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ドルチェ・ヴィータを君に  作者: 咲佐きさ


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第四幕『突然、嵐のごとく』第四場

 女はバカなほうがいい。これはさんざん遊びまくってきた俺の持論だ。

 賢い女は見返りを要求する。それが当たり前だってな態度で、俺から何かしら与えられることを希求する。愛でも、身体でも、金でも。こっちは身体を差し出したんだからって、俺に責任の一端を担わせようとするのだ。あっちが望んで、やっただけの仲でもだ。そういう浅ましさも可愛げだと思えるうちはまだいいが、やがて愛が冷めると(身体に飽きると)そういう貪欲さが鼻について、嫌気が差してくる。顔を見るのもうんざりだってなくらいに。

 …だが、何も欲しがらない賢い女はなお悪い。そういう女はこっちを支配してこようとする。母親みたいな面で無償の愛を振りまいて、俺を思い通りにすることに無上の喜びを見出す類だ。こういう女に捕まると、こっちがいくら嫌われようと思って冷たくしても、浮気しても、菩薩の顔で許しやがるから始末に悪い。相手が飽きるか、他のターゲットを見出すかするまで逃げられやしねえ。

 その点、バカな女はいい。深く物事を考えない、詮索しない、自由でいさせてくれる。

自分の世界を持ってる女だとなおいい。必要以上に干渉せず、好きなように生きていて、俺が浮気しようがどうしようが気づかず、構わず、こっちが気が向いたときにはセックスにも応じるような、バカでかわいい美人がいい。最高だ。

 年齢は俺より下。経験豊富な年増女は擦れていていけない。所帯持ちは浮気相手にはちょうどいいが、結婚相手に狙うには相応しくない。

 俺の名前に釣り合うくらいのビッグネームだとなおいい。若くて、自分の世界を持ってるバカでかわいい美人。

 30前に一回は結婚して親を安心させてやろうと思っていた俺が見出したのは、そんな俺の理想にぴったりな女だった。

 ルーというのがその娘の名だ。ミラノで開かれたコンサートを観てピンときた俺は彼女の家族に直談判し、婚約の了承をとりつけた。

 実際会って話した彼女は威勢が良くてはねっかえりの、バカで可愛い少女だった。

 舞台で観た時には堂々として余裕すら感じさせていた彼女が、舞台から降りるとあまりに子供っぽいのは驚いたが。

 …まあ子供っぽいのは伸びしろがあるってことだ。俺の好みになるように調教のし甲斐もある。

 それに、ルーの保護者だと紹介されたあの男。

 対抗意識むきだしで俺を睨みつけてきた、黒髪の、人目を惹かずにおれないような美貌の色男。

 長い芸能生活で男も女も相当な人数味わって来た俺でもそうそうお目に掛かれないような上玉だ。そんな上玉が、一度に二人も目の前に現れたのだ。これは運命に違いない。神様が、俺のこれまでの労苦に報いて、ご褒美をくださったのだ。

 …二人一緒に手に入れる。うまくすればそれは可能なはずだ。あの男はルーに惚れ込んでいて片時も離れられないくらいなようだし、俺がルーをモノにしたとしても彼女の元から去ることはできないだろう。

 処女であるルーを頂かなかったのは、そんな下心があったからだ。あの男は俺がルーを譲るようなそぶりをすれば喜び勇んでルーを抱くはずだ。彼女を譲った俺に対する心象もそう悪くはならないだろう。

 そして、あの男よりもはるかに経験豊富であるはずの俺は、あの男よりもっとずっとルーを悦ばせる自信がある。比較してもらえればすぐにわかることだ。ルーはあの男を棄てて俺の元へ来るだろう。何人か男を知った後なら、ルーが俺一人に執着することもないだろうし――処女に手を出すのは懲り懲りなのだ。過去にそんな経験がないわけじゃないので――そうして俺は、彼女と、彼女を追ってくるに違いないあいつの、二人を手に入れるってわけだ。3人ですることが日常になればあいつとルーの貞操観念はぶっ壊れる。俺の好みに合うように。結婚してもルーは誰でも好きなヤツと寝られるようになるし、俺の浮気も笑って許すようになるだろう。間違いない。完璧な計画だ。


 だが、ルーを譲るそぶりをしてから1週間、一緒に暮らして、未だに手を出すことすらしていないというあの男の、…我慢強さ? 忍耐? なんなんだ、ただヤツがへたれなだけか? …とにかく、俺の計算を悉く狂わせるヤツのせいで、俺は今ルーと二人でモンマルトルの場末の路地裏に来ている。

 好奇心旺盛なルーはごみやワインの空き瓶なんかが散乱する路地裏をきょろきょろ見回している。芸能界にいて、あまりこれまで悪い噂の聞こえてこなかったルーだ。こういった場に来るのは初めてなのかもしれない。

「あんまりじろじろ見るもんじゃないよ、お姫様。こっちにおいで」

 手招きすると素直にこちらに来る。迫る壁と壁の間の薄闇に目立つブロンドは、帽子の中に纏めてある。

 彼女を先導して俺は鍵のかかっていないひとつの扉を開いた。午後3時、普段ならまだ営業していない時間だが、店のマダムと親しい俺はここに来る前に電話で話を通しておいたため、準備万端で待ち受けていることだろう。

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