第75話 女毛皮商人のルーリャ (6) 〜優雅な監禁生活していいですか?
ルーリャの豪邸の浴室から、落とし穴に落とされたユリオは、どうなっただろうか。
ドサッ、
落ちた。
でも。
あまり痛くない。
ん?
体を起こす。別にどこも怪我をしていないようだ。
何か柔らかいものに、受け止められた感触。
ここはーー地下室、なのだろう。浴室は1階にあり、その下に落ちたのだから。
落ちた場所。柔らかいクッションが敷き詰められていた。
そしてここは、大きな寝台の上だ。
寝台の上にクッションが敷き詰められてあり、その上に落ちた。
だから落ちても痛くなかったし、怪我もしなかったのだ。
なんなんだ、一体?
辺りを見合わす。
ぼんやりとした明るさだ。
地下室には、獣脂の置燈が幾つも置いてある。獣脂の強い匂いが燻っている。
クッションの山の上に立ち上がるユリオ。裸だ。そもそもタオル1枚巻いただけで落とされたのだ。落ちる最中にタオルはどこかへいった。
見上げると。落ちてきた穴は、もう塞がっている。黒タイルの蓋、開閉式なのだろう。ユリオを落としたらまた元に戻した、というわけだ。
寝台の脇の椅子に。
長衣が掛けられていた。
割と広い地下室。いるのはユリオただ1人。でも、裸というわけにはいかない。
「これ、借りていいよね」
ともかく、服を着る。
少しほっとする。落ち着いてきた。
室内を検分する。
水瓶に水が張られていた。柄杓と椀も置いてある。飲用だろう。卓の上の皿には、パン、燻製肉、腸詰、砂糖漬けの果物などが、山盛りになっていた。
「なんだ、こりゃ」
置燈、服、寝台、水、食料、全部しっかり用意してある。
至れり尽くせりだ。
ユリオをここに落とすための準備を、しっかりしてあったということだ。
「で、なんで?」
いったい何が起きてるのか?
ルーリャに招待されて、ルコピン油だかをぶっかけられて、浴室に連れていかれて、そのままここに落とされた。
そこにはすっかり、ユリオを迎える準備が。地下室だけど、見た感じ悪くない待遇だ。
「なんだ、こりゃ? ルーリャの奴、地下室でホテルでも開業するつもりで俺を被験者に選んだとか?」
いや。
そんなことあるわけない。
落とし穴から御案内が始まるホテルなんて。あるわけない。
なんだろう?
考えても、わかるわけない。
様子を見に行こう。
ユリオは、鬘と付け髭を確認する。一応誰かに出くわすといけないから、これはちゃんとしておかなくちゃ。
ルコピン油、結局、石鹸で落とす暇はなかった。強い森の木の匂いにムセかえるが、とにかく我慢である。
地下室の扉。立派な木製である。
そっと開ける。
鍵は掛かってなかった。
様子を伺いながら、外に出るユリオ。
地下道。
ゴツゴツした、岩肌の壁である。
自然の洞窟を利用して作った地下道地下室のようだ。
壁の窪には、獣脂の置燈が。この点、なかなか至れり尽くせりだ。
慎重に進んでいく。
十字路になっていた。
ちょっと考えて、真っ直ぐ進んだ。
ふと、気づく。
「これってひょっとして、ダンジョン探索ってやつかな?」
ファンタジー世界の冒険じゃ、お馴染みの。
勇者一行の冒険の旅に出てから。
まだ、ダンジョン探索はしてなかった。
勇者一行らしからぬ、妙な詐欺だには巻き込まれたけど。
「いよいよ本番、ここで魔物出現とか? どうしよう。俺、武器も何も持ってないんだけど」
文字通り、丸裸でダンジョンに落とされた。
「いや、落ち着け。この地方に魔物魔獣なんて、出るわけない」
この世界に15年生きたユリオの知識では、そうである。
でも。普通の猛獣相手でも、素手だったら絶対勝てない。ユリオも武人鍛錬を積んで腕力筋力体力には自信があるけど、素手で倒せる相手なんて、大したことのない奴だけだ。
「大丈夫かな」
おっかなびっくり、進む。
出てきたのは。
魔物でも猛獣でもなく、鉄格子の扉だった。ここはしっかりと鍵がかかっている。
「行き止まりか」
引き返す。さっきの十字路の、右の方と左の方にも行ってみた。
どっちも魔物も猛獣も現れず、同じように、鍵のかかった鉄格子の扉のお迎えとなった。
「ダメだ」
ダンジョン探索終了。ま、初回はこんなもんだろう。
いきなり素手で魔物だ猛獣だと戦えだったら、無理ゲーすぎる。
ユリオは、最初に落ちた部屋に戻る。
寝台にゴロンとなる。
寝台もクッションも、フカフカでなかなか心地よい。
たっぷりの食料も、上等なものだ。さっき御馳走鱈腹食べたばっかりだから、手は出ないけど。
「招待してくれて、御馳走、風呂、寝台、これ、結構歓迎してくれてるつもり?」
などと呑気に考えそうになるが。
いや。
それどころじゃ、ない。
この準備。最初から、ユリオを落とすつもりだった。それは間違いない。そうすると、メイドのフェルネがルコピン油をぶっかけたのも、手元が狂ったとかじゃなくて、わざとだったんだ。そして風呂に連れて行き、身ぐるみ剥いでここに落とした。
最初から、ユリオを捕獲監禁する予定だった。全部、仕組まれていた。
すると?
