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友人がオレ/俺好みの美少女になってたんだが?  作者: 濃支あんこ


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やはりスーパーは全てを解決する その2

「えっ。ちょっと待ってこれ死んだ?嘘だろ、人間ってお酢切れたら死ぬの?てかお酢が切れるって何???」

「い、いいいいいやだから俺らはクラスメイトから橙田さんをスーパーに連れてけって託された訳で(?)ほらあれだろ急病人って救急車呼んで病院に連れてってもらうだろ?そんな感じでスーパーに救急はんそ、スーパーに救急搬送……???」

「自分で言ってて訳わかんなくなってんじゃねえよ、発言には責任を持て」

「スーパーに救急搬送するっつー意味不明ワードに付随する責任って何」


 当然、目の前もしくは腕の中で、意味不明な原因で女の子が力尽きたとなれば、どんなにリア充であろうと混乱に陥らない訳もなく。相対すのが自称童貞のJKとかいう謎存在ともなれば、尚更、混乱は避け難い。


「知らねえよそんなのオレが聞きてえわ!どーすんだよこれ!いやマジでスーパーに救急搬送が最適解なのか?嘘だろ???」

「でもそれ以外に俺らができることって、なくね……?」

「……」

「……」


 顔を見合わせ、黙り込む。最早気まずいだとか、昨日あんなことをやっておいて今日がこれかよだとか、言っている暇はなかった。原因が忘れ物とはいえ、張本人は意識を喪失しているのである。


「と、とりあえずスーパーに救急搬送、するか……?」

「そう、だな……」


 二人は、このままスーパーに行くことを選択した。こうして二人は、文化祭準備をサボるような、そうでもないような奇妙な形で、学校から離れることになったのだ。


「……」

「……」


 無言で、廊下を歩く。流石に羽交い締めのまま橙田を運ぶのは如何なものかということで、途中で青仁にも手伝ってもらい、梅吉が橙田をおぶることになった。それはそれで、背中に二つの巨大な質量兵器が梅吉にスリップダメージを与え続けているのだが。役得と思う男心半分、なんか色々形容し難いし絶対に言語化したくない感情半分により、どうにか正気を保っていた。


 周囲のクラスも当然、文化祭の片付けに勤しんでいる訳で。必然的に発生した喧騒と相反するように、二人だけが無言だった。無言で、ただただ廊下を歩き続けていく。

 当然だ、何故かお酢ゾンビパニックホラーとかいう胡乱なイベントが発生しているだけで、二人は恋路の結末を後回しにした翌日なのだ。本来ならば見ないふりをして、さりげなく顔を合わさずにしばらく感情の整理に専念したかったのに。

 以上の理由から、二人は結局ほとんど会話をしないまま、スーパーに辿り着いてしまったのだった。


「あー、えっと。マジでこれでいい、のか?……と、橙田さーん?す、スーパーについ、ヒッ?!」


 おそるおそる、梅吉が橙田に声をかける。しかし要件の全てを言い終わる間も無く、背中に抱えた彼女の身体がぴくりと動いた。

 思わず反射的に悲鳴をあげれば、動揺によって彼女を抱える腕が緩んだのを良いことに、橙田が勝手に梅吉の背から滑り落ちるように逃れる。


「お酢……」

「うわ早」

「えっ怖」


 そのまま、かつてないほどの速度でスーパーへと入店した。梅吉の知る限り、橙田の運動神経は女子として並、もしくは若干下程度だったと思うのだが。今の彼女は、梅吉と青仁に慌てて背を追わせる程の凄まじい速度で、スーパーを駆け抜けていく。


「なんで最短経路でお酢に辿り着けんの?」

「オレこいつのこと怖いかも」


 “必然”とでも言わんばかりに流れるように調味料売り場に到着した橙田は、いっそ賞賛したくなるほど華麗な手捌きでお酢(800ml)を三本確保し、速度を落とさないままレジへと向かう。無論、ご家庭の食卓の為、日々の買い物に勤しむ主婦の皆様の邪魔にならないように気を払いながら、である。もうここまで来ると狂気を通り越してプロの所業であった。

