第97話 善人は二度死ぬ (4) 〜勇者一行は、はいつも襲撃されてばかりですか?
村に入るユリオ一行。
ついてきたヨレンには、体にこびりついた土や泥をしっかり落とさせ頭巾を被せ、顔を見せないようになるべくうつむいてろ、と言っておいた。
まともにヨレンの顔を見られたら、絶対に宿を断られてしまう。
ともかく、屋根の下で休むのだ。
村、というか集落。
質素な木組みの家が立ち並んでいる。
「あんまり豊かな村じゃないな」
見てとるユリオ。
どこが裏寂れた集落である。
人っこ1人見えず、時折、痩せた牛が哀しげに鳴くだけ。
集落で1番立派な家の戸を叩く。
反応が無い。
ややあって。
「留守かな」
ユリオがそう思った時、
戸が開いた。
「誰かの」
暗く、険しい顔をした男が現れた。
「旅の者です。今日、4名、泊めてもらえませんか? 宿代はちゃんと払います」
現れた男は、暫し、じっとユリオ一行を見ていたが、
「少しお待ちなさい」
そう言って、中へ消えた。
顔を見合わせるユリオたち。
「なんだか妙な村だな」
「隠れ里だから、警戒しているのかも」
「泊めてくれるのでしょうか?」
やっぱりヨレンが一緒じゃまずかったかな。
ユリオはそう思ったが。
しばらくしてまた現れたさっきの男。
「さあ、どうぞ。ここは村長の家です。お入りください。村長は、泊まってよい、とのことです」
「それは助かった」
ほっとするユリオ。
しかし。
そうだ、部屋の割り振りは。
と、気づく。
女の子2人が相部屋。で、俺は?
ひょっとして、もしかして、ヨレンと相部屋?
それは嫌だ! 夜中にあの顔を見るのは……
ホラーだ。絶対勘弁。
やっぱり、ここで別れなきゃ。いつまでもついてきてもらっちゃ困る。
とりあえず、家の中に通される。
大きな広間になっていた。
30人ほどの男女がいた。若者から年寄りまで。
ちょうどここで、村の集会をしていたらしい。
ユリオ一行を迎える村人たち。これ以上なく陰惨な表情をしていた。涙ぐんでいる女もいた。みんな、押し黙っている。
なんだ、一体、とユリオ。なにか村で深刻なことが起きて、みんなで相談しているところに来ちゃったみたい。
まずかったな。
だが、現れた村長は、
「私がここの村長です。御客人、歓迎しますぞ。今、ちょうど村の寄り合いをしているところでしてな。立派ではございませんが、部屋はいくつもあります。少しお待ち下さい」
そう言って、部屋の一つに案内する。
「今、お茶をお持ちしますので」
また消える。
とりあえず座り込みユリオたち。
板間に、小さな卓があるばかりの部屋。
「何かこの村で、問題が起きたみたいだね」
「不幸があったのかしら」
「ユリオ様、宿代、タップリ置いていってくださいね。本当に貧しい村のようです」
「うん」
金貨で済むなら、それでいいんだけど。村人たち、ただならぬ様子だった。事情はよくわからないが、一晩泊めてもらうだけだ。そんなに気にする必要はない。
ヨレンは部屋の隅で、じっと膝を抱えている。
◇
またまた、待たされる。
ま、宿屋じゃないんだ。
向こうの都合に合わせなくちゃ。
のんびり考えるユリオ。
ともあれ、今夜は屋根の下。
立派な寝台とかはなさそうだけど、ここは大森林なのだ。そこは我慢である。
それより。
ヨレン。
どうやって追っ払おうか。
死人との旅なんて、無理ゲー。そもそも、あいつがなんでついてきたのかもよくわからない。ルルは大丈夫だとか言ってたけど、俺は限界。
埋葬したのに這い出してきてくっついてきた死人。それに、あり得なく陰惨な村。気が滅入る取り合わせだ。
ふと。
気配を感じだ。
扉の外。
大勢の人間が、息を殺しているような。
なんだ。
異様な気配。これは。
殺気だ。
殺気を感じる。
ユリオは、そっとルルとエミナに、
「様子が変だ。気をつけろ」
「うん。この村、最初から、すっごくピリついてたよね」
「何かあったら、エミナにお任せを」
身構える3人。
扉が開く。
雪崩込んできた村人たち。
手に手に棒や縄を持っている。みな、必死の形相。
村長も現れた。剣を抜いている。
「御客人、おとなしくしていただこう」
なんだこりゃ。
追剥村か? 俺たち、本当によくこういうのに当たるな。そういえばこの部屋、窓もない。なるほど。最初から俺たちを捕まえるつもりだったんだ。
腰の剣に手をかけるユリオ。
エミナも杖を握り締めている。
だが。
動いたのは、ルル。
すっと立ち上がると、いきなり踏み込む。
「ああっ!」
棒を持った村人が倒れた。
ルルは華麗な身のこなしで、次の獲物を。
バタバタと倒れる村人たち。村長も、剣を振るう暇もなく倒された。
おお、とユリオ。
久々に見た。
ルルの魔法体術。華麗な身のこなしで、至近距離から麻痺魔法を撃ち込む。倒された相手も、魔法を撃たれたとは気づかない。
村人たち、どう見ても本職の殺し屋や戦士じゃない。
この連中なら、問題なくルル1人で倒せるだろう。
俺やエミナがチャンバラするより、危険がなくていい。
あっという間に。
ユリオ一行を襲おうとした村人たち、みな倒された。
◇
「どういうことなんです? なぜ、私たちを襲ったんです」
広間に響く、ルルの静かな声。
村長も村人たちも、しょんぼりとうな垂れて座り込んでいた。
ルルの麻痺魔法で倒された後。目を覚ましても、再びユリオたちを襲おうという気力はなくなっていた。
「申し訳ありません。こうするしかないと、みんな思ってしまったのです。あなた方には、ご迷惑をかけしました」
沈んだ声の村長。
「何があったんです? こうするしかなかったって」
「はい。これを見てください」
村長が、ユリオ一行を、奥の部屋へと案内する。
「あっ」
驚くユリオたち。
奥の部屋。敷かれた茣蓙の上に、3体の遺体が並べてあった。村人たちの粗末な衣服とは対照的に、きらびやかな服装。一目で身分の高さがわかる。
どの遺体も、酷く損傷していた。殴られ斬られ突かれた痕が、無数に。
遺体を検分するルル。
「これは?」
「はい、ここを管轄する大森林監督所の騎士とその従者です」
事情を説明する村長。
この集落は、正式に王国に認可されずに開拓した、隠れ里である。
王国禁制地である大森林。勝手な開拓移住は禁止されている。
集落は、ずっと賄賂上納金を大森林監督所に納め、お目こぼしされていた。
このような集落や村は大森林に幾つもあった。
地域ごとに、大森林監督所は担当の騎士を配置し、不法な賄賂の徴収にあたらせていた。
「長い間、私たちは、ここでずっと無事に暮らしてきたのです。ところがーー」
この集落の担当の騎士が代わった。
新しい騎士は、強欲な男だった。大森林監督所に納めるだけでなく私腹を肥やすため、村に無茶な要求をした。
「とても払えない額の上納金を要求されたのです。無理ですと言うと、お前たちはそもそも不法な存在だ、王国法に基づいて村を焼き払うぞ、と脅すのです」
「今年は家畜の産まれも悪く、特に収入が少なかったです。どうかもう少し待ってください。なんとしてもお金はつくりますから、と言っても聞き入れてもらえませんでした」
後ろからついてきた村人たちも、口々に不法を訴える。
首を振る村長。
「強欲な騎士は、取り立てを諦めませんでした。今日、従者を連れて乗り込んでくると、この家に村人を集めました。そして、お前たち、どうあっても払わないつもりだな? 俺を見くびっているな? ならばいいいいだろう。この村の若者を2人、監督所の牢に入れる。金を支払わないのならば処刑する、と宣告したのです。みなでひざまずいて、それはお止めくださいと訴えましたが、聞き入れてくれませんでした。そしてとうとうーー」
我慢の限界に達した村の若者が立ち上がった。騎士に襲いかかったのである。他の村人も、止めるどころかみんな若者に続いた。
「私たちの怒りを止める事は、出来ませんでした。気がつくとこの有様です」
騎士とその従者を、よってたかって打ち殺してしまったのだ。
「全てが終わった後、私たちは愕然となりました。なんてことをしてしまったんだろう、もう終わりだ。私たち全員、追及される。どうしよう、と相談していたのです。そこへあなた様が来ました」
追い詰められていた村人たちは、ユリオ一行を身代わりにしようと決めた。ユリオ一行を捕縛し、騎士殺しの下手人として、大森林監督所に突き出そうとしたのである。
「浅薄な考えでした。本頭に申し訳ありません。これは村長である私の責任です。私が下手人として、1人でやったと監督所に出頭します」
「そんな、村長」
村人たちから声が上がる。
「これはみんなでやったんだ。村長1人に罪をかぶせるわけにはいかねえ」
「そうだ、何とかみんな助かる方法考えなきゃ」
「でも、どうすりゃいいんだ」
ヤレヤレ、事情のわかったユリオ。
深刻な理由があったのは理解できたけど、ユリオたちをふん縛って無実の罪で殺人犯に仕立てようとしたのは事実だ。とんでもないことだ。
どっちにせよ、ユリオには関係のないことだ。さっさとここを立ち去ろう。
おい、ルル。
横の美少女を睨む。
もう首を突っ込むんじゃないぞ。これは俺たちには、どうにもならない問題だ。
その時。
「私が何とかしましょう」
ひょっこりと現れたのは、部屋に待たせておいたヨレン。




