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第8話 美少女奴隷買うのと領民の救済、どっちが大事ですか?



 グドルクの店を出たユリオ。そそくさと、高級市場区域(エリア)から外へ出る。すっぽりとフードマントを被ったルルーシア。何も言わず、ついてくる。鎖でつないでいるわけではないが、手枷もしているし、別に逃げる気遣いは無い。足には、金色のサンダルを履いている。これもグドルクのサービスだ。


 横を歩くルルーシアをチラチラと見るユリオ。


 思わず口元が緩み、デレデレとなる。まだ地に足がつかない。


 しばらく歩くと。


 やっと少しだけ頭が冷えてきた。まだ興奮は醒めないが。


 「そういえば、買うとき、もうちょっとちゃんといろいろ調べたほうがよかったかな」

 

 ふと、気になる。


 「そうだ、奴隷ってやっぱり素っ裸にして全部調べてから買うべきものなんじゃないのか?」


 紐ビキニで隠されていたのは、ほんのわずかな面積だったが、そこは1番重要な部分だった。


 「奴隷を買う時って普通はどうなんだろう?」


 前世のシステムなら、スマホをちょっといじれば「私はこうして奴隷を買いました体験レポ」とか、見つかっただろう。ためになることが詳しく書いてあるはずだ。異世界(こっち)では。貴族学院の図書室で調べてわからなければ、それ以上どうしようもない。奴隷の買い方とか、人に聞くのも恥ずかしい。


 「奴隷を買う時……一体どこまでやっていいんだろうな。やっぱり素っ裸にしなかったのは間違いだったか? そういえば。ルルーシアが貴族学院でも噂になってたって事は、グドルクの店でルルーシアの品定めをした先客がいたってことだ」


 奴隷少女の美貌に見惚れ、じっくり品定めをして、結局買わなかった先客。いったいどこまでやったんだろう? グドルクはどこまで許したんだろう。全裸に剥いて、しっかり見せたのだろうか? 大事な部分を触ったり覗き込んだりとかも? いろんなポーズとらせたり? いやいや、グドルクは、絶対に(けが)れはない、と言っていた。だから、そんなにすごいことはされていないはずだ。


 「そういえば、奴隷について書かれた本には、買う時には、舌を出させて調べろとか、ちょっと話してみなさいとか書いてあったな。やばい。俺全部忘れてた。まだ声も聴いてないんだ。それに、魔法少女。異端だといっていた。て、ことは正義の側じゃなくて悪の側の魔法少女ってこと?」


 前世のアニメやゲームのキャラも、当然ユリオ=忌木信太朗(いまきしんたろう)の妄想欲望の対象だった。しかしユリオ=忌木信太朗(いまきしんたろう)の妄想の対象はだいたい、正義の側の少女だった。強くて正義感の強い美少女を蹂躙する、こういう妄想が大好きだった


 「悪の少女か……今まであんまり考えたことなかったな。やっぱりしっかり調教とかから入るべきってこと? いや、異端魔法使いってのは、別に悪じゃない筈だ」


 異端。それはあくまでも、王国の公認魔法協会に属さない、太古からの魔法を伝えるグループだ。昔から存在している。別に危険視されてきたわけでもない。最近になって急に王国の敵と宣告され、迫害摘発が始まったのだ。詳しい理由は、ユリオも知らない。


 「ま、なんにせよあの美貌……それに肉体(からだ)……」


 今はフードマントで隠されているが、思い出して、ユリオはまたまた頭に血が上る。


 「なんだろうが、究極美少女なのは間違いない……そうだ、何せ20万パナード(約20億円)だからな。(きず)の1つ2つあったって、問題ないさ。その価値はある」


 そう考えてから、急に不安がもたげてきた。


 「20万パナード(約20億円)……本当によかったのかな」


 今更ながら、思い当たったのである。


 ルーベイ城を出る時、大公爵当主の権限で、金庫から有り金を全部持ち出した。もちろん、こっそりとである。


 白色水晶(セスメド)を21本。デュエル金貨400枚。ドラメ銀貨1000枚だった。合計で、前世の価値で21億5000万円。


 そのほとんどを、ルルーシアを買うために、ブン投げてしまったのだ。


 「ひょっとして……まずかった?」


 一応持ってきた大公爵家の全現金資産。自分の一存で消えた。1人の奴隷少女のために。


 資産については、当主であるユリオに全て権限があったのは間違いないが。


 15歳になるかなり前から、ユリオは大公爵家の財政についての講義を、執事頭ヴァイシュから受けていた。


 「大公爵家の領地収入は、年間平均4万パナード(約4億円)でございます」


 確か、そう言っていた。その(かね)が全部残ると言うわけではない。家臣使用人の給料や、王宮出仕に戦役、大貴族の体面を維持するための支出で消え、かなり節約して、年2万パナード貯蓄できれば良いほうだという話だった。


 金庫に21万パナード(約21億円)以上の(かね)があったという事は、父クロードに母セシル、祖母ギオラと執事頭のヴァイシュが必死に長年倹約蓄財してきた結果である。それでもルーベイ大公爵家に、吝嗇だとの評判は立っていない。(かね)を使うべきところには使い、見栄を張るべきところは張り、巧みな家政の切り盛りをしてきたということだ。


 それだけではなかった。


 「我が家があるのは、家臣領民があってこそである」


 とのクロードの方針で、ユリオが生まれてすぐの年に起きた凶作の折、大金を投じて領内を救ったこともある。あの時困窮する領民のために使った(かね)は、確か3万パナード(約3億円)以上になったはずだ。クロードは、神のように領内で崇められていた。


 その息子は、たった1人の奴隷少女のために20万パナード(約20億円)ブン投げ!