 いや徹頭徹尾正気の沙汰ではないし、なんのプロかと問われると答えられないのだが。


「あれ?そういえば橙田さん、荷物持ってないよな?金なくね?」

「あっ」


 橙田が見事に列の少ないレジに飛び込んだあたりで、ふと梅吉は気がつく。当たり前だが、あの時は皆パニックに陥っていたのだ。故に誰も、橙田に財布を持たせるという発想に至らなかった。そしてこれは、二人も同じである。財布は教室に取り残されたスクールバッグの中であり、持ち物は現代人が皆肌身離さず持っているスマホだけだ。


「……ヤバくね?」

「……どうしよ」


 せっかくスーパーに連れてきたのに、このままでは肝心のお酢が買えない。どうすれば良いのか、二人が青い顔でお互いを見つめ、如何にして橙田にお酢を入手させるか、必死に頭を悩ませる中。

 無情にも、橙田の的確なレジ選びによって、思いの外早く会計の順番が橙田へと回ってきてしまう。


「お支払い方法はどうされますか?」

「P◯yPayで」

「抜かりねぇ〜……」

「なんなんだよ」


 まあ、二人の心配をよそに、橙田は鮮やかにP◯yPayによる支払いをキメていたのだが。思わず感嘆の声を上げてしまったじゃないか。


 この通り無事会計を終えた橙田は、お酢を手に迅速にスーパーから退店する。慌てて二人が遅れて外に出れば、既にお酢を開封し、ラッパ飲みしている橙田の姿があった。絵面が酷すぎる。いくら美少女だからといって帳消しにはできない有様だった。周囲の何も知らない無辜の買い物客が、時折ギョッとしたように橙田をチラ見するのも無理もない。梅吉だって、できることなら他人のフリをしたかった。


 そのまま三分の二程度までお酢を喉奥に流し込んだ橙田が、ぷはっ、と注ぎ口(間違っても飲み口ではない)から口を離す。そして──



「あれっ?!あ、あたしいつの間にお酢を……え、な、なんであたしスーパーにいるの……?さっきまで教室で、必死にお酢を探してたはず……も、もももしかして、お、オバケーっ?!」

「ウッソだろこいつ記憶ロストしてんだけど???やっぱあれ無意識でやってたのか?????」

「何一丁前に怯えてんだ数秒前までオバケっつーかクリーチャーだったのはお前の方だよ!!!!!」



 やっとこさ正気を取り戻したかと思えば、自分は何もしていないと言わんばかりに怯え始めたのだった。これには昨日の一件を引きずりまくっている二人のツッコミも、火を吹かざるを得ない。


「う、梅ちゃんと青伊ちゃんもいる……ふ、二人はなんであたしがここにいるか知ってる?あたし、気づいたらここにいて……」

「知ってるに決まってんだろ!!!オレがお前を運んだからなあ?!」

「えっそうなの?!ご、ごめん!……え?待って、そもそもなんであたしはスーパーに運ばれたの?ていうか本当に何があったの?」

「マジで覚えてねえの?橙田さんがお酢……って呻きながら倒れたから、俺らで必死にスーパーまで運んだんだぜ?そしたらなんか勝手に調味料コーナーに爆走して勝手にお酢買って戻ってきてお酢飲んでた」

「……そっか。あたし、お酢切れ起こしちゃったんだ……ご、ごめんなさい!本当、ご迷惑をおかけしました……!」

「お酢切れって何?????さも一般常識かのように異常常識語らないでくれるか?????」


 橙田こと異常お酢愛好家はやっとこさ自らの失態に気がついたらしく、恥じるように、重々しい言葉と共に謝罪を繰り出す。しかしその謝罪にすらも胡乱な要素が含まれていたせいで、いまいち締まらない。いやまあ、お酢を忘れたことが原因で起きた騒動の締まりが良くても困るのだが。


「え?お酢切れはお酢切れだよ。それ以上でもそれ以下でもないし、異常でもないよ」

「それ以上でもそれ以下でもあるし異常だからな?!もっとこう、俺らみたいな一般人にも伝わるように説明してくれよ!」

「お酢切れは一般常識だよ?ほらあ、たまにコーヒーがすっごく好きな人が、身体からカフェインが抜けたーとか騒いでたりするでしょ、それと同じ感じだよ〜」

「同じ感じ、じゃねえんだよ。カフェイン中毒者も、絶対お前みたいな異常お酢ラーと一緒にされたくねえと思う」

「なんで?!大体一緒じゃない?!」


 言いたいことはわからないでもないが、世間一般にとって、お酢にはカフェインのような類の中毒性はないのである。


「つかその理屈だと、橙田はお酢断ちというか、ちょっとは量減らした方が良いってことになるけど」

「……嫌だなー、お酢切れとカフェイン切れは全く別の話だよ!」

「うっわこいつ掌返しやがった!」


 二人が橙田と関わる中で、橙田が初めて意見を自己都合に合わせてひっくり返した瞬間であった。お酢に対する執着は、彼女が持ち合わせる生来の善性すらも捻じ曲げるものらしい。もうなんかシンプルに怖い。


