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【暗中飛躍の狙撃手】~軍で落ちこぼれだった少年は誰にも届かない射程で弾幕戦争の英雄になる~  作者: 飛鷹 灯


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第十四話 冷徹な革命者


 紅羽基地・一般兵士の食堂では等々力大佐の不審死の話題で持ちきりだった。


 等々力大佐の第二部隊でその暗殺を間近で見た兵士の周りには人だかりが出来ている。


「だから、何度も言っているだろって。山の中腹くらいから一閃! ありゃ人間業じゃねぇよ」


「ほんとかよ、等々力大佐の不祥事で死んだことにしてるとかじゃなくてか!?」


「バーカ、なんで軍が等々力大佐個人の不祥事を庇うんだよ」


 別の兵士が割って入る。


「じゃ、じゃあ軍の上層部の黒い噂があって、それをバラそうとした等々力大佐が口封じされたとか……」


「陰謀論が好きだな、お前らは。でも実際助かったのは事実だけどな。俺は今でこそ回復しちゃいるが、第二大隊があのまま進軍してたら、帝国と戦う前に衰弱しきる所だった」


「そうか、わかったぞ。暗殺犯は無茶な進軍から第二大隊を救う影の英雄なんだ! 軍に不要な者を次々に消していく正義の暗殺者!」


「んなわけねーだろ。何度も言うが、山の中腹から一閃、普通じゃ届かない距離だ。俺の見立てじゃあ、あれは幽澱の新兵器だね」


 その時。雄弁に語るその男を取り囲む群衆を割って入る者がいた。


「今、何と言った」


 鋭い口調でその男の肩を掴んだのは藤堂朝人。


「お前は……英雄の息子の……」


「朝人でいい。で、何と言ったんだ」


「え? いや幽澱の新兵器かもって……」


「その前だ」


「えっと……普通じゃ届かない距離? 山の中腹から一閃のこと?」

 

 その言葉を聞き、朝人の脳裏によぎるはあのシーン。鶴崎平野の森で、朝人を窮地に追いやったバルトを貫いた、空を駆ける流星を。


「すまない、恩にきる」


 そう言って朝人は駆け出した。辿り着いたのは、朝人の上司、笹良木少佐の部屋。


「おおどうしたどうした、藤堂朝人上等兵」


 笹良木少佐はお茶を飲もうとしていた手を止めた。


「笹良木少佐……少佐の言った通りでした」


(バルトを撃ち抜いたのが、異常に射程の長い人であれば納得できる……! つまり───)


「あの時救ってくれた人と今回の等々力大佐暗殺犯は同一人物の可能性があります」


「……! がはは、そうか!」


 笹良木は豪快に笑うと勢いよく湯呑みを机に置いた。そして続ける。


「くく、ようやく見えてきたな、やっぱり実在しやがるんだ、狙撃手は。

 そしてこれは想像に過ぎないが、その狙撃手は久世原の部下だ!」


「……なぜ、久世原中佐の部下だと?」


「あいつは昇級第一の男だからだ、手段は選ばんさ。それと、〝天狗村〟の一件だな」


「久世原少佐の部隊が【六幽魔】のディートを討ち取った村……ですか」


「あぁ、お前のおかげではっきりした。天狗村は鎌松砦正面の戦場を撃ち抜くのに絶好の狙撃スポットなんだろう。幽澱もなんらかの方法で狙撃手の存在を察知し、天狗村に兵を送った。久世原はそれすら読んでいて兵を送り込んだってところだろうな」


「なるほど……」


 笹良木少佐の推理に感心する朝人。笹良木少佐は、高い情報処理能力と洞察力で戦果を挙げ続け、士官間の競争を勝ち抜いてきた男、その実力は伊達ではない。


「さて、問題は狙撃手が久世原の言いなりになってるってところだな。これ以上、久世原に狙撃の手綱を握らせれば、大佐以上の階級が狙われる。それは避けなければならない」


「……そうでしょうか。等々力大佐は功績こそ偉大ですが、それは部下を極度に消耗させることで得てきたもの……軍に不利益をもたらす者と判断されたのでは」


 朝人の意見に笹良木少佐はため息を吐いた。


「その〝不利益をもたらす者〟……つまり倒幕時代の栄光に乗っかってる権力ばかりの無能老人が多いんだよ、上に行くほどな」


「……! まさか腐った軍を再建するつもりですか! この戦時中に? 無茶だ!」


「それならマシな方だ。狙撃の力があれば軍を掌握するのも可能だろ? 久世原が作ろうとしているのは、狙撃の恐怖に支配された独裁軍かもしれん。想像の域を出ないから、人にむやみに話すわけにもいかないがな。だから藤堂上等兵、引き続き情報集めを頼む。久世原の尻尾を掴み俺たちで阻止するんだ」


「はい! 失礼します!」


 そう言って朝人は部屋を出た。

 部屋に残された笹良木少佐は湯呑に手を伸ばし緑茶を啜る。そして窓の外を見ながら笑った。


「くく……〝狙撃の恐怖に支配された独裁軍〟……か。狙撃手さえ掌握すれば、俺がその頂点……!!

 必ず奪いとってやる。……軍を駆け上がるのは俺だ!」




◇◇◇


「よくやった、夜鳥羽」


 いつもと同じ言葉で静馬をねぎらうのは、中佐になったばかりの久世原。

 広くなった久世原の部屋には、まだ等々力少将の荷物が残っている。


「……はい」


「納得いかないか」


「いえ……意味があったと信じていますから」


「わかっているなら、いい。

 だがまだ終わるつもりはない。軍上層部に切り込むんだ。奴らは天照国が侵略されているというのに変わろうともしない高慢と癒着に塗れた保身主義者ども、今のままの軍では幽澱に勝つことなど到底出来るはずもない。お前の力が必要だ、夜鳥羽」


 そう言って久世原は一枚の紙を手渡した。そこには、名前と顔写真、階級が掲載されている。彼らの階級はどれも大佐以上のものだ。少なくとも20名以上はいる。


「……これは」


「そこに載っているのは、暗殺対象だ。お前の場合、先に見せておく方が良いと判断し一覧にした。覚悟が決まったら表は燃やしておけ」


「はい」


「暗殺するときは俺が指示が出す、いいな」


「……はい」


 不安そうな表情を抱える静馬に久世原は活を入れる。


「英雄とは屍の上に立ち続け、全てを守り、希望を与え続けていく者! そうだろう?」


「……!」


「その屍になるのは一般兵のみだと誰が決めた。権力を盾に踏ん反りかえり、盤上の駒を動かすだけで空論を展開する無能どもこそ、真っ先に屍になるべきだ。全てを守るために」


「は、はい!」


 静馬の中で、揺れ動く。

 久世原(たすく)という人間が、冷徹な革命家なのか、狡猾な野心家なのか。







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