ひょっとして、宿で俺の枕の下から襟巻きが出てきたのも? あれも仕込みだった?
ユリオもさすがに、気づかずにはいられない。
ルーリャ……なぜ?
あの女と俺には、何の接点もないはずだ。
そうだ、確か。
昼間、料亭で顔を合わせた。
ルーリャ。俺と目があったとき、なんだか妙な顔をしていた。
驚いた表情。ハッとしていた。
まさか。
気づいたのか?
この俺がルーベイ大公爵ユリオだと。
慄っとなる。
ユリオは、もちろんルーリャのことなんて知らない。
でも。
大貴族というのは、大勢に顔見せするのが仕事である。こっちは顔を見せたことを覚えてなくても、向こうはしっかり覚えている。それはあって当然だ。
「ルーリャは料亭で俺に気づき、大至急、俺を囚える手筈を整えた。すごい行動力だな。で、張られた罠に、まんまと俺は飛び込んじまったわけだ」
クソッ、
美女に招待されたからって、のこのこ行くもんじゃないな。
やばい。
この扱いからすると、すぐに殺されたりはしないだろう。このまま生きたまま俺を国王に献上? で、あの女は見事10万パナードをゲット。
この地下室の扱いも。高貴な囚人、ルーベイ大公爵ユリオに対するものだと考えると納得がいく。大貴族たるもの、牢でもそれなりの待遇を受けるのが基本だ。
このまま、王都に護送されちゃう……
どうしよう。
剣1本もない。あったってそんなのじゃ、身を護れないだろうけど。
ルル。
頼みの綱は、わが奴隷美少女である。
「助けに来てくれ。御主人様が危ないんだ。お前の魔法ズドンしか、もうないんだ。頼む!」
自分じゃどうにもならない。救出待ち。すっかり投げ遣りになって、寝台に大の字になるユリオ。
「クソッ、それにしても、あのルーリャ、なんで素っ裸で俺の前に現れたんだろう?」
ルーリャの全裸。
あれは……ドキッとする。せざるを得ない。
見た瞬間、顔を隠して後ろを向いちゃったので、ほんの一瞬しか見ていない。
でも、初めて女の全裸を見た。
うん、間違いない。
今、そんな場合じゃないんだけど、改めてコーフンする。
年齢上美女の完熟肉体。
豊満で優美な線。
艶々しい肌。
誇らしげに隆起した二つの乳房。あれは実に見事だった。ルヴォン一の毛皮商とかそういうの抜きにしても、あれだけで森林の女王になれる。
そして、なんともいえず絶妙になめらかな腹。
その下の……あれ? どうだっけ? 肝心なところ。見た……けど、ちゃんと見れなかったような。
なにせ、ずっとそこは見ちゃダメとか、教育されてたからな。
エ◯ゲーだったら、そこしか見ないけど。
可憐な10代少女好みのユリオを、一撃で倒す年齢上美女だ。
で。
なんで素っ裸で、俺の前に現れたんだ?
なぜ見事すぎる肉体を見せつけた?
これから捕まえて国王に献上するから、その前にサービスしてくれた? それとも、俺を罠に誘い込むのに、油断させようとした?
わからん。けど。
うーむ、実に残念。
やっぱり、あの女。
あそこでとことん、蹂躙しておくべきだったんだ!




