第三話 藤堂朝人
パシュンと静馬の閃弾が鉄鎖谷三太夫の額に命中すると、三太夫は大きく尻餅をついた。
「静馬君……静馬君の勝ちだっ……!」
小柄な男、真桑雄介が叫んだ。
三太夫はすぐに起き上がり、低い声で話し出す。
「そんなヒョロヒョロ弾でっ……勝った気になんなよっ……!」
三太夫の右手にエネルギーが集中する。そのまま右腕を突き出した。
「まさか! もう勝負はついたのに……!」
雄介の声に三太夫は叫ぶ。三太夫の目先には、体力を使い果たした静馬。
「うるせぇ! くたばれ夜鳥羽! 【蜂怒──」
──パシッ
三太夫の右腕を掴んだのは藤堂朝人。英雄の息子である。
「……あ?」
「元気そうだな、次は俺が相手になろうか?」
「……チッ。やめとくぜ」
朝人の鋭い眼力に三太夫は閃弾を鎮め、くるりと踵を返す。落ちていた鉄製の盾をヒョイと持ち上げると、静かに罰ゲームであるシャトルランを始めた。
「藤堂君、ありがとう……」
真桑雄介は感謝する。が、それをよそに、朝人は遠くを指差した。
「おい、それよりも夜鳥羽は大丈夫なのか?」
2人の目に映るのは、倒れている静馬。2人は急いで医務室へと運んだ。
白い天井。鼻をくすぐる消毒液の匂い。バッと静馬は体を起こす。
白いカーテンに、白いシーツ、薄いベッド。窓から差し替えるのはオレンジ色の太陽光。
(寝ていたのか……)
静馬はベッド際の丸椅子に座っている男に気づいた。
「藤堂……朝人」
英雄の息子。黒い髪に鋭い目、視線を落として小説を読んでいる。こちらに気付いて口を開いた。
「起きたか、夜鳥羽。呆れるやつだ、休憩時間で気絶するとはな。教官は怒り狂っていたぞ」
「うげ、やっべー……ま、でも俺を見ていてくれたんだな。ありがとな、藤堂。」
「……真桑も途中までいた、今は居残り訓練中だがな。……あと、俺の呼び方は朝人でいい、英雄と同じ呼びは勘弁だ」
「親父さんが嫌なのか?」
何の気なしに静馬は問いかけた。少し間が空いてから朝人は話し出す。
「別に。ただ俺は〝親父を超える〟それが目標なだけだ。……夜鳥羽、お前は英雄になりたいんだったな」
朝人の逆質問に静馬は胸を叩いて答える。
「そうさ! みんなに希望を与えるあの英雄のようにな!」
「──どうやって? 具体的には? 何がゴールなんだ?」
詰め寄る朝人。静馬は困惑しながら答える。
「ぐ、具体的に? そりゃあ……戦功を上げまくって、英雄とおんなじ階級の大佐を目指す!」
ハァとため息をついて朝人は静馬の話を遮る。
「俺たち一般兵は〝士官〟にはなれないよ、夜鳥羽。もちろん大佐にもね」
「ええっ…! そうなのか!?」
「……基本的に士官学校を卒業したエリートが昇級を重ね、大佐になることができる。少尉から始まり、中尉、大尉、少佐、中佐、大佐だ。その後の位もあるがな」
「で、でも朝人、お前も一般兵じゃないか。お前もミスったのか?」
「馬鹿にするな、馬鹿」
「なにっ…!」
静馬の仲間意識のこもった目を冷たい一言でぶった斬る朝人。続けて話す。
「……ホントに何にも知らないんだな。
〝戦時任官〟制度!
緊急時につき俺たち一般兵も士官に昇級できる制度だ。幽澱に侵略されつつある今だ、士官もどんどん討ち死にしている……当然、この国の緊急時だ。一番重要なのは、親父もこの制度で成り上がってるってことだ」
「……! 英雄も……〝戦時任官〟!」
「俺は、戦時任官から這い上がった親父とあえて同じ道を行く。それでこそ正真正銘親父を超えた、と言える、それが俺の目標だ。戦時任官はいくら緊急時のものとはいえ狭き門、一般兵の中で英雄を目標とする夜鳥羽とはライバルになると思って気になっていたが……期待外れだったな」
「……! ちょっと待てよ、それだと英雄と同じじゃないか、どうやって超えるつもりなんだよ」
「……まず【六幽魔】を攻略する」
【六幽魔】。白嶺地方に来航したのち、瞬く間に白嶺地方を蹂躙した恐るべき幽澱帝国の六将である。彼らとの戦闘は必至、天照国陸軍は【六幽魔】の打倒を目指しているのだ。
息を吸って、朝人は続ける。
「でもな、夜鳥羽。奴らを討ち取るだけで本当に侵略が終わると思うか?」
「え……?」
「俺は思わない。だから……〝皇帝殺し〟だ」
眉間に皺を寄せ、朝人は低い声で言った。
静馬は並々ならぬ覚悟を感じ取る。
「皇帝……幽澱帝国のか」
「あぁ。俺はいずれ幽澱帝国がある大陸に乗り込む! そして暗殺する、このクソみたいな侵略を企てた元凶、幽澱帝国の【皇帝】をな……これで俺は英雄を超える」
「……っ! 敵地に乗り込む……考えもしなかった」
頭を金槌で殴られたような感覚。淀みなく言い切る朝人に、静馬の心臓はドクンと高揚する。
「──……クソ、悪い。話し過ぎた」
朝人は我に帰ると、バツの悪そうに立ち上がり帰ろうとする。
「あ、おい、待ってくれよ朝人! 俺も、俺も目指すぞ、戦時任官!」
「……そうか、大事にな、夜鳥羽」
そう言って朝人は病室を去った。
廊下に出て朝人は長いため息を吐く。
(何で喋っちまったんだろ……クソ)
◇◇◇
その日の夜。白嶺地方・幽澱帝国領。
旧若津藩の名城・鶴崎城。かつて、尊王攘夷の倒幕派によって行われた天照国の大規模内乱において、旧幕府軍が二ヶ月間もの間、籠城し続けた難攻不落と名高い城である。
だが現在、その城も幽澱帝国の手に落ちていた。かつての堅守の栄光は、時を経て自国へと牙を剥く。
その頂上。
蝋燭の火が揺らめく天守で、碧い瞳、白い髭の老人は2人の部下に命を下していた。
「先の戦い、見事であったぞ。ディート、そしてクライネ」
「は、ありがたきお言葉です。ベイル将軍」
「ったりめぇだろ、おっさん」
「……口の聞き方を治せと何度も言っているはずだ。ディート、美しくない」
青い毛糸の帽子をかぶり、深紅の軍服に身を包む金髪の男・クライネはディートを睨んだ。
「あん? 引きこもり野郎が、誰にクチ聞いてんだ?」
深紅の軍服を着崩した、焦茶色の短髪の粗暴な男・ディート。それを見ていた鶴崎城を治める将軍・ベイルが仲裁に入る。
「ディート、クライネ。落ち着きなさい。君たちが天照国の者どもになんて呼ばれているか知っておろう? のぉ、【六幽魔】の2人よ。主らの力を合わせることこそ、天照国攻略の近道ぞ」
「へいへい、わかってるってば、ベイルのおっさん」
「ディート。そのような考え方では足元を掬われるぞ」
「アマテルの猿どもなんざ、俺様の閃弾の足元にも及ばねぇ。……いや、1人居たな。活きのいい猿が」
ディートの呟きにクライネは頷く。
「あぁ、〝藤堂黎次〟。天照国の生命線、奴を狙う……英雄狩りだ。美しく、な。」
ベイル将軍は、ディートとクライネの話を聞きながら嬉しそうに頷く。
「ほほほ、わかっているなら良い良い。藤堂は2人に任せるぞ。
幽澱帝国陸軍中佐、【竜閃】のディート。
そして陸軍参謀、【鳳閃】のクライネよ」
「へいへい」
「はっ!」
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