第9話 蜂蜜館 (ハニーハニーハウス)で……できますか?
フード付きマントですっぽりと身体を覆ったユリオとルルーシア。
王都の高級住宅区域を歩いて行く。閑静な一角だ。ここは王国の衛兵や警吏が巡回していて、大貴族や大商人が供を連れずに安全に出歩くことができる。
ユリオの向かった先。当然ながら、王都のルーベイ大公爵邸ではない。高級住宅区域といっても、大貴族大商人の壮麗な館がひしめく区域からだいぶ離れた、中級貴族商人の館が集まる区域だった。
「ここだ、ここが俺の館だ」
誇らしげに、満足げにルルーシアに指し示す。
ユリオは、買った美少女奴隷を連れ込んで悦楽に耽る秘密の隠れ処を用意していたのである。
〝最初の悪徳は、お忍びで、こっそりと〟
それがユリオの方針であった。家臣使用人にも知られてはならない。微妙に前世の気弱を引きずる方針であるが、これまでのユリオからしたら、大冒険であった。館を買うにあたっては、例のピエの商人エスト=デュレイの身分証を使った。中級貴族商人向けの館であるが、ちょうど良い物件であった。大貴族の大邸宅のようにだだっ広くなく、手狭でも無い。
中庭があり、上水道が引かれ、立派な風呂もあった。
この買い物、こっそりと、1人で行った。家具調度類の手配から何から全部1人で行った。本来ならこういう悪徳の巣には、「へっへへ、ご主人様、わかっておりやす」という〝心得た〟下僕の1人も必要なものだが、大公爵家の使用人を使うのはダメだし、〝心得た〟下僕、ご主人様の悪徳を何でも手伝う下僕というのをどこで調達できるのか、ユリオにはわからなかった。
しかし1人の作業も、ルンルンだった。
「俺は賢い。何でもできる」
ユリオは大満足。
そしてこの館を、蜂蜜館と名付けた。悪徳の巣。甘い甘い愛の巣である。
〝ただ1人の女性を愛し、尽くせ〟との厄介千万な大迷惑方針に表面上は慎み深く従いながら、皆の知らないこの蜂蜜館で欲望の限りを尽くすのだ。
グヘヘ、デヘヘ、が止まらない。ヨダレも……
ともかく。
館の扉を開ける。〝わかっている下僕〟は未調達なので、中は誰もいない。
ユリオが入る。
「さ、入って」
ルルーシアも中へ。
扉を閉める。完全に2人きりだ。
「ようこそ」
思わず出た言葉がそれだ。買った奴隷相手に、「ようこそ」と言うのはおかしい。いかにもおかしい、マヌケだ。何やってるんだ。が、なんと言ったらいいのか、思い浮かばなかった。もうさっきから完全に頭に血が上りきっている。
「いよいよ俺の、初めての……するんだ」
脳が蒸発しそうになっている。
それでも、言うべきことを言った。
「さ、脱ぐんだ」
ルルーシアのフード付きマントに手をかけ、脱がす。ルルーシアは、おとなしくされるがままになっていた。ユリオは慄いた。
女の子を脱がす!
