっていくのがわかった。


「おのれ……! そいつを殺せ!」


 士官は朝人を見た。

 ルカを討ち倒すため、突撃した代償は大きい。朝人の前方には士官とその側近。背後には炎熱から抜け出した盾兵たち。


「……ここまでか」


 朝人は静かに目を瞑る。生き残った上で英雄と名乗れるのはほんの一握り、と朝人は悟った。


 だが〝ルカという将来の脅威を排除した〟その功績はまさに、未来の英雄。


「静馬、あとは頼んだぞ」


 朝人は呟いた。士官が腕に力を込め、閃弾を顕現させる。その時。





「───目を開けろ。朝人」



 低い声。聞き慣れたその声に反射的に朝人は目を開ける。


「【焔苑狐(エンエンコ)】」


 左方から飛んできた爆炎が、幽澱軍を蹴散らした。


「……!?」


 朝人はその飛んできた方をを見る。


「……親父……!」


 そこに居たのは、英雄・藤堂黎次率いる第一大隊。桐野中将の命により来た援軍である。


 藤堂大佐は朝人の腕を掴んで言い放つ。



「俺を超えたくば、生きることを諦めるな」


「……」


「そして、俺より早く死ぬことは許さん。いいな」


「……はい」


 藤堂大佐は火焔をさらに生み出すと、こちらを睨む幽澱軍に放った。


「……トウドウ……レイジ……!!!」


 士官はそう叫び炎に包まれていく。


「行くぞ、朝人。久世原の部隊に続く。この戦は俺たち東側が担っているんだ」


 そう言ってから藤堂黎次は、横たわるルカを見た。


「………………」


「親父……?」


 朝人は不審がる。


「……いや。なんでもない。……良くやったな、朝人」


「は、はい……!」






■紅羽支部北門屋上


「鳴波矢さん、朝人は……朝人は大丈夫ですか?」


 静馬は、一発放った影響で膝に手をつき、顔を上げれないでいた。


「朝人さんは無事っぽいです! 英雄の援軍が間に合いました!」


「……よかった」


「夜鳥羽さんこそ大丈夫ですか?」


「は、はい……」


 いつもより動悸が激しい静馬は座り込む。


「……ま、一旦休みましょ。

 体力が回復したら二発目、期待してますから──────

 ───!」


 そこまで言って、鳴波矢は何かに敏感に反応した。


「どうしました、鳴波矢さん」


「いや……下の階で人の気配が」


「……え? 気配?」


「えぇ、まぁ。

 にしても、今、部隊は出払っているはずですが……まさか──────!」


 鳴波矢は、その小さな身体でいきなり静馬の身体を持ち上げて、無理やり担いた。


「え? ちょ、ちょっと!?」


「夜鳥羽さん、失礼しますよ。逃げます!」


 鳴波矢は、静馬を担いだまま、屋上の入り口へと駆け出す。鉄の扉を開け、階下へと続く無機質な階段を駆け下りた。


「──────こっちはだめだ! この気配、何人居るんだ……!?」


 鳴波矢はそう呟いて階段を下りるのを止め、4階の廊下へと出る。

 左右を素早く見渡すと、足音を殺しながら薄暗い廊下を右に進んだ。


「ちょ、鳴波矢さん?」


 鳴波矢は、廊下の突き当り。鍵の開いていた物置部屋の扉を開けて、そっと静馬を床に降ろした。


「しっ! 静かにしてください」


「……!? 一体、何が──────」








「──────屋上、目標はいません」


 小さい声が階段に響く。


「馬鹿、もっと小さい声で話しやがれ。屋上にいないのなら、この建物の中に隠れているということだ。狙撃手ちゃんがな、へへへ」


 天照軍の青い軍服を着た、金の弁髪が左目にかかる不気味な男は、そう静かに部下を諫めた。幽(・)澱(・)語(・)で。


「隊列を整えろ。潜入は終わりだ」


 そしてその青い軍服を脱ぐ。顕わになるのは、深紅の軍服。幽澱軍の証。そして彼の部下3人もそれに続く。


「狙撃手を探せ。そして首を持ち帰るのだ。首から下は自由にしていいそうだぜぇ、どうしてやろうか、楽しみだなぁ」


 彼は幽澱軍・クライネ私設兵隊長・バルボラ。豪快さと繊細さを兼ね備えたクライネの側近は、不気味に口角を上げる。


「我ら4人で、クライネ様を御支えするぞ。メルクリウス殿から参謀の座を取り返すのだ、へへへ」


「は!」


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