「とにかくごめんね、二人とも。なんだか迷惑かけちゃって。今後は家から出る前に、今まで以上に忘れ物してないかきちんと確認するように心がけるね!」


 言っていることはめちゃくちゃまともだが、この場合の忘れてはならないものは、教科書でも課題でもなくお酢である。何一つまともではない。


「ん〜!やっぱりミ◯カンって最高!あっ、あたしだけ飲んでるのの悪いし、追加で二人の分のお酢も買っておこっか?」

「絶対にいらねえ」

「絶対にいらねえ」


 ニコニコ笑顔でスポーツドリンクのCMのようにお酢を飲み、こちらに勧めてくる美少女。彼女が手にするブツが、正真正銘のスポーツドリンクであればCMに出演できるのだろうが。現実はそうではないためクソコラ(コラージュではない)じみた光景にしかならなかった。


「……あ」

「黙れ」


 でも確かに、橙田の言う通り飲み物は欲しいかもしれない、と梅吉がぼんやりと考えていると。隣で青仁が不穏な声を発したため、極めて有能な梅吉は即刻奴の口を封じる方向へと動いた。


「そういえば俺、最近ここのスーパーチェックしてなかったな……せっかくサボる口実もあるし、ちょっとチェックしてきてもいいかな?いいよな。行ってくる」

「おいどこ行こうとしてんだてめえ」


 予測通りロクでもないことを言い始めたため、梅吉は青仁の首根っこを掴んだ。


「止めないでくれ、俺にはスーパーの新商品からなんかヤバげなものを見定める義務があるんだ……!」

「誰もお前にそんなイカれ義務を定めてねえんだよ。何なら今この場でオレがお前に課してやる、オレが黙れと言ったら即刻黙れ」

「は?お前ごときに手綱握られるほど俺は安くねえんだが???」

「うるせえ黙れ、てめえの価値なんぞガワ以外はご自由にお持ちくださいレベルでしかねえんだよ」

「くっ、せめて百均、欲を言えば3C◯INSでありたかった……!」


 たしかに双方共にビジュアル面においては値段のつけられない価値があるだろう。だが内面が内面なので、価値は相殺され、結果TAKE FREEにしかならないのである。青仁が悔しがるように、金銭の授与が発生する余地はないのだ。


「あ、あたしもお酢チェックしに行きたいかも……いや多分さっき買いに行ったあたしが何も買ってないってことは、多分普段と変わりないとは思うんだけど……一応、一応ね?」

「一応?????」


 青仁を懲らしめていると、いつの間にかもう一人の狂人こと橙田がアップを始めていた。ちょっと浮き足立っちゃって、そわそわしている女の子、と描写すれば可愛らしいが、行き先はスーパーである。可愛さよりも困惑が勝ってしまう。

 無論、青仁の前でこんなことを言ってしまったら、次に起きることなんぞ火を見るよりも明らかであった。


「橙田さんもそう思うよな?よしいざ行かん、我らのユートピアへ──!」

「お、おー……?」

「お、わたしらのノリに橙田さんを付き合わせんなよ、かわいそうだろ」


 ノリノリの青仁が、梅吉の腕を振り払い、謎テンションと共にスーパーに爆速入店を果たす。その背を、困惑気味の橙田が、ほんの少し突き上げた拳と共に後を追った。


 ……ところで当事者三名中二名が、食欲に目が眩んですっかり忘れているようだが。三名は昨日、告白した方と告白された方、そしてその告白を阻害した方という、立派な恋愛的人間関係を繰り広げていたのである。


「オレ、帰っていいかな……」


 ただ一人、現実を認識している梅吉の声が、喧騒と妙に頭に残るBGMに支配されたスーパーの入り口に吸い込まれて、消えていった。

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お酢こわ・・・・
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