第83話 女毛皮商人のルーリャ (14) 〜勇者がグダグダモードでいいですか?
「ルルさん、あれはとんでもない女です! あそこで成敗するべきでした! ユリオ様の心がどうとか。ユリオ様の心は、いつも王国の正義とともにあります! もうそれに決まってるのです!」
ルルがなんとか宿に引っ張って行ったエミナ。まだ顔を真っ赤にしている。
「落ち着いて。あのルーリャ、やっぱり私たちより上手よね。さすが大森林の女王と呼ばれるだけのことはある。私とユリオが偽夫婦なのも、見抜かれちゃったみたい。やっぱり本物の夫婦らしくなかったかな」
「なに感心してるんですか! それどころじゃありません!」
「うん。でも、収穫はあったよ」
「収穫?」
「ほら。私が地下室って言った時、一瞬だけ微妙な顔をしたじゃない。やっぱりユリオは地下室に閉じ込められているのよ。それはわかった」
「じゃ、じゃあ、いよいよ討ち入りですね?」
「うん」
「わかりました! じゃ、魔法ズドンお願いします! 後はエミナの剣で……」
「待って。そんな正面から戦いを仕掛けるなんてしない。あの邸にコッソリ忍び込んでユリオを助けだすから」
「コッソリ?」
「うん。あちこちで聞き込みをしてね、いけそうな方法を見つけたの」
今にも飛び出たくてうずうずしているエミナに、計画を説明するルル。
◇
ルーリャの豪邸の地下室で。
独り、フカフカの寝台でゴロ寝しながら、妄想欲望の続きに浸るユリオ。
1人でずっとゴロゴロ悶々。
本当に久しぶり。前世じゃ普通だったけど、異世界じゃ、なんだかんだ周りに人がいて、次から次へといっぱいやることがあったからな。
一人きりでの終わりなき妄想、実に心地よい。
しかも、妄想といっても、ただゲームでアニメだ、2次元に没頭するのとは違う。
これから、いよいよ生の女を抱くのだ。ついに、初体験が待っている。
魔王ユリオ様の女デビュー。
そのイメージトレーニングをするのだ。
グヘヘ、となる。ならざるを得ない。
やっぱりルーリャもいいな。
そんなことを考える。浴室で目にした豪奢な肉体。
モノにせねば、と思う。
「あの女は、俺を適当に啄んで殺す、そういうつもりなんだよな。ふむ。面白い……でも、一回ヤって、すぐ殺すとか、そういうことじゃないだろう。大金持ちは、ご馳走をひと口食べたら、これはもう下げろ、とか言う奴もいるらしいけど。あんな手の込んだ細工をして俺を誘拐したんだ。しばらくは、じっくり俺を味わおうとするに違いない。よし。それならこっちも、貪ってやろうじゃないか。いろいろ性戯について教えてもらって。勉強は大事。最初の1歩だ。で、それから」
頃よし、となったら、可愛いメイドのフェルネが魔法強化剣を持って現れ、さっそく2人で王熊退治。お宝の王貂の毛皮を奪い、伯爵へ献上。
「それでルーリャは破滅。国の至宝を隠匿してたんだからな。さすがに誤魔化したり取りなしてもらうことはできないだろう。あはは。俺を弄んで殺そうとした挙句、俺に貪られての破滅。いいねえ。これこそ蹂躙だ。最高の蹂躙。魔王の第一歩に実に忙しいふさわしいじゃないか。ちょっと勇者ロードっぽくもあるけど……そして、ルーリャを見事成敗した俺の胸に、フェルネが飛び込んでくる。あの処女の子が。ルーリャから仕込んだ性戯の秘術、思う存分試してやろう。豊満完熟美女に、凛とした溌剌ピチピチ処女。どっちも抱ける。これよこれ。こういう冒険を待っていたんだ……」
ヨダレを垂れ流しっぱなしである。
別にフェルネはユリオに身を任せるなどとは言ってないし、そもそも処女でもないのだが、ユリオの妄想世界では、凛とした美少女を抱くのが、もはや既成事実となっていた。
◇
夕暮れ時。
ルーリャは自邸から、立派な馬車で出掛けた。お供を大勢引き連れている。ルルに語った通り、今日は商用で会合なのだ。
体調が悪いと訴えお供を免ぜられ、自分の部屋に篭っていたフェルネ。
「いよいよね」
窓から、そっと女主人一行の出立を見送る。
今夜、豪邸に、女主人はいない。
そして使用人も、いつもの半分。
これ以上ない好機だ。
ついに女主人の裏をかき、蹴落とす時が来た。
メイドの瞳が妖しく光る。
◇
トントン、
地下室の扉が叩かれた。
ガバッと起きるユリオ。
いよいよ全裸ルーリャのおでまし?
しかし、現れたのはフェルネ。狩衣姿である。弓と箙を背負い、剣を捧げ持っている。
「エスト=デュレイ様、さあ、約束の時が来ました。ルーリャ様は大勢で外出です。都の商人の会合なのです。夜遅くまでかかるでしょう。邸も手薄。王貂の毛皮を奪い、逃げるのに絶好の機会です」
「……あ、そうか」
いよいよ勇者ターン発動。
でも。
ちょっと待った、とユリオは言いたくなった。
まだ、ルーリャを抱いていない。あの完熟豊満豪奢美女を。
結局、最初に招待されて、浴室から地下に落とされてから、1度も会っていない。ルーリャは俺を貪るためにわざわざ誘拐監禁したのに、ちっとも姿を現さなかった。
こっちは準備万端で待っていたってのに。
何なんだ?
ルヴォン一の毛皮商。そりゃ、いろいろ忙しいんだろうけどさ。
え? じゃあ、このまま、王熊を倒してお宝を奪い、そのままズラかるってこと? つまり、ルーリャを抱くのは、無理?
うーん……
しっかりと目に焼きついているルーリャの肉体、抱けないとなると、いっそう蠱惑的に見える。
なんとも無念である。
せめて、ちょこっと味見だけでもしてから……
「エスト=デュレイ様、早く」
グズグズするユリオに、焦れるフェルネ。
「さあ、剣を」
ひょっとしてこの少年、気後れしたんじゃないか? そんな疑念も浮かぶ。
それは困る。せっかくの夢の計画、おじゃんだ。
「逃げるのは今しかありませぬ。このままでは本当に殺されてしまいます。御決断を」
にじりよるフェルネ。
「う、ん。わかった」
やむを得ず剣を取るユリオ。確かに自分の剣だ。アスティオの贈り物。最高級の魔法強化剣。
よし。やむをえまい。
年齢上美女の絶品肉体は、諦めるとするか。
替わりに。
フェルネがいる。狩衣姿、凛として実に可愛い。
これはこれで絶品。後でこの処女をタップリしっかり可愛がってやろう。
ともあれ、貴重な生の女との初体験と脱出への1歩だ。
王熊狩り。
きっちりやってやろうじゃないか。
剣を手にしたユリオ。
やっとグダグダモードから、武人モードへ。