いや、あくまでも上着を脱がしただけだったが、もちろん初めての体験だ。ゾクゾクする。フード付マントの下に現れたのは、目も覚める美貌、そして、輝くような白い膚。身につけているのは、金色の限界露出紐ビキニだけ。こぼれそうになっている、豊満すぎる胸。絶妙な肉体の線。
奴隷商でも見たその姿。今や館で2人きりである。密室。誰にも邪魔されない。誰も見ていない。グドルクの目も無い。距離が近い。いい香りがする。匂い立つ美少女。もちろん前世と今世で、紐ビキニ美少女をこんなに間近で見たのは初めてだ。できるのは〝見る〟だけではない。もう何をしちゃってもよいのだ。
体中の血が沸騰するユリオ。
しかし、玄関でコトに及ぶわけにはいかない。ふと気づき、手枷も外す。逃げたり暴れたりはしないだろう。紐ビキニ姿に剥かれ、手枷を外されたルルーシア、おとなしくしている。
「さ、こっち」
中へ案内する。玄関から居間になっている。メインルームだ。見事な刺繍の絨毯が敷かれ、ソファーに卓がある。ユリオは、居間と繋がってる部屋への扉を開ける。
「入って」
扉の向こう。寝室である。清潔な白いシーツの敷かれた大きなベッドがある。前世でいえば、キングサイズベッドといったところだ。天蓋は無い。ただ、ベッドの上でむちゃくちゃに暴れることができれば、それでよいのだ。広く頑丈なベッドである。それで十分だった。
ルルーシアを先に行かせる。奴隷少女は、素直に寝室に入った。優雅な足取り。ちょうど良い丸みの臀が揺れる。
「そこに座って」
ユリオは、ベッドを指し示す。おとなしくベッドの上に座り、こちらを見つめるルルーシア。
その途端、
「つ、疲れたよね。ちょ、ちょっとそこで休んでて」
そう言うと、居間に戻りバタンと扉を閉め、ユリオはそのまま崩れ落ちるように絨毯の上に座り込んだ。
◇
膝を抱え背の扉にも凭れ、ハアーっと息をした。体中から汗が噴き出す。額の汗。冷たかった。
「よ、よし……ついにここまできたぞ」
隣の寝室のベッドの上にはルルーシア。究極の美少女だ。俺を待っている。さあ、ご主人様、どうぞ、と……
「ぐふうっ」
まだ息が正常にできない。
ルルーシアを寝室へ連れ込んだところで頭が、いや、心臓も破裂しそうになった。一旦外に出て、ちょっと落ち着いて頭の整理をしようと思ったのだ。
「ええと、これから、これから、どうしようと思ってたんだけ……いや、することはわかっている。するんだ。とにかくするんだ。もうそれしかない。でも、いろいろ考えてたよな、手順とか……プレイとか……なんだかんだかを。何を考えてたんだっけ……頭から飛んじゃった。ここは……ちょっとよく考えよう。うむ。あの子を見ていると……完全に脳を持っていかれる、全部。なんにも考えられなくなる。おかしい。あの子に奪われる……そうじゃない。奪うんだ。あの子から全部奪う……そう、それが俺だ。何せ、あの子は俺のものだからな。頭のてっぺんから、つま先まで、どこもかしこも……グヘ、ハ」
大貴族の富と権勢で、美少女奴隷を買い、欲望のままにする。この計画を決めてから、散々妄想シミュレーションをしてきた。妄想の中で、美少女を何千回何万回と蹂躙してきた。いつもそのことばかり考えていた。いや、前世だって散々妄想していたけど。
どんな子を買うか。買ったらまずどうするか。プレイは。いろいろ考えたはずだった。とても全部思い出せないけど。
「そういや俺は、金髪も子を買うつもりだったんだよな。あ、赤い髪の子、青い髪の子もいいかなと、思っていた。でも」
ルルーシアの漆黒の髪、黒い瞳を思い出す。
「あれでよかった。あれがいいんだ。うん。黒髪ロングに黒い瞳。王道ヒロインだ。俺のヒロイン。俺が支配するヒロイン。そうだ。俺はヒロインを所有してるんだ。ご主人様だ。前世のアニメだゲームだじゃ、ヒロインに振り回されるとかの展開が多かったよな。俺はもちろんそんなことない。だって……ちゃんと売買証書を作って買ったんだもん。あは、グヘ……よし。なに……ちょっと生意気な態度を見せたら、お仕置きだ。そうだ。調教だ。調教プレイ。ああ、いいな……これも是非やらなきゃ、グヘ」
