第79話 女毛皮商人のルーリャ (10) 〜メイドの野望は何を呼びますか?
「ルーリャ、いい女だったな。来ないかな。また全裸で……クソッ、今度こそ、躊躇わず蹂躙してやるのに」
突き落とされた地下室で。
ユリオが寝台でゴロンとしながら考えてるのは、美女の肉体だった。
前世と今世の合計32年間で、初めて目にした美女の全裸である。完熟で豪奢な肉体。
実に強烈に脳裏に焼き付いている。
1番肝心なところをはっきりと見なかったのが、かえすがえすも悔やまれるが、とにかく全裸美女を見たのだ。
「うむ、俺は成長している。2度目があった人生、1度目とは違うぞ。前世じゃ画像だ動画、2次元キャラでグヘグヘしてたもんだが、ついに生の肉体の御開帳だ。年齢はいってるが…… あれはあれで悪くないよな」
ひたすら妄想するのはルーリャのことである。
可憐な10代美少女好みのユリオとしては、かつてない体験。
それだけ目の前に突きつけられた全裸、ルーリャが磨き上げ艶めかせた自慢の肉体が鮮烈の迫力だったということである。
監禁生活。
とりあえず、どこにも逃げられない。
で、水も、なかなか上等な食料も、燻る置燈の獣脂も、タップリあった。
寝台はフカフカ。その上に、ご丁寧にクッションを敷き詰めて、落ちても怪我しないように、配慮されていた。
悪い待遇じゃない。
することといえば、ゴロゴロしながら、ひたすら欲望妄想。
ルーリャは、一体何を考えているのか?
肝心なこと。それは全然わからない。早々に考えても無駄だモードになる。
やっぱりユリオの正体を見抜いて、賞金首として国王に献上?
で、謀叛人とはいえ第一級の高位な貴族だから、捕獲監禁するにしても粗相のないようなるべく豪奢な待遇?
女主人自ら、肉体で特別大サービスなおもてなし……
いや。
さすがに、それはないか。
結局、よくわからない。
堂々巡り。
しかし、美女の肉体から始まった冒険。
きっといいことが起きるに違いない。
そう思うしかない。
一人きり。久しぶりだ。
今は、ルルもエミナもいない。
あの2人はどうしてるだろう? もちろん、俺を救出しようと全力を尽くしているはずだ。救出してくれても、別に肉体を見せてくれたり、委ねてくれたりはしないだろうけど。
困った奴隷に家臣だ。
出会ったばかりのルーリャが全裸サービスしてくれたっていうのに。
かなり久しぶりな独りぼっち引き篭もりライフ。あれこれの思いがよぎる。
そういえば、前世じゃこの調子だったよな。両親にも呆れきられ、あまり口も聞かず、なるべく部屋を出ず顔を合わせないようにして。
で、たまも外出したら、あっさりトラックに轢かれて死んだ。
やはり、自分を変えようなんて思わないほうがいいな。
うん。
2度目の人生があったから、よかったけど。
教訓。
面倒なことになったら、いつも通りにしていればいい。
俺のすべきこと。
ゴロゴロしながらの妄想欲望。これに尽きる。
ゲームもアニメも無いのが残念だけど。
いいさ。
画像だ動画だ2次元だじゃない、生の女に迫るんだ。
この世界で。
それが、2度目があった人生の意義。
◇
どのくらい時間が経っただろう。
何しろ陽の差さぬ地下室である。
今が夜なのか昼なのか、全くわからない。
強い匂いのする獣脂の置燈の火影がゆらめくだけ。
時折燻製肉やパンに手を伸ばし、もぐもぐしながら、ひたすら欲望妄想世界なユリオ。
トン、トン、
扉が叩かれた。
「どうぞ」
そう言うしかない。鍵も何もかかっていない。もし、殺し屋の来場だとしても、ユリオに防ぐ術は無い。囚われの身。武器も防具もないのだ。
かなり投げ遣りモードで無抵抗に状況に身を任せるユリオ。一応、鬘と付け髭のチェックはする。
伝説の勇者なら。
こういう場面でも、なにか武器になりそうなものを手に、必死に脱出の機会を窺うのだろうが。
ユリオには、そこまでの気力はとてもない。
武芸の鍛錬は散々したけど、こういう窮地は想定していない。
扉が開いた。
現れたのは、フェルネ。
おや、と思うユリオ。
そうだ。この子は。
ルーリャのメイドだ。
ユリオに香油をぶっかけ、浴室に引っ張り込んだ子。
女主人と共謀。もう間違いなし。やっぱり最初から全部仕組まれてたんだ。
現れたフェルネ。
扉を開け中に入り、躊躇いがちに俯いている。
若く溌剌とした美貌、なかなか可憐な少女。今は、憂いに沈んでいるようだ。
「どうしたの?」
暫しして。
訊いたのは、ユリオ。
フェルネは、ずっと泣きそうな顔をして、うつむいているのだ。
なんだ?
こっちを訪ねてきたのに、ずっと黙ってるなんて。
面食らうユリオ。
「あの、君、ここの女主人ルーリャのメイドの子だよね?」
忘れるわけない。この子が、ユリオにルコピン油だかをぶっかけたのだ。
鬘に染み付いた森の匂い、石鹸で落とせなかったのでまだプンプンする。
「エスト=デュレイ様」
やっと、フェルネが言った。目は伏せたまま。
「申し訳ありませんでした」
うむ? なんだ?
更に面食らうユリオ。
フェルネは、漸く顔を上げ、ユリオを正面から見つめる。強い決意の表れた顔。実に美しい。
「あなた様をここに落とすため、女主人に命じられたのです。実は、あなた様の招待から、全部仕組まれていたのです。女主人ルーリャは、なんとしてもあなた様を囚えよ、と必死でした」
なるほど。やっぱりそうなんだ。
想像通り。
下手人の自白。
で。
この子は、俺のことを仮の名義エスト=デュレイと呼んでいる。そういえば、ルーリャも風呂で俺をエスト=デュレイと呼んでいた。
すると。
俺をルーベイ大公爵ユリオだとは、気づいていない?
だとしたら、なぜ誘拐監禁を?
1番の疑問。
それについては、フェルネがあっさりと。
「ルーリャ様は、病気なのです」
「病気?」
「はい。あの……お気を悪くしないでください。年齢下の若い男、もっと言うと、美少年を蒐集する病気なのです」
「……」
「ルーリャ様は、昔から年齢下の美少年を囲い、愛人としてきました。ところが、このところ、ずっと愛人はいませんでした。実はルーリャ様は、このルヴォンの王国大森林監督官ノヴァク伯爵の、愛人をしているのです。伯爵の後ろ盾のおかげで、今の地位を築いたのです。嫉妬深い伯爵の手前、ルーリャ様はずっと美少年を囲うのを自重してきました。しかしとうとう、欲望が抑えきれなくなったのです。旅のあなた様を見て、どうしても自分のものにしたい、その思いに囚われたあまり、なりふり構わぬ所行に及んだのです。私に命じてあなた様を浴室に引っ張りこみ、ここに落としたのです。この地下室はもともと、ルーリャ様が愛人の美少年と悦楽を娯しむための場所。愛人である伯爵の目を逃れ、密かにあなた様を囲おうというのです」
「……」
なんだって?
衝撃の真相。
声も出ないユリオ。