 頭に血の昇ったユリオには良い買い物だと思われたのだが。父や祖母だったら、絶対にこんな買い物はしなかった。このことを父や祖母があの世で知ったら。卒倒してこの世の終わりだ、ルーベイ大公爵も終焉だ、と嘆いたことだろう。


 「だから、なんだ!」


 自分に言い聞かせるユリオ。弱気の虫が頭をもたげる。自分を叱咤激励する。


 「俺はもう、何もできずに死んだ忌木信太朗(いまきしんたろう)じゃないぞ。生まれ変わったんだ。この恵まれた身。誰もが羨む大公爵様だ。絶対後悔なんかしない、最大限活かしてやるんだ。すべてを。手に入るすべてのものを。俺の欲望のために。そう、悪徳外道鬼畜。そうするって決めたんじゃないか。城の金庫を開けることができるのは、俺だけだ。とりあえず、(かね)を使い込んだことは、バレない。使い込んだ? 言い方がよくないな。これは俺の(かね)なんだ。俺がどう使おうが、俺の自由だ。でも、いきなり豹変してみんなが乱心だ座敷牢に押し込めろとなるのはまずい。多少は慎重にやってやろう。いいだろう。当面は、〝良い子〟の皮を被ってやる。大公爵の仕事に慣れてきたら、やり方を考えていくんだ。堂々欲望を満たすために。とりあえず財政は問題ないかな」


 そういえば。今回の王都での派手で華々しい新ルーベイ大公爵のお披露目式。準備にかかった費用は、ツケで後払い、結構借金があるはずだ。それはどのくらいだろう。とりあえず、まだ現金1万パナード(約1億円)ある。急に金に困る事は無い。そもそも、毎年の安定した領地収入があるんだ。商人は喜んでいくらでも(かね)を貸してくれる。庶民とは違う。鷹揚に構えていていい。


 もし、領内が凶作になって、急に救済のための大規模支出が必要ですとか言われたら?


 「そんなの知るか!」


 内心吼えるユリオ。


 「領民がなんだ! 知るか! 連中のことなんて。いつでも助けてもらえると思っていやがるのか! その甘い考えがいかん! 俺は父とは違うぞ! 領民が飯が食えなくなったって知ったこっちゃねーっ! 領地は俺のもの。領民だって俺のものだ。だいたいヴァイシュ。あの執事頭の奴は、何かというと領民が大事、領民が大事、そう言ってやがるよな。父の影響なんだろうけどさ……領民が大事、それはおかしいね。大事なのはご主人様だろう。大公爵様のこの俺だろう。違うか。ひょっとして、うちは領民に甘すぎるんじゃないのか? 絞ればもっと絞れるんじゃないのか? 年4万パナード(約4億円)じゃなくて、もっと……」


 家政について、思いを巡らす。


 ユリオの領地経営の知識というのは、前世の戦略シュミレーションゲームとかのものだった。確か領地経営というのはいうのは、匙加減が重要だ。あまり激しく収奪すると、領民が逃散したり反乱を起こしたりして、かえってまずいことになる。


 「民は、生かさぬよう、殺さぬよう、だっけ」


 まだ前世で学校に通っていた時分、歴史の授業で習った言葉を思い出す。


 そうだ。


 領地経営についても自分で考えていかなきゃな。お人好しのヴァイシュたちに任せてばかりではいけない。


 広大な領地のことを思い出す。実り豊かな土地。


 当然ながら領内では、ユリオが偉大な父クロードの方針を受け継ぐものと、皆が決めこんでいる。


 ユリオが領内を歩くと、領民は皆拝んでくる。当然と言えば、当然だが。


 「拝まれたって、何にもなりゃしねーや。俺は、これまで舐められてきたのだ。フッフッフ。俺を甘く見るなよ。人気取りなんて絶対しないからな。する必要もない。むしろみんなに、魔王ユリオと恐れられるようにならなきゃ」


 魔王ユリオ。


 この考えがいたく気に入ったユリオ、心が軽くなる。


 結局のところ。


 妙に強がった方向に思考が暴走するのは、無分別な買い物をしてしまったことの後ろめたさと言うべきものであった。悪さをして、それがどうしたと開き直る子供であった。開き直るといっても、実際の誰かを相手にしてではない。ただ自分の脳内での自問自答に過ぎない。なんだかんだ、ユリオは両親のことも、祖母のことも家臣のことも、大好きではあった。そしてみんなの前では、気弱な少年であった。


 ただ、自分の欲望。


 それはどうしても、否定するわけにはいかなかったのだ。


 「まずは」


 自分の少し後を歩く奴隷少女を見やり、ユリオは、すぐにデヘヘ、グヘヘ、となる。


 あの美貌と肉体(からだ)。ヨダレが出る。家政だ財政だ領地だ。あらゆる厄介事が、どうでもよくなる。


 「俺は正しい。この買い物は正しかった。よし、これから……この子を、ルルーシアを、じっくり愉しむんだ。グッへへーン!」



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