第十五話 獅子と鳳凰
紅羽港に進軍する幽澱軍。彼らが到着する前に、天照国は紅羽港封鎖戦線を築いた。紅羽港へと続く大きな街道には途中、整備はされているものの林の中の街道を通らなければならないことを利用し、奇襲を仕掛ける作戦である。
静馬の役割は、その混乱の最中、敵将を撃ち抜くとの指示だった。それがプラン1。
プラン2は敵将を撃ち抜ける状況にない場合にて発動する、それはリストに載っていた天照国の将の暗殺である。
狙撃手は最上級秘密であるため林の本陣から少し離れたところで待機する静馬。彼の両肩には狙撃と暗殺の二つの重圧がのしかかっていた。
「久世原少佐……あ、いや中佐ってよ、何考えてるかわかんねぇ時あるよな」
錆丸中尉はそんな静馬の肩をそっと叩く。彼は久世原中佐の腹心、すべてを聞いているようだった。
「錆丸中尉……」
「中佐の全てを信じる必要はないさ」
「え……いやしかし……」
「今は、少なくとも幽澱の将軍を撃ち抜くことが重要だろ? チカラを持ってるのは、夜鳥羽、お前なんだ。久世原中佐のことが信じられなくなったら背中を撃ち抜いてやればいいんだ、そうだろ?」
「……!」
静馬は驚いた表情を見せたあと、笑った。
「はは、そうですね。でもやりすぎですよ」
「たしかに言い過ぎたな! だが、ま、俺はそんな感じの心持ちでやってるってことさ。俺は久世原中佐を尊敬しているが、あの人が道を踏み外しそうなときは背中からしばいてやるつもりだ」
錆丸は手を振り抜くジェスチャーをしてみせた。
「それはちょうどいいですね」
静馬の心は少し軽くなった。その時。
「あ、ほらほらいたよ」
──────聞き慣れない言語が聞こえた。
「───幽澱語!」
後ろを振り向くと、木々の間に居たのは二人の男。うち一人は見覚えのある恰好だった。
緋色の軍服、金髪、青いニット帽。
「……クライネ!」
「君がヨトバかな」
不適に笑うのはクライネ。錆丸は冷や汗をかく。無理もなかった。林の中にたたずむのは【六幽魔】の2人。【鳳閃】のクライネ、そして【獅閃】のグリフォイアなのだから。
「おいおいマジか。なんでここにいやがるっ……!」
「チョーットお話したいンだケドサ」
下手な天照語で話すクライネに対して、戦闘形態に入る錆丸。
(クライネら、夜鳥羽の存在に気づいてる!)
「直々に殺しにきたってか!? させねぇよ!」
錆丸は三種類の閃弾を同時に顕現させた。彼の器用さは英雄にも真似はできない。
「【風煙】! 【彩色・紅】!」
錆丸は煙幕を張り、さらに赤色の信号弾を撃ち上げた。それは緊急事態を表す。
「そして……【迸雷】!」
横にいた静馬は驚いた。
久世原中佐の得意とする閃弾特性【迸雷】。稲妻のようにジグザグに曲がる閃弾は天賦の才などではなく、努力によって習得できるものであった。その威力、弾数は中佐に劣るものの、煙幕の中を突き付けてくるそれらはクライネ達を翻弄するのに十分なものであった。
錆丸に落ち度はない。あるとすれば規格外なのだ、六幽魔が。
「ヨトバ……! 殺す……! 【獅迅牙狩】ンン!!!」
ディートを撃ち抜かれた憎しみを力に変えるグリフォイア。
放たれたのは尖った閃弾。それは着弾地点で鋭く抉る、木の幹も、地面も。
そしてその威力に、副作用的に衝撃波が引き起こされた。それにより錆丸の【迸雷】はかき消される。
煙幕に乗じて逃げる錆丸と静馬。背後から聞こえる地面を抉る音に戦慄していた。
「馬鹿、ヨトバは殺しちゃだめだ」
クライネはグリフォイアの頭を軽くはたく。
「でも、あいつ、許せないよ! クライネだっていつかは殺すんだろう!?」
「まぁね」
「ちょっとぐらい痛い目見たっていいじゃないか! あぁもうこの煙邪魔だな」
グリファイアは揺らめく煙を手で仰ぎながらそう言った。クライネは笑う。
「ホラ落ち着いて、彼らはまだ僕の手のひらの上だ」
────煙の中、逃げ回る錆丸と静馬。
「こっちだ!」
薄灰色の視界の中でも方向感覚を保っている錆丸が静馬を先導する。
その時。
白く光り、羽ばたく鳥が目の前に現れた。羽毛は神々しく逆立ち、三本の尾がたなびいている。
「見つけた」
煙から現れたのはクライネ。錆丸は思わず仰け反る。
(ここまで正確に……!?)
クライネの閃弾【鳳凰暁風】は、輝く鳥の形をした閃弾であり、その最大の特徴はその鳥と感覚を共有している点である。閃弾の半径は約200m、すなわち、クライネを中心とした直径400mの円の上は彼の掌の上。
「くそっ……逃げろよ、夜鳥羽」
錆丸はその光る弾丸に撃ち抜かれる。
「錆丸中尉!」
静馬は叫んだ。錆丸のそのふらつく足元には段差があり、灰色の煙へとそのまま倒れ消えた。
「さて」
クライネは静馬に向き直った。静馬は右腕を構える、が、その腕は震えていた。その時。
「おらぁっ!」
「ふぐっ……!」
静馬の右方、煙が揺らめくと、もう一人の六幽魔、グリフォイアが現れ静馬の腹を思い切り殴った。
「駄目だと言ったろう、グリフォイア。ま、ちょうどいいか」
倒れ込む静馬を持ち上げてクライネはそう言った。
その横で、すっきりした顔をしたグリフォイアはクライネに訪ねる。
「でも、どうすんのさ。その狙撃手を」
「ん? どうしよっかなー。まぁ、懐柔か……拷問かな」