調教プレイ暴力プレイのことも、これまで散々妄想してきた。ルルーシアを鞭打つ自分を想像するユリオの目が、居間の反対側の小さな扉に止まる。
「あ、そうだ、あれも用意したんだ」
口元がグヘ、と歪む。
向こうの扉の奥の小部屋。
そこは〝拷問部屋〟だった。拷問道具が所狭しと並べてあるのである。
蜂蜜館を購入したユリオは、道具屋で家具調度類を買い込んだ。必要なものを買った後、珍しい装飾品や、何か面白いものはないかと見て回った。そして、ある店を見つけたのだ。
拷問道具の店である。
ズラリと並んだありとあらゆる種類の拷問道具。ユリオの胸は高まった。前世でも、〝鬼畜プレイ〟というものに興味を持ち、いろいろネットで検索したりしていたのである。店には、前世で調べた道具がいろいろあった。時空は変わっても人間の嗜好というのは変わらぬものらしい。結局あれもこれもと。ごっそり拷問道具を買い込んで館に運ばせ、奥の小部屋にセッティングさせたのである。あの窓のない暗い小部屋。ユリオの自慢の部屋となった。もっとも胸が高鳴る部屋である。
置かれていたのは。三角木馬に、天井から吊り下げるための滑車に鎖。幾種類もの鞭。馬用のシンプルな鞭から棘付き鞭まで。いろんなタイプの手枷足枷首枷。何本もある太い蝋燭。様々な形状の棒。浣腸器具。筒型の水鉄砲の要領で油を注入するのだ。浣腸器具を手に取ったユリオは、これを使ったら物凄いものが見れそうだ、と興奮した。考えられない光景が。しかし最もユリオの心をときめかせたのは、人型の機械だった。この機械、なかなか精巧にできていて、人間をきっちり縛り固定すると、手でも足でもどんな角度にも自由自在に動かし、そのまま固定できるのだ。つまり、全裸に剥いたルルーシアの素晴らしい肢体にありえないポーズを取らせ、そのままずっとニヤニヤしながら鑑賞することができるのである。
「あの機械……絶対試さなきゃな……うん……せっかく買ったんだし。ほんとにすごい発明品だ。まさに俺のための道具……思う存分楽しんでやるぞ……でも、あまり激しいプレイをしすぎて、ルルーシアが壊れちゃったらまずいな……」
ちょっと心配になる。
買ったばかりの奴隷。やたらと怪我させたり傷つけたり、殺しちゃったりするのは論外だ。そもそも奴隷といっても、主人が勝手に殺害するのは王国法で禁止されている。
「いきなりの暴力鬼畜プレイ……それはない。やろうと思えばいつでもできるんだし。まずは優しく接して、あの美貌と肉体をじっくり堪能してやろう。それが王道だ。俺は大公爵様だからな。ちゃんとそれらしく振る舞わなきゃ……それにしても、ルルーシアは……俺のことをどう考えてるんだろう。それに自分のことも」
いくらか頭が冷めてきた。考える余裕が出てくる。
ルルーシアとは、まだ話をしていない。
だが、奴隷として売られることになった経緯は聞いた。異端魔法使いの一団の新入り。王国の迫害摘発で捕縛され、奴隷として売却されることになった。なんだか悲惨な運命である。奴隷なんだから、なんであれ悲惨には違いないだろうけど。自分の境遇、どう考えているのだろうか? 売買取引の時、まるで表情を見せなかった。静かな澄んだ瞳だった。もう奴隷であることを受け入れているのだろうか。
そして。ルルーシアは。
奴隷として何を要求されるか、何をしなければいけないか、わかっているのだろうか?
「そりゃわかってるだろうな。あんな美少女が男に買われるんだ。俺だって欲望丸出しの目で散々見ちゃっている。させられること……わかっているよな……もちろん。そうだ、取引の時、泣いたり騒いだり怖がったり怯えたり、全然してなかった。表情を変えなかった。何をされるかわかっていて、受け入れているんだ。もう奴隷の境遇をすっかりと。自分の運命に従おうとしているんだ。なかなかいい子じゃないか。俺の言うこと何でも聞くつもりなんだ。どんなことだってする覚悟? あんなことこんなことを……やっぱり可愛がってあげなきゃな。うん。鬼畜プレイも……いずれは楽しみたいけど」
背の扉の向こうには、垂涎の美少女。
ユリオは唾を飲み込もうと、いや、喉はカラカラだった。




