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【暗中飛躍の狙撃手】~軍で落ちこぼれだった少年は誰にも届かない射程で弾幕戦争の英雄になる~  作者: 飛鷹 灯
第五章 白嶺の鎮魂歌編

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第十九話 白銀の前奏曲


「ヨっ! ほっ! ハイィ~!」


 本州最北端の陸軍基地、筒軽(つつがる)支部の前で雪に埋もれていた幽澱人の大道芸人・プレリュードは、保護のお礼に芸を披露していた。


 ワァと筒軽(つつがる)支部の小さい会議室は歓声に包まれる。


 ショーが終了するとお開きとなり、筒軽支部の兵は自分の持ち場へと帰っていく。その中。

 プレリュードは、立ち去る久世原の背中側から肩を叩いた。久世原はその手を振り払うように体の向きを変え、プレリュードに向き直る。


「見てたヨ。アンタ、全然俺の芸で笑っテナかったネ」


「……別に。単純に面白くなかっただけだ」


「な……! 面白くナイだト!?」


「用が済んだら元居た場所に帰れ、陸軍も暇じゃ──────」


 久世原の言葉を遮るように、久世原の肩にプレリュードは掴みかかる。その目はキラキラと輝いていた。


「じゃあ、お前はもット面白イってことカ!? 見てミタい、お前の芸!」


「は!?」


 戸惑う久世原。掴みかかるプレリュードの腕を引きはがしたのは笹良木中尉だった。笹良木はプレリュードに語り掛ける。


「ごめんなぁ、プレリュードさん。逆だよ逆、久世原(コイツ)はつまんない男なのよ。芸の楽しさが理解できない寂しい男なの、許してやってよ」


「おい、笹良木……!」


「そうなのカ……かわイそウ。お前」


「そうでしょー。なんとかなんないかねプレリュードさん」


「おいってば」


「俺が芸を教エテやルよ。ハイ、これジャグリングって言ッテ──────」


「黙れぃ! お手玉くらい知っとるわ!」


 久世原は手渡されたボール3個を天井に放り投げ怒って部屋を出る。


「くそっ……」


 久世原は腹を立てながら、彼の持つとある悩みを思い返していた。


 もうすぐ1歳になる娘が懐かない。全く。

 抱っこをしようが、()()()()()()()()をしようが泣き止まない。


 妻からは、『あなた、楽しくなさそうなんだもの。きっと怖いのよ』と言われる始末。


「おい久世原っ」


 笹良木の声がして振り返る。と、ホイと、3つの小さなボールを投げられた。


「あっおい」


 ぼとぼとを落ちたそれらを拾い集める久世原に笹良木が近づく。


「これって思ったより難しいのな。あ、ボール(それ)な、プレリュードからのお礼だってよ、お前が一番に掘り出したんだろ?」


「……! 

 ……大道芸……か」


 久世原はボールを見つめながら、そう呟いて懐にしまった。



◇◇◇


 翌日。昼。


「はっ! はっ! はイッ!」


 筒軽支部の横の空き地で、大道芸の練習に励むプレリュード。


「おい」


「ン?」


 声をかけられ振り向くと、そこには久世原がいた。

 彼の右手にはボールが3つ乗っている。


「……」


 何も話さない久世原。それどころか、どこか悔しそうな表情を浮かべる。


「ドウした?」


「……その……お前の大道芸を、少し教えて……くれないか」


 プレリュードの顔が明るくなる。


「! 教えてヤルとモ! どうしたンダ急に!」


「娘の前でやって見たんだ、ジャグリングって奴を。そしたら笑ってくれた。もっと上手くなれば、もっと笑ってくれると思って」


「ジャグリングは難しかったロ?」


「あ、あぁ」


 すると、プレリュードはニカッと笑う。


「お前ノ娘は、ジャグリングを見て笑ってたんジャない」


「え?」


「ボールがあちこちニ飛んでいきソレを拾う。目線は3つのボールに惑わサレあちこちを向く。きっト娘は、そんな懸命に、楽しそうに取り組むお前の姿ヲ見て笑っタンだ」


「……!」


「でもナ、笑われてルようじゃ3流ダゼ。〝人を楽しませ笑顔ヲ生み出す〟大道芸の真髄、叩き込ンでやるヨ」


 そう言って左手を差し出すプレリュード。


 久世原は、プレリュードが披露した芸に笑顔になる同僚たちの顔を思い出した。


「……恩にきる」


 二人はグッと力強い握手をする。



 それから二人の特訓が始まった。久世原は訓練や任務の間を縫ってはプレリュードの元を訪れ、練習を繰り返す。


 一歳になる娘と妻に度々披露する日々。妻と娘は飽きることなく楽しんでくれ、久世原はそんな二人の笑顔の質が変わってきたことに気づいていた。



 そんなある日。筒軽支部横のいつもの空き地。まだ雪が降り積もる2月の終わりのことだ。


「気づいたよ、プレリュード」


「クゼハラ、どうした?」


「ようやく、俺、二人を笑わせられた。

 『次、どんなことをしてくれるんだ』って思われてるのを感じるんだ」


「ふふん、そうだろウ?」


 プレリュードは自慢げにニカッと笑う。


「次の技も教えてくれないか。二人の期待に応えたいんだ」


「スッカリ芸の虜だナ、クゼハラ」


 その時。


「くっ久世原中尉! 筒軽海岸警備兵からの通報でっ……!」


 慌てた兵が空き地に飛び込んできた。


「どうした、山崎少尉」


「幽澱帝国が……幽澱帝国が我が国に宣戦布告しましたっ!!」


「なんだと……!?」


 山崎少尉と久世原中尉は一斉にプレリュードの方を見た。


「馬鹿ナ……ありえナイ」


 血の気が引いた顔でプレリュードはそう呟いた。


「俺が説得しテクる」


 そう勇むプレリュードを久世原は止める。


「待て、危険すぎる。第一、お前の説得で止まるワケがないだろう」


「そんなノ、やってみナクちゃわかラない。

 天照国ニ渡っテ自分の芸を披露すルなんて、幽澱の仕事仲間に笑わレタさ。でも、今、みんなが受け入れてくレタ」


「それとこれとじゃ、話が違うだろう!」


「俺は自分ノ可能性を試しタクてこノ国に来た。可能性があルなら、そレニ賭けてみたいンダ。

 明日には、もしカシたら俺がこの国ノ英雄かモ知レないぞ、クゼハラ」


 プレリュードはそう言って笑うと、一気に駆け出した。


「おい!」


 久世原が呼び止めるも、プレリュードの背中は遠のいて行った。





────同時刻。


 次々と筒軽港に上陸する幽澱帝国軍。


 そこからは地獄の連続だった。





宣戦布告は11年半前のことですが、11年間も続けて戦争をしていたわけではありません。

二度の停戦期間を経て、現在の時間軸では戦争が起こっています。

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