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第96話 善人は二度死ぬ (3) 〜死人とのつき合い方、知ってますか?



 「待った?」


 先へ行って休んでいたユリオとエミナのところに、ルルが現れた。


 「なんだ、もう終わったのか」


 「ルルさん、お弔いはちゃんとできましたか?」


 「う、うん。何とか終わったよ」


 笑顔を見せるルル。


 しかし。


 何だか変だな、とユリオ。


 ルルの笑顔、ぎこちない。


 「魔法使って埋葬したんだな?」


 「う……ん」


 ルルが言うからには。


 ちゃんと埋葬はしたんだろう。


 でも、旅の仲間のユリオとエミナにも見せたくない魔法。


 それは何なんだろう。


 土魔法とかでは無い筈だ。


 ユリオだって魔法の知識はあるし、魔術師と(パーティー)を組んで、実戦での魔法も見ている。


 土魔法じゃなくて、埋葬に使える魔法?


 空間魔法で、どこかの墓所に飛ばしたとか?


 いや、それはない。


 そもそも王国に魔力探知されるのが嫌で、土魔法は使えないと言ってたんだ。超上級魔法である空間魔法。ものすごい魔力を発動することになる。それはありえない。


 ちょこっとの魔力で埋葬に使える便利な魔法。そんなのがあるのか。


 まるでわからない。ま、ルルは異端魔法団で魔法を学んだ。特殊な魔法もいっぱい知ってるんだろう。他人に見られると使えなくなる魔法だとか。


 いろいろ気になるが、ルルが自分から話すつもりもないようなので、そのままにする。


 3人は、完全に日が沈むまで、森の奥へと進んだ。


 ヨレンの遺体埋葬の場所から、なるべく離れよう。誰からともなく、そういうことになったのだ。


 日没に、また焚き火して野営(キャンプ)


 ヤレヤレ、


 ユリオは枯葉の上にゴロンとなる。


 まだ大森林初日なのに、なんだか大変なことになった。


 人助け。死人助け。


 こんなの、毎日なんて絶対にやってられないからな。


 なんだか疲れたユリオ。


 すぐに眠りに落ちた。



 ◇



 チュンチュンと囀る小鳥。


 朝か。


 目を覚ますユリオ。


 ヒヤっとした、爽やかな大森林の暁の空気。


 一晩眠り込んでいた。


 しまった。

 

 ルルの美しい寝顔をしっかり見てやろうとか思ってたのに。


 ま、でも。


 大森林の旅は、まだまだこれから。寝顔を見る機会なんていくらでもある。


 寝顔を見る、だけじゃなくて、その先だってーー



 「あ、ユリオ様、お目覚めですか」


 エミナの弾けるような声。


 「朝ご飯、できてますよ」


 「ん?」


 見ると、焚き火でルルが火の番をしている。串に刺さった肉が、香ばしい煙を上げている。


 「今朝、さっそく狩ってきたのです!」


 胸を張るエミナ。


 山鳥。 


 本当に元気な娘だな。夜が白むと同時に狩り(ハンティング)か。1番鳴きしたところ狩られた山鳥も、不運というものだ。


 しかし、歩き出す前に腹ごしらえができるのは、やっぱり助かるな。


 「エミナ、ありがとう」


 寝ぼけまなこ、欠伸混じりに炙り肉の串に手を伸ばすユリオ。



 新鮮な肉の朝食を終えた3人。


 「さ、歩くぞ。今日は余計なことには巻き込まれないからな」


 大森林2日目の旅を始める3人。



 ◇



 朝白む森を少し行くと。


 「おーい、おーい」


 後ろから、誰かが追いかけてきた。


 なんだ?


 「おーい、おーい、待ってくださーい!」


 尚も後ろからの声。


 ぎょっとして振り向く3人。


 そして。


 目にしたその姿に、さらに衝撃を受けたのだった。


 追いかけてきたのは。



 ヨレン!



 完全に口あんぐりの3人。


 まさしくヨレンであった。


 昨日、死人として村人に担がれていた、牛泥棒として死んだ男。


 ルルが金貨5枚を出して、公開晒し刑を免れた男。


 そして夕暮れの森林で、ルルが確かに埋葬したはずの男。


 いや。 


 埋葬は確かにしたんだ。 


 ユリオとエミナも納得。


 追いかけてきたヨレン、土まみれ、泥まみれである。


 埋められた穴から這い出してそのまま来たような格好。


 「やっと追いつきました」


 愕然として言葉も出ず体も動かせないユリオたちの前に来て、ふうふうと息をするヨレン。


 顔はーー昨日と同じく完全に土気色。どう見ても死人。


 なんだこりゃ。


 仰天のユリオ。 


 ヨレン。


 絶対に死んでいた。実はまさか息があって、埋葬されて一晩してから目が覚め自分で地中から這い出して追いかけてきた? いや、そんな事は絶対にない! 


 じゃあ、今、目の前にいるのは?


 幽霊? それとも屍人(ゾンビ)


 普通の人間でない何者かなのは確かだ。


 ルルーー


 美少女をチラッと見ると。


 ルルも、開いた口が塞がらない、といった様子。


 ヨレンを埋葬する時。 


 ルルは、ユリオとエミナにも知られたくない魔法を使った。で、ヨレンに何か細工したのか?


 ルルの驚きの表情。間違いなく想定外のことが起きたんだ。魔法の暴走。


 一体何をやらかしたんだ?


 ヨレン。


 昨日と違うところ。


 瞳がキラキラと、明るく輝いている。


 人懐っこい表情。


 完全に死んだ土気色だけど。



 ヨレンは、茫然となっているルルに1枚の銀貨を差し出す。


 「あなた、これ、落としましたよ」


 「え?」


 「あなたがこの銀貨を落とすのを見たんです。それで拾って、追いかけてきたんです」


 受け取った銀貨を、じっと見つめるルル。 


 それは確かに、昨夜、埋葬の前に、新たな旅立ちへの(はなむけ)としてヨレンの胸に置いた銀貨だった。


 「よかった。追いついて」


 にっこりとするヨレン。


 「ほっとしました。落とし物を届けることができて。ところで、みなさん、これからどこへ?」


 「俺たちは、ずっと森の奥を目指している」


 応えるユリオ。


 「ほほう。それは奇遇ですな。実は私も同じ方角へ行くのです。よかったらご一緒しましょう。旅は道連れ。そう申しますからな」


 ユリオは、ルルを振り向く。


 「どうする?」


 「う……ん。しばらく一緒に来てもらったら? 決して悪い人じゃないよ」


 「おい……ルル」


 もう、どう考えても善人だ悪人だの問題じゃないのだ。幽霊だか屍人(ゾンビ)だかに取り憑かれた旅。不吉な気しかしない。やばいだろ。


 「本当に大丈夫なのか?」


 冷や汗を浮かべ、ルルを睨むユリオ。


 「大丈夫。何かあったら、私がなんとかするから」


 「どうなっても知らないぞ」

 

 結局。


 一緒に行くことになった。


 「爽やかな朝ですなあ。こんな日に森の旅。実にすがすがしいですなあ」


 爽やかさともすがすがしさとも無縁の土気色の顔を、ヨレンはほころばせる。



 (ひる)時。



 昼食は、例によってエミナの狩猟肉(ジビエ)の炙り肉。


 「さあ、あなたもどうぞ」


 エミナが串焼きをヨレンに差し出すが。


 「いえ、私は結構。腹は空かんのです」


 なるほど。幽霊や屍人(ゾンビ)なら、飯は要らんのだろう。どうやって動けてているのか、さっぱりわからないけど。


 串焼き肉を頬張りながら考えるユリオ。肉の味がしない。屍人(ゾンビ)と一緒の食事なんて、初めてだ。いい気持ちのするものでは無い。

 


 昼飯を終え、またまた、ひたすら歩いて夕暮れ前。


 そろそろ野営(キャンプ)のこと考えなきゃ。(パーティー)のリーダーとして判断するユリオ。


 でも。


 夜もこいつと一緒なの?


 ニコニコしてついてくるヨレン。


 夜中に目覚めた時、目の前でじっとこちらを見つめられていたら。


 永久に消えない恐怖の思い出になりそうだ。


 悪さしないからといっても、夜に幽霊だ屍人(ゾンビ)だは勘弁。


 どうしよう。


 そう思った時ーー

 

 急に目の前が開けた。



 村だ。


 森の中から、村が現れた。



 ◇



 ここはもう大森林の領域である。


 と、いうことはーー


 「これは隠れ里の開拓村といったところでしょうな」


 ヨレンが言う。


 ルヴォニア大森林。王国の直轄地の禁制地であった。


 本来は、森林の産物の保護のため、勝手な開拓移住は禁止されていた。


 しかし広大な森。開拓開墾できる土地があるなら移住してみたいというのが人情であった。 


 なんだかんだ開拓され村や集落が存在していたのである。王国が公式には認定していない、隠れ里の扱いであった。


 隠れ里いっても、完全に秘密の存在というわけではない。当然ながらルヴォンの大森林監督所は、その存在を把握していた。監督所は、開拓村から賄賂(まいない)を受け取り、その存在をお目こぼしし、見て見ぬふりをしていたのである。


 つまり、大森林禁制地の村は、王国に正規の税を支払う代わりに、辺境の監督所に上納金付け届けをして、存続していたのである。


 そんな詳しい事情は知らないユリオだが。


 「人家があるんだ。今夜は、ここに泊めてもらおう」


 体力温存が長旅の基本。屋根の下で眠れるなら、野営(キャンプ)より断然よい。


 しかし、そうすると。


 ヨレン。 


 こいつをどうすればいい? この男を村に連れて行くと。


 絶対に騒動になりそうだ。


 やっぱり不吉すぎるな。


 ニコニコする死人を見ながら、ユリオの頭痛は痛い。